学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
ラミュエルによってカズィクルさんが『破壊』されたことで、避難していた人々が次々とコロシアムへ姿を現す。
誰もが彼女の手によって生み出された巨大な破壊跡に目を剥き、悪辣なる魔族が打ち倒されたことに喜びの声を上げた。
前衛組は勿論、後方の支援組とて決して無傷ではなかった。
カバーし合ったとしても埋めきれなかった隙を狙われ、襲われ、浅くない傷を受けている。
多くの者が血を流し、制服を汚し、傷付け――しかし今は安堵した顔で笑っていた。
「……終わった」
っぱラミュエルさん、何だよなぁ……!!
見ましたか皆さん! 最後の防御魔術に刺さった剣を蹴り飛ばしてぶち壊した瞬間!
散々イキってたカズィクルさんの安堵から絶望した表情の落差! あれはもう名画っすよ!!!
遠目でぼけっと見ていると、ラミュエルが大量の人に囲まれてわっしょいわっしょいされていた。
まあ名実ともに英雄だからな、さもりあん。
本人が嫌がってるなら問題だが……
「おっ、お兄さまっ!? お兄さま助けてっ!!」
楽しそうだな! ヨシ!
「残った魔物たちも撤退している……今日のところはもう安全ね」
アル様が空を眺めてつぶやいた。
ボスがやられたからだろう。一匹、そしてまた一匹と、生き延びた魔物たちが空へ消えていく。
元々連携などのない烏合の衆だ。ボスを失い完全に統率を失った彼らは、おそらくだがそう長くは生き残ることができないだろう。
「今日は長らく囁かれていた魔族の脅威論、それが残念ながら現実となった日ね……これから大きく変わって必要があるわ」
頭を片手で抑え、小さく首を振る彼女。
数百年前の戦争以降、決して魔人族が騒動を起こさなかったわけではない。
紛争を起こし続ける東国の『鬼』、森に引きこもり続けては時々現れ、大騒ぎとなる『エルフ』などもいる。
しかしここまでの悪意を持って人を、それも王族を巻き込んでの戦いを引き起こしたともなれば、どれだけ平和ボケしていた世界の国々といえど対策をせざるを得ない。
おそらく軍の再編、騎士たちの訓練、国家間の連携強化など数多くの変化が今後予測されるだろう。
やー、やっぱ王女様って大変でやんすなぁ。
オレは頭をなでなでされながらぬぼっと空を眺めた。
まあオレには関係のない話である、こちとら一般どこにでもいる学生なので。
というか別に学院卒業しても軍関連とか関わる気ないし。家でニートしないけどあのクソオヤジに何されるか分かんねえしなぁ……どっかに十万金貨転がってないかな。
「この国も……世界も、そしてこの学院も」
……ん!?
学院も!? ちょっと待ってください学院もですか王女様!?
「アル様」
「ええ、今行くわ。少し惜しいけれど私は先に失礼するわね……また会いましょう、可愛い子」
「あ……ちょ……」
オレにチークキスをしてお付きの人と旅立っていくアル様。
彼女の絶望的な発言に脳が理解を拒んで反応が遅れたのが惜しい、その言葉の真意を聞く間もなく転移魔術によって彼女は姿を消してしまった。
ちょ、ちょっと待って! 行かないでアル様ァ!?
学院もってどういうことですか!? 生徒達ですよ!? まだかわいくて未成年のかわいい生徒達も戦闘訓練モリモリなんて言わないですよね!?!?
死んじゃうよぉ!! そんなことしたらおいら死んじゃうよぉ!?!?!?
「セラフィ!」
絶望しながら手を伸ばしていると背後からの声。
「カメリア……ケガは?」
「ええ! 後方支援の皆様が手助けしてくださったおかげで!」
三年生や騎士を置いてカズィクルさんと斬り合っていたカメリアである。
対等に、とは言えなかったかもしれない。
だがラミュ、そして虐めっ子三人衆との連携、さらに周囲から援撃や援護の魔術によって、幸いにも致命的な傷を負わずに済んだらしい。
……少しケガはしちまったみたいだけど。ま、相手を考えりゃ無傷と変わりゃしないだろう。
いやーよかったよかった!
マジで勇ましく出てきた時はうれしかったけど、流石にやべえだろって気が気じゃなかったからよォ!
……あの。
ところで……その……
「カメリア、カメリア」
「……? どうしましたの?」
「その……誰? 後ろの人たち……」
後ろにずらっと並んでいる生徒の皆さんは、どちら様?
皆多かれ少なかれケガを負ってるし、杖とか剣握ってるから多分カズィクル討伐戦の参加者なのは間違いないけど……皆すっごいオレのことガン見してて怖いんスけど。
えーっと、ブレザーのリボンとかの色的には同学年?
「は!? え!? う、嘘ですわよね……!?!?!?」
「ぁえ……えっと……」
「クラスメイトですわよ!? 貴女の!」
……?
クラス……メイト……?
「いいのカメリアさん! ……セラフィリアさんが虐められてるのを見過ごしてきた私たちを、そう簡単に許せるはずがないから……っ」
知らんツインテの女が杖を両手で抱き、震える声で叫んだ。
「ごめんなさいっ! 私っ、庶民の出で……ここを卒業したらっ、ただの庶民に戻ったら……実家の商売がどうなるかって考えたら動けなくて……っ」
「俺もだ……っ!! 目立つことを恐れて動けなかった……」
「アタシもっ!」
どわーっ!?
一人が泣いたら全員泣き始めた!? おい馬鹿やめろ騒ぎをデカくするんじゃねえ!
ぬわああああ向こうでラミュエルを讃えてた連中の視線がどんどんこっちに向いてきてる!?
「全部言い訳なのはわかってる……ごめんなさい。クラスメイトなのに……貴女は必死に耐えてきたのに、辛くて、怖くて、私なんかより苦しかったのに……っ」
「君があの魔人族と一人で戦っている姿を見てオレは……オレは自分が恥ずかしかったッ! 情けなかったッ! そして何より……後悔したんだッ!」
「いつから魔人族の姦計に気付いていたの……!? 私たちが安穏と暮らしている中でっ、貴女は必死にこの学院を守ろうと戦ってきたというの!?」
「貴女の堂々とした姿にアタシは……っ!! もう遅いかもしれないっ、もう間に合わないかもしれないっ! それでも動かずにはいられなかったっ! 貴女が必死に切り開いた戦線を、状況を今まで見たいに怯えて、後ろで何もせずになんか居られなかったッ!!!!」
ずい、ずいと次第にオレはクラスメイト達に取り囲まれ、その輪がどんどん縮まっていく。
「ひゅにぃ……」
「あ……わ……ちょ、皆さま少し落ち着いてくださいま……し……!?」
一番近いのは女子生徒たちの集団だが、全員当然とでもいうようにオレより身長が高いため、どんどんオレは集団の中心で埋もれていく。
カメリアは秒で埋もれて消えた。
ちゅ、ちゅぶれりゅ……!!
「全てを計算し、龍すらをも打ち倒し、そして奴を追い詰める姿は……まるで神話の一頁にも思えたッ! そんな素晴らしい人の横でオレは今まで何をやっていた!? 何をしてこなかった!? どうして今まで気づかなかったんだッ!?」
「ぁゃ……たしゅけ……」
「私たちみたいな貴女を助けもしなかった人を……貴女は当然のように助けたっ!」
「ごめんなさい……ごめんなさいっ! 今更許してだなんて言えないわっ! それでもこの気持ちだけは本当なのっ!!」
「俺達は弱い……まだ入学して数カ月、先輩たちの援護しか出来なくてもッ! それでも戦わない選択肢なんてなかったんだッ!!」
「もう迷わないッ!! もう誰かを見捨てたりなんてしないッ!! 僕は貴女のように……貴女のようになりたいんだッ!!!!!!!!!!!!」
大体それであった。しかも羽音の代わりに、全員がやたら熱血なことを語りながら熱い涙を流し、懺悔を口々に繰り返している。
クール系ダウナー美少女のオレにはあまりに不釣り合いな状況だった、頭がおかしくなりそうだった。
う、うおおおおおお!!!
転移魔術発動ッ!!!!
『待って! セラフィリアさん!!!!!!』
ぐりんっ!! と全員が転移した瞬間にオレの方向へ首が向く。
じりじりとオレが後退し――そして皆が熱い涙を流し一目散にこちらへ駆け出したッ!!!
うおおおおあああああああ!?!?!?!?
オレのそばに近寄るなああーッ!!!!!!!
ひいいいいいいいいいいいいっ!?!?!?!?
「……落ち着いて、一人ずつ聞く」
へっぴり腰である。
涙をこぼし血走った目で熱血を語るクラスメイト達は、カズィクルよりはるかに怖かった。
なんだか分からないが、どうやらいじめを見過ごしていたことを後悔しているらしいことは分かった。
ラミュが三人衆をボコってから特に何も起こっていなかったので、正直まあどっちでもいい……って感じなのだがそうはいかないらしい。
オレの前に並んだクラスメイト達が、一人ひとりオレの腕をがっしり両手で重ねて抱き合わせ、熱い涙と共に懺悔の言葉を繰り返していく。
「ごめんなさい……ごめんなさいセラフィリアさんっ! なんど謝ったって許してくれなくていいわっ! それでもこの頭を下げさせてっ、下げないと私の気が済まないのっ!!」
「……うん、いいよ」
「君のように強くはなれないかもしれない……それでもっ、君みたいに勇気ある人間にっ、誰かを守ろうと立ち上がる人間になりたいんだッ! どうかボクを見ていてくれっ!!!」
「……うん、いいよ」
「彼らが虐めを続けたのはオレが止めなかったせいだッ! それが許される環境を許してしまったオレのせいなんだッ! だからっ……だからオレは……っ」
「……うん、いいよ」
「俺はもしかしたまたいつか間違ってしまうかもしれない……そんなときは君がっ! オレ達をぶん殴ってでも止めてほしいッ! 何をしたって決して君を責めたりはしないッ! 遠慮なくやってくれっ!!」
「……うん、いいよ」
「セラフィ……貴女の洗濯物をいつもたっぷり嗅いでから洗濯に出していますわ……どうかわたくしを許してくださいましっ!!!!!!」
「……うん、いい……ん?」
今なんか変なの混じってなかった?
死んだ目で聞き流していたが顔を上げると、皆さめざめと泣きながら肩を組んでいた。
……気のせいですわね。
「皆ッ! 入学してから今までオレ達は弛んでいた……だが今日からは違うっ!! 命を賭けてオレ達を守ってくれたセラフィリアさんに恥じないように一から鍛え直すんだっ!! オレ達は変わるんだ、変わらなくちゃならないんだッ!!」
『応ッ!!!』
「この先きっと戦争が起こるだろう! 魔族との数百年前の延長戦だ、きっと悲惨な戦いになるだろうっ! 今日あの魔人族から感じた恐怖、絶望……それをオレ達は決して忘れることはないだろう! だがっ! だがそれで乗り越えなくちゃならないっ! 何故ならセラフィリアさんは既にそれを乗り越えっ、全力でオレ達を守ってくれたからだっ!!!」
『応ッ!!!!』
「吐くまで行くぞッ! 吐いても止まらねえぞッ!! 精魂尽き果て日が昇るまでの二百キロマラソンだーーッ!!!!!!!!」
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!』
そういってクラスメイト達は旅立っていった。
……え、今から二百キロ走んの? 本気で?
極星祭やって、カズィクル討伐戦終わったばっかだよ?