学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
「おい、この剣を使うぞ」
「っ!? はっ、はい!」
「貴様は『門』へ隠れていろ」
『テスカ』と呼ばれた大男が乱雑に『聖剣』を握った。
わずかな逡巡、同時に眩く輝きだす切っ先。
触手マンは慌てたように何かを取り出し、一瞬で姿を消した。
「二割、といったところか」
肉厚な剣も彼が持つと心もとない細剣と感じてしまう。
しかし彼がその剣を構えた瞬間、オレは猛烈な殺気を感じ背筋が凍った。
「――『
オレの周囲を光壁が取り囲む。
普段の結界とは比にならぬ魔力密度、インビジブルアイ上によって演算が並行し行われる。
万全の構え。本来ならば。
しかしオレの心に安堵などない。
男の一挙手一投足に目を凝らし――
「耐えよ」
しかし、既にそこにいた。
彼が剣を低く構え――暴力が解き放たれた。
「……くっ」
オレの周囲の瓦礫が微塵に吹き飛び、切り上げと同時に生み出された破滅的な暴風によって全てが砕かれ、頭上の全てが叩き切られた。
圧倒的な膂力、魔力に裏打ちされた破壊の一閃。
男からすれば試し打ち程度なのだろう、しかしそれを耐えられる存在がどれだけいるというのか。
膨大な魔力を練り込んでいるはずの結界が悲鳴を上げる。
耐え切れない……!!
「『テレポート』」
察すると同時の転移。
男の背後に移動したオレは――
「――『ゼロ・ブラスト』!!」
一切の躊躇い無く魔術を解き放った。
周囲を強制的に凍結させさらに吹き飛ばす、氷属性の上級魔術。
それは先ほど放った同名の物とは比べ物にならない、並みの魔獣や魔物であれば塵すら残らない殺意の放出。
半径十数メートルが即座に凍結、当然男の脚にも氷の息吹が絡みつく。
効いている? いや――
「見事」
一歩、ただ踏み出しただけだ。
それだけで霜の降りた足先は平然を取り戻し、緩慢にテスカはオレへその鋭い視線を向けた、
「『ルーク』以来か、我の一撃を耐える相手は。それでいてなお余裕がある。女、名を名乗れ」
効いていない。
爆風すら、テスカにとってそよ風と変わらない。
むしろこちらの攻撃など初めから意識すらせず、自分の初撃、二撃目を受け立っていることの方が興味を引かれたらしい。
……聞いてねえぞ、こんな奴がいるなんて。
決して今までの魔人族が弱かったわけではない。
ロイドの精密な魔術や魔力配分は、たとえ宮廷魔術師の集団とでも対等に渡り合えるだろう。
カズィクルの圧倒的な殲滅力や血による回復の継戦能力、眷属による強襲は雑兵が幾万いようと容易く屠れるだろう。
彼らは魔人族の英雄だった。
だが、どこまで行っても英雄止まりだ。
目の前のこの存在は――軍神、そう評するのが正しいだろう。
だってそうだろう?
たった一撃、それも気の抜けた一振りで……天井に直径十数メートルの大穴をブチ開けるような奴なんて。
幸いにして地上までは分厚い岩盤があるようで崩落とまではいかないが……何度も繰り返されたらどうなるかなんてわかったもんじゃない。
「……セラフィリア」
「熾天使、その名に恥じぬ力だ」
そりゃどーも。
オレは表情を引きつらせて内心頭を抱えた。
まだ相手が微塵も本気じゃないからどうにかなっているが、もしこいつが本気で暴れ出したら手も付けられない。
第一オレの落下地点から考えてここは王都地下のど真ん中だ。こいつと本気の抗戦をしたら王都にクソデカイ穴が開いて数千人、いや万単位での死者が生まれる。
……もー何もかもが最悪だ!
なんでこんなところにいるんだよ、どう考えても魔王城とかでどっしり構えておくタイプの存在だろ!!
「五年、いやもう十年は経つか。人間で我の攻撃に耐えた存在は――セラフィリア、まだいけるな?」
男が愉快気に口角を吊り上げ刀身をなぞる。
無理ですぅ~! もううんざりですゥ~!!
帰れ! さっさと帰ってくれ!!
なにがいけるな? だよバーカバーカ! せめて何もない荒野とかでやってくれって! よりによって王都の地下ど真ん中でやるんじゃねえボケ!!
音すら置き去りにする踏み込み、次の斬り付けはさらに速い。
一撃が光壁の表面をなぞり背後の瓦礫を薙ぎ払う。
二撃が下水を吹き飛ばし迷路を唯の平面へと変える。
終撃が――光壁ごと吹き飛び周囲を深く陥没させた。
「あえて障壁を破壊して衝撃を逃がしたか」
はじけ飛んだ
テスカの言う通りオレは二重に
斬撃の衝撃と打ち消し合わせることで大幅に衝撃を低減、どうにか切り抜けることは出来たが……ただ切り抜けただけ。
現状に変わりはない。
奴ごと転移してどこか森や荒野にまで連れていくか……?
普段なら反動で死にかねないが、この杖がある今なら。
油断しているうちならどうにかなるかもしれない……本気を出されたら? 考えたくないねェ!
悩んだ末選んだのは杖を振るい背後への転移。
「背後からの強襲か?」
軽い薙ぎ払いが即座に襲い来る。
再度の転移、距離を取ったオレへ間髪入れずに真空の斬撃が振りかざされた。
動きを読まれている?
いや、どちらかというと驚異的な動体視力で即座に攻撃してきているのだろう。
軽い牽制代わりの
それを二重の
「貴様の本気はその程度か?」
「……かも」
この場所じゃあな。
転移しつつ魔力のポインターを四方へ配置した。
これで男を取り囲むように広範囲の強制転移が出来る、
オレが一気に魔力を流し込めばそれぞれが結合、一気に巨大な魔法陣を描ける。
こいつとオレを以前ロイドさんとバトった森にまで飛ばす。
あそこは学院からも馬車で行くような場所だ、周囲に民家だなんだは一切ない。
オレも崩落を気にせず攻撃に特化できる、互いに存分に暴れ倒せるだろう。
……しかしまあ、こりゃあ最悪死ぬかもしれんな。
できれば逃げに逃げ、徹底的にオレだけ転移魔術で遁走しちまいたいくらいだ。
このデカブツは明らかに人間が戦っていい存在じゃない。たとえ各国の精鋭だろうと、こいつが本気を出せば全員なます斬りだろう。
今ですらオレの脳内にはどうやって生き残るか、どうやってこいつから逃げるかって手段ばかりが思い浮かんでくる。
「本気、見たい?」
でもな、思い浮かんでくるんだよ。
学院で会ったカメリア、本音を知ったラミュエル、バカな連中共のツラが。
……ふん。『勇者』が逃げるわけにはいかねえからな。
「見せてあげる、相応しい場所で。『強制転――」
「ならん」
「――っ!?」
警戒に張っていた防御魔術ごとオレの身体が吹き飛んだ。
猛烈な勢いで吹き飛ばされ遥か遠くの地面へと叩きつけられるオレ。
「っく、けほっ!」
転移術は――失敗した。
転移直前、ごくわずかな地面の輝き。
男はそれを一瞬で察知し、オレを蹴り飛ばすと同時に範囲から逃れていたのだ。
「範囲指定の転移術は前兆が分かりやすい、万全の相手には回避されるぞ」
テメエ以外回避できる奴なんてそうそういねえよ……!!
光の発生は十分の一秒……いや、その半分以下しかねえんだぞ……!!
これで二度目。
殺しきれなかった衝撃に意識がくらみ無意識に咳がこぼれる。
男のイカレた膂力と『聖剣』の魔力吸収がいやなところでかみ合っていやがるらしい。吸収上限で聖剣が破壊されないのは何かで消費しているからか、その手の扱いも慣れてやがるなこいつ。
「けほっ! っぐぅ……こほっ!!」
噛みしめた口の中になれた鉄錆の匂いが広がる。
普段は魔術の反動であふれるそれだが、今回は衝撃で物理的に傷付けられたらしい。
咳が収まらない。
まずい。
肺が軋む。肋骨が悲鳴を上げている。
何もかもが無茶苦茶な野郎だ……!!
「……なんともか弱き身体だ、衝撃を殺してなお致命打とは。膨大な魔力に釣り合わぬ体よ。いや、それが『恩寵』か?」
「『
杖がじりじりと熱を帯びる。
同時並行、それも普段の比にならぬ魔力量の負荷はたとえ冥龍の素材と言えど決して無事では済まないらしい。
「もはや多重の障壁に意味などない、ただ徒に死までの時間を伸ばすに過ぎん」
男が連撃を放つ。
一振りごとに周囲の地盤が大きく揺れ、暴風が吹き荒れ、最上級の防御魔術に容易く亀裂が走っていく。
まるで紙の壁だ。一枚一枚に膨大な魔力を練り込んであるはずのそれが目前にて切り裂かれ、砕かれ、次々に弾け飛んでいった。
ムチャクチャしやがる!!
額には冷や汗、背中には恐怖。
今までの戦闘が遊びであったと
『サーチ』による地上までの捜索、被害を最小限に抑える放出方向の確定。
想定される衝撃、そしてテスカの攻撃によるそれも組み込んだ演算、周囲の地盤の固定。
本来乱打する
さらに奴の動きを止めるための魔術を少々。どうせ長時間の拘束は出来ねえ、ただ一発をぶち込むためだけの隙を生み出す。
回せ。
回せ。
魔術をひたすらに回し続け、魔法陣を編め。
心臓が、血管が、全ての細胞が跳ねまわる。
鼓動の度に魔力があふれ出す。
今まで一度だって使ったことはない、これほどまでの魔力は。少しでも気を抜けば暴発してしまいそうな魔力たちを、ただひたすらに編み続けた。
そうして、最後の一枚が叩き割られる。
「
地面を這い現れる無数の光鎖が男の四肢に絡みついた。
一本でも巨龍をねじ伏せてしまえる代物だ、それが四本。しかしオレにはそれが長く通用しないと理解できていた。
「……ほう、悍ましいほどの魔力だ」
だが男は動かない。
目元を細め、口角を吊り上げている。
「撃ってみよ、セラフィリア」
危険を感じていないのか?
いや、感じてなおそれを正面から受ける精神的余裕がある。
男にとって戦いとは凄惨で陰湿なものではないのだ。
戦闘狂ともまた違う。
テスカは、他の魔人族と比べただ純粋であった。
ただただ至高の戦闘を求める。結果的に死すとも、それは求めた先の至福の末に過ぎないのだろう。
イカレてるぜお前。
「――
光線が解き放たれた。
眩い光線は集約に集約を重ねなお巨大。反動すらなくただ指向性に特化された破滅の輝きがオレの杖先から放たれ――男に直撃した。
余波によって背後の岩盤が塵と化していく。
文字通り、破壊音すら生み出すことなく全てがえぐり抜かれ――百メートルよりはるかに先、生まれた大穴から星空が垣間見えた。
「――見事」
肩を
直径数メートルの貫通した岩盤の先、太陽と見まごう輝きが余韻を残して消えていく。
「げほっ……!!」
ごぼり、と血の塊が喉奥からせり上がり、地面に零れ落ちた。
超高範囲の探索魔術、多重の防御魔術、周囲の地盤の固定、確実を得るための拘束魔術、そして即興の集約魔術。
学院の時の比ではないほどの魔力負荷、流石にあの杖でも反動は抑えきれなかったらしい。
ここまでだ。
ここまでしてなお――男は、立っている。こちらへ、歩み寄っている。
えぐり抜かれた拳ほどの傷口は決して小さいとは言えない、だが込められた魔力からすればあまりに小さいと言わざるを得ない。
……あ゛ぁくそっ、マジかよ。
土壇場での発動とはいえ上級クラスの、それもさらに束ねた集約魔術だぞ。
「……もし貴様が健康体であれば、『ルーク・スタンレイ』すらをも超えたかもしれぬ」
両膝をつき、荒い息をして崩れたオレを見下ろすようにテスカが呟く。
なんで生きてんだよこいつ、意味わっかんねえ。
「実に残念だ、セラフィリア」
呼吸が落ち着かず、反動に思考がまとまらない。
魔力を操れない。
せめて地下でなければ。
王都の中心でなければ。
せめて荒野であれば。
存在しえぬ仮定が脳裏を過る。
そうはならなかった、ただそれだけのこと。
かろうじて生み出した薄い障壁。しかし男の斬撃は減速すらせずそれを叩き割り――
「――セラフィ!」
「――お兄さまっ!!」
オレの身体が誰かに抱きかかえられ……蒼白の大剣が真っ向から攻撃を受け止めた。