学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど   作:IXAハーメルン

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モブのバーゲンセールに来たみたいぜ~テンション上がるなぁ~!

 防御魔術の覆いの中名も知らぬ、しかし以前オレを癒してくれた彼女が再び回復魔術を操る。

 数秒もすれば遮断されていた意識が確実に現実へ戻り、次第に体の痛みが遠のいていった。

 

「っく」

「治療は終わってないわ、まだ立ってはだめ」

「でも……あぐっ」

 

 起き上がろうとした途端彼女がオレの腕を握った。

 瞬間、猛烈な痛みが腕を突き抜けたまらず顔を歪めてしまう。

 

「腕を中心とした筋断裂に内出血、魔力の経路を主とした肺などの損傷、出血性ショックによる症状も出てるわ」

 

 確かめるように彼女の指がオレの唇をなぞる。

 熱い……いや、こちらの体温が異様に低いというべきか。

 

 万全とはいいがたい。

 だが体調は先ほどと比べ物にならない、これなら十分戦える。

 

「信じられないかしら?」

「信じる……?」

「人を」

 

 彼女の視線が目前で斬りあう三人へ向かう。

 戦闘は膠着、いやややラミュエル達が押され気味か。

 本来ラミュエルが本気を出せばこんな相手瞬殺だろうが、彼女の視線はちらりちらりとせわしなくこちらへ向いている。

 

 ……あいつ、オレのことを気にして集中出来てねえな。

 それにカメリア。どうにか食いついてるが……やはりラミュと比べても実力の乖離がデケエ、一つのミスで命を奪われかねん。

 

「貴方は確かに強大な力を持っているわ……この細くて小さな手からは信じられないけれど、もしかしたら物語の英雄に並び立つほどに」

 

 魔術の輝きがオレの手へと向かう。

 内出血によって赤黒くなった指先が白を取り戻し、内部から掻き毟られているかのような苦痛が次第に遠のいていく。

 

「けれども果たして、世界は英雄だけで成り立っているのかしら。いいえ、彼らが守りたいと思った者たちがいて、また彼らを守りたいと武器を握った人たちがいたから英雄は英雄たることができた」

 

 彼女は何度か確かめるようにオレの指先をなぞる。

 そしてそのみずみずしく柔らかな唇で指先に小さく口づけ、薄く微笑んだ。

 

「人は英雄になれずとも、しかし誰しもが戦士になれる。そう、誰かを守るために武器を握るような戦士になら。この学院はそう願った人々が戦いを学ぶため創立されたのよ?」

 

 足音だ。

 そう口にした彼女の後ろから足音が聞こえた。

 綺麗に揃っているわけではない。しかし……活力に満ち、勇気に満ちた者たちの足音が。

 

「一年生は援護に徹しろ、二、三年生と教師陣は我々と共に前線へ!」

「たとえ長い歴史で学院の立ち位置が変わろうと、人々が抱える大本の志はきっと変わらない。私はそう信じてるわ」

 

 騎士たちが生徒を引き連れ現れた。

 寄せ集めの集団だろうか。しかし生徒たちは確かに訓練を重ね、友と協力を学び、己は決して無力な存在ではないとその目が語る。

 

「援護組は複数人での防御魔術を前線組に!」

『はいっ!』

「だから貴女にも信じてほしいと願っているの、この国の人を、彼らの心の奥底に秘める願いを」

 

 眩しいものを見るかのように、戦闘へ向かう生徒たちを見送る我が女神。

 

「ね? この国の未来は、きっと明るいわ」

 

 そうして彼女はオレの後ろに回り、そっと包み込むように抱きしめてきた。

 柔らかな肌、暖かな息遣いが耳に当たる。

 困惑して首を傾けると、彼女はまるで赤子にでも向けるかのような柔らかい笑みを浮かべ、頬擦りでもするかのように少しだけ顔を動かした。

 

 えっと……その……。

 

 …………えぇ、全てが美しすぎるだろ……!

 この人って本当に女神なの? 性根が美しすぎるだろどうなってんだよ……!

 正直学院の生徒とか全員大して使えねえ雑魚だとしか思ってなかったわ……むしろいねえほうが足手まとい少なくていいとか思ってた……!!! 生まれてきてごめんなさい! カスで本当にごめんなさい!!!

 あ、あぁ^~~~消えるぅ~~~~~神々しい人間性でオレの矮小で卑屈なメンタルが焼かれて融けていくぅ^~~~……!!

 

 ――ごきげんよう皆さん、ビューティー・ビューティー・セラフィリアです。

 今はただ……すべての生命を慈しみたい……! 

 世界を愛し、全てを愛し、人を信じ――そして我が女神に甘えておぎゃってバブりたい……!!

 ママ~~~!!!!!!

 

 オレの精神があまりの神々しく人間性に溢れた我が女神の心によって浄滅される中、コロシアムへと勇ましく侵入してきた生徒や騎士たちが次々に戦闘を始める。

 龍の血で強化されているとはいえ元は弱めの魔物、日常的に戦闘訓練をしている二年生以上からすれば、決して歯向かえない相手ではないらしい。

 一人の生徒が勇敢な声を上げ一匹を斬り倒し――しかし、上空からさらに追加の魔物が飛び掛かった!

 

「我々が援護します! 前衛の方はまず魔物の一掃を!」

 

 それを食い止めたのは鋭い一射。

 見事に胴の中心を射止めた彼女が次の矢を番え叫んだ!

 

 お前は……コロシアムでラミュエルにボコられていた弓使い!!

 

「おう、ガンガン行くぜッ!!」

 

 勇ましい掛け声と共に巨大な槌が炎を纏う。

 回転するようにぶん回された鉄塊が直撃すると、ヒルたちはか細い悲鳴をあげながら次々に潰れ、焼けていった!

 

 お前は……コロシアムでラミュエルにボコられていたハンマー使い!!!

 

「はぁっ! ローゼン・シュタイン・シュルシャコール・シャーメス・シュルシュテンリッヒ・ディバイン・フラワーブルーム・シャイニング・ビューティー・ビューティー・ローズガーデン・ガード!!!!!!」

 

 姿勢を崩したカメリアの前に薔薇の壁が地面からせり上がる。

 隙を見逃さず血の槍を放ったカズィクルだったが、突如生えたそれによって攻撃があらぬ方向へ逸らされてしまった。

 

 その男は髪をさらりと払いのけ、口元に一本の薔薇を咥え、肩をグィングィンとスライドさせながら激しいウィンクを飛ばした!

 

 お前は……コロシアムでラミュエルにワンパンされてたキモロン毛!!!!

 

 まるで在庫のバーゲンセールみたいにどっかで見たことある生徒たちが次々に現れる。

 

「このセクシーなボクが来たからにはもう安心だよ、美しく可憐なレディたち……セクシーウィンク」

()――」

 

 ビューティー・セラフィリアは店じまいだぜ!!!!

 喰らいなァ!!

 

「こらこら、魔術はだめって言っているでしょう?」

 

 思わず杖を握ったら取り上げられてしまった。

 チッ、あのロン毛の先っぽだけ消し飛ばしてやろうと思ったのに。

 

 三人だけじゃない。

 一人、また一人と剣や杖を構えた生徒が、教師が次々に現れる。

 連携と協力、それぞれが周囲へ目を光らせることで致命的なミスをカバーし、着々と魔物たちの数が減っていく。

 

「小生意気な……人間如きがァッ!」

 

 流れが確実に変わりつつある。

 それを肌で感じたのだろう、カズィクルが空へ片腕を突き出し巨大な血槍を天へ生み出した。

 大規模な攻撃で周囲を一掃するつもりだ。そしてあの魔術を直接防ぐには――流石にただの生徒達には荷が重い。

 騎士ですらよほど優れた防御魔術使いでもなければ、容易く割られ砕かれてしまう。

 

「オラァッ!!」

 

 しかし瓦礫の影から飛び出した男がいた!

 大技故の硬直、それを狙っての体重と身体強化が乗った刺突! それは確かに鮮血の盟主、その腕へと深々と突き刺さり――

 

「下らぬ! この程度のことなどッ!!」

 

 しかし不死身の存在はわずかに眉をひそめ、剣を握るその存在を中空で蹴り飛ばした。

 その生徒は衝撃にわずかだが白目をむき、地面へ叩き伏せられると同時――大声を張り上げた!

 

「が……ひゅ……ポインター、だよマヌケッ! っ、エイムズ! ジョナス!」

『おう!』

 

 二人の生徒の魔法陣が重なる。

 生み出されたのは強烈な紫電。一年生の操る魔術としては最大級に近い、上級魔術にすら手が届きかけている電流の槍。

 

『ギガントブリッツ!』

 

 本来空を舞う盟主を直撃させるのは至難の業。

 しかし剣によって傷つき流れる血が、そして鍛えられた鋼の剣そのものが雷撃を誘導し――刺し貫いた!

 

ㅤお……お前らは!ㅤ決闘でラミュにボコられていたいじめっ子共!!!!!!!!!

 

「が……あ……ぐっ……屑共がっ、実に下らぬゥッ!!!!!」

 

 放たれる直前で魔術が霧散し血の雨が降る。

 カズィクルの姿勢がふらりと傾くも、しかしすぐに制御を取り戻し血走った目で地面に転がる男……ネグロを睨みつけた。

 

 ネグロは何度か咳をしながらふらふらと立ち上がり、横でひしゃげた剣を握る少女へと視線を向けた。

 

「う……ぐっ……行けよ、『勇者』。目前の敵に……集中できねえような奴に、前線は任せられねえ」

「……っ」

「ラミュエルさん! 何か心残りがあるならどうぞ行ってくださいまし! ……数分なら、わたくし達でも稼げますわっ!」

 

 カメリアの後押しを受け駆け出したラミュエルの背後、再び激しい戦闘が始まる。

 この四人だけでは確かに厳しい戦いだった。しかし周囲の、余裕が生まれた生徒たちによる絶え間ない援護が、ラミュエルの抜けた穴を拙くも塞ぐ。

 ああ、確かに彼らは決して何もできない存在ではなかった。

 

 前線を抜けたラミュエルは一目散にオレの下へと駆け寄り――

 

「お兄さまっ! よかったっ!」

「ほぎゅっ」

 

 んぉおおおおぉぉぉっ!!!!

 

 突如五臓六腑を突き抜ける衝撃、我が女神によってギリ現世に戻ってきた魂が再び旅立ちかけた。

 しかしオレは長女なので耐えられた、次女だったら耐えられなかっただろう。

 

 きりりとした顔でラミュの頭を撫でると彼女は少しだけほほを緩め、すぐに横の我が女神へと頭を下げた。

 

「姫様! お兄様を癒してくれてありがとうございます!」

「ふふ、いいのよこの程度。この子はそれ以上のことを既に成し遂げているのだもの、むしろ治さないほうが罰が当たるというものね」

 

 ふーむ、なるほど。

 案外あっさり加勢に行ったのは後ろに姫様がいたからなんだな…………ん?

 

 え? 姫?

 

 横の我が女神の顔を覗く。

 ふふっ、と微笑まれる。おお……なんと輝かしい……!

 

「え……姫……?」

「あら。ふふ、気付いてなかったのね。第一王女のアルゴニアス・グロリアよ、よろしくね?」

 

 にゃ……

 

 にゃにぃぃぃぃぃぃいぃぃ!?!?!?!?!?

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