学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
「……はっ! あ、貴方、この場の全員に撤退を」
「はっ!」
姫様が背後で周囲のモンスターを排除していた騎士へ声をかけた。
『総員に次ぐ! 全力での撤退をッ!』
拡声魔術、あのいつか消すべき抹殺対象である報道部フレイヤと報道部ヘイヴンが使っていたものと同等のそれによって、コロシアム内で戦っている者たちへ伝達が行われる。
それぞれが浮かべる表情は多岐に渡った。困惑、怒り、あるいは焦り。
しかし皆、様々な戦闘訓練を乗り越えてきた戦士の候補たちだ。
次々に人が後退し、オレ達の背後へと消えていく。
そんな中彼女は……ラミュエルは、大剣の前でいまだ動かずにいた。
泣きそうな、あるいは困ったような顔で柄に手を伸ばし……戸惑うように、手を引っ込める。
「この武器を使える人間は貴女しかいない」
いやホンマに。
かつて持った感じの重さとサイズからおおよそ推定して、ラミュよりデカく肉厚なこれなら間違いなく重量一トン越え。到底人が持てる代物ではございませぬ。
握力腕力ゴリラスのお前しか使えねえ、せっかく作ったのにデケエ粗大ごみになっちゃうゾ。
これ王都のスクラップとかで回収してくれんの? リサイクルもクソもないんだけど。
「あたし……でもお兄さま、あたしが何かすると……失敗しちゃうから……ずっと、ずっと……っ」
落ち込んだように視線を下に向ける彼女。
繰り返し転ぶと人は立ち上がり方すら忘れてしまう、いや、立ち上がることにすら恐怖してしまうのか。
どうやら我が妹様は良かれと思ってやってきたことが裏目に出続けた結果、一歩前に踏み出す勇気を忘れてしまったらしい。
……しゃーねえなぁ。
「信じてる――貴女なら必ずできるから」
一度自信を失ったのなら、取り戻すには今まで以上の何かを成し遂げなくてはならない。
それは本来とても長い道のりなのだが……幸いにして、今はちょうどいい獲物がいる。
そう、なんか龍の血を吸ってイキリ散らかしているヒルモドキである。
バーン! とやってバッコーン! っすよラミュエルさん!
お前のパワーで全てを破壊してこい! これでまるっと解決! 失った自信も取り戻してハッピーエンドや!!
「……っ、はいッ!!」
覚悟を決めたようにラミュの顔が真剣な表情を浮かべる。
そうして宙に浮かぶ剣の柄を――つま先立ちでも届かなかったのでオレが横方向に向けてやると、がっしりと握りしめ……持ち上げた。
え……やっぱ本当に持てるんだ……こわ。
「行ってくるぜ、可愛い可愛いお兄様」
見た目は軽々と。
しかしみしり、みしりと、少女の足音にあるまじき重低音を上げ、ラミュエルが好戦的な笑みを浮かべ戦場へ戻る。
あ、あれは……ら、ラミュエルさんだ……!!
ラミュエルさんが暴れ出すぞ!!
◇
「バトンタッチだ、ここからはアタシがヤる」
「……っ、ええ!」
「……ふん、行くぞお前らっ」
ラミュエルが四人に声をかけると同時、カズィクルが高笑いを上げた。
「誰であろうと下らぬ、龍の血を喰らいて力の増した『我』に適う存在など! 真正面からねじ伏せてくれるわッ!」
生徒や騎士相手に暴れまわり勢いづいたのだろう、荒々しく男が叫ぶ。
「我らが血を啜りて顕現せよッ! 『龍血樹』ッ!」
背後にいる人々が息を呑んだのが分かった。
今の今まで、奴は血の槍を主とした攻撃ばかりを繰り返してきた。にもかかわらず突如として今までにない魔術の発動、警戒しないというほうがおかしいというもの。
――だが、ラミュエルはただ直進した。
大剣を肩に乗せ、一歩、また一歩と。その顔に狂暴な笑みを浮かべて。
「愚かな……ならば喰らうがいいッ!」
男が錫杖を一振りした瞬間景色が一変する。
突如として大地がうなりを上げ、現れた無数の木の根が周囲を舞っていたヒルどもを捕まえていく。
ぶちり、ぶちりと次々に引き千切っては地の底へ引きずり込み――その体内の血を啜り歓喜するかのように赤黒い大樹が現れた!
なんという大きさだろうか。
樹齢千年、いやはるかそれ以上と言われても頷いてしまう、コロシアムの半分を容易く飲み込んでしまうほどの大木。
赤黒く脈動するそれは――ラミュエルに向かって一斉に鋭い木の根を伸ばした!
「捕らえたぞッ! 貧弱な者共が真正面から太刀打ちなど! 策を弄すことすら忘れたか阿呆がッ!」
一瞬だった。
その小さな体は、一秒すら満たないわずかな時間で取り囲まれる。
そして五重、六重と次々に絡んだ根は彼女を圧縮し潰殺せんと力を籠め――
「『捕らえた』?」
塊が揺れる。
「魔人族ってのは」
根が、引き抜かれていく。
人の胴より太い根達が、雑草のそれのようにいとも容易く。
「撫でることをそう言うのかァ?」
少女が現れた。
その行く先を妨げる全てを、万力が如き力で全て引き千切り、平然と。
「っ、クソッ! その程度で調子に乗るなァッ!」
異常に気付いたカズィクルが錫杖を振るう。
先ほどの比ではないほど大量の根がラミュエルに襲い掛かり、名刀に並ぶ切れ味の赤黒い葉が降り注ぐ。
さながら天変地異、破壊に破壊を尽くされたコロシアムがさらに暴虐の嵐へと包まれ――
「遅ェよ」
しかし、既に彼女は動いていた。
息遣いすら感じられるほど肉薄したラミュエルが、小さな犬歯を剥き嗤う。
「なっ」
「――ラァッ!!」
あまりに派手過ぎる撫で斬りであった。
カズィクルの上半身がずるりと堕ち、背後の大樹が余波で爆ぜた音を聞き、男は初めて自分が斬られたことに気付いた。
即座の再生、飛翔。
男の背を冷や汗が伝う。
男は今、何が起こったのか理解することすら出来なかった。ただ、一度死んだ。瞬きすらせぬ間に、十数メートル離れていたはずの相手によって。
「なっ……舐めるなァッ!」
一部の飛翔魔術を習得したもの以外届かぬ距離、男は再び錫杖を振るい叫んだ。
選んだのは広範囲の殲滅魔術。残った龍の血、それに宿る魔力の大半を注ぎ込みここら一帯を破壊しつくす。
惜しむことなどしていられない。全力で振るわなければ負ける。いや、確実に殺される。
無数にあった奥の手はすべて、あの憎きセラフィリア・スタンレイによって封じられた。
怒りと恥辱に歪み切ったその顔が語るのは、既に退路など絶たれてしまっているという事実。
その規模の魔術としては驚愕すべき短さ、しかし――この場においては、あくびすら出てしまうほどの隙を彼女は逃さなかった。
「舐めてんのはテメエだろ?」
「は?」
ただ跳躍しただけ。
それだけでラミュエルははるか上空のその場に現れ――男の横面を蹴り飛ばした。
「か、ぁ、あぁ!?」
収束していたはずの魔力が霧散していく。
脳の半分を吹き飛ばされ体の制御を失い、隕石の如き勢いで男の身体は大地へと叩きつけられた。
「……ぬ……あり……え……」
それ以外の言葉を忘れたかのように、地面に這いつくばった男はその言葉を何度も繰り返した。
勝利などありえない。
万が一、いや億が一にすら。
時間からすれば数分に満たない交戦。しかしそれだけで同僚からは傲慢で知られる男ですら、あの少女の秘める暴虐の前に精神が破壊されてしまった。
「なんなのだ……なんなのだあのスタンレイ家という存在は……!? 狂っている……バケモノしかおらぬではないか……!?」
腑抜けた同族を殺し、秘宝たる錫杖を奪い、血を啜り、男はすべての同族を超越した力を手にした。
並みの龍であれば男の歯牙にすらかからぬほどの潤沢な魔力、精緻なる力……そのはずであったのに。
先ほど魔術が不発になった故、幸いにして魔力と血はいくらか余裕があった。
「……逃げ、なくてはっ」
翼を生やす余裕はある。
周囲は暗闇、鬱蒼と茂った森が広がっている……十二分に逃げ切れるだろう。
「なんだ……
男の口から絶望の慟哭が漏れる。
カズィクルは数百年前、現代において『初代勇者』と呼ばれる存在の戦闘を見たことがあった。
確かに人としては優れた力を持っていた、それは事実だ。
だがかの存在はあくまで人の範疇であり、仲間との連携、そして優れた知恵をもって強敵と切り結ぶ存在――このような、理不尽な存在ではなかった。
あれではただの理不尽の権化――破壊神の方が相応しいではないかッ!?
その時だ、何か重いものを引きずるような音が男の耳に届いた。
獣? 違う――
「忘れ物だぜカトンボ」
「ぐああッ!?」
三つに折られ投擲された錫杖が男の両足と胴へ突き刺さる。
「あ、ああ……」
「こんな時なんて言うんだったかなァ……ああ、お母さまの故郷では確かこういうんだ」
大剣を引きずる少女は、にっこりと笑みを浮かべた。
「月が綺麗ですね」
新月の夜であった。
「『破天』」
今までのそれと比べ一切の遠慮がない極雷の放出。
森の木々が余波でざわめき、空気が悲鳴を上げるかの如き音を立て爆ぜまわる。
空を突く巨大な雷によって形作られた剣を――彼女は、偉大な姉から受け取った大剣へと重ねた。
雷鳴が収束していく。
もしそれが消え去っていくだけなら、男にとってどれだけ幸福であっただろう。
だがすぐにそれは妄想に過ぎないと理解してしまう。異常なまでの魔力密度、爆ぜる雷撃によって燐光を帯びたその大剣が、男へと向けられているのを見たその時点で。
「――オオオオオォォォォオォォッ!!!!! この程度ォッ!!!!! これしきの攻撃ィィィィィッ!!!」
絶叫と共に腹の錫杖頭を引き抜き、男は全力の魔力を込めた。
絶望のさなか光り輝くかの種族の秘宝は、たとえ崩れかけになろうと男の願いを確かに叶える。
真紅の防御壁。
龍の血が入り交じり遥かに堅牢になった防御魔術、その数おおよそ二十。
上級魔術ですら太刀打ち出来ぬであろう難攻不落の要塞が如き壁がカズィクルを取り囲む。
絶対防御だった。
あの冥龍ですらこれを打ち砕くにはどれだけの時間がいることか。
にも関わらず、男の心に安らぎは訪れない。
大剣の柄を鷲掴みにした少女が上半身を逸らす。
それは今日、何度も男がやってきた構え。
――投げ槍の、構え。
「――ぶっ飛べ」
「あ、あ、あ……アアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
ズドドドドドドドドドドドドドッ!!!!!!
防御壁がクラッカーのように全てが吹き飛んでいく。
砕かれ、消し飛ばされ、計十九枚の壁が完全に砕け散ったその最後…………最後の最後、一枚に、切っ先が食い込んでいた。
「止まっ……た……?」
「止めてやったんだよボケ」
少女が、そこにいた。
彼女の右足が輝きだす。
身体強化魔術、それもごく局所的なもの。
ラミュエルは緩やかに片足を上げ――
「っ!? やめ」
「――『
柄頭を蹴り飛ばしたッ!!
ピシッ。
小さな亀裂、それがすべての終わり。
最後の防御魔術が砕ける。いや、食い破られる――破滅の雷撃が、剣より放たれる。
男の視界が極光で埋め尽くされた。
「まったく、仕方ないですねェ……」
◇
「お兄さま~~~!! あたしっ、あたしやりましたっ! できましたっ!!」
遠くでラミュエルが大剣を持ったまま、両手をぶんぶん降ってぴょんぴょん跳ねている。
全てが消し飛び、遥か彼方まで巨大な円柱状に繰り抜かれた風景を見てオレは笑うしかなかった。
「お、おお……」
同じく遠見を使っていた生徒や騎士たちが、少しずつ歓声を上げ――それは大きな騒ぎへと変化していった。
あの魔人族を、圧倒的だった存在をあの小さな少女が捻りつぶしたのだと理解したからだ。
それは瞬く間に避難していた生徒達にも伝わり、極星祭以上の熱と狂騒がこの場の人々の間に生まれた。口々にラミュエルの力を褒め称えた。
「これが……当代の『勇者』……」
ぽつりとつぶやくアル様の腕の中でオレも唖然としながら小さく頷いた。
確かに強ぇのはしってた……知ってたけど……! こんなにかよ……!!
ラ……ラミュエル鬼つええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
このまま逆らう魔族全員ぶっ殺していこうぜ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!