学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
遥か遠くから人々の歓声が響く中、暗闇に蠢く二つの影があった。
「随分と小さな姿になりましたねェ……鮮血の盟主さん? クックック……」
豊満な肢体の
月のない闇の中、彼女が見下すのは――黒髪の少女。
「黙れ……この紛い物がッ!!」
仮面の下で彼女がわずかに眉をひそめる。
しかしすぐに表情を取り戻し、ゆっくりと少女の下へ歩みを進めた。
「随分とかわいらしくなられてェ……そういった趣味でもおありでェ?」
「黙れと言っている! 第一貴様もそうであろうがッ!! これはただの消耗を極限まで下げた姿だッ!」
消耗の激しい筋肉は減らし、そして体を薄く纏う脂肪は失った血による体温の低下を防ぐ。
元来『性』の概念が薄いかの種族において、見目を変えることはさほど抵抗のあることではない。
しかしながら……こうも見下され、嗤われてしまえば先の敗北も合わさり怒り心頭になるのも当然。
少女はいつもの通りに鋭い血槍を生み出し振るい――しかし、形を成すより前にボロボロと崩れ落ち、血は地面の染みとなってしまった。
「きっ、貴様ッ!?」
「おやおや、随分と弱ってしまって……クックック、今の姿なら同胞の皆さんに愛してもらえるかもしれませんねェ。ああいや、貴女が全員殺してしまったのでしたかァ?」
分かり切ったことを聞く女。
元々二人の力関係は均等であった。
しかし力押しが主の少女と技術による精緻な技を得意とする女だ、力を失った少女の魔術を防ぐことなど容易い。
女は少女の魔術、その発動の起点から魔力を走らせ即座に魔法陣を破壊してせしめた。
女は少女の背に生えた赤黒い翼を鷲掴みにし地面へと叩きつける。
さらにその横顔をひっつかみ、何度も、何度も大地へと擦り付けていった。
「っぐ……あ……が……」
少女の整った顔が血と土に塗れ穢れていく、誇り高く己の名を謳っていた先ほどまでの姿など見る影もない。
「杖を失い、血を失い、全てを失った今の貴方を殺す程度、訳はないのですけどねェ」
「くっ……そんなこと……っ」
「勇者達に討伐されてしまった、そう伝えてしまうだけですよォ」
王族のみを狙っての慎重な計画、それを大きく歪め大々的な襲撃へと変えたのは少女、カズィクルであった。
失敗の代償は大きい。
「分かった……だからどうか、どうか命だけはッ!!」
「元よりそのつもりですよォ? 一々反抗的な貴女が悪いのですからねェ」
地べたに這いつくばるカズィクルの背にロイドが腰かける。
ぐりぐりと、手にしたスタッフの石突を少女の脳天へと突き付け嗤う彼女。
少女は反抗的な目つきで睨みつけるも、力の大半を失った今見た目通りの力しかない存在に恐れなど抱くわけもなく。
「ご自身の立場を理解してくださいねェ、ワタクシ以外であれば貴方は殺されてもおかしくないのですよォ?」
「ふ……うぐ……っ!!」
東国で言う木魚のように、杖先で少女の頭を繰り返し叩きながらロイドは空を眺めた。
「ワタクシの襲撃の時点で事態を把握、常に気を配り周囲を警戒していた……貴方の工作もすべて彼女の手の上で転がされていたようですねェ。実に恐ろしい、切れ者という言葉ですら生ぬるいかもしれませんねェ」
学院内への仕込み、冥龍の召喚。
ロイド自身その補助をしていたため理解していたが、決してカズィクルの仕込みが不十分であったわけではない。
むしろあの部屋には周到に周到を重ね、下手を打てばロイド自身ですら危ういほどの罠を仕掛けてあった。
それに何より見抜かれるはずがないほど厳重な隠蔽を行っていた……はずだったというのに。
「策謀と知略、彼女の厄介な点は潤沢な魔力以上にそこにありますよォ。下手をすれば今
やはり恐ろしい相手ですねェ……セラフィリア・スタンレイ。
ロイドは内心、憎さとわずかながらの敬意を抱え、腰かけた少女の羽をぐりぐりと踏みにじった。
「暫くは大人しくするべきでしょうねェ。小国の制圧に手回し、表舞台でなくともすべきことは無数にあるのですから」
グロリア王国は三大国家の中でも最大の規模を誇る。
当然攻略が難航するのは予測されている、焦る必要などない。
それに何より、ロイドからすれば魔人族も人族もさして違いなどない。全ては己が主のため、それ以外の犠牲などいくら増えようと構いはしないのだから。
主の顔を思い出し少し緩んだ表情を仮面の下に隠し、ロイドは胸元から一つの魔石を取り出した。
刻まれた魔術は念話、つながる相手は――
「ああそうでした。貴女のご友人のドラゴンさんから、これを渡すように伝えられていたのでしたねェ」
「っ、トーデストリーヴ!」
目の前に転がされた魔石へ少女は飛びつく。
その相手は長年友誼を重ねてきた唯一といってもいい存在。今、敗北を重ね折れかけた少女にとって唯一といってもいい希望でもあった。
冥龍。
一度首を斬り落とされ絶望もしたが、やはり生きていたとは!
わずかに顔へ喜びを浮かばせた少女が魔石を起動し――
『こんの…………あほーーーーーーーーーっ!!!!!』
第一に飛び込んできたのは怒鳴り声であった。
『きっ、きききっ、貴様っ!! なに出入り口の魔道具を握られとるんじゃこのド阿呆ッ!!!』
「え? え?」
『せっかく久々にそっちに行ったのに!! かっこいいセリフ色々考えてたのに!! スパーーンッ!!! と首がふっとんでいったんじゃが!?!?』
少女の脳内を混乱が埋め尽くしていく。
「ま、まてトーデストリーヴ……話を……」
『しかも我の血を勝手に啜りおって!! あんのきンもいヒルにまで吸わせるじゃと!? 貴様ふざけるのも大概にせいよ!?!?』
「キモ!? ま、まて可愛いだろうあいつらは……!! それにいやっ、それはただ生き延びるために」
『第一おぬしは前々から趣味が悪いのじゃ! 血だのヒルだのとやたらねちょねちょしおってこの阿呆!!』
「血は種族の特性で……それに同胞は可愛い……っ」
『種族のせいにするでないっ!! 大量の血族の死体も持ってきた時正直ドン引きじゃったわ! 捨てるのももったいないから食ったが……血抜きもされてないから臭くてたまらんかったぞ!!』
「え……」
衝撃だった。
『もう二度と我に連絡してくるでないぞ! 貴様とは金輪際付き合わん、分かったか!!!! じゃあの!!!!』
一方的に切られた念話、使い終わった魔石がさらさらと砂のように崩れていく。
冥龍のいる異界への扉は膨大な魔力を使う。力の大半を失った少女が会うことは現状ほぼ不可能であり、これはもはや絶縁宣告に近い。
「トーデストリーヴ……嘘だ……嘘であろう……?」
「哀れですねェ……ん?」
絶望し、力尽きたように伏せ動くことすらなくなった少女を憐れみの目で見るロイド。
しかしどこかからドタバタと激しい足音が近づいてくることに気付く。
野生動物? いや、学院近くのこの森は常に管理されて小動物程度しかいないはず。
それにこれは……人の声!
追手か、完璧に魔力も気配も消したはずだったが……やはりセラフィリア・スタンレイには勘付かれてしまったのだろうか。
ロイドは地面の少女をちらりと眺めて逡巡する。
仮面の下で彼女は何度か迷うように視線を動かし……覚悟を決めたように一人で飛び去った。
敗者とはいえ命を奪うほど恨むわけではなく、むしろ二人の仲は他の魔人族と比べれば良好といえる。
しかしながら近くにセラフィリア・スタンレイが来ている、その可能性を考慮すれば逃げの一択以外にあり得ない。
彼女を真正面から打ち倒すことは不可能であり、ロイドにはまだ成すべきことがいくつもあるのだから。
ロイドが消えてすぐ、地鳴りのような足音が意識を失いかけたカズィクルの下へとやってくる。
「皆ッ!!!! 気合が足りないぞッ!!!!」
『応ッ!!』
彼らは暗闇の中できらきらと汗を流し、皆支え合いながら全力での疾走をしている。
「肉体改造……いや今日からオレ達は『肉体壊増部』だッ!! 限界を超えろーッ!!!!!!」
『応ッッッ!!!!』
「うげっぷげっ」
ずかずかと少女を踏みつけ彼らは駆け去っていき――
「待てぇーーーーい!!!!! 今何かがいたぞ!?!?!?」
「ふぎゅっ、うぎゅっ」
ドタバタと叫びながらまた戻ってきてカズィクルを踏みつけた。
「見ろ!! 少女だっ!!」
「どうしてこんなのところにいるのかしら!?」
「く……そ……はな……せ……!」
「見ろっ! ケガをしているじゃあないかっ!! きっと悪辣な暴漢に襲われたに違いないっ!!」
「
「な……やめ……ろ……!!」
「しゃべらなくてももう大丈夫! 何故って? 俺達が来たァッ!!!!!!!!!!」
瞬く間に結論付けた彼ら、この先『肉体壊増部』と名乗り世界に名の知られていくとあるクラスメイト達は、少女の両手両足をひっつかみ――学院へと駆け出した。