学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど   作:IXAハーメルン

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聖女ボッシュート

「…………剣聖?」

 

 その薄い水色の少女を眺め、オレは無意識にその名を口にしていた。

 彼女はぴたりと止まり、オレの顔をガン見し――

 

「……にゃ」

 

 震える口で一言吐く。

 

 妙な緊張感がオレ達の間を駆け抜けた。

 

「け、けんせーって誰のことにゃぁ~?」

 

 先手を打ってきたのはあちら側だった。

 

「え、いやだって」

「にゃーは『ティーナ』、にゃ~♪」

 

 両手を猫のポーズにしてその場でくるりと一回転、満面の笑みを浮かべる『ティーナ』。

 

 え? 違う? 別人?

 でもめっちゃ剣聖っぽいけど……つかさっき一人称ボクじゃなかった?

 

 訝しみながら彼女を眺めるも……しかし、剣聖は三年生の中でも有名な人物だ。

 そんな彼がこんな怪生物の運営する怪しい店でバイトなど、冷静に考えてみればありえない話でもある。

 第一『剣聖』の顔をはっきり覚えているかと言われれば否、はっきり覚えているのは背丈と髪色くらいだ。

 

「……別人?」

「そーそー! それに学院の剣聖は男にゃ! にゃーは可愛い女の子だにゃ?」

 

 ……確かに。

 

 胸元へと視線を向ければ露出の激しいメイド服、がっつり開いた胸元から見える谷間。

 オレやラミュなど比にならない、カメリア……いや、アル様並みに巨大な脂肪の塊がそこにはそびえたっている。

 まあ端的に言うとティーナはおっぱいがデカい、どう見てもはちゃめちゃに女である。

 

 ふーむむ……なるほど。

 大体理解したぞ。

 

「ちょ、そんな見ないで……っ」

「……ごめん」

 

 胸元をさっと隠しほほを赤らめるティーナ。

 

 バツが悪くなってオレも反射的に謝り……いやでもおかしくね?

 お前らがそんな胸元めっちゃ曝け出す服装してるのが悪くね? 別にオレは見たくて見てるわけじゃないんだが?

 何故オレが謝らなくてはいけないのか、むしろティーナさんサイドが謝るべきではないのか?

 

 納得いかないがオレはとても大人だった。

 誠心誠意、心からの謝罪をこめ顎をくいっ、と前に突き出しての謝罪を炸裂させる。

 

 アッス。サーセン。

 

「他人と勘違いしてたみたい」

「……ぜんぜん! 気にしないでほしいにゃ!」

 

 ティーナが思い出したかのようにネコ語を取り戻し手をひらひらと振る。

 

「ぇぇ……本当に騙されるんだ……」

「……なに?」

「なっ、なんでもない! にゃ!!」

 

 まあ世間では自分そっくりの顔が三人はいるとも言う。

 それに何より、ここはあの見るだけで正気を失いそうな怪物が運営する店だ。あのバケモノの存在が世界に許されるというのなら、多分この世の九割の理不尽も許容されるというものだろう。

 

「ところでご注文はお決まりかにゃ!?」

「注文?」

 

 小首をかしげ聞き返すとティーナはテーブル脇に置かれていたメニュー表をババッ、とオレの前に並べる。

 

 あー、そういやさっき喫茶とかなんとか言ってたな。

 

 怪物のインパクトで全て記憶から消し飛んでいたが、そういや気絶する前オレは休めるところを求めて街を歩いていたんだったか。

 なんで気絶したのか忘れたが疲労が限界だったのかもしれん。うむ、ラミュがオレをここまで運んだのだろう。

 

 さて、褒美に何か食わせてやろう――ラミュの金だけど――と正面の彼女へちらりと視線を向けるも。

 

「お兄さま……ごめんなさ」

 

 相変わらずしゅん、と縮こまっている。

 

 う~~~~~~ん。

 なんか最近ラミュ、ずっと謝ってばっかなんだよな。

 まあ家の時から自分が良いと思ったことをした結果失敗続きだから、なにをするにも自信がないって感じな気がするが。

 一々謝られてばかりで話が一向に進まん。

 

「今日は遊びに来た。だからもうそういうのは……気にしなくていい」

 

 なにに謝ってんのかよく分かんねえしめんどくせえ。

 

「ごはん、食べよ?」

「~~っ! はいっお兄さまっ!」

 

 ぱっと顔を明るくするラミュ。

 うむ、それでよい。 

 オレがメニュー表を差し出すとうんうんと真剣に悩み、ぴっ、と一つのメニューへ指を差した。

 

「あたしっ、オムライス! 特製オムライス食べたいっ! 大盛りでっ!」

 

 彼女の言葉に頷き、メニューを受け取ったオレは別に腹が減っていなかったので紅茶を選択。

 そうしてイクルへと視線を向け――まだ気絶してんのかこいつ。

 まあこいつのはこのマトマジュースでいいか、見た目赤いし血みたいなもんやろ。

 

 注文を受けぱたぱたと厨房へ消えていくティーナを見送り、オレはラミュと会話を交わしていく。

 とはいってもオレは基本聞き手、ラミュがきらきらと目を輝かせて喋るのを聞き、ぬぼーっと肘をつきながら頷いていくだけだ。

 

 ここはラミュが休日に散策して見つけた店だということ。

 ずっとオレとこうやって来たかったということ、ほかにもいろんなお店に行きたいということ。

 まあ毎週ってのは少し疲れるからあれだが、隔週とか月一くらいなら付き合っても構わん。なにせオレのことを好きな! 妹のお願いだからな。

 

「お待たせいたしましたにゃ! こちら特製オムライス大盛りと紅茶、あっ、こちらは砂糖とミルクですにゃ! それとマトマジュースですにゃー!」

 

 ラミュの話を聞いていたらいつの間にか時間が大分過ぎていたようで、戻ってきたティーナが手早くテーブルの上へと料理を並べていった。

 彼女はぺこりと頭を下げ、素早く戻ろうと背を向け――エプロンの端をオレはわしっとつかむ。

 

「……? なにかにゃ?」

「あれ、して?」

「え!?」

 

 オレが指さした先にはサングラスをかけた金髪の客がいた。

 どうやら彼女もラミュと同じくオムライスを頼んでいたようで、しかし、なにやら追加のオプションをメイドへとお願いしている。

 

『もえもえきゅんをお願い致しますわ、ああケチャップでハートも』

『はーい! おいしくなぁれ❤ もえもえキュン❤』

 

 実はラミュの話を聞きながら周囲を観察していたのだが、結構な割合で客の連中は同じものを頼んでいた。

 

 やってほしいか? ときかれれば別になくてもいい。

 ただ誰もがそれをやっているのに、オレだけやってもらわないってのは筋が通らない。

 まるで損をしているみたいだ、なので絶対にやっていただきます。

 

「き、キミ本当に気付いてないんだよね!?」

「……? なにが?」

「っ、なっ、なんでも……ない……にゃ」

 

 ティーナの頬に汗が伝う。

 彼女は目線を何度も左右に動かし、ちらり、ちらりとオレを見つめた。

 ねー! もえもえきゅんまだ~?

 

「オムライスさめちゃう」

「っ、そう……ですね……にゃ」

 

 ティーナは耳まで真っ赤に染め、小さく俯きプルプルと震え――

 

「おっ、おいしくなぁ~れ……もっ、もぇもぇ……きゅん……❤」

 

 ――かすれるような声を上げ、手でハートをつくった。

 

 ほーん。まあこんなもんか。

 何か言葉掛けられたらメシの味が変わるわけでもねえしな、変な魔術使ってたら別だけど。

 

「ラミュ、もう食べていいよ」

「いただきまーす!」

「え!? ちょっ、あっさり過ぎない!? もっとこう……あるでしょ!?」

 

 え、ないけど。

 

 オレは届いた紅茶をラミュに注いでもらい、カップへそっと口をつける。

 

「んべ」

 

 あつっ! 渋っ!!!

 

 ちろりと舌先を出して内心悶絶。

 砂糖をドバドバ、ミルクもじょぼじょぼ入れてぬる~くなったのを口の中で転がす。

 激アマ紅茶をちゅるちゅる啜っていると、おぼんを抱えたティーナがふるふると肩を震わせ、ほほを引きつらせていた。

 

「~~っ! きっ、キミねぇ……!!」

「『にゃ』、は?」

 

 『にゃ』はどこいった『にゃ』は!!

 オレはお客様だぞ!! ちゃんとネコメイドとして振舞え!!

 クク……金ならラミュがいくらでも出すんだからちゃんと媚びて振舞ってくれたまえよ?

 

 さっきから気になっていたんですよ、ティーナにはプロの精神がたりないんじゃないかって。

 ちょくちょく語尾を忘れてますよね? オレは厳しいですよ、ちゃんとプロとして振舞ってくださいね?

 

「も……申し訳ありません……にゃ……!!」

 

 オレの情熱的な指摘にティーナは悔しそうな表情を浮かべ、ぷるぷると肩を震わせながら頭を下げた。 

 

「ねえクリス」

「……今度はなにかにゃ? ……にゃっ!?」

 

 オレへ返事をし――『ティーナ』、もとい『クリス』は固まった。

 

「な……にゃ……!? き、キミ……やっぱり……!?!?」

 

 学院で名の知れた『剣聖』、彼の名は『クリス』。

 このネコメイド喫茶の『ティーナ』が反応するわけない……が、まあ今更だな。

 バレバレもバレバレだし。

 

 本人は何やらカクカクと挙動不審な動きでオレを睨んでいる。

 最初はあれ? と思ったけど本人が隠す気もないような発言や動きをするもんだから、何もせんでも勝手に情報が全部揃っただけだ。

 ほぼ自爆なのにオレを睨むのはおかしいだろうがよォ! ええ!?

 

「せっ、性格が悪いぞキミ!!」

「そんなことより」

「そんなこと!?」

 

 顔を真っ赤にして腕をぶんぶん振るクリス。

 しかしオレの視線はそんな彼女より、両手で抱えたティーカップの水面へと向いていた。

 

「……なんか、揺れてる。なんで?」

 

 オレは首をひねりクリスへ質問を飛ばす。

 

 なんかさっきから地面が揺れてるんスよね。

 この国じゃ地震なんて珍しいし、窓から見える外の人たちは普通に歩き回っているので地震ではなさそう。

 となれば……この変な店特有のイベントか何かか? と思ったんだが。

 

 

「わ」

 

 

 ガタンッ!

 

 大きな音を立て、テーブルが突如として姿を消した!

 

 いや、姿を消したのではない。

 地面に穴が開き、テーブルがまるっと地下へ転がり落ちていったのだ!

 ちらりと穴の底へ目を向けるももはや何も見えやしない。音もしないし真っ暗、そこに広がっているのはどこまで続いてるのかもわからない漆黒の暗闇だった。

 

「おー……」

「え? なっ、なに!?」

 

 オレは紅茶を両手に、ラミュはオムライスの皿を抱え唖然とそれを眺めた。

 

 ……これもこの店のイベント?

 

 意味が分からん状況だが、あの怪物が許されているこの店なら何があってもおかしくはない。

 

「ねえ『剣聖』、これって――」

 

 なに?

 

 そう、口にする前に――オレの身体は浮遊感に包まれた。

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