学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
「全て……計算通り……? このオレが……この……」
地に倒れ伏し、項垂れる黒髪の男。
息も絶え絶え、形勢逆転の一手すら事前に見抜かれたことで絶望し、ついにはすべてを諦めた。
「く……クククッ……クハハハハハハハハッ!!!!!」
そう、この場の誰もが思っていたはずだった。
突如彼が高らかな笑い声をあげるまでは。
え、カズィクルさん壊れちゃった……?
ど、ど、どうしよう……いやでもこれでイケメンクール枠キャラはオレの物になるからこれは正解か?
ほなええか! おらっ! むしろもっと頭壊れろ!!
「な~~~~~~~んてなァッ! クヒっ……クハハハハッ! 可笑しくて腹が痛くなるぞ……くはははっ」
面白いのはテメエの顔と態度だろ。
「ならば見せてやろうッ、もっと面白いものをォ!!!」
何も言ってないんスけど。
カズィクルの掲げたタリスマンが輝き、まるで共鳴するかのようにオレの握るタリスマンも輝きを増す。
「簒奪せよッ! ククッ、セラフィリア・スタンレイィィィィィィィィッ!!!」
「……んっ」
じゅごごごご……って感じでタリスマンから魔力が吸われる。
なんか……ちょっと気持ち悪い。前吸われたときは大したことがなかったのだが、やはりここに至るまでの連戦で体が疲弊しているからだろう。
なんかムカつくな……!
せめて許可をもらってから人の物は取るべきだよね!? 勝手に人の物を取るとか恥ずかしくないんかお前!?
ワシのじゃ……この魔力とタリスマンはワシのじゃ!!!!!
「ほう……これだけの魔力吸収をされてなお意識を保つか……っ! だがァッ!」
死にかけの癖イキイキとタリスマンを天へ掲げるカズィクルくん。
内心オレはもう限界だった。
もう寝たい、疲れたし気持ち悪いし、全身痛いし……まだこいつ続けんの?
もう良くない? 実力差見え見えじゃない? もうめちゃお腹いっぱいなんだけど?
こいつ復活能力もそうだけどメンタル面も強すぎるだろ……どっちが正義か分かんなくなってきた。
もしかしてオレって悪役キャラ? ……いや、『アリ』だな。
「今こそ! 古の盟約によりその力顕現せよッ! 啓くは破滅の調べ、一切墜滅せよ――冥龍『トーデストリーヴ』」
ぼーっとする頭で考えていると、気が付けば
同時にオレの持っていたタリスマンも輝きを増し――それは現れた。
悲鳴を上げるかのように空間が歪み――ぬるり、と。
漆黒の角が空間を引き裂く。
黒曜石から削り出したかのように鋭利な鱗たちが、ぬめらかなる輝きを纏って姿を現す。
ただの一裂きで人間を、いや、住居すらをも二つに分けてしまえるほどの大爪が、空間を鷲掴み、砕き、ついにその半身を見せつけた。
黒龍。
それは龍の中でも別格の力を持つと言われ、神話や、それこそ数百年前の勇者の物語でのみ語られる存在。
『漸くか――カズィクル』
血を煮詰めたかのような紅の瞳が睥睨する。
名剣ですらその前では鈍らとして扱われるであろう鋭い牙が、男の姿を嘲笑うようにカタカタと触れ合った。
『貴様が一族の血を我に捧げ早三百年――この時をどれだけ待ち侘びたことか。しかし何という姿だ、実に情けのない男よ』
「……オレの種族に性別などない、知っているだろう」
『かかっ、確かにそうであったか。だがその姿を好き好んで使っているのであればこう言われるのも仕方があるまいに!』
ブラックドラゴンだ!
うおおおおお! かっけ~!!!!
どうやら魔石生成装置くらいに思っていたタリスマン、実際は時間をかけて魔力を蓄え、巨大な転移門を開くための魔道具だったらしい。
にしてもふーむ、黒龍かぁ。
流石に暴れられるとヤバそうだよなぁ……ドラゴンってだけで存在がもう物語レベル、当然戦ったことないからマジで未知数だし。
「このオレの力だけで蹂躙できると思っていたのだがな……ふん、ロイドの言う通りであった」
『かかかっ! 我は心が躍るがな! 実に長い退屈であった……多少なりともこの倦んだ感情を紛らわせるのであれば何でもよい!』
普段オレは正直、大半の魔力量ってのをあまり感じない。
どうにも自分自身の魔力量が多すぎるせいだろうか、どれも全部同じに感じてしまう。
しかし目の前の黒龍はどうだろう、なんかこう……ふわっと魔力
ふむむ。
あの転移門から出てこられたら……カズィクルくんの比じゃなさそうなやば
こちとらもう疲労困憊で今すぐにでも気絶しそうだってのにさぁ、せめてオレが元気な時ならうきうきでバトってたんだけどなぁ。
つかいつまで喋ってんだよこいつ!
そろそろ襲われるかな~とか考えてたのに! ずーっとぺちゃくちゃ喋りやがって! やたら距離感が近い服屋の女定員ですらもう少し静かだろ!
いまぁす! お前らの目の前に! 蚊帳の外の超絶クール系カッコいい枠のオレが! いまぁす!!!!!!!!!
許さん!
ちょっとどうかな~とか思ってたけどもう遠慮しませんよオレは!!
「よいしょっと」
皆さんが仲良く喋っている正面、蚊帳の外のオレが動く。
タリスマンをひっつかみ、端っこをカリカリ。きれいに嵌っていた魔石が動き出したら、隙間から魔力を一気に送って――ポロン、と。
『さあ貴様と我で全てを蹂躙しよう――虐さへちゅっ』
「トーデストリーヴ……? どうし……た……」
突然無言になった冥龍さん。
困惑したようにカズィクルさんは彼へ視線を向け……轟音を立て転がる上半身を見つけた。
それは生物としての常。上下で泣き別れになり生きているなど、ごく一部の特殊な存在を覗いてあり得ない。
そしてカズィクルはギ、ギ、ギと視線を前に戻し――外した魔石を握りしめるオレを見て目を見開いた。
「……ちっ、ちがっ」
「…………な……ぇ……?」
ちが……くは……ないけど……!!!
わざとだけどっ!!!
あせあせと魔石をマジックバッグにしまい込む、これはオレの魔力なのでオレの物だから。
あっとぉ……その……へへっ。
ちょっと……いやそんなぁ……だってぇ……あっ、あっ、タリスマン! タリスマン返します!
いやーたまたま学院で見つけて誰のかな~? って回収しといたんですけどぉ、本人見つかって良かった~!!!
こっ、こここっ、これっ、ここにぃ~、おっ、置いときますぅ……ね! ね!!!
そして誤魔化すようにならない口笛を吹き、そっとタリスマンをカズィクルさんの前へと転がした。
だ、だってずっと喋ってるし……!
二対の魔道具で開く転移門なら片方が止まったら閉じるのかな? とか好奇心がちょっと出ちゃって……いやだって明らかにすっげーワルい奴だし結果は予測できたけど待ってる意味もないし……なんかずっと二人だけで喋ってるから割り込み辛いし……!!!
「き、き、き――貴様ァァァァァァァァッ!!!! 人の心はないのかッ!?!?!?!?!?!?」
オレは悪くないもん! オレは悪くないもん!!!!!!!