学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
「昨日ぶりね」
アル様がエグイ飾り立てられた椅子にゆったりと座りこちらへ微笑みかけた。
はい! オレはハッピーです!
「昨日は素晴らしい活躍だったわ」
はい! オレはハッピーです!!
るんるん♪ アル様に褒められてはっぴ~~!!!
「ふふ……そんな緊張しなくていいのよ? 貴女と私の仲でしょう?」
は……はい!!! オレはハッピーです!!
お言葉に甘えてゆったり……出来るかァッ!!
その言葉へ素直に頷けるわけもなかった。
しかしなぜオレの頭がハッピーで埋め尽くされているのか、それはこの周囲を見れば分かる。
まず目の前には人の心を読める第一王女様、アルゴニアス・グロリア様。
その横にはどうやらアル様の知り合いだったらしい、呪術特化の詐欺みてえな女教師、イェナ。
さらに周囲を取り囲むように整然と並び立つ大量の騎士たち。
ここは謁見の間である。
つまり王城である。
昼休憩だとのろのろ教室を出た瞬間、イェナ先生に捕まって爆速で転移させられて十分後が今である。
下手な思考は――死を意味する。
オレは確かに世界中の人間がひれ伏すほど素晴らしい人間性をしている自負があるが、しかし、それでもなお何があるか分から……い、いや違うんスよアル様! アル様が何でも処刑するような人間だとかそういうことを言いたいんじゃなくて……!!
はい! ハッピーです!!
「どうして我までもが……!!」
ぶつくさと横で日傘をさしながらイクルが文句を言い続けていた。
別に学院に置いてきてもよかったんだぞ。
その代わりに命令違反で痛みが延々倍加し続けて悶絶……というか下手したらショック死するかもしれねえけどな!
本音は? 道連れ!!!!!!!!!!
イクル、お前もハッピーですと言いなさい。
正直気が気じゃなかった。
ただでさえ朝からやたらと注目を浴びるような状態だったってのに、注目を浴びるの上位互換みたいな状態にぶち込まれてるのだから当然だ。
うう……お腹痛いよぉ……どうしてオレがこんな目に……何もしてないのに……!!
「うふふ、こういった場所は苦手かしら。昨日あれだけの大立ち回りを演じたというのに、かわいい子ね」
え!? 今オレを可愛いって言った!?
そうです! オレは可愛くて強くて最強です! もっと褒めていいぞ!!!!!
「ふふ。貴女、結構顔に出るタイプなのね。少しずつ分かってきた気がするわ」
お褒めの言葉はそれ以降なかった。
えー、なーんだ。
「さて、そろそろ本題に入りましょう」
「……本題ですか?」
今日はてっきり偉大なるオレを褒め称える日だと思っていた。
「盛大な祝典を開くのも悪くはなかったのだけれど」
「え!? や……そ、それは……!!」
「ええ、貴女ならそう言うと思ったわ。ふふ、多くの貴族は自身の権威をひけらかしたいものなのだけれどね」
人々に褒め称えられてオレの素晴らしき人間性をひけらかしたいのは本音なんスけどぉ……人が多いところに立たされるんはちょっと違うっていうかァ……!!
へへ……なんかこう、いい感じにオレを褒め称えつつ羞恥心は刺激されないようにしてほしいんスよね!!
「ところで貴女、普段使っている杖は?」
「あ、はい……一応ここに……」
「その杖に何か思い入れなどは?」
「い、いや……一切ないです、けど……?」
オレが取り出した杖を眺めてにっこりと笑みを浮かべるアル様。
「そう、良かったわ」
オレがなぜ魔術杖屋でも最安値、ゴミみてぇな杖を使っているのかにはいくつかの理由がある。
まず第一に言うまでもなく安かったから。
次に作るコストがひじょ~~~に安いということだ。
オレが普段使う魔術を見ればわかるが、一度に魔力を使うほど体への負担は増える。
そして次に、創造魔術はただでさえクソほど魔力を使うカス燃費のゴミ魔術なのだが、その魔力消費量は物質の体積、そして構築する素材によって極端に変化するのだ。
例えばカメリアに渡した粗大ゴミソード、あれの魔力消費を100としよう。
そこらの魔力もクソもない石ころを作るなら消費魔力は1、そしてオレが普段使うカス杖の魔力消費はなんと……1である!
石ころとあんま変わらん! だから作り放題ってわけ!!
ちなラミュに作った謎の金属ソードは100000くらいです、アレマジ作るの疲れた。
アル様の杖も多分作ろうとしたらめっちゃ魔力食う、というか創造の際の負荷に耐え切れず作る前にカス杖が燃える。
……まあ杖を使わなくても魔術の行使自体は可能だ。
杖の代わりにオレの腕が千切れたり爆発したり燃えたりするけどね(笑)
まあつまりアル様の杖はやべえってこと。
あんなもの二度と触ることはないだろうけど……マジで燃やしたのホンマやべえよ。
「とりあえず一本、受け取ってちょうだい?」
ことっ、と台座と共に横から杖が置かれた。
何か黒を基調としているが間違いない、昨日触ったアル様の杖と同レベル以上のオーラを放っている杖が。
「コォォ…………!?」
「私が普段使っている杖をベースに、貴女が打ち倒した龍の鱗、髄、骨、そして水晶体を削り出して嵌めた逸品よ」
なんて!?
いまなんて!?
いややっぱ聞きたくない! こんなスッ……と差し出された杖が明らかにヤバそうなのを知りたくない!!
「さ、握って。今後追加で四本、貴女の部屋へ直接送る予定よ?」
握れるかアアアアアッ!!!!?
なに龍の髄って!? なに水晶体って!? ここ!? この真ん中に嵌ってるクソデカい宝石のこと!?
狩りゲーじゃねえんだぞ!!!!!!!!!!
……いや待て、落ち着けオレ。
あくまで杖の素体が同じって話だ。
アル様の杖はごてごてといろんな装飾があった、それと比べりゃこれを見てみろ、なんて実に簡素なデザインだろうか。
あ、あ~!
分かってきたぞ~~!!
ベースはどうせただの木だし、考えりゃ龍の素材も無料みたいなもん! あんま高くないからオレに五本もくれるって話なんだよなぁ~~!!!
「……その、値段は?」
アル様はただ、にっこりと返すだけだった。
高ぇじゃーん! これぜってー高ぇじゃーん!!!!!!
「う、受け取れませ……」
「王族の下賜を断ると?」
「貴様、さっきからなぜさっさと受け取らぬのだ? 貰えるものは貰っておけばいいではないか」
横で退屈そうに足をぶらぶらさせてた吸血ガキが余計なことを言ってきやがった。
さっきまで黙ってたくせにバカこの吸血ガキッ!!!! テメーは一生黙ってろ!!!! 二度と忘れられねえ地獄の苦しみ味わせてやろうか!?!?!?
「そう……残念ね。不敬」
持っているのも恐ろしかった。
オレは今までにないほど全速力でその杖をマジックポーチの中にぶん投げた。
やっべー……こんなん絶対使えねえよ……!!
アル様の杖すら燃やしちまったってのに、貰った杖も全部燃やしましたとかバレた日にはマジでこの国の名簿からオレの名前が消えかねんぞ……!!
仮に創造魔術でコピーしたとして思考読まれた瞬間終わるし……!!
永久封印確定である。
もちろん送られてくるやつも全部封印だ封印! 一生使えねえよこんな特級呪物!!!
「それと最後に」
薄く笑い、こてんとアル様が首を傾げた。
「貴女の妹へ与えた大剣、あれの素材となった金属を少し貰いたいのだけれど……作れるかしら?」
「……いい杖があれば」
「そう! 丁度いいわね!」
ある。
今貰った。
~~っ!! くそっ!! 全て手のひらの上で転がされてる気がするぞッ!!!!
◇
「間違いなさそうね」
少女たちが去った部屋で彼女が口を開いた。
「やはり昨晩襲撃してきた魔人族で?」
「ええ、カズィクルね。ただし本当に力の一切を失っているみたい」
セラフィリア・スタンレイ……ではなく彼女の横に座っていた一回り小柄な少女。
王族を前に横柄な態度を崩さなかった彼女の真の姿とは、やはり鮮血の盟主カズィクルであった。
教室に入りその言動、行動、態度から可能性に思い当たったイェナは、即座にアルゴニアスへと連絡を行った……全ては彼女の能力を持って真実を明らかにするために。
予想は大当たり、しかし魔力などをすべて失っているようであったが。
とはいえしかし、先日殺されかけた相手の前で堂々と会談とは。
知ってはいたが王女の肝の太さにイェナはあきれの混じった笑みを返した。
「あら、そうかしら? でも力を失っていると報告したのはイェナ、貴女よ?」
「あの……勝手に心『視』ないでください……!!」
「仕方ないじゃない、勝手に『視』えてしまうんだもの」
学生時代の付き合いだ、イェナも慣れたものではある。
「あの子が横にいる限り、たとえ全快だったとしてもカズィクルは手も足も出ないでしょうね」
「……本当ですか?」
「ふふ。昨晩の戦闘中もね、実はずっと彼の心情を読んでいたの。そしたら……!」
口元へ手を当て、こらえきれない、といったようにくすくすと笑うアルゴニアス。
「ずーっとあの子ばっかり気にしてたのよ! まるで怯えきっていて……ふふ、きっとよほど恐ろしい目に合ったみたいね。その後には妹ちゃんの方がむしろ暴れまわっていたけれど、ね?」
アルゴニアスは決して冷酷な人間ではない。
しかしその能力故、年の割には冷静な人間ではあった。
そんな彼女が今、少し熱に浮かれたかのような目をしていることにイェナは目を疑った。
「それが今じゃ、むしろ人間の中だと一番気を許している……ああ、あの子の心を視れたのならきっと面白かったのに!」
子供が騒ぐかのように少女のことを思い浮かべる友人を眺め、イェナは胃の付近のお腹をそっと抑えた。
王女がこうも執着する少女の担任、それはイェナにとって想定外の出来事でもあったのだ。
「うぅ……どうして私がこんな目に……騙された!!」
「だって貴女、卒業してからずぅっと引きこもってたでしょう? 『絶呪』のイェナさん?」
「ひっ、引きこもってたんじゃありません! 研究! 呪術の研究です!!」
以前、何度かそもそも誘いは受けていた。
当時は気が向かなくてその手を取らなかったものの、久しぶりに来た、それも公務に明け暮れる友人からの話ならばと乗ったのが運の尽き。
まさかあのスタンレイ家の令嬢、それも二人がいる教室の担任になるとは思いもしなかった。
それも初日に教室へ入った瞬間、魔人族が牢で囚われているなど!!
ましてや力を失っているから、そのままセラフィリア・スタンレイに世話をさせましょうだなんて先ほど言い出した時は、流石に王女相手と言えど呪いが出かけた。
「ふふ、運動よ運動! たまには体を動かさなくちゃ! それと……あの子がしたことを報告してほしくって!」
「最後の方が絶対本音ですよね!?」
……確かにあの魔人族は飼い殺しにする価値がある。
特にアルゴニアスの、『天眼』を前にすればなおさら。
だがそれとこれとは別、理屈で心は納得しないのだ。
いつか絶対呪ってやる……!!
生活に支障はないけど……ちょっと不便くらいの呪いをいくつもかけてやる……!!
イェナは出来もしない妄想を内心固く決め、この先来るであろう騒動をいくつか思い浮かべ……ちょっと泣いた。