学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
間一髪だった。
セラフィがとっさに張った結界がゴーレムの拳を遮る。
「うぅ……」
しかし突然の出来事、混乱と恐怖に苛まれた少女はその場に座り込んでしまう。
今この時ですら、ゴーレムの拳は彼女の結界へと連撃を繰り返していた。
「セラフィ! どうか結界を解かないで!」
カメリアは緊張にひりついた足を動かし必死に駆け寄った。
無詠唱、方陣無し、果たしてそんな脆弱な結界がいったいいつまで持つだろうか。
不安定な構築の結界ほど信用のおけないものはない。もし破られてしまえば、あの結界内で怯えている少女はたやすくその命を奪われてしまうだろう。
『人を傷つけるのは、苦手だから』
戦いに向かないたおやかな少女の言葉が再びよぎる。
「ゴーレムが暴走していますの!」
しかし白の少女は動かない。
青い顔ですっかり地面に座り込み、怯えたように顔を引きつらせている。
当然か。
戦闘慣れした自分ですら手こずるようなゴーレム、あの大人しく戦いを好まない彼女が恐れを抱かないはずもない。
カメリアはゴーレムと少女の間に割って入り、訓練用の刃を振りかぶった。
このゴーレムを止める以外に選択肢はない。
しかしコーティングの施された表面は魔力を散らしてしまう、単純な魔術程度なら傷一つすらつかない高級仕様だ。
挙句の果ての馬鹿力。打ち合うたびにカメリアの剣は傷つき、少しずつ歪んでいく。
っ、最悪ですわね!
こんなのっ、軍事用のゴーレムかそれ以上の出力じゃ――
「カメリア……逃げて……」
どくりと、心臓が跳ねた。
「っ、そんなこと出来ませんわ!」
「いい、から……」
見捨てろ。
少女はそう言って、少しだけ悲し気に眉をひそめた。
自己犠牲と慈愛。
この時もまた、彼女はたやすく自分の身を投げ打とうというのか。
――させない!
させてなるものか!
ここで退けば未来の、いや明日の自分に嗤われるだろう! 侮り見下した相手の足下に及ばぬ軟弱者であると!
「わたくしがっ、必ず貴女を守りますわっ!」
歪んだ剣を薙いだ。
ひしゃげた刃を振り払った。
絶え間ない相手の連撃をかいくぐり、疲労から鉛のように重い腕を振るう。
「――この剣に誓ってッ!」
護るのだ。
この自分の優しさに手折られてしまいそうな少女を!
しかし覚悟とは裏腹に、カメリアが握る剣はもはやただの鉄塊と化していく。
少女たちの決意は一方的な暴力の前でついに屈しようとしていた、その時だった。
「――『ザ・クリエイション』」
カメリアの背後で、魔術の輝きが生まれた。
莫大すぎる魔力の奔流、そのあまりにも圧倒的な力に少女の肌は総毛立つ。
「セラフィ!?」
攻撃を間一髪避け、背後へ飛びのいたカメリアは慌てて振り返る。
魔力の渦中、一人の少女がいた。
「あ、貴女!」
今一瞬感じた魔力量、それだけで一般的な魔術師の数十倍はあった。
それほど膨大な魔力をいったい何に使った?
いや、どうやって生み出した?
「無理をして……!?」
両膝をついた彼女がむせたように激しくせき込み、同時に口元から一筋の赤が垂れる。
「――握って、カメリア」
無茶だ、無茶苦茶だ。
命を削る大魔術をこの場でやってのけた少女は、疲労から肩を、腕を震えさせてそれをカメリアへと差し出す。
「これ、は……なんて、綺麗な剣」
セラフィリアは一振りの剣を握っていた。
黒鉄か。いや、それよりはるかに白く、美しい。
一大交易拠点を領地とする生まれのカメリアは一目で理解した、これは切っ先から持ち手まですべてが『聖銀』によって作られたレイピアであると。
ただでさえ高名な魔術師が一かけら作るのに長い時間をかける物質、すべてが聖銀製の剣となれば間違いなく貴族ですら家宝として扱われるだろう。
ともすれば王族から下賜されるほどの代物だ。
ためらいはなかった。
疲労によって限界に近い体ですら、その刃を握るのに苦労はない。鉄製の剣とは比べ物にならないほど軽く、鋭いレイピアだった。
「――感謝いたしますわ、セラフィリア様」
カメリアは直感した。
今自分は、この先長く
貴族とは王族を至上とすべき、それを理解していないカメリアではなかったが、しかしその直感は確信に近い。
かつてはか弱いと蔑んだこの少女は誰より高潔であり、誰よりも清貧であり、誰よりも自己犠牲の人であった。
ならば誰が護るのだ。
それは自分だ。彼女の痛みを、悲しみを、そしてその慈愛を無駄にせぬために、この命尽きるまで!!
「カメリア・レッドエリカレス、この剣に誓って貴女を守りましょう!」
気が付けば体には力が満ち満ちていた。
滾々と湧き上がる勇気と力、今は傷の痛みすら心地がいい。
心のままにカメリアはレイピアを振るう。
聖銀の切っ先はゴーレムの装甲すらバターのように切り裂いていく、業物を超えて大業物の一撃は相手の武器すらも細切れにしてしまった。
もはや絶望はない。
少女の生み出した一振りの剣の輝きが、暗雲すべてを照らしていく。
「この力は……いったい……!?」
人が最も潜在能力を発揮するのは、自分のためではなく
多くの騎士が語る力の追体験。
父に語られ、師に語られ、今、彼女は未熟ながらも間違いなく、その力の一端を手にしたのだ。
「そうか、これがっ!! この力がっ!! ハアアアアアアアアッ!!!!」
そう、すべては剣に誓った相手を
刃を振るえ! カメリア・レッドエリカレス!!