学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
「あらァん? 目を覚ましたみたいね、かわいい子猫ちゃん❤」
ゆっくりと目を開いたら……バケモノがいた。
日焼けした筋肉質のハゲダルマ型魔物だ、猫耳が生えているから間違いがない。いつの間にか王都は魔族たちによって陥落したらしい。
「み゜っ」
がっつり開いた谷間からチラ見えする分厚い胸板、少し動いた瞬間漂う柑橘の香り。
オレは強烈な吐き気と共に脳天を突き抜けるかの如き恐怖を受け気絶した。
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「あら、起きたわねぇ子猫ちゃぁん❤ もう安心して頂戴❤ 貴女の傷も、体内の魔力創もちゃぁ~~んと治しておいたわ❤」
分厚い胸板がオレに迫る。
ハゲダルマ型魔物は両脇にイクルとラミュを抱きかかえていた。
イクルは何か文句を言いながらじたばたと暴れ、ラミュは何故かしゅんとして俯いている。どうやら二人ともやられてしまったらしい。
「私のま❤ほ❤う、で❤」
うるツヤのリップがねっとりとオレの目前で言葉を吐いた、内容は脳が理解を拒んだため全く入ってこなかったが。
その口元からは爽やかなミントの香りがした。
「ひっ」
終わりだ。
ラミュにも勝てるような怪物に誰も勝てるはずがない。
オレ達はこのままこの柑橘とハーブが香る怪物に蹂躙されるしかないのだ。
既にオレの身体にはこのバケモノによって何かされてしまったらしい。
なんてことだ、もう助からないゾ。
オレは絶望しながら気絶した。
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「ひっ」
目が覚めるとそこにはうるツヤリップのバケモノがいた。
横ではラミュが捕まりながらしくしくと泣き、何故か気絶しているイクルは脇に抱えられている。
終わりだ。
イクルはまあいいとして、ラミュが泣いて抵抗を諦めるレベルとは。
オレは深い絶望の底で気絶――
「待ちなさぁ~~いッ! この子また気絶するつもりよ!」
「みゅっ!?」
「そんなの許さないわ! 喰らいなさいっ! 『
「っ!?」
――する直前、オレのかわいらしく小さなほっぺがバケモノの手で鷲掴みにされた。
それどころか飛びかけた意識がまるで無理矢理現実に引き戻されるかのように、はっきり、くっきりとしていく。
「あ……な……っ!?」
ぼやけていた視界が強制的にクリアになる。
それはつまり、目前のバケモノを直視しなくてはいけないという訳で。
「おはよう子猫ちゃん、私は……わいるど❤でんじゃらす❤ぷっしーきゃっつよ❤」
「へにぃ……」
デンジャラス・デンジャラス・煉獄モンスターがオレへとあいさつをしてきた。
うるツヤリップがぷるん、と揺れる。
どうあがいても人間の世界に存在してはいけない姿をしている、オレの目や頭がおかしくなってしまったのかもしれない。
あまりの悍ましい姿に喉がひゅっ、と鳴る。
わいるど❤でんじゃらす❤ぷっしーきゃっつ!?!?!?!?!?!?!?!?
なんだこいつ……なんだこいつッ!?
いったいオレは何と対峙しているんだ!? なにに捕まっちまったんだ!?!?
「あの……お兄さまは……?」
「もう大丈夫よ❤ ばっちし健康ね❤」
「わぁ……ありがとうございます! ジョマッカオさん!」
「うふふ、わいるど❤でんじゃらす❤ぷっしーきゃっつよ❤」
ラミュが笑顔で猫耳のバケモノに抱き着いていた。
あいつがそう簡単にこんな化け物に抱き着くはずがない、既に洗脳されているらしい。
終わりだ。勇者が堕ちた、この世界は近いうちに暗黒へと沈んでしまうだろう。
目覚めてから混乱しかしていない脳へ、さらに緊張と焦りが走る。
どうしてこうなってしまったんだ、オレは間違いなく三人で街に遊びに出ただけだったはずなのに。
この推定魔人族の力は未知数、しかしラミュを堕とすほどだと……オレでも勝てないかもしれない。
――あの杖を、アル様から貰った杖を出すしかない。
「……あなたは、何者?」
「むふ❤ 何の話かしら❤」
不敵な笑みにオレのほほを冷や汗が伝う。
奴の余裕が一切崩れない、その力の底が全く分からない。
全身から溢れる膂力も、その立ち姿も隙が全く見当たらない――まるでロイド・ロイド・ロイドさんと初めて戦った時のようだ。
こいつ……強い……!!
幸いなのは四肢を縛られていないこと、不幸なのは距離が近すぎること。
バケモノ染みた姿を極至近距離でまざまざと見せつけられるストレス、そして何より近接を得意とする実力者がこれだけ近くにいるということは、魔術特化のオレにとって非常に分が悪い。
――即座に結界を展開、それから転移魔術で距離を取り攻撃魔術でヤる。
これ以外に生き残る手段はない。
洗脳されているらしきラミュはどうにかして束縛、気絶しているイクルは……まあ余裕があったら救助するか。あいつはオレをゲームでボコったから最悪助けなくてもいい。
「――っ!?」
「あら? まだ動いちゃだめよぉ❤」
だがオレがこっそりマジックバッグから杖を取り出そうと動いた瞬間、バケモノはオレの背後に立ちその腕をつかみ取っていた。
あ……な……!?
は、速すぎる!?
絶望したオレの後頭部に奴の大胸筋が擦り付けられ、むわりと穏やかな柑橘の匂いが鼻を突いた。
「ごめんなさいお兄さま……」
猫耳の怪物に捕まったオレの前でしゅん、とラミュが頭を垂れる。
洗脳されても良心の呵責がまだ残っているようだ。
これからオレも怪物に洗脳される、それに対してなのだろう。
もうだめだ……オレはこいつに洗脳されて操られた後殺されるんだ……!!
「たすけて……ころさないで……」
「殺さないわよ❤ 失礼ねぇ、ここをどこだと思ってるのかしら? ただ美味しい『ごはん』を食べてもらうための場所よ?」
ねっとりとうるツヤリップが揺れ、耳元でささやかれた不穏なワードにオレは震えあがった。
『ごはん』!?
『ごはん』ってなに!? 何かの隠語!? それとも最後の晩餐!?
おいイクル! そろそろ目覚めろ! そして暴れろ! オレ達が逃げる隙を稼げッ!!!
「もー店長、怖がってるじゃないですか~」
しかしそんな時、猫耳の怪物の脳天へとお盆をぶつける勇者が現れた!!!
「あら? まさかぁ~、そんなことないわよ、ね❤」
「ひっ」
ぱちんっ、とウィンク。
何かどす黒いハートがオレの目前に飛んでくる。
なにこれ!? 魔術!?
「ほら! もう店長はさっさとバックヤードに行ってください! 店長が表にいると人入ってこないんですから!!」
「ンもう失礼しちゃうわ❤ それじゃあねかわいい子猫ちゃんたち❤
「もー店長いい加減にしてくださいよ~! あ、ティーナ今手空いてる? うん、十五番テーブルに入ってくれる? そう、うん、ありがと~!」
猫耳の怪物が女の子に押されてズリズリと消えていく。
彼女もあの怪物と似た胸元が大分開いたメイド服と、やはり頭に同じく猫耳をつけていた。
奴が目の前から消え、オレの周囲には静寂が訪れる。
混乱が続く脳内ではあったがしかし、諸悪の根源が消えたとなれば少しは余裕が生まれる……オレはまだバクバクと暴れる胸を押さえながら周囲を見回し――なんか自分がどこかの店内にいることに気付いた。
どうやら残虐実験場とか拉致用の小屋とかじゃないらしい。
「いったいなにが……?」
よく見れば普通に席についてる一般人らしき人たちがそこそこいるし、さっきのバケモノみたいな服装をした女子があちこちで接客みたいなことをしている。
魔人族の巣窟……ではない、と思う。多分普通に人間だ、カチューシャっぽいの髪の隙間から見えるし。
何かの店……いや、いわゆるメイド喫茶……って奴なのか? だとしたらさっきいたあのバケモノは……!?
……記憶が途切れていて何も覚えていない。
最後に覚えてるのは二人に両方から引っ張られて、皮膚がブチブチと音を立てていたことだけだ。
いったいなにが起こったのかラミュに聞こうと思ったが、うるうると涙を流して謝るだけなので何もわからんかった。
イクルは……まだ気絶している。使えねえなこいつ、もうこいつこのまま捨てて帰ろうぜ。
「……ここはいったい?」
「お待たせいたしましたにゃ~」
「!?」
注意深く周囲を確認するオレの背後から一人の女が声をかけてきた。
「本日はケモメイド喫茶けっとし~へようこそにゃ! ボクはティーナにゃ、よろしくにゃ~!」
やはり目立つのは猫耳のカチューシャ、そして胸元の露出がやたらと激しいメイド服。
ティーナと名乗った彼女は薄い水色の髪をさらりと肩から溢し、両手を猫のようなポーズにしてあざとい笑顔を浮かべた。
いや、服装だとかポーズはどうでもいい。
そんなことより気になるのは……その顔。
数日前その顔を見た時は、正直遠見の魔術だとか薄暗い中だったからあまりまじまじと確認したわけじゃない。
それどころか正直、メインはこいつじゃなくてラミュだった。
……だから、そう、確信を持って言えるわけじゃない。
だってその上、間違いなくそいつは男子生徒用の服を着ていたし、口調だってそれっぽい感じだった……んだけど……。
「…………剣聖?」
髪色と顔が、あの時見た彼と似ている気がした。