学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
「はぁ……はぁ……けほっ、こほっ」
やっと終わった。
あたりには瓦礫の山ばかり。
盛大に飾り立てられたコロシアムはどこへやら、もはやにぎわいなどという言葉とは真逆の廃墟姿が周囲に広がっている。
オレはのろのろと立ち上がり、鉛どころか金くらい重くなった足取りでラミュエル達の下へと向かった。
体力、そして奴がばら撒いた
勝ったな! ガハハ!!!
「……ラミュ」
おいっす~、元気にしてる~?
オレはね~……めっちゃ血出し過ぎて全身痛くても~死にそう(笑)!
戦いが終わって気が抜けると同時に、全身への疲労感や痛みが突如何倍にもなったかのようだ。
血がのどに引っかかって息がしづらい。
喜びのあまりだろうか、結界をバシバシと叩いてるラミュエルへ重い手を振る。
なんかめっちゃ言ってるけど意識がぼーっとしていてイマイチうまく聞き取れない。
ただでさえ極星祭の運動で疲れたってのに、今日は身体強化の大盤振る舞いに普段使わないくらい大規模の魔術使用はさすがに堪えた。
はぁ~……あの時あった我が女神に癒して貰いてェ~。
それか今すぐにでも部屋に戻って抱き枕を抱えてお休みねむりんちょすしてぇ……。
震える腕で杖を振るい結界を解いたその瞬間、ラミュエルが一目散にオレへと駆け出した。
クックック……そんなにオレが恋しいかラミュ……!
オレはオレのことが好きな奴が好きだ……! さあお兄さまがお前を抱きしめてやろう! あっ、ただちょっと抱き着くときにもっとオレに対して配慮をしていただきたいというかもっと優しく抱きしめてほしいというかお前の膂力ヤバすぎてお兄さまへし折れそ
「お兄さまっ! 後ろをっ!!」
「……ん?」
後ろなんて……のろのろと、疲労困憊の身体で振り向き――既に投げ放たれた真紅の槍が視界に映る。
あっ、やべっ。
結界が間に合わない。
疲労でうまく魔力が操れない。
まずっ
「セラフィっ!!」
黄金が駆け抜けた。
紫電のごとく素早くオレの前へと飛び出した彼女は剣を一振り、暗闇に輝く白銀の切っ先が槍先と衝突、拮抗し――
「はぁっ!!」
カメリアの鋭い一喝と共に血槍が弾き飛ばされた。
彼女は自身の長い金髪を払いのけるとオレへと振り返り、安堵するような優しい笑みを浮かべる。
「セラフィ……間に合ってよかったですわ」
ひゃ……ひゃだ……かっこいい……❤
「別にあたしがいるから大丈夫だし……」
ちなみにラミュエルも既にオレに抱き着いています。
お兄さま! って叫んでからの加速がヤバすぎて一瞬全身と意識を持っていかれかけたよね。
オレが長女だから耐えられた、長男だったら耐えられなかったわ。
しかし……ラミュに抱かれたままオレはちらりと奥へ視線を向ける。
そこに立っているのは、確かについ先ほどまで瀕死の体であったカズィクルであった。
いや、瀕死どころか何やら黒い鎧を身にまとい、手にしている錫杖も随分と黒く、より禍々しくなってしまっている。
え……なんかあいつパワーアップしてね?
第三形態はダレるからやめろって! 第二形態まででええねんそういうのは! オレはもう限界なの! 嫌よ嫌よとかじゃなくて本気で!!
元気モリモリになったカズィクルがニヤリと笑みを浮かべる。
「この力を逸らすとはな……中々どうして、やるな女」
「全て――愛の力ですわ」
なぜそこで愛ッ!?
そこでハタと気付いた。
冥龍なんとかかんとかさんはクソデカイ、おそらく立ち上がれば数十メートルはあるだろう。
当然真っ二つになればとんでもない血があふれ、ここいら一帯が血まみれになるはずだが――地面は乾いている。
いったいあれほどの血はどこへ?
その答えはただ一つ。
「ククッ、気付いたか」
「……吸ったの、龍の血を」
「『
真紅の翼が広がる。
蝙蝠のように凹凸の少なかった翼は今、龍のそれに似た鱗を纏っていた。
な、仲間なのに容赦ねェ~~~!! さっきまであんな仲良くおしゃべりしてたってのに、死んで速攻それとか人の心とかないんか??????
「――『我』だけではない。これだけの甘露、一人で味わうには勿体ないであろう?」
影が犇めく。
瓦礫の裏から、空から、一匹、また一匹と降り立つ。気が付けばその数は百を超え、千、いやそれ以上に。
現れた姿は先ほどとは打って変わり、黒く、そしてやはり鱗が生えそろっている。
……どうやらあのキモヒルにも龍の血を吸わせたらしい。
普通の人間の血を吸っても何もならなかったはずだが、さすが伝説の生き物だ。影響力ってもんのケタが違ぇ。
「……カメリア」
「っ、大丈夫……大丈夫ですわ! わたくしは
いやムリムリムリムリ。
あの槍の一撃を返しただけで腕が震えている、衝撃を逃しきれなかったのだろう。
おそらく力が想像以上に上がっている。素の状態で騎士がなすすべもなく吹き飛ばされていた相手だ、どれだけ優秀だろうが並みの生徒が勝てる相手ではない。
「さて!」
カズィクルが一直線に駆け出した。
カメリアは間一髪、その攻撃を受けきるも――
「くっ!」
「あと何発受けきれる! 五発か? それとも十発か! あるいは……もう限界なのかもしれんがなァ!!」
「この程度……ラミュエルさんの攻撃に比べればっ!」
攻撃を受ける度カメリアの剣が沈んでいく。
殺しきれなかった衝撃により蓄積したダメージが、確実に彼女の筋繊維を破壊していく。
「ラミュエル、行って」
「で、でも……っ、お兄さまが危ないから!」
オレの周囲に集るヒルを切っていたラミュが戸惑ったように目線を動かす。
あいつはカメリア一人では勝てない。
それは決して彼女自身理解できないことではない、それはあの緊張と焦りに包まれた顔を見れば分かる。
生まれ持った存在としての差、格の違い、それも理不尽なほどの。
「行って……自分の身は自分で守れる」
あいつはオレのダチだからよ、ちゃんと守ってくれや。
オレは実に大変これでもかというほどの余裕の笑みを浮かべ妹へ頷く。
戸惑い、躊躇い……剣を片手にラミュは駆けだした。
おーおー、それでいい。
行け行け。
喉が狭まり、ひゅーひゅーという嫌な風切り音がやたらと耳に突く。
結界を張ろうと杖を探し……だらりと指先から力が抜ける。
薄暗い視界の端、這い寄る魔物たちの影がちらついた。
「……ぇふ」
……咳すら出せねえ。
魔力はある、それどころか湧き出すほどに。
なのに自分の身体一つどうこう出来ねえ……本当にクソみたいな体質だぜ。
両膝が折れる。
上半身がゆっくりと崩れ、視界が地面へ近づく。
ちっ、カスの魔人族共が。
テメエらのせいで……オレののんびり学院ゲーム生活が台無しだぜ。
あーあ。今頃本当は部屋に帰って、のんびり遊んでる予定だったってのによ。
オレは努力だとか……苦労ってのが……大っ嫌いなんだ……
柄にもねえこと……やっちまった……な。
「――ごめんなさい、少し遅れてしまったわ」
「……ぁ」
ぽすん、と、柔らかな感触が体を包む。
同時に全身へ流れ込む暖かな感覚。指先の、心臓の、頭の、筋肉の、ありとあらゆる痛みが、倦怠感が解けるように消えていった。
ぼんやりと開いた目に入ったのは薄紅の髪。
「だ……れ……?」
「また会ったわね――セラフィリアさん」
モノクルの奥、黄金の瞳がとろりと柔らかな笑みを浮かべた。