学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
「ははぁ……それで皆さんが檻を魔術で作って……」
逃走から三秒、ラミュエルに捕まったイェナ先生を説き伏せ五分、ようやく納得してくれた先生がしたり顔で頷く。
「魔人族、とはいえ閉じ込めるのは可哀想ですね」
先生の視線の先にあるのは、少女が背負う小さな翼だ。
どうやら情けない声をあげて逃走した割に、案外この先生は経験が豊富らしい。大半の王国民は魔人族など見たことすらない者も多いというのに、目前にしてなお平然としている。
「しかしイェナ先生! 彼女が誰かを傷付ければそれこそ問題だ、彼女を庇うことが出来なくなってしまうぞッ!」
「
猫背気味の背を突如ぴん、と伸ばし先生がしきりに頷いた。
「大丈夫です、痛いことや苦しいことは何もしませんよ。だから……ね?」
「ほ、本当か……!?」
「ええ、貴女が誰も傷付けなければ安全ですから」
穏やかな笑みで両手を広げるイェナ。
「う、うぅ……分かった」
怯えて叫ぶばかりであった少女も彼女の優し気な雰囲気に根負けし、ついにのろのろと檻の中から出てきた。
おぉ……なんという包容力……!
これが『教師』の姿、か。
これこそが正しき姿なのだろう。
教え導く、間違ったことは間違っていると言い、困っている人間には手を差し伸べる。
オレは少し集団から離れたところで一連のやり取りを眺め、少しだけ口角を緩めた。
「とてもやさしい先生のようですわね」
「……うん」
横のカメリアが囁く。
ちょいとおっちょこちょいというか、早合点しがちな人間のようでもあるが……まあそんなことはどうでもいい。
「ありがとうございます。とっても怖かったですね、もう大丈夫ですよ!」
「イェナ……あ、ああっ! ありがとう……ありがとう……!!」
「いえいえ、私はただ声をかけただけ。貴女が勇気を出して出てきてくれたおかげです! ところで……お名前を伺っても?」
幼い少女は迷うように視線を傾け……少し勇気を出すかのように面を上げた。
「…………カズ……いや、い、イクル」
「イクルさん! 私はイェナです! ふふ、先ほど言ったのでご存じですね!」
なでなでと少女の頭を優しく撫でると、赤く充血していたイクルの目が少しだけ優しく緩む。
「それではイクルさん……」
「あ、ああ!」
「出来るだけ耐えてくださいね?」
カシャン。
イェナがどこかから取り出した死ぬほどゴツイ鉄の首輪を、困惑する少女の細い首へと装着した。
「……え?」
「ふふ、暴れなければ安全ですから安心してください!」
「えっ? えっ!?」
「実は私が得意な魔術に『呪術』があります、今後皆さんに教える予定の魔術でもありますね!」
呪術。
区分としては攻撃魔術の一種となる。しかし多くの攻撃魔術が即座に発動するのに対し、呪術は条件が満たされたとき発動する、いわばトラップ的な魔術の区分だ。
ほかの魔術が直接害すものが多い一方、呪術によって発動する効果は陰湿でエグめのものが多い。
「ちょうどいいのでこの場で付与しましょう! では」
断じて泣いている女の子に付与する魔術ではない。
「まず条件付け。『他者を意図的に害した際』、『逃走を試みた際』、えーっと、そうですねぇ……」
ここでイェナの目線が離れたところにいるはずのオレへ向かう。
オレは嫌な予感がしたのでそっと一歩下がった。
彼女がにっこり微笑んだ。
「セラフィリアさん、話はアル様から伺ってますよ! 今回の騒動では大活躍だったとか!」
「え? あ、ああ……ありがとうございます……」
「このクラスでもとても敬意を抱かれているみたいですので、うん丁度いいですね!」
なにが!?
「『セラフィリア・スタンレイから百メートル以上離れた際』『セラフィリア・スタンレイの命令を意図的に無視した際』」
「お、オイちょっと待てイェナ! これはどういうことだ!? 貴様まさか我を謀ったのか!? ふ、ふ、ふ、ふざけるなぁぁあぁっ!!!!!」
「少し騒がしいですね。『三十秒以上一定声量で騒いだ際』」
彼女がワードを追加する度、イクルの首輪が光っていく。
笑顔で、淡々と、次々に条件が足されていく。
「いったんはこれくらいで十分ですね。『全身の痛覚を刺激する』、追加として『一日の内で規律違反を繰り返す度痛みは倍加していく』……うん、これでよし!」
「きっ、貴様アアアアアアッ!? ふざっ……ぐああああああッ!?」
「これが、『呪術』です!」
にこにこと、杖を片手に語るイェナ先生。
「ぐああああっ、うぐっ……どうして……どうして我がこんな目に……っ!?!?」
苦悶に呻くイクルを足元に転がしたまま。
こいつ教師とかじゃなくて悪魔の部類だろ。
牙を抜くとかそんなレベルじゃなかった。
下あごを引き千切るとか、四肢をもぎ取るとかそれくらい徹底的なまでの封じ込めだった。
……いや正しいか正しくないかで言うと正しいんだけどね?
だってカズィクルさんと一緒に行動してたってことは、まあアレの行為を容認していたって訳で。
ぶっちゃけ人類の敵だし殺されてないだけましなんだけど……うん……。
「セラフィリアさん」
「っ、はい!」
にこっ、とはかなげな笑みを浮かべてイェナが声をかけてきたがもう何も信じられなかった。
魔人族と人間、どちらの方がより恐ろしいのだろう。
オレは引きつった笑みを浮かべ彼女に返事する以外なかった。
へ、へへ……いかがなすってイェナ先生……?
あ、あっしが出来ることであればご協力させていただきますぜ……へへ……!!
「色々判断を仰いできますので、しばらくイクルちゃんをよろしくお願いしますね?」
「………………はい」
断りてぇ~~~~~!!
断りてェけど……断れねェ~~~~~~~!!
NOとは言えなかった。
見悶えして地べたをびったんびったんしてるイクルを見れば、拒絶など恐ろしくてできるわけもなかった。
詐欺だろ!!
そんな儚げでいかにも虫も殺せませんみたいなツラして……エグイ呪術モリモリにぶち込んでくるのは!!!!
なんでこいつ教室入って早々にあんな被害者ヅラして逃げたんだよ!
もしゲームの敵だったら一番最悪で嫌われまくるタイプだろう。
逃げに逃げていざバトったら呪いまくってくるとかコントローラーぶん投げるわ!
そうしてイェナは教室から去っていった。
オレの机の横、死んだ目で体育座りをしているイクルをそのままに。
「うむ、セラフィリアさんが彼女を見てくれるのであれば安心だなッ!」
「ではあとはお願いしますセラフィリアさんッ!!」
よくわからん魔人族を拾ってきたクラスメイトの連中が満足げに頷いてやがる。
せめてお前らが管理しろよ! なんでオレなんだよ!!
ガチのマジでブチキレそうにゃ。
「ぐるるるっ……!!」
「ら、ラミュエル・スタンレイ!? な、なぜ我をそんな目で見る……!?」
「ラミュ、だめ」
こらこらやめなさい!
吸血少女をいまにもぶち殺してやるぞ、みたいな目つきで見ているラミュを止める。
怯えて騒がれたらまたうるせえ。
イクルは膝に顔をうずめて何かブツブツ言っている。
まあ内容は大体予想できるが、なぜ我がとかそんなんしかさっきから言ってねえし。
……さて、どうしたものか。
こいつがこの先どんな扱いをされるのか、はっきり言って予測できん。
捕虜として扱われ魔人族との交渉に使われるのか……連中にそんな仲間を大事にする精神があるかは知らねえけど。
「う……セラフィリア・スタンレイ……!?」
「……日傘、辛いんでしょ?」
生み出したばかりの黒い日傘を手渡してやる。
とりあえず一々日光が当たって騒がれるのもうるせえ。
いうて数時間とかだろうしな、これくらいで黙ってくれるならラッキーだ。
「う、ううぅ……!! セラフィリア・スタンレイ……!!」
なんと哀れなことだろうか。
クラスメイトと教師に散々な目に合わされたからだろうか、目を潤ませて心の底から喜んで傘を受け取るではないか。
さらにはオレにひしっ、と抱き着き滂沱の涙を流し始めた。
「我は……我はぁ……っ!! 人とはかくも悍ましき存在であったなど……しっ、知らなくて……っ!!」
「……よしよし」
魔人族に防御魔術を張らず近づくのは少し恐怖があった……が、まあここまでの出来事を見れば大した力がないことは分かっている。
それに呪縛ともいえるほど大量の呪術を掛けられた彼女だ、オレを害することなど不可能だろうと踏み、その頭をそっと撫でてやる。
無様というか哀れというか、誇りをやたら強調していたカズィクルと同じ種族とは思えない姿だ。
あとフルネームで一々呼ぶのやめてな。
「ぐるるるるるるッ!!」
ラミュも唸り声をあげるのやめろ!! イクルが怯えて騒ぐでしょうが!!