学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど   作:IXAハーメルン

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敗因 体の弱さ

「では行くぞ!」

 

 説明書を読み終えたイクルがコントローラーを握りしめる。

 投影される映像を眺めるその紅い目は爛々と輝いており、初めてのバトルに興奮を隠しきれていない。

 

 ――無駄な努力、ご苦労様♠

 予知しよう、君はオレの掌の上で踊り狂って死ぬ♠

 

『ROUND1――FIGHT!』

 

 真っ先に動き出したのは――イクルのキャラだった。

 鈍重勝つ直線的な動き、実に初心な戦闘方法、

 稚拙すぎてあくびすら出てしまう攻撃にオレは内心鼻で笑い、キャラを動かし――

 

 ……む、画面が普段よりデカいせいで少し……目線で追いづらいな……?

 

「フン、多少攻撃されようと余裕という訳か」

「……まあ、初心者相手だから」

 

 避けたはずなのにキャラが捕まって叩きつけられてしまった。

 

 ……?

 ボタンの反応悪いな……なんか押してる回数の半分くらいしか反応しねえぞ……?

 コントローラー壊れてんのか?

 

 どんどん体力が削られていく中少しの焦りと共にコントローラーを握り込む。

 だがオレのキャラはまともに反応できずどんどんボコられていく。

 掴み、叩きつけられ、プレスされ、成すすべもなく体力が削られ――

 

「どうした? 戦わぬのか?」

『K.O!!!』

 

 ありえぬ……あり得ぬッ!!!

 

 オレはひりひりと痛む指先に顔をしかめながら、あまりに非現実的な現実を直視できなかった。

 万に一、いや億に一すら決して存在しえないはずの現実だった。

 オレは毎日ゲームを……最近はなんかバカ魔族に襲われたりで出来ない日もあったが……やり込んでいる存在だ、ストラテジーからアクションまで幅広くやり込む、もはやプロと言っても過言ではない。

 

 そのオレが――負ける?

 

 落ち着け……敗北には理由がある。

 おそらく先ほどの違和感……そうだ、明らかにボタンの反応が悪かった。

 間違いない、コントローラーが壊れているのだろう。なにせ普段全く使わないからな、劣化していてもおかしくはない。

 

 いたって冷静に、完璧な結論を導き出したオレはイクルへと自分のコントローラーを差し出した。

 

「……そっちのコントローラーの方がいいかも」

 

 お前はこのゴミコンでも使ってなァ!

 フハハハッ! 初心者にはぶっ壊れたコントローラーがお似合いだぜェ!!!!

 

「ふむ、確かに形が違うな。なるほど、そういった点でも得手不得手が出るのか。構わぬ、交換してやろう」

 

『ROUND2――FIGHT!』

 

 オレは手に入れたコントローラーに抱き着いた。

 先ほどの戦闘を見れば分かる、こちらのコントローラーはちゃんと『生きて』いる。

 

 先ほどのは何かの間違いだった、少しタチの悪い悪い夢だったのだ。

 ここからオレの蹂躙劇は始まる。無垢な初心者をすべてこの手のひらの上で転がし、甚振り、その無様さを嘲笑う最高のショーが開演するのだッ!!

 

 うおおおおおおッッッッ! く た ば れ ェェェェェッ!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 高ぶる衝動、ひりつく指で決定ボタンを押し込む。

 

「ふにっ……! ふにっ……!」

「ふむ、小足見てから昇竜余裕であったな」

 

 ……?

 

 オレの目前では惨劇が繰り返されていた。

 そう、決してあり得ぬはずの惨劇――イクルによる、一方的で理不尽なまでの虐殺が。

 

 いや、違う。

 イクルの動きは確実に成長しており、オレが効かない(・・・・)ボタンで必死に放った技を、目で確認してから対応して潰してきた。

 

「え……ちょっと……」

「この程度なら全部見てから対応できるぞ」

 

 背筋に冷たいものが走る。

 

 恐怖。

 オレがラミュ以外に感じたことのなかった感情をいま、イクルに感じていた。

 

 認めない……認めたくない……!! 

 だがオレは確実に、この吸血ガキよりはるかに――――――弱い。

 敗因はコントローラーの不具合じゃない、筋力の不足……!! それと動体視力の欠陥……! それと体力と集中力の欠陥……!!!!!!!!!

 要するにすべて……!!! 全てにおいてオレは……この吸血ガキに負けていると、灰色の脳細胞が判断しているッ!!!!

 

 い、い……いやだあああああああああああああああっ!!!!

 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だあああああああああああああああっ!!!

 

 じわじわと涙が出てきた。

 認めたくない現実がオレの両肩にのしかかってくる。

 

 だがオレの内心と反し、投影されたキャラクターはじわじわとなぶり殺しにされていく。

 前のめりになり、必死にコントローラーを操り、しかし叩きのめされていく。

 口を真一文字に結び、ほほを膨らませ、目をかっぴらき――

 

『K.O!!!!!』

「ひぁ……うそ……」

 

 負けた。

 

 しなしなと両手が崩れ、コントローラーを床へと放り投げる。

 何度画面を眺めても現実は変わらない。二連敗のストレート負け、三回戦目すら開かれることのない完全敗北。

 

「おい」

「へにゃ……?」

 

 震えながらオレが横へ振り向くと、首輪をつけた黒髪の少女が楽しそうで、しかし少しだけ困ったような笑みを浮かべ小首をかしげる。

 

「そこまで手加減(・・・)せずとも良いぞ、貴様の本気が見たいのだセラフィリア・スタンレイ!」

「ひゅ……へ……」

 

 あ……ああ……あああ……っ!!

 

 ――ふにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 ほ、ほ、ほ、ほ、ほおああああああああああっ!!!!!!!!!!

 ぐぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎっ!! んぎゅああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!

 狂う狂う狂う狂うぅぅぅぅぅ^~~~~~~!! 発狂発狂発狂発狂発狂発狂発狂ッ!!!! はきょーーーーーーーーーっ!!!!!

 

 脳から全身へ耐え難いほどの灼熱感と衝動がぶち抜けて眼球がぐりんっ! とひっくり返った。

 脳神経がブチブチと引き千切れ、怒りのあまり血流がすさまじい勢いで全身へめぐっていくのを感じる。

 

 ワタクシが……このワタクシが負けるだと……!?

 あ、あり得ませんねェ!?!?!?!?

 

「もう一戦だ! もう一戦しようではないかっ! 我は次は別のきゃらを使いたいぞ!」

 

 ほぁ……?

 

 呆然とするオレの前で画面が切り替わり、無意識に再びコントローラーを握り直す。

 そして、また負ける。

 

「クククッ! 愉快なものだな、このげーむというものは!」

 

 負ける。

 

「また我の勝利ぞ! どうだセラフィリア・スタンレイ!」

 

 まける。

 負ける。

 まけつづける。

 

「まぁーた我の勝利っ! やはり我はゲームにおいても最強の存在だっ! クハハハハッ!!!!」

 

 コントローラーを片手にイクルが飛び跳ねる。

 オレの周りでぴょんぴょんと騒がしく暴れまわった後、彼女は横からオレのうつむいた顔を覗き込み――

 

「もしかして貴様ぁ~げーむの才能がないのではないかぁ? 随分と余裕ぶってその程度、ナメクジの方がまだ強いかもしれんなぁ~! 雑魚も雑魚、軟弱すぎて話にならぬわぁっ! くはははっ!」

 

 

 時刻は昼から一時間ばかり過ぎた頃合いだった。

 休日をのんびり過ごす生徒達の間をすり抜け、ラミュエルは鼻歌交じりにマジックバックをひっさげ歩く。

 

 ここにきて早数カ月。

 姉妹の間にある長い確執は、先日の僅か数時間のうちにすっかり溶けた。

 長らく口に出せなかった思いは、出してしまえば案外単純な物ばかり。どうしてこんなにも長くなってしまったのか、それはラミュエル自身不思議に思えてしまうほどだ。

 

 鼻歌交じりのどこか軽快なステップ、それは彼女の気持ちをありありと現している。

 

 向かうのはただ一か所、それは敬愛すべき――

 

「お兄さま~~! 起きてる? ねえ今日一緒に……」

 

 お兄さまと一緒にいくつも行きたいところがあった。

 この王都を、休日暇があればあちこち回り、いつかいっしょに行けたらなんて当時は叶わない妄想にふけっていた。

 

 ――今なら、それがかなえられる。

 決して夢なんかじゃない、仲直りをした今なら。

 

 そんな気持ちで、ラミュエルは扉をガチャリと開いた。

 体も弱く出不精なお兄さまではあるが、逆に言えばそこに行けば必ず会えるということでもある。

 きっと微笑んで、よく来たねなんて言いながらラミュエルの頭を撫でてくれる。そう、思い描き、ラミュエルは満面の笑みで部屋へ飛び込み――

 

「う、うう……っ」

 

 お兄さまが泣いていた。

 真っ赤な瞳に大粒の涙を浮かべ、その周りでにやにやと笑う『魔人族(イクル)』が彼女を愚弄している。

 

 マジックバッグからラミュエルは鎧を取り出し、僅か数秒でそれを全身へ纏った。

 そして最後にヘルメットを被り――

 

「テメエお兄様になにしやがった殺すぞッ!!!!!!!」

「へぶちゅっ!?」

 

 イクルへと全力のアッパーを振りかざした!!!!!!!!!!!

.

.

.

 

「セラフィ~! 起きてますの? 美味しいお茶菓子を頂いたので、よろしければ一緒に……」

 

 訓練を終え、軽くシャワーを浴びたカメリアはにこにこと部屋に戻った。

 睡眠時間の長い同室の彼女と言えど、さすがにこの時間帯にもなれば目が覚めているというもの。

 

 普段放っておけばまともに食事すらとらない彼女のため、ここ最近カメリアは良く菓子の類を用意している。

 今日貰ったのはゼリーで季節の果物を寄せた涼し気な逸品、王都で有名な菓子屋から前もって頼んでおいたものだ。

 彼女は嚥下力が常人より弱い、粉っぽい焼き菓子よりもこういった物の方が食事が進むことに最近気が付いた。

 

「あら? まだ寝ていますの?」

 

 軽く扉をノックするも返事はない。

 だがしかし、中から少女の声らしきものは聞こえたので、いったいどうしたのだろうと疑問を胸に抱きながらもカメリアは部屋へ踏み込み――

 

「はい?」

 

 天井から、一人の少女が頭をめり込ませぶら下がっていた。

 ぷらーん、と、力なく羽が垂れている。

 

「なぜ??」

 

 黒髪の少女が、姉に抱き着いていた。

 なでなでと、少し涙目で、けれどどこか嬉しそうな顔で頭を撫でて。

 

 そして件の白髪の少女……セラフィリア・スタンレイは妹になされるがまま、毛布にくるまりしくしくと泣いていた。

 

「……なぜ?」

 

 カメリアはもう一度頭の中の疑問を口に出し……ハンカチを取り出す。

 そしてセラフィの下へ足を運んでしゃがみ込み、優しい笑みを浮かべて彼女のほほを伝う涙をそっと拭い……ハンカチを厳重にマジックバッグへしまい込んだ。

 

「よし!」

 

 なんだかわからないけれど涙確保ですわね!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

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