学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
「おい! 今の音は一体なんだ!? テメェッ!! 『アスカロン』に何かしたんじゃねえだろうなァ! だが残念だったな! 凡人の魔術程度で『聖剣』をどうこうなんて出来ねえんだよッ!!」
「……うん」
「人魔大戦でも名の知れた『アスカロン』を握れるのはオレだッ!! 剣聖ゲオルギウスの血を継ぐこのオレだけだッ!!」
「……うん」
「クソ……何も見えない……ッ!! おい! 拘束を解けッ!!」
「……うん」
「おい!!!!!!!」
……うるせえなぁ!
今オレはなんか高そうな剣をこう……ぽきっと、さらさら~っとへし折っちゃったのをどうするか考えるのに忙しいんだよォ!! ちょっとは黙れねえのかテメエはァッ!!!
聖剣を失った男に脅威は正直感じない。
剣術は中々大層なものだが、ラミュ位の膂力とそれに耐えられる剣でもないとオレの結界を超えられないからだ。
もはやこいつは下半身がにゅるにゅるしてキモめのそこら辺にいる変態だ。
「くっ……おい、『アスカロン』をどこにやった!?」
渋々グレイプニルを顔周りだけ解除してやると、男はすぐに自分の愛剣がどこにもないことに気付いた。
まあどこにもないというかもうこの世に存在しないんですけどね(笑)
にしてもすごい執着だ、目をかっ開き血走ったまま周囲を見回すのは少し狂気すら感じる。
正直命をオレの手のひらの上で握られている状態だというのに、こうまでなってもなお剣のことを優先するとは。
……なんかちょっと悪い気がしてきたな。
「女ァッ!!」
ごめっ、ごめんって! オレが悪かったよ!
もうなんだかすんごい勢いで怒り始めてしまったので渋々オレは杖を構える。
別に返すつもりはない、とはいえ目の前に用意しとけば少しは大人しくなるだろう。
これで少しは冷静になってもろて、拉致された人を返してもらえるような交渉が出来たらいいんだけど。
はぁ……おろろんちょちょぱぁ^~!
「……ここに、ある」
「それは偽物だろうがァッ!!!」
「なっ……!? ち……ちが……」
ほ、本物です!
ほらちゃんとその濁って腐ったおめめをかっぴらいてよ~く見てください! ぼろっちくて汚ねえ魔力遮断の布もちゃんと再現してるでしょう!?
「このオレを騙せると思ったのかッ! 『アスカロン』の輝きが全く無ぇじゃねえかッ!! 偽物と交換して奪おうって算段だろうがァッ!!」
しかしオレ製の聖剣に触手マンはご不満な様子。
大慌てで生み出したばかりの物を見てみるも先ほど消し飛んだものと違いはない。
はて、いったい何が問題なのかと考えると、どうやらピカピカ光っていないと本物と認めないらしい。
なるほど、たしかに生み出したばかりの『聖剣』は純粋な物質、つまり魔力が含まれていないので輝きは全くない。
「ちゃ……ちゃんと本物だから……!!」
つんつん!
ほらピカピカ! 本物でしょ!
ほらほら~! ちゃんと魔力を注げば注ぐほど光が増して…………
バギンッ!!
「あっ」
「て……て……テメエエエエエエエエエッ!!!!!」
「まっ……待って……今次の用意するから……」
「次の!? 今次のつったかテメエ!!」
顔周りだけグレイプニルを解いたせいで表情がすべて見えるので、彼の表情筋がとんでもないことになっているのがすべて見えてしまう。
怖い。
絶対人間がしちゃいけない表情してるし、何なら血涙まで流し始めた。
だっ、だってだって!
ちょっと触っただけで壊れる方が悪いじゃん! 聖剣だっていうならもっとしっかりしてくれよ!!
慌てて追加の『聖剣』を作ろうとしたせいだろう、魔力を思ったより注ぎ過ぎてしまったせいで魔法陣が強く輝き、どさどさと七本くらい『聖剣』がオレの前に山積みになってしまった。
杖の質が良すぎる弊害だろう、カス杖だったらこんなことになる前に杖自体が燃え上がっているだろうし。
「なっ……あっ……!? こ、れは……!?」
触手マンもいきなり剣が一杯生えてきたことに目を白黒させている。
ほかの魔術なら威力が増すなどで済むというのに、よりによって創造魔術だったのがついていない。
……いや待て、今の勢いならいけるか? 誤魔化せるか!?
うるせえ! 行こう!!!!!!!!
「さ……さぷら~いず」
へ、へへ……ど、どうすか……聖剣。
一本買ってくれたら一本位おまけで付けときますよ!!
だからもう少し落ち着い――
「貴様ーッ!!! これ以上俺を愚弄する気かぁッ!!!!!!!」
ククク……酷い言われようだな……まぁ事実だからしょうがないけど。
もうだめだ、触手マンは完全におこになってしまった。
気合で対話の道を探っていたがこれ以上は厳しそうなので、オレは生み出したばかりのかわいい聖剣たちをつんつんして消し飛ばしていく。
あっ、一本だけは残しておくか。せっかくだしなんかすごいらしいから記念トロフィーとして。
「クソクソクソクソ……どうして俺がこんな目に……全部、全部あの女に……!!!」
奥歯を食いしばり血涙をだらだらとこぼし、さらにはブツブツと怨嗟の声を垂れ流し続ける触手マン。
何か声を掛けたら罵詈雑言が飛んでくるのでオレはすっかり黙りこみ……戦闘が落ち着いたのもあってこの先どうしようかと思案する。
そもそもここに来たのも出口とか人がいるからであって、こんな良くわからん奴と戦う予定なんてなかった。
結局出口見つかんねえし……もう転移するか?
いやでもこいつどうする? 明らかに魔人族の関係者だしろくでもねえ奴だぞ、無事に解放だなんて出来ねえし。
「……んしょ」
「おいテメエ何するつもりだッ!?」
仕方ない、地上までこいつと一緒に転移するしかねえか。
あとは騎士団にでもプレゼントして煮るなり焼くなりしていただくしかあるまい。ついでに拷問でもしてもろて拉致された皆さんの救出もお願いします。
オレ? グロいのむりだからやだ。
触手マンの飛び出た服の一部をひっつかみ、空間全体へと探索魔術を走らせる。
転移魔術は繊細だ。もし飛んだ先に何か物とか人があったら、最悪全身が融合してオレのプリティフェイスがつるされたキュートなオブジェが生まれちまう。
ふむふむ。
戦闘と探索で少し時間食ったか、もう外にはほぼ人もいねえみたいだ。
これなら――!?
「っ! 『テレポート』ッ!」
本能に近い直感、理解するより早く感じた魔術の違和感。
オレは触手マンから転移で即座に離れ――
「っ、きゃっ」
次いだ暴風に吹き飛ばされた。
身体がまるで塵のように大きく空を舞い壁へと叩きつけられる。
幸いにして結界によって大半の衝撃は逃されたものの――しかし、それでもなお背中に伝わる鈍い痛みに溜まらず意識が飛びかけた。
「けほっ! こほっ!」
嘘だろ……!?
今の一瞬で結界の一部砕けかけてんだけど……!?
肺から無理に押し出された空気が喉を傷付ける。
しかし追撃を避けるため、重い腕を上げ再びの転移。さらに大きく距離を取り、つい先ほどいた場所を睨みつけた。
「――今のを避けるか」
空間が歪む。
血管が走り、丸太と見まごうほどの大腕が空間の歪みからのそりと現れた。
男だ。
だが常人を超えはるかに巨体、オレの二倍はあろうかというほどの体躯。
さらにその背丈もこけおどしではないと言わんばかりに、恐ろしいほど鍛え上げられた筋肉が覆い尽くしている。
全身の皮膚が張り詰めたかと思うほどの殺気。
それも奴は微塵たりとてその気がないにも拘らず、だ。
緊張に杖を握る手が震える。今までの遊びなど比にもならない、奴は間違いなく『危険』だった。
全身に魔力が駆け抜ける。
無言の身体強化、それも
「遅延故に様子を見に来てみれば……中々どうして面白い」
「っ、テスカ様ッ! 申し訳ありませんッ!」
「構わん、今回はな」
ただ、一歩踏み出した。
その瞬間、周囲の空気が恐ろしく張り詰める。
「っ!?
目で追えたのは一瞬だった。
既に怪物は正面に立っていた。遅れて突風が吹き荒れる。
選んだのは防御魔術の中でも最上位、ただひたすらに硬く、ただひたすらに魔術の耐性を突き詰めた絶対防御。
相手を見ることすらない魔術の発動、躊躇いなどしている暇もない。
そして男は拳を硬く握りしめ――オレを守る