学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
「はぁ……はぁ……!!」
流されるがまま流され続けて数分、オレはようやく岸らしき場所にたどり着き地上(?)へと這い上がれた。
勿論言うまでもないことだが気分は最悪以外の何物でもない。
何なら体調も最悪だ。杖出す余裕もなかったからな、結界を張る際の負荷が直接体を襲って心臓のあたりがキ゛ュンキ゛ュンする。
やっぱり外出はクソだ!
人生とは小さな部屋で全て完結するべきなのだ!!
怠惰に怠惰を重ね、ひたすら堕落することこそが最高の人生!!! 新たな出会いとか経験とか、全てはゴミカス以下のくそしょーもない妄言に過ぎないのだっ!!!!
はークソクソクソクソ!
つかここどこだよ!!!
「……『ブライト』」
クソだるい腕でカス杖を生み出し振るう。
真っ暗闇での散策など死にに行くようなものである。
生み出した光源は六つ、周囲を舞う光球となってオレの行く先を照らし出す簡易的な照明だ。
いったいどれだけ落ちた地点から流されてきたのか分からないが、地図も何もない現状、もはや現在地点の把握などは不可能だ。
どうにかしてここの出口を見つけ出さなくては。
そう結論付けたオレは、素早く周囲を観察し――
「……ぃっ!?」
壁を這いずり回る手のひら大の黒光りの群れ。
かさかさと小さな鳴き声をあげながらあちこちを駆け回る巨大なネズミ。
全く管理されていないのだろう、壁一面に繁茂する虹色のあまりにキモすぎる苔。
「ひぃ……っ」
き、き、き――――――きんもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!
きもきもきもきもきんもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?!?!?!?!?!?
涙目というか普通に泣いた。
しくしくなんてもんじゃない、えぐえぐと泣いた。
こんなはずじゃなかった。オレの休日はもっと優雅で、怠惰で、幸福に満ちていたはずなのに。
どうしてこうなってしまったのだろう。
オレは両手で杖を胸元へ抱きしめ、なるべく周りを見ないようにしながら涙をこぼして、てくてくと下水道の道を歩いた。
「んひぃ……!?」
時々結界に手のひらほどあるバカデカゴキが張り付いたり、そいつを喰らうでけえナメクジみたいなやつを踏みつけ、ぬめりですっ転び情けない悲鳴を上げても歩き続けた。
というかすっころんだときにぶっ飛んだナメクジとか――結界越しではあるけど――頭に張り付いたままだった。
触りたくなくてつけたままだけどうぞうぞと動いていてもうキモさで気絶しそう。
大体なんであんな王都に立ってる店の下が陥没するんだよ意味わかんねえだろ。
は~ホンマキレそう。ブチギレて発狂してそのまま魔術の負荷で爆発しそう。
この無実で無辜なる平和を愛する一般市民であるオレが、どうして貴重な休日にこんな目に合わなくてはいけないのか。
こりゃーもう温厚なオレでもぶちぎれですよ!!!!
怒りのあまり手にした杖をへし折ろうとぐっと力を籠め……反発で手が痛くなったのであきらめた。
「でぐち……」
出口どこ……?
オレは確かに薄暗くて一人でいられるところが大好きだが、だからといって下水道の奥の奥にぶち込まれたいだなんて言った記憶はない。
オレの愛を一身に受けるのはベッドちゃんだけでいいのだ! やめろテメーらじゃねえ殺すぞゴキとネズミ共ッ!!!!!!!!!!!!
怒りのままに魔力を杖先から放つ。
最初は半径百、それでダメならおおよそ一キロ。超高範囲への魔力による探索を――
「っく」
する前に杖が激しく燃え上がり、たまらず杖を下水道へと放り投げる。
カス杖だと負荷に耐え切れない、か。
限界だった。
幸福からドブ底の圧倒的なマリアージュ、さらにメンタルを破壊しに来るイカレた原住民の皆さんによってオレの心は崩壊寸前だった。なんならとっさの結界発動で体調も崩壊寸前であった。
一分一秒でも、いや今すぐにでもオレはこの場から出なくてはいけない。あの平和な目玉たちを操る音ゲーをして精神を癒さなくてはならない。
「……っ、しかたない」
数秒悩み……オレは渋々マジックバッグから一本の杖を取り出した。
それは闇を溶かし込んだかのように漆黒であり、飾り付けられた恐ろしく無色透明な宝石が怪しく輝く――冥龍の素材を使った杖だ。
まずはお試しと先ほどと同じ程度の魔力を籠め――
「――大丈夫、うん」
杖は燃え上がらなかった。
それどころか熱すら持たない、それにアル様の杖を使った時と同じように……いや、それ以上にスムーズに魔力が体内を流れていくのを感じる。
理想、そう表現するのが一番だろう。体内の魔術に関わる全てが理想的な状態に整えられているようだ。
この杖ならラミュのピカピカソード二、三本くらい出しても行けそうな気がするぞ……重いし邪魔だし出す意味一ミリもねえからやらねえけど。
逆に言うとこんだけヤバい杖、下手に落としたり燃やしたりなんてした日には間違いなく一週間まともに眠れない。
この先何をしても間違いない、オレはこの杖より価値あるものを触ることはないだろう。
金の延べ棒とかマジで比じゃない、多分カメリアに土下座して足舐めて金出してもらっても払い切れないくらいの価値がある。
やべ、考えれば考えるほど絶対こんな触っちゃダメじゃね?
手袋とかした方がええんちゃうか? つか下水道とかいう汚らわしさの塊みたいな場所で出しちゃダメでしょこれ。
「――『サーチ』」
というわけでちんたらしてられないので、さくっと魔力で出来た網を周囲に放つ。
杖を中心に魔力を供給され続ける緻密な網は、俺と同じ平面上に存在するすべての物体を探り、あっという間にこの莫大な面積を誇る漆黒の下水道へと広がっていった。
とりあえず半径にして五キロほどだろうか、そこに存在する生命体の位置や地形はすべて――んげぇ……ゴキとかネズミとかのサイズは全部外して――マッピングできた。
む……むむっ…………人間おるやん!
しかもめっちゃおるやん!! え、何人これ……十……二十……え、もっと? 老若にゃ……にゃ……老いも若きも男女も全員おるやん!
下水道の点検とかかな? おいちゃんと点検しろよ床陥没したんですけど!? 仕事はどうなってんだ仕事は!
でもラッキー! これならすぐに外出られそう! ひゃほーい!!
不幸中の幸いって奴だ。
もう一方にはなにか五人くらいの集団もいたが……しかし実に単純な問題だ。
道に迷った人間がいます。右の道には二十人以上の大集団、左は五人程度のカスみたいな人数。
さてはて、貴女はどちらを選びますか?
そう、たとえオレほど大変優れたずのーをお持ちでない皆様でも既にご理解いただけただろう。こんなんもー右の二十人以上の集団一択です! バカでもわかりますって!!
「うん……うん……」
この莫大な下水道のマップを『インビジブルアイ』に映し出し、最短ルートを探りつつオレは歩き出す。
そしてしばらく無言でこの地獄を歩いて気付いた。
――あれ? 転移魔術使えば良くね?
普段は負荷がデカいから使わねえけど、この冥龍の杖使えば多分負荷なく地上まで出られるんじゃね?
つか落ちてる最中にもう転移してたら話は全部終わってたんだ。誰だよ結界のんびり出してるやつ! だれだよなんかのイベントかなぁ~とかのんきに椅子に座ってた奴!!!!!!!
う……うう……っ。
そしてオレは――無言で歩き続けた。
決してこの匂いと風景を我慢し続けて歩いたのに、全部が無駄だったと気付いて悔しかったからではない。オレは一歩一歩、進んだ道を大切にする系女子だから。
オレ達が今まで積み上げてきたものは全部無駄じゃなかった……これからもオレ達が止まらない限り道は続く……!!
だからよ……止まるんじゃねえぞ……!!
オレは顔を歪めて歩き続けた。
奥歯を噛みしめ、悔しさに涙を流しながら歩いた。
拳を固く握りしめ、必死に何度も頭の中でもう転移すれば? と唱え続けるもう一人のオレの言葉を無視して。
「だして」
オレは曲がり角を曲がり、ようやくたどり着いた目的地で開口一番そう告げた。
もうさっさとここから出して。
早く出して。
今すぐに、でなければオレは、本気のオレが――無様に悔しさで地べたに這いずり回ってグニャグニャに泣きわめきながら情けなく十五歳児としての本気で駄々をこねるぞ? フフ、怖いか? オレは今正気を失おうとしていますよ?
「――あァ? 誰だテメェ?」
ようやくたどり着いたそこにいたのは、やたら目つきと言葉遣いの悪い男だった。
男はさっ、と何かを後ろに隠し、片手剣を握りこちらを探るような目で睨みつけている。
はぁ? 誰だテメエはこっちのセリフだ殺すぞ!!
さっき魔力感知したほかの皆さんはどこに行ったんだよ、というか初対面の相手にはたとえ年下でも敬語使えよカス!
つかこの超絶可愛いセラフィリアさんに対して杖を向けるとかいい態度だなァ? ええんか? ぶん殴って二度と立ち上がれないくらい膝ガックガクにするぞ? ラミュエルが!!