【2章完】学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
確 保
いやー昨日は大変だったなぁ。
朝からずーっと運動しっぱなしだったし、魔人族は暴れまわるし。
あんだけありゃ何日か休みになると思いきや無慈悲な通達、通常通りの登校と来たものだから困りものだ。
昨日アル様が治療してくれなかったら筋肉痛ヤバかっただろうなぁ。
はー、まだ眠いしメンタル面の疲れが抜けてない気がするわ……。
朝なので低血圧でふらふら歩き、教室の扉へと手をかけ――
「出してくれ!! 出してくれッ!! 我は帰らなくてはならぬのだ我の住むべき地にっ!!」
「ウム……出してあげたいのは山々なんだッ! しかし、君は人を噛むだろうッ! 残念ながら我々とて危険は避けなくてはならない! だが安心したまえッ! まずはメンタルの調査と健康面の調査を行い、君が落ち着けば必ずそこから出すと約束しようッ!!!」
「嫌だ……嫌だアアアアアッ!!! 出してくれ!! 出してえええええええええッ!!!!」
教室に入ったら檻の中でロリが絶叫していた。
檻を取り囲むようにずらりとクラスメイト達が囲っている、傍から見れば怪しい儀式のようだ。
は?
「――!! 全員『礼』だッ! おはようございますセラフィリアさんッ!!!」
『おはようございますッ!!』
唖然とするオレを見つけたとたん男も女も関係なく一斉に全員が頭を下げた。
「お……おはよう……」
もしかしてこの一大宗教の主はオレだったのかと勘違いしてしまう光景だった。
……いや巻き込むなよ!
オレは関係ねえぞ!!
席に着くと同時、全員が何故か満足げな表情を浮かべ檻へと向き直る。
いつもなら関係ないとゲームでも始めるところなのだが、やはり目の前でこの邪教の儀を行われているとどうにも視線はそちらに向く。
「ぐあああああっ!! 日があああッ!! 太陽がああああっ!!! ひぃぃぃぃっ!!」
なんか直射日光浴びてびったんびったんしてるんですけど大丈夫なんすかアレ。
「……あれなに?」
一番近くにいたクラスメイトに声をかける。
やたらと前腕が太くてピクピクしてるやつだった。
「昨日森の奥で拾いましたッ! ケガをしていたので保護をしたですが……周りの人に噛みついたり襲い掛かったりと、錯乱状態だったので仕方なく魔術で檻を作りまして!」
拾った人間を檻に閉じ込めるなよ!
いやしかし……うーん。
保護という言葉とは真逆のように思える行為だが、しかし、その行為は決して誤っているとは言えないだろう。
あの背中に見える小さな翼だ。赤黒い蝙蝠のようなそれにオレは見覚えがあった。
カズィクルさんだ。よく見てみれば髪色も真っ黒、目も紅く彼によく似ている……おそらく同族だろう。
本人はラミュの雷撃ソードで消し飛んだが、もしかしたら近くに潜んでいたところをこいつらに捕まってしまったのだろうか。
あいつの力を思えば下手に自由にさせる選択肢はない……その割には檻から出れてないけど。
「せめて……せめて日陰に移動してくれ……体が……熱い……ッ!!」
「ハッハッハ! 大袈裟だなぁッ! 今日はむしろ少し曇っているくらいじゃないか! それに陽の光を浴び一日を始めるなんて理想的じゃないかッ!」
「んぎゃあああッ!!!」
シャッ! とカーテンが思いっきり広げられ、直射日光を浴びた少女は悶え苦しむように地面に這いつくばった。
鬼か。
「お兄さま~! おはよっ!!」
「――!」
即座に発動する極近距離の結界。
展開する範囲はオレの上半身。厚さはわずかコンマ一ミリ以下、さらに体表ぎりぎりを即座に覆い尽くすその技術はまさに至高と言わざるをえまい。
クックック……オレも常にやられてばかりではないのだよ!
ラミュエルの抱き着きを完璧にガードしつつ、本人には決して気付かれず体温もちゃんと感じることのできる完璧な防御魔術を昨日の夜研究したのだ!
「……おはよう、ラミュ……外で運動してきたの?」
ずんっ! と衝撃が結界表面を突き抜けた。
突撃したラミュエルが抱き着いてきたのだ。あと一秒遅かったら、オレは朝から保健室に運ばれる定めだっただろう。
だが今日からは違うッ! ギュッ。
「うん! カメリアが一緒に試合したいって!」
「……ぇ」
にこにこと、片手で青白い大剣を担ぎ上げるラミュエル。
お前まさかその剣で斬りかかってねえよな!?
カメリア真っ二つになるぞ!?
驚愕したと同時にがらりと開く教室の扉。
少しすすけたカメリアがのろのろと教室へ足を踏み入れた。
……どうやら斬り殺されずに済んだらしい。
「ったた……流石ラミュエルさんですわね」
「生きてた……良かった」
「使命がありますもの! わたくしはそう簡単に死にませんわ! 先ほどのソードキックとソードパンチは少し危険でしたけれども……」
斬れよ。
いや斬ったら死ぬのか。
「……ところでセラフィ、あちらは?」
カメリアが指さす先には日の当たらない檻の隅の隅、一辺三十センチくらいの場所で体育座りをしながらすすり泣く少女の姿があった。
完全にノベルゲー系のこれから残酷な目に合うヒロインみたいな見た目である。
多分そのうち心をうしなった怪物になって敵対するタイプの奴だ。
オレの方が聞きたいんだよなぁ……!!
好奇心半分、関わり合いたくない半分の心であった。
しかしながらどうやらオレの妹やお友達はそうじゃないらしく、それぞれがオレの手を引っ張って檻の下へと歩みを進める。
渋々オレもついていき――
「ひ、ひぃいいい!? 何故貴様がこっ、こここにっ、あ……あああ……っ!?!?」
オレの顔を見てより怯え始めた。
はァ?
テメエオレのプリプリプリティフェイスを拝んどいてよくもまあそんな態度取れるな!?
テメエの網膜に一生オレの顔が刻みつけるように魔術で焼き付けてやろうかアァン!?
流石の温厚なオレもブチギレですわ。
とはいえここまで怯えている人間(?)を甚振るのも趣味じゃねえ、それにシンプルうるせえ。
オレは大人しいクール系美少女だからな……まあちょっくら話を聞いてとりあえず黙らせようかとさらに近づき……
「これも……これも全部計算のうちなのか!? セラフィリア・スタンレイッ!? クソクソクソクソッ!! うわあああああああああああッ!! いやだあああああああっ!!」
「いや……」
「ロイドぉぉぉぉぉ!! リントォォォォッ!! トーデストリーヴッ!!!!!! 早く我をここから出してくれえええええええっ!! だしぉえ……ごほっ! げほっ! うああああああああっ!!!」
「ねえ、ちょっと話を聞きたい……」
全然黙んねえなこいつ。
少し眉をひそめ隣へ視線を向けるもカメリアも首を横に振る。
「まともにお話も出来ませんわね……」
「はいはい! はいお兄さまっ!」
しかしここで手を挙げたのがラミュエルだった。
「あたしなら噛まれても大丈夫だし、とりあえず外出してあげればいいんじゃないかなぁ?」
ラミュの言葉は一理ある。
クラスメイト達は噛まれて危なかったかもしれないが、まあラミュならそもそも牙が通らないだろう。
オレもこくりと頷き妹に行くよう促す。
彼女はさながら鼻歌交じり、といった軽い足取りで檻へ近づく。
そしてちょい、と格子の隙間から顔をのぞかせ――
めぎょっ。
小枝か何かかのように、数センチはある太さの鉄格子をへし折り、人ひとり大の穴をこじ開けた。
「出たいなら出ていいよ? ただしあたしの傍にいてね、逃げたら全力で追いかけるからっ!!」
「ひっ……」
引きつった顔で少女がさらに檻の端へと縮こまる。
ラミュエルが上半身を檻の中に入れ少女の服を掴もうとするも、彼女は怯えた表情で全身を震わせ両腕で頭を守るかのように、より小さく丸まっていく。
「ねえどうしたの? 出たいんでしょ? もっと穴が大きい方がいい?」
「ひぃ……や、やめ……くるな……っ」
泥粘土でもこねるかのように鉄格子が歪んでいく。
最終的に、大人一人が軽々抜け出せるような大穴がラミュエルの手によって構築された。
「ほら、もう出れるよ? 出ておいで!」
「……して」
「え? なに良く聞こえなかったんだけど?」
かすれるような声。
近くにいたラミュですら聞き取れなかったようで、不思議そうな顔をして少女へと顔を近づける。
彼女はびくっ、と肩を震わせ――
「許して……もう出たいなんて言いませんから……っ!! 許してくださいっ!!」
「でもずっと出たいって」
「出たくありませんっ! この牢獄が最高です! 幸せですっ! だからこの中にずっといさせてくださいっ!! 外に出たくありませんっ!!!!!!!!」
土下座をしながら叫んだ。
「おはよー! 今日から君たちの担任として……まあ今は臨時だけど……このクラスを担当することになったイェナ……です、よー……?」
その瞬間がらりと開く教室の扉、現れたのは新任を名乗る女教師だった。
彼女は何度か檻の中で震える少女と、その周囲を取り囲む――誠に遺憾ながら近くにいたオレ達へ主に――視線を向け、赤髪のポニーテール頭を少しだけ掻いた。
「っとぉ……」
すっ、と彼女が教室を抜け出し扉が閉まる。
そして廊下からドタバタした足音が次第に遠ざかっていく。
「がっ、学院長! アル様! 話が違いますよーっ!? 大人しくて将来有望な子たちがいるって言ってたじゃないですかーっ!?!?!?!?!?」
「ラミュ、あの人捕まえてきて」
「はい!!!」