学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
「――アァ? 誰だテメェ」
鋭い目つきで男が立ち上がる。
握りしめた片手剣をゆらりと振り、苛立たし気な表情でオレを睨みつけた。
「……『贈物』が逃げたのか? 今までこんなことは……まあいいか」
ブツブツと呟くその目は焦点が合っていない、完全にイってしまっている。
お、お前変なクスリでもヤってんのか……?
オレは一歩後ろに下がった。
道を聞こうと思ったが完全にヤバイ奴とマッチングしてしまった、話を聞くなど出来そうにもない。
「数は足りてるからなァ、余り物は喰っちまうか」
瞬間、男の右半身がぐにゃりと変形する。
植物染みた緑、しかし肉食動物同様の巨大なアギトに変わった腕が大きく膨らみ――一瞬でオレの全身を覆った。
一瞬で呑み込まれたオレは瞬く間に収縮する周囲の『壁』をぐい、と触れ……圧倒的反発力を感じる。
オレのへにゃ筋じゃまず出られないだろう。
いきなり食われて流石にびっくりしたが、まあ結界張ってるし大丈夫だろ、どないしたもんかなと考えていたその時……奇妙な違和感に顔をしかめる。
結界が……溶かされた……?
誤差とも取れる異常ではあったが――警戒するに越したことはない。
「――『ゼロ・ブラスト』」
周囲の物質が極低温により凍り付き――解き放たれた爆風によって吹き飛ぶ。
オレは凍り付いた破片を踏みながらその場から移動し、半身が吹き飛び地面に這いつくばる
「ぐっ、があぁぁ……っ!?」
先ほどの『サーチ』では間違いなく人間の気配だけ……いや、今でも人間はこの場に二十人以上いると魔術が伝えている。
しかし言うまでもなく人影は一人。それも半身が吹き飛んでなお苦しむ程度で済んでいる、人間と評していいのか分からない存在が一人。
不可視? 透明化系の魔術を使用している? その意味は?
こいつを観察していた? いやこいつが観察していた? さっき『贈物』だなんだと言っていたな、どこかに送り付けるために何かしたか?
無言で観察していたオレの前で先ほどの男が地に這いつくばり、
「だが……フフ……アハハハハッ! 凄まじい魔力だ……これほどまでの魔力、たとえ人間を十人、いや百人喰らおうと決して足りないほどの……っ!!」
男の凍り付いた傷口を押し上げるように肉が――いや、青黒い触手が盛り上がり新たな肉体を形成していく。
そうして触手たちが集い寄り添い、新たな『腕』として振舞うそれで取り落とした剣を男は拾い上げ――恍惚の表情でその切っ先を撫でた。
「そうか、お前も喜んでいるのが伝わるぞ――聖剣『アスカロン』」
うわ……きも……。
やっぱ下水道に住んでる人……人か? まあ人ってことで……人って変な奴しかいないんだろうなぁ。
清楚で純情なオレみたいなタイプの人間とは死んでも分かり合えないタイプだわこいつ。
「『アスカロン』は大喰らいでなァ、今まで満ち足りたことなんで一度もなかったんだ……美しいなぁ、なんて美しい輝きなんだ……これがお前の本当の姿なのかァ」
うっとりとした顔で剣を眺めるキモキモ触手マン。
「この輝き、初めて見るだろ? 龍の体内から発見された魔法金属とミスリルの合金から打ち出されたんだぜェ……かつての大戦でなァ」
なんか聞いてもないことをペラペラ語ってきたのでオレは無言で聞きに徹した。
じっと目を凝らすと確かになんか……ちょっとこう……ほんのり? 青白く光ってる気もする。
でもラミュの剣の方がピカピカしてるしなぁ。
「これは凡人如きが決して仰ぎ見ることのない輝きだからなァ、この素晴らしい光景をしかと目に焼き付けるといい」
「すごい」
はえーすげー。
すごいって言ってるんだし多分すごいとおもう、すげ~!!
うんうんすごいすごい、だからもうちょい落ち着いてくれません?
こくこく頷いていたオレを見て――触手マンは烈火の如くブチ切れた。
「っ、俺をバカにするなァッ!!!!!!」
鋭く振るわれた聖剣(?)が結界に衝突し火花を散らす。
ええ!? なんで!? すごいだろって言ったからすごいって言ってあげたのにぃ!?!?
「本気で隠してるつもりかァ!? 『アスカロン』に魔力を喰われてまだ魔術を扱う余裕がある……テメェ、ただ紛れ込んだ人間じゃねえだろォ!!」
ひぃ~~!! ただ紛れ込んだガガンボですぅ~~!!
怒りに任せた乱撃、ましてや異形の存在ともなれば剣術のかけらすらない――そう言ってやりたいのだが、しかしオレとて多少は剣術をかじった……いや、剣術をあれこれ学ぶ前に力尽きたので端っこをナメナメした身。
それにカス親父のそれを近くで見ていたので分かるのだが、こいつの剣術は一定以上の技量がある。
力の籠め、抜き、脚運び。基礎は完璧、そのうえで視線の運びや体重移動など、明らかにレベルが高い。
――学院でカズィクルが襲来しあの夜並び立った生徒達、彼ら彼女ら全員よりはるかに。
こんな地下で触手マンしてていいような奴の動きじゃなかった。
「『学院』の生徒が正義ごっこか? それとも事件を追った冒険者か? いや――『聖騎士団長』の差し金かァ!? やっぱり奴には勘付かれてたかァ!!」
激しい連続攻撃を結界で受けながらオレは冷や汗を垂らす。
『学院』の生徒が正義ごっこか?→違います。
それとも事件を追った冒険者か?→違います。
『聖騎士団長』の差し金かァ!?→違います。
す、すげえ……何一つ合ってねぇ……!!!
何を勘違いしているのかさっぱりわからないがオレはただの一般人。
不幸にもバニーなオカマの違法建築が崩壊し、この地獄の底に堕とされた被害者である。
オレはキリリと眉を吊り上げ、奴の勘違いを冷静に、そしてこれ以上怒りを買わないために諭すためゆっくりと口を開いた。
「貴方は間違ってる」
「ははっ……間違ってる? 間違ってるゥ!? 今更ァ! もう戻れねえんだよォ!!」
なんか一層剣を振るう速度が上がった。
なんで!?
しくしく、何故オレはいつもこうなってしまうのか。
森の中に置いて行かれたかと思えば熊と仮面の不審者に襲われ、お宝を手に入れたかと思えばぼっちのくせに盟主名乗る不審者に襲われ、今度はこれだ。
しかし今回は問題いくつかある。
いつもの魔人族の皆さんであればオレはさっさと魔術で吹き飛ばして終わりなのだが――こいつ、『人間』にしか感じられないのだ。
いや待ってほしい、聞いてほしい。青色の血の人間がいるわけねえだろとか言わないでほしい。
だって! だって魔術が、直感がそう言ってるんだもん!!
こいつ人間ですよって! なんかちょっと違うけどバリヒューマンっスよって!
こりゃもう直接聞くしかありまへんわ。
「貴方は……魔人族?」
「――!! 俺は……俺は人間だァッ!!!!!!!!!!!!」
ほらー!! 本人もこう言ってるじゃーん!!
ちょっと男子~!! だれー? この子怒らせたの~! うーんオレ~!!
顔を真っ赤にしながら剣を振るう触手マン(人間(自己申告))。
だんだん面倒くさくなってきたものの、しかしもう一つこいつを消し飛ばせない理由がある。
そう、あの存在しないのに確かに感じる、二十人以上の人間の気配についてだ。
最初はこいつの監視かなにかかと思っていたが、今の今まで常に『サーチ』で確認しているものの身じろぎ一つしないのだ。
ま、察するに大方こいつに囚われている、そう考えるのが順当だろう。
問題はどうやって囚われているか、だ。こいつをぶっ殺して回収が出来ませんでした、じゃ話にならない。
どうにかして手段を吐き出させる必要がある。
「――まだ気付いてねえのかァ?」
とめどない連撃を続ける男がニヤリと笑った。
「『アスカロン』は魔力を無限に吸い取る、テメエご自慢の防御魔術はゴチソウなんだよォ!!!」
バギンッ! と、結界に亀裂が走った。
男の嗜虐的な笑みが一層深くなり、斬撃の速度が一層跳ね上がる。
「くたばれェッ!!」
一度亀裂が入れば崩壊は目前だった。『アスカロン』の一振りごとに結界が食い破られていき、ついにその切っ先が天へ高く掲げられ――
「――『ブリザードブレス』」
背後へ転移したオレによって、その下半身は凍り付けられた。
お前に喰われて結界が溶けた時点で警戒してたに決まってんじゃんね。