学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
王城から学院に戻り午後の授業、
それからイェナ先生に何故か! オレが! イクル飼育係に任命されてしまい!! あちこち駆けずり回る羽目になった日の夜。
「へにゃ……」
激ヤバ杖とかイクルとかマジどうすんだよ……なんて色々考えながら風呂に入った結果、オレは完全にのぼせていた!!
カメリアに抱きかかえられオレは自室のベッドへ寝転がる。
おぇぇ……きぼぢわるい……!
あちゅい…………あたまいたい……!!
「冷たいお水を貰ってきますわ、セラフィをお願いしますわね?」
「なぜ我が……」
ぶつくさ文句を言いながら、カメリアから受け取った扇子でオレをパタパタと仰ぐイクル。
なんて便利な奴なんだ。正直世話を任されたときは怒り狂って頭がおかしくなりそうだったが、こうやって大人しく命令を――いうほどおとなしいか? いやそういうことにしておこう――聞いている分には、中々使える奴じゃないか。
クックック、考えりゃこいつオレの命令絶対順守だしな! 今日からお前をセラフィリアちゃん係に任命してやろう、むせび泣いて喜べよ?
じゃあオレは苦しむから、扇いでていいよ。
おえぇぇ……! う、ぇぇ……!!!
「おい貴様、あまりに弱すぎないか?」
「……そう?」
「そんなふざけた体をしているの貴様だけではないか!」
て、テメェ!? オレの身体がふざけてるだとォ!?
そうだね。
だからなんだ殺すぞ!!!!
体が動けば吸血ガキに今すぐにでも上下関係を
クソガキィ~運が良かったなぁ~?
「……我はこんなか弱い存在に負けたのか」
「なに? 良く聞こえなかった」
体が次第に冷えていき、同時に疲労感もどっと出てくる。
というか多分のぼせたのはそっちが原因だろう。
昨日アル様に回復魔術をかけてもらったとはいえ、大ごとがあった次の日にこんな目に合わされているのだから。
……あれ? アル様に治されてアル様に体調破壊されてね?
あ、なっ、体が無限ループされちまうよォ!?
「……いつもこんな体調なのか?」
「ふぁ……むしろ、今日は元気」
少し眠くなってきた、あくびをしながらイクルの言葉に返事をする。
まあ比較的、って話だけどな。
カス杖使いまくって町の医者に掛かってた時はマジでヤバかった、当時はあんま気付いてなかったけど。
っぱアル様、なんだよなぁ……!
「これで!? この状態でっ!? 倒れてるではないか!?」
いちいちうるせえな! オレは毛布とキスするのが大好きなんだよ!!
ん~~ちゅっちゅ! あったかい羽毛布団ちゃんだいすき! でも夏になると暑いからきらい!
ぼけーっと扇がれながらねむねむなおめめで天井を眺めていると、イクルがいつの間にか立ち上がりオレを見下ろしていた。
なんや? なにガンくれとんねん!?
オレはよォ~~他人に見下ろされるのがこの世で十五番目くらいに嫌いなんだ!
呪うぞッ!!
死線を向けるも、イクルは何もしゃべらない。
しかし彼女はゆっくりとこちらへ近づき……おもむろにお腹へ馬乗りとなった。
「……なに?」
重ぇ……熱いし邪魔なんだけど。
こちとら体調不良で寝てんねん、遊んでる余裕はねえぞ!!
「……何故抵抗せぬ、この距離なら貴様を縊り殺すことなど容易いぞ」
「攻撃する気、ないでしょ?」
無表情に近い顔、大して力の籠っていない体。
本気で殺しに来てるやつはそんなことしねえだろ!
昨日のカズィクルさんを見てみろ! 全身殺意ミチミチで暴れまわっていらっしゃったではないか!
「体調悪いから、どいて……くるしい」
あーなんか馬乗りされたら気持ち悪くなってきたなぁ~~!
喉のあたりとか苦しくなってきたなぁ~~! いやだなぁ~~! 早くどいてほしいなぁ~~! 呼吸とかしづらいし……苦し……くるしい……くる……あぇ……
「おい貴様いったいどうし、た――!? ぐぅっ……!」
オレの記憶が他界他界する直前、イクルが苦しみながら崩れ落ちていった。
先生の呪いが発動したのだ。
あ、あぶね~!
イェナ先生の呪いなかったら気絶するところだったぜ~~!!
「乗っただけで攻撃判定だと……!? ふざけた体をしてからに……!!」
肩で息をしながらイクルが起き上がり、憎々しそうな目つきでオレを睨んだ。
完全にとばっちりである。
オレだってこんな体に生まれたくて生まれたわけじゃないんですけど!?
「しかしそれほど弱い身体……何故貴様はその体で戦う?」
それはカズィクル戦の話をしているのだろうか。
「……戦いたいわけじゃない」
「ならば何故だ」
何故? 何故ってお前そりゃ……!!
巻き込まれただけですけど……!!
素直に言おうかと思ったのだが、そこではたとオレは口を押えた。
『まさか……まさかまさかまさかッ! 全て……全て気付いていたというのかッ! 思えば……屋上に現れた時から……ッ!! 全て貴様の手のひらの上だったというのかッ!!!』
『貴方のたくらみ、全部お見通しだから』
そういえばあの時、その場のノリで適当なこと言ったけど全部お見通しとか言っちゃったんだよな。
多分こいつも近くで戦闘見てただろうし……うん……。
ただ適当にやってたらなんかすげえことになっちゃった、とか言えなかった。
しかしあまりいい理由も思い浮かばない。
オレはそっと目元に腕を置き、目線を隠してこっそり、気まずかったのであまりちゃんと聞こえないようにつぶやいた。
「守ることに、理由なんていらない」
あ、寝まーす。
ねむいなぁ~、なんだか眠くなってきちゃったなぁ~!
今日はいっぱい頑張っちゃったからなぁ~! じゃ、おやすみ!
◇
少女がベッドの上で目を瞑り、ピクリとも動かなくなる。
人並外れた、カズィクルと比べ手ですら白い肌や髪のせいもあるだろうか、一瞬死んでしまったのかとすら思えるがしかし、穏やかな寝息が聞こえてくることにカズィクルは気付いた。
「敵の目前で眠りこけるとは……実に愚かな娘だ」
薄く細い肢体、片手で軽く握れば折れてしまいそうな白い首筋。
宿敵と断じたはずだった。だが間近で見る少女は……あまりにか弱く、無防備な姿。
彼女の運動服に身を包んだカズィクルはその首元へと手を当てた。
たとえ大半の力を失いただの人間と変わらぬ肉体になったとて、彼女を殺すことは容易いことだ。
確かにあの呪術師の呪いは凶悪、しかし縊り殺したこの少女の血を啜れば――あの、僅かな量ですら甘美と感じるほどに膨大な魔力を秘めた血を啜れば呪術を消すことなど容易い。
そしてその偉業を以て魔人族達の下へ戻れば……。
ふと、カズィクルの脳内に、先ほど少女が語った言葉がよぎる。
『守ることに、理由なんていらない』
少女はかすれた声で下らぬ言葉を口にした。
むしろその貧弱な体だ、守られる側であるべきだろう。
カズィクルに守るべき者などいない。
何かを守ろうと考えたこともなく、守るべき家族と言える存在もいない。
かつての血族は確かに血の繋がりこそあったといえど、所謂両親などといった存在ははるか昔に息絶えていた。
故に、少女の言葉など一笑に付す内容にすぎない。
昼間の出来事がカズィクルの脳裏を過る。
あれもまた、少女の言葉のままだというのか。
「実に下らぬ」
鋭い指先、赤黒い爪が少女の薄い首元にそっと触れる。
薄い皮膚、細い筋肉、数センチも押し込んでしまえばすぐに肉は抉れ、首の奥、頸動脈へ到達し致命的な傷となってしまうに違いない。
今、少女の命はカズィクルの掌にあった。
「んぅ……」
少女が少し顔を歪め、息苦しそうに声を漏らす。
カズィクルはそのまま指を当て続けた。爪の先に感じる血管の脈動をしばし確かめ――爪先を離す。
首元へわずかに残った赤い跡を眺め、小さく鼻で笑った。
「――興覚めだな」
鮮血の盟主は赤い瞳をわずかに絞り、窓をそっと押し開け窓枠に腰かける。
そうして昼間貰った日傘をそっと差し、静かに星明りの空を眺めた。
これだけ警戒心のない愚かな娘など、求めなくとも毎日隙を晒してくるだろう。
敵である存在に日傘を渡すほど生ぬるく、これだけ近くで無警戒な奴など今まで見たこともない。
故に、今殺す必要はないと判断したまで。
「……♪」
小さな鼻歌、それは遠い記憶で聞いた子守唄。
くるりと、黒い日傘を回して。
カズィクルは夜の静寂へと身を預けた。