学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど   作:IXAハーメルン

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ゆうしゃからは にげられない!

 クラスメイト達が旅立つのを見送ったオレの周囲に人影はない。

 

「明日から、もっと忙しくなりますわね」

 

 ああ、いや正確には一人残ったカメリアがいた。

 オレが作った剣を鞘に納め、顔にかかった金髪を軽く払いのけた彼女が薄く微笑む。

 

「……ねえカメリア、あの……」

「魔族たちの活動がここまで顕在化してきた今、この学院は再びかつての姿を取り戻す必要がありますわ……対魔族の戦闘教育機関としての姿を」

「さっき気のせいかもだけど……」

「努力は続けてきたはず、人並み以上に鍛錬を続けてきたはずだったのにっ! ……まるで、勝てるビジョンが浮かびませんでしたの」

「ふ、服のこと……」

「わたくしは……っ!! わたくしは悔しかったっ!! もっと強くなりたい……貴女を今度は、わたくし一人で守護(まも)れるようになりたい……っ!!」

 

 硬く拳を固め、クラスメイト達の亡霊が乗り移ったかのように力強く叫ぶカメリア。

 死線を乗り越えた彼女の顔は、再び誓った固い決意によってきりりと引き締められていた。

 

 いや、お前の決意はいいんだけどさ……

 

「……さっき言ってたのって」

「わたくしも皆様に負けていられませんわっ! 走ってきますわねっ!!!!!!!!!!!!」

 

 一目散に走り去っていくカメリア。

 あいつもあいつでさっきまでバトり散らかしていたというのに、ああも全力疾走できるとは割と無尽蔵の体力をしていやがる。

 

 ……オレってそんな臭う?

 毎回嗅いでみるくらい臭いんか……!? 全然気付かんかったんだけど……もしかしてカメリアもラミュエルもずっとそんなこと考えてたんか……!?

 

 自分の脇をすんすんと嗅いでみるもわからない。

 ワキガとは自分では気づかないと聞くが、もしそうだったらショックで三日は泣いてしまうかもしれない。

 これから常に匂い消しの結界体表面に張り続けようかな……。

 

「待ってくれセラフィリア・スタンレイ!」

 

 しょぼしょぼしながらとぼとぼ歩きだしたオレにかかる声。

 

 もー次はなんスか?

 オレは自分の体臭がヤバめだという事実に気付きつつあって不機嫌なんスけど?

 ええんか? くさくさ抱き着き攻撃でてめえの脳天に激臭をぶつけて二度と呼吸ができなくしてやろうか?

 

 正直天変地異が起こるほどの大ショックだった。

 具体的に言うと人生で三番目くらいのショックだった、二番目はラミュが初めて剣握って人形切り倒したときね。

 ちなみに一番はアル様の超高そうな杖を燃やしたこと……思い出すと吐きそう、このままではオレは内臓を売るしかなくなってしまう。

 

 のろのろ振り返ったオレの視界に映り込むのは三人の男子生徒。

 いや、濁す必要もないか。ネグロ、エイムズ、ジョナスの虐めっ子三人衆であった。

 こいつら戦いながら連携でめっちゃ名前叫ぶから覚えちゃったんだよな。

 

 迷うかのように視線をさまよわせ……一歩、ネグロが前に踏み出す。

 

「あの日からずっと考えていた、貴女に何を伝えればいいのか……どうしたら、俺達のこの気持ちが伝わるのか。いくつか小難しい言葉や、大袈裟な行動も考えたんだが……違うと思ったんだ」

 

 え!?

 オレが臭いってこと!? お前らずっとオレが臭いこと伝えるか悩んでたってこと!?!?

 気付かなかった……十五年生きてきてこれっぽっちも……!

 もしかしてクラスメイトが全然オレに話しかけてこなかったのも、虐められてるとか以上に臭かったからなのか……!?

 

 思えばオレは良く水をぶっかけられたり、水に叩き込まれたりしていた。

 もしかしてあれは遠回しにもっとちゃんと風呂に入れと言われていたのか? は? ちゃんと毎日入ってるんだが!?

 

 ……先生、オレ死にたいんですよ。

 オレはそっと杖を生み出し自分の頭に当てた。

 さようなら世界。

 

「今まで、すまなかった――俺達は今日でこの学院を去る予定だったんだ」

「……え?」

 

 オレの脇の臭さについてじゃないの!?

 

 深々と頭を下げるネグロ、次いで後ろの二人も頭を下げる。

 

「家からも抜ける。市井で一から自分たちの魔術を、力を、そして己自信を磨き直す。そして世界を見ていきたい……俺達が目を逸らし続けてきた世界を、まっさらな状態から」

「……そう」

 

 ふむふむ……え、学院やめんの!?

 どうしたん!? 話聞こか!? もう聞いてるんだよなぁ……。

 

 想像だにしない発言が飛び出してきてオレは内心目をひん剥いた。

 

「貴女への嫌がらせはすべて、結局の所嫉妬だったんだ。自分の作った枷の中に閉じこもって、なのに外で必死に頑張り続ける貴女に嫉妬していた……あの日、ラミュエルさんに殴られてようやく気付けた」

 

 いつものニヤついた顔や、ラミュエルとバトってた時の狂的な顔はどこへやら。

 彼らはまるで先ほど叫びながらマラソンへ向かったクラスメイト達のように、とても爽やかな笑みを浮かべていた。

 

 おぉ……なんか浄化されてる……。

 さっきクラスメイト達もなんか浄化されてたんだけど……誰かここらへんで空気清浄魔術使った?

 

 しかし、ふむむ……オレは少しだけ背筋を伸ばし真面目に思考をめぐらす。

 

 いじめ、か。

 そういやラミュとの決闘以降こいつらがオレに何かしてくることはなかった。

 思えばあの時から覚悟を決めていたのかもしれん。

 

「本当に……辞めるの?」

「……ああ、既に届は出してある」

 

 覚悟は決まっているらしい。

 透き通った目でこちらをじっと見る彼らは、おそらく何を言われても決意は変わらなそうな様子だ。

 

 正直他人が何をしようとまあそう、頑張ってくれという感じでもある。

 ただこいつらが集中できないラミュと交代し、前線で命を張ったのもまた事実。

 

「そう……」

「最後に極星祭に参加してはと学院長に言われてな……まさかこんなことになるとは思わなかったが。だが……こうやって貴女と話せてよかった」

 

 そういって自嘲気味に笑うネグロ。

 

 そうか……こいつらのせいで確かに何度か危険な目にあったこともある。大半はうぜぇ……くらいの内容だったが、命に関わることもそう、確かに二度ほどあった。

 池に落とされたときとかはやっぱり記憶に残ってるし……あぁ。

 それとこの前の訓練の時もそうだな。身体強化を使え使え言われて渋々使って……って、あれはラミュに言われたんだっけか。

 

 しかしここでオレに電流走る。

 

 いや待てよ?

 ラミュエルにその何倍も殺されかけてねえか?

 あいつがオレに抱き着く度痛みで気絶してるし!! 訓練で囃し立てられた時もそうだし!! 決闘中に飛び込んで結界ぶち壊されたときとかマジで恐怖で鳥肌立ちまくってたし!!!

 

 つか実家じゃほぼ毎日命の危険だったしさぁ!!! 何回回復術師のお世話になったかもう覚えてねえぞオイ!!!! 魔物がうじゃついてる森にぶち込まれたり! 延々走らされたり!!! どうなってんだよスタンレイ家おい!!!!!!!! オレだけをぶっ殺すマシーンかよォ!?!?!?!?!?

 

 とんでもない事実に気付いてしまった。

 オレは今すぐここから逃げてスタンレイ家との関係全てを断つべきではないのか?

 このままでは成人どころか来年には骨になっているのでは? もうゲームとか言ってる場合じゃねえのではっ!?

 

 このままではただでさえ儚いオレの命の蝋燭がゴリラスのパンチによって粉砕されてしまう。

 どうしよう……オレも学院辞めようかな……!?

 

「……以前貴女の言ったように、誰にだって立ち上がる力があるというのなら……こんな俺達でももう一度立ち上がれるだろうか?」

 

 いきなりナニ寝ぼけたこと言ってんだよオイ!

 今それどころじゃねえってのによォ!! こちとら寿命の蝋燭が妹のゴリラスにへし折られかけてんだぞ!?

 

「……何言ってるの?」

 

 意味わかんねえこと言ってんじゃねえぞボケ!

 

「もう、立ってるでしょ?」

「――!!」

 

 どちらかってと立てなくなりそうなのはオレの方なの!

 実家に殺される!!!! 血筋がっ!! 望んでもない血筋がオレを殺そうとしてくるのっ!!!!

 

「あり、がとう……ありがとう……ありがとうっ!!」

 

 脱学院計画を練り上げるオレの腕を取り三人が何かを言っている。

 そうしてしばらくしてから三人は互いに頷き、爽やかな笑顔を浮かべ大きく崩壊したコロシアムの先、遠くから聞こえる掛け声を指差して駆け出した。

 

「エイムズ、ジョナス! 最後に折角だ、俺達もランニングに参加しよう!」

『ああ!』

 

 しかし学院から逃げるにしたって……どうしたらいいんだ?

 金も体力も行く先もねえぞ……逃げる先の知り合いだっていねえ!

 落ち着け……落ち着くんだオレ……脳内の計算機をぶん回してまずはラミュエルから逃げきる確率を計算しろ……!!

 

「お兄さまっ!!」

「へぶちゅっ」

 

 脳をフル回転しているさなか、突如オレの全身を襲うすさまじい衝撃。

 それはオレの胴をがっちりホールドするように腕を回し、ぎょりぎょりと顔を胸元にこすりつけながらオレを呼ぶ。

 

 あ……みょ……!!!

 ふぎ……ぎ……!!!!!

 

 もぎょもきょと全身からヤバめの音が鳴った。

 

「あたし……あたし、武闘大会でお兄さまがいなくなった時……本当に怖かった、見捨てられたんじゃないかって……! でもお兄さまは影でずっと戦ってた、みんなのために! やっぱりお兄さまはすごい……かっこよくて強くて……」

「ら……らみゅ……」

「でもっ! でも……やっぱり怖い。お兄さまがどこか、いつか、あたしの知らないところで倒れちゃうんじゃないかって!」

 

 ぎゅっ、と力が増した。

 

「だからこれからはどこに行ってもずーっと一緒! ずーっとそばであたしがお兄さまを守護(まも)るから!」

 

 きゅっ、と肋骨が押さえつけられた。

 ひゅっ、と喉が鳴った。

 

 つかまっている!

 つかまっている!

 ゆうしゃからは、にげられない!

 

 疲労と絶望が極限に達したオレは――意識を手放した。

 

「……お兄さま? えっ、うそお兄さま!?!? どうしたのお兄さま!?!?!?」

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