学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
「――聞きたいことがある」
下半身氷漬けでカチカチになった触手マンの前に立ち、オレは掌の上にぺちぺちと杖を叩きつけながらそいつを見た。
今重要なのはこの二十人以上の
たまたま巻き込まれた可哀そうなオレちゃんだがしかし、こうなってしまって全部無視して転移ってのも目覚めが悪い。
大方こいつが拉致したと考えるのが妥当な皆さんだが、しかし少なくとも視界では確認することが出来ない。
よって時空間系魔術によって何かしてると推定、なにしてるかは知らん。
問題はおそらく、こいつが自分の魔術でどうこうしているわけではないだろうということ。
時空間系の魔術はそもそも使い手が少ない、手がバレにくい。そんな技、命を賭けた戦闘で使わないはずがないのだから。
魔道具の類を持っていると考えた方がいいだろう。
「ここに人間の気配がするのに、一人も見当たらない。あなたのせい?」
「……が、俺がまた……女に……ガキに……」
しかしオレの質問に答えず、氷漬けのまま男は天井を見上げブツブツと何かをつぶやくばかり。
あー完全に目がイっちゃってるよ。
少し非道だがいっそすべて凍らせてから漁ってしまうか、なんて考えていたその時だった。
男は手にした『聖剣』を――自分の身体に振り下ろした。
「えっ」
いわゆる泣き別れって奴で、ずるりと氷の上を滑っていく上半身。
唖然とするオレをよそにその体は地面に転がり――曝け出された断面の中から無数の触手が飛び出し、むくりと起き上がった。
しかし腕のように多少でも人間の形を取ることはあきらめたらしく、触手のまま男は飛び上がり天井へと張り付いた。
ほへ~~!
人間って上下で泣き別れになっても触手が生えてきて動き回れるんだなぁ!
一応人間のつもりだけどおいら全然知らんかったわぁ~~!!
お前マジで人間の概念舐めんなよ?
「『アイシクルランス』」
「その程度当たるかァッ!!」
素早く射出される氷槍だが、男は壁や天井を自由に這い回り易々と回避していく。
……ヌメついた触手で張り付いて走り回っているのでとても見た目がキモい。なんかゴキとかやたらでけえクモみたいな、深夜に見たら絶叫するようなアレさがある。
キメぇ……お前それで人間名乗るなよ……!!
「『ブリザードブレス』」
「それも遅ェ!」
魔術の発動と同時に素早い跳躍。
下半身を失ったというのに先ほどと同様、いや明らかにそれ以上の速度が出ている。
どうやら物理系の射出魔術は速度では追いつけないようだ。
……
ってのも今いる場所は地下。
「……こまった」
「随分余裕だなぁ!!」
飛び掛かってきたタイミングに合わせて新たに周囲へ結界を張る。
流石に壊されたのはびっくりしたので魔力を少し多めに込めた特別版だ。
「もう忘れたのかッ! 『アスカロン』は無限に魔力を吸い取るといったはずだッ!」
意気揚々と斬りかかってくる男。
彼の『聖剣』は結界を斬り付ける度、さらに輝きを増していた。今ならラミュの剣とも並び立つ程度には光っている。
……この剣うぜぇな!
なに勝手に人の魔力吸ってんねんオレのだぞ!
再度好き勝手、さらに先ほどよりも高速でオレの結界をボコボコと斬り始める男。
明らかに最初と比べて結界の摩耗速度が上がっている。おそらく魔力を吸うことで切れ味だのが上がっているのだろう、一応聖剣というのは伊達じゃないらしい。
オレは結界に魔力を送りつつ、慎重に男の攻撃の隙を探った。
「貰ったァッ!」
再び切っ先が結界にめり込む。
乱打によっていくつか作られた傷、その一つがついに限界を迎えたのだ。
「『
「っ、剣を!? ……下らねえッ!」
結界へめり込んだ瞬間を狙って放たれた拘束魔術。
瞬く間に拡散し拡大したそれは切っ先から広がり、男の両腕まで光縄が食いついていく。
しかし本来なら瞬く間に相手を覆い尽くして縛り付ける魔術だ、この程度で止まるはずがないのだが――
男はいささか鬱陶しそうに顔をしかめるも、剣への力を緩めない。
むしろこのまま結界を叩き割ってしまおうとばかりにぎりぎりと剣を押し込んできた。
むっ、じわっと魔力を吸われている気配!
グレイプニル自体も相手の魔力を吸うってのにその吸引力より強いってのか!
「『
「な……あ……が……っ!!」
フハハ! かかったな馬鹿め喰らえ卑劣拘束!!
ほなもう一回かけましょうね~!
ギュルンッ! といった調子でさらに巻き付く新たなグレイプニル。
一本で拮抗、あるいは若干勢いが負けている程度だったので当然、二本目が巻き付いた瞬間にグレイプニルの成長速度の方が聖剣のそれを上回った。
瞬く間に聖剣、そして男自身も巻き込まれていく。
「う……ぐぅ……ッ!!」
必死に男が抵抗をするもその一切が無駄だとばかりに光縄に全身が包み込まれた。
あのですね、一応言わせていただきたいことがあるのです。
なんかね、うちの妹はちょっと叫ぶだけで引き千切ってたけど……本来そんなことで引き千切れるわけないんです。なんなんあいつ……オレ今でも時々ちょっと怖いよ……!!
腕までもをへし折る勢いで縛り付けられた結果彼は最後の最後、『聖剣』を取り落とし、拘束の中で苦悶にあえぐこととなった。
落ちた『聖剣』は重力のままに地面へ触れ――その鋭い切っ先が音もなく石畳の上へめり込む。
切れ味えぐ~、トマトとか薄くスライスできそう。
「『聖剣』、か……」
「やめ、ろっ! 汚らわしい手で『アスカロン』に触れるなァッ!!」
柄に手のをばしたオレへ、見えていないはずだというのに男が叫ぶ。
汚くないもん!
めっちゃ綺麗だもん!
見てくださいよこのオレのおてて……傷一つありませんよ!! まあ下手に傷付いたらそっから妙な病気になったりして寝込むことになるんだけどな! ガハハ!
握ろうとして重かったのでやめたオレはつんつんと聖剣の周りを触っていく。
どうやら柄に巻かれている布は何か魔物の素材が使われていそうで、魔力吸収の力を遮断するようにできているようだ。
うむ、なんかわかんないけどめっちゃ高そう。
そうして探っているとやはり気になってくるのは……いったいどこまで光るのか、ということだ。
最初なんてそこらの剣と変わらない見た目だったのに、今じゃ中々ピカピカしてそれっぽい雰囲気を放っていやがる。
持ち主は無限に魔力を吸うだなんて言っていたけれど……流石にそりゃないでしょ。
「……つんつん」
杖先で刀身に触れ、軽く魔力を送り込む。
瞬間、さらに光り輝く聖剣。今の明るさなら照明としても使えそうなほどの輝きだ。
うお、まだまだめっちゃ光る! まぶし~!!
いえーい、見てるぅ~?
今君の聖剣はァ……オレの手の中で光ってま~す!!
すげ~! カス杖ならもう二十本は燃えてる魔力量だよこれ~!
全然まだまだいけるって顔してるねキミ!
うんうん、じゃあもっと魔力注ぎ込んでみ――
「あっ」
一瞬チカチカっ、と点滅した直後。
バギンッ! と。
『聖剣』は突如爆散、さらさらと砂のように散って消えていった。
残った柄だけがからんからんと音を立て転がりオレの足下に転がる。
オレの額に汗がにじんだ。
……ちっ、違っ!
オレは悪くない!
無限に魔力を喰らうなんて言ってたじゃないっすか! 聖剣はすごいんだってあいつもずっとウキウキだったじゃないっすか!! こんなちょみっと魔力送っただけで壊れるなんて……!!
「……ぇい」
つま先でつんつん、ちょっと重かったけど無事下水道にシュート。
……………やっべ~。