学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
オレはドン引きしていた。
「そうか、これがっ!! この力がっ!! ハアアアアアアアアッ!!!!」
意味わかんねえ独り言ブツブツ漏らしやがって! さっきから怖えよお前何なんだよォ!!
なんでそんなバーサーカー染みたイってる目で剣振ってんの!?
ど、どうしちまったんだよお前いきなり……ヤバいブツでもヤってんじゃねえだろうな……?
オレは恐怖に苛まれた、なぜってこいつオレと同室なのだから。
やべぇ。
今まで口うるさい面倒な奴だと思ってたけど、まさかガンギマリのイカレポンチだとは思ってもいなかったぜ。
怖い、寝てる間に襲われたりとかしねえよな? これからは結界張って寝ようかな、でもそれで逆上されたら困るし……。
カメリア、いやカメリアさんは正気とは思えない言動と態度のまま剣を振るい続け、気が付けばゴーレムは細切れとなって地面へと散らばっていた。
彼女は長い髪を振り払い、汗まみれの顔でにちゃぁ、とオレへと振り返る。
怖い。
次はお前だとか言いながら襲ってきそうで怖い。
なんか頭からちょっと血が垂れてるのが余計怖い、完全にゲームの中盤あたりで出てくる狂人枠だろこれ。
「……頭、だいじょうぶ?」
なにかお薬とかやられていらっしゃるのでしょうか?
オレは自分の冷や汗をハンカチでぬぐい、へらへらと笑いながらカメリアさんににじり寄る。
理解のできない存在と出会った場合本来選ぶべきは逃走だ。
しかしここまで接近されてしまった以上、オレの貧弱ボディで逃げ切るのは不可能に近い。
なにせ数歩走るだけで息切れするこの体、こんなムチムチ健康限界突破女から逃げるなど夢のまた夢だ。
ならば選ぶべきは――友好。
オレはこの猛獣を手懐けて見せよう。
――勝つさ。
「っ、感謝しますわ」
あっ、ハンカチ奪われた。
おい人のハンカチで何……ちっ、こいつ自分の血拭い始めやがった!
あーあー白いハンカチが台無しじゃねえか! しみ抜きの魔術繊細で扱いが面倒なんだぞ!
えっ!? 胸元に折りたたんでしまった!? おいらからハンカチまで奪うんですかァ!?
十枚銀貨一枚で買ったハンカチが無残な姿になっていくのを悲しい目で追っていると、カメリアはなぜかオレをじっとりとした視線を向けていることに気付いた。
いや、それどころかオレへ剣を突き出してきた!
ひっ!
なななっ何ですか! やっぱりぶっ殺しますってか!?
いいぜかかって来いよ! お前ごとき何百人集まろうとこのオレには勝てないと――
「このような剣、頂くことなんて出来ませんわ」
す、と柄が目の前に差し出される。
オレはそれを困惑した顔で眺めるしかできない。
まさかこの剣を返すっていうのか!?
オレに持てと!? 今全身がもう痛くて痛くてたまらない、この死にかけのトンボみてぇな体で!?
こんなん持ち歩いたら腕ぺしゃぺしゃに折れるわ!
「あげる」
ンな粗大ゴミいらねえから黙って持って帰れよ!
どうせてめえはお嬢様なんだから処理先くらい無限にあるだろうが! ねえならねえでそこら辺の森にぶん投げてこいや!
「そんなっ、それならそれに準ずる費用を!」
か、金まで強請ろうってのかこの強欲高慢業突く張り女ァ!?
処分費か!? 処分費だって言いてえのか!?
なんてふてぇ野郎だ! この毎月金貨三枚だけが実家から送られてきて、爪に火を点すような貧困学生生活を行っているこのオレから!?
あまりに人の心がない発言にオレは激怒した。
かの邪知暴虐の金髪お嬢を説き伏せねばならぬと決意した。
新作フルプライズの発売が数日後に迫るこのいま、びた一文ですら差し出すわけにはいかない!
たとえそれがこの目の前のイカレポンチだとしても決して、決してだ!
「ともだち」
な、なあオレ達友達だろ……?
同室でさァ、まだ入学して一カ月経ってないけど仲良くしてきたじゃあねえか! な? な?
友達からタカろうなんてそんなことあってはならない、オレは勇者の血を継ぐ者として決してそんなことをすべきじゃないと思うよ?
やっぱほら、勇者の血って誇り高いから……そういうの見過ごせねえっていうか……!
オレは震える腕を差し出した。
正直怖い、なんかひょんな拍子でハイになって切りかかってこないかって気が気じゃない。
だが今求められるのは勇気だ! 人間賛歌は勇気の賛歌ッ! オレは恐怖を我が物としてこのオーガに立ち向かうぜッ!
「っ、それは、どういった意味かしら?」
「ともだち」
オレ、トモダチ。
オーガ、フレンド。
ナカヨシ、アクシュ。
奴の圧がこもった言葉などに怯むなオレ!
ごり押しだ! 今この瞬間においてはごり押しこそがすべてを解決する!
世の中なんて気合いのボディランゲージで九割は解決するんだよ!!
「~~っ! セラフィっ!」
「うくっ」
その時カメリアが突如襲い掛かってきた!
さながらイノシシのタックルだ! 圧倒的膂力によって抱き着かれたオレの身体はいとも容易く抱き潰される!
お、おお……!
力……つよ……!
背骨……折れ……
「わ、わたくしっ、わたくし今日という日を決して忘れはしませんわっ!」
ミシミシと締め付ける破壊的なパワー。
オレが必死にその腕を叩くも、いったい何が楽しいのか満面の笑みでオレに抱き着いたまま、むしろ力を増していくカメリアの両腕。
オレは呼吸をすることすらできず次第に意識が遠のいていった。
は、離せバカオーガ!
そりゃ忘れられねえだろうよ! なにせ今日がオレの命日になるかもしれねえからなァ!?
あ、本当にダメ。本当にダメだって、アカンって、呼吸できないんです離してください……。
「たとえ日の中水の中草の中、いつでも、どこへだって駆け付けますわっ! 貴女が苦しい時に、誰にも頼れない時にでもわたくしだけはっ!」
あ。
「……セラフィ?」
かすれていく意識の中、ようやく正気を取り戻したカメリアが力を緩めた。
「そんなっ、やっぱり先ほどの魔術の負荷がっ!」
正気まだ取り戻してねえなこいつ。
てめえのせいだよてめえの、魔術の負荷よりもてめえの馬鹿力で絞め落とされとんねんこちとらよぉ!
「い、今すぐ回復術師の元までお連れ致しますわっ! どうか意識を強く持ってくださいまし!」
ここで意識が落ちたらヤバい。
オレのか弱く繊細な体をカメリアに任せたらばらばらにされる。水をぶっかけられたガガンボくらいしなしなになってたやすく屠られる。
命の危険を強く感じたオレは必死に意識を保たんと集中をする。
だがお姫様抱っこでオレをかかえたカメリアが駆けだし、がっくんがっくんと体が揺れ動かされるたび、オレの脳みそは限界からエラーを吐き出し次第に真っ白に変わっていった。
も、もっと優しく運んで……たんぽぽの綿毛が飛ばないくらいに丁寧に扱えよタコ……。
あっあっ、だめそうです。