学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
「――セラフィ!」
死の直前、振りかざされた剣を真正面から受け止めた大剣。
男の表情に歓びが浮かぶ。
現れた二人は互いに頷き、それぞれ異なる方向へと正面を向けた。
「ラミュエルさん、後ろへ退きますわ!」
鍔迫り合いをしながらもラミュエルが頷き、オレの身体を軽々と抱きかかえ飛び退くカメリア。
本来は迷路染みた下水道。
しかし今は戦いの余波によって大半の壁が砕け散り、もはやただの広い空間と化している。
幸か不幸か、テスカから距離を取るのに苦労することはない。
曲芸染みた動きで雑多な瓦礫の上を飛び越えながら距離を取ったカメリアは、怪物二人が斬り合う場から数十メートルほど距離を取ったそこでオレを壁にもたれさせた。
「また、無理をしましたのね」
「してない……けほっ」
彼女が額に皺をよせ、青い瞳に心配と少しの不満の色を浮かべる。
つい反論を浮かべるも、魔力の負荷から喉がもつれ咳ばかりが漏れる。
「
「……しらない」
突然ポップしたバケモノです。
オレはキモキモ触手マンを尋問していただけなのに……!!
「全て知っていたのでしょう?」
「……ううん」
いやホンマに。
いきなり生えてきたんすよこのムキムキで異常に強いおっさん。
なにあれ? いつからこの王都は世紀末になったの?
「っ、貴女はいつも否定ばっかり! 嘘おっしゃい!」
えぇ!?
「ではなぜ貴女が行く先々で戦いが起こりますの!? それも皆飛びぬけた猛者ばかりで……っ!!」
「……わかんない」
逆にオレが聞きてえよォ!!
ロイドさんはなんか拍手しながら出てきたし、カズィクルはド級の雑魚してたらいきなり飛び出してきたし、テスカはなんか突然生えてきたし!!
魔人族っていつもそうですね……! 人類のことなんだと思ってるんですか!?
「……何も話してくれませんのね」
「話すことなんて、ない」
「そう、ですのね」
カメリアが俯き、オレの両手をぎゅっと握り黙り込む。
ふぃ~、どうやらやっと納得してくれたみたいだぜ。
一から十まで全部本当だからな、これ以上何か言ってみろと言われても言うことがねえんだワ。
そうして全身を走る痛みに耐え目を瞑っていると、連続して全身を突き抜ける衝撃波につい顔をしかめる。
どうやら鍔迫り合いから本格的に切り合いが始まったらしい。
こんだけ離れているのに余波が伝わる、それも轟音と共にだなんて素敵すぎて涙が出そうだ。
……しゃーねえ、崩落されても困るし連中の周りに結界でも張りに行きますか。
いつの間にかオレを背から抱きしめていたカメリアを押しのけ……押しのけ……!!
むっ、あっ、ちょっと力つよい……!
すみません、あの、少し離してもらってもいいですか……!?
「セラフィ……!」
「このままだと……崩落する」
「しかしっ、その体でっ!!」
どうにもカメリアが離してくれない。しかし何もしないわけにもいかねえ、このままでは頭の遥か高い場所、王都がまるっと陥没しかねんからな。
仕方ないので転移しつつ、バトってる二人を取り囲むように結界を二重で張る。
「わっ、わたくしも加勢しますわっ!」
カメリアが剣を片手に勢いづく。
しかしその手を押し返すように、一人の少女が駆け寄り柄へと手のひらを重ねた。
「ダメだ、カメリアさん」
クリスだ。
どうやら逸ったカメリアやラミュエルが先行し、彼女は後からやってきたらしい。
「ティーナの言う通りね❤ むしろ貴女が出たらあの子の邪魔になるだけよ❤」
「!?」
ぬるっ、と。
背後から怪物が現れた。
うわぁ!?!??!?!?!?!?!!? バケモノ!?!?!?!?!?!??!!?
……あ、あの店長か……びっくりしすぎて心臓止まるかと思った……!!
すわ新たな魔人族かと思いきやあのメイド喫茶の店長だった、横にはメイド服のままのクリスもいる。
ついでと言わんばかりに小脇には気絶したイクルも抱えられていた、口の端から汁を垂らしいまだにビクビク痙攣している。
お前……そういやオレから離れたらヤバいんだったか。
存在まるっと忘れてたわ。
「……また、随分と重体みたいね❤ こちらに来てちょうだい?」
店長がじっとりとした目つきでオレを嘗め回すように見てから笑みを浮かべた。
え、いやです。
全然、いやマジで。
「遠慮なんてしちゃダ~メ❤」
してません。
ほんとうにいいです。
やめろにじり寄って近づくなっ!!!!
「捕まえたわ❤ もう安心してちょうだい❤ カンペキに
ひぃぃぃいぃぃ!?!?
あっ、回復魔術で癒される……!! 癒されてるはずなのに穢されてる気がする……!!
心が二つある~~!!!!!
「……ボク達程度じゃラミュエルちゃんの邪魔になるだけだよ」
「わたくしは……っ!! ……そんなこと、分かっていますわ」
.
.
.
「――お兄様を傷付けた罪っ! その頭蓋骨で払ってもらうぜ!」
「雰囲気が変わったな、あるいは其れが素か?」
激しい斬撃の応酬。
常人であれば容易く二等分されるであろう猛撃だが、互いに余裕を持ちつつ口論も挟まる。
「ところで『お兄様』とはなんだ? セラフィリアのことか?」
「薄汚え口でお兄様の名前を呼ぶんじゃねえボケ!!」
「……姉妹、ということで良いのか?」
ラミュエルが肩に大剣を抱え、テスカが片手で低く構える。
わずかな静寂、互いに互いの隙を狙う無言の時間。
しかしそう時を待たずして――ほぼ同時に二人の姿が
「おらァッ!!」
「ふんッ!」
暗闇の中に二対の閃光が駆け巡り火花が飛び散る。
鍔迫り合いの押し合い、膂力は――拮抗。
打ち合いの激しい余波によって地下には烈風が吹きすさんだ。
あのラミュを相手に力で拮抗するテスカの異常性。
あるいはテスカを相手に耐えるラミュの異常性を語るべきか。
しかし愉悦に口角を上げるテスカ、怒りに眉を吊り上げるラミュエル。両者の表情は実に対照的であった。
「見事だ! その矮躯に似合わぬ膂力、正確無比な剣術、よくぞその歳でこの領域まで至った!」
「口調がくせェんだよボケッ!! イラつくぜ、うちのカス親父を見てるみたいでよォ!!!」
男の言葉を無視して獣のように斬りかかるラミュエル。
超質量の大剣と破壊的な膂力から解き放たれる目にもとまらぬ斬撃、男によって捌かれ逸らされたその攻撃は、結界による衝撃吸収を受けてなお恐ろしい勢いで石造りの地下の姿を崩していく。
武器の質、そして質量差は歴然。
ラミュエルの魔力を受け輝く大剣に比べ、テスカの握る聖剣の輝きはあまりに鈍く、その身の厚みはひどく頼りがない。
しかし男は決して委縮することがなかった。激しく火花を散らし打ち合いながらも、剣にかかる負荷を徹底的に流すことで対等に渡り合っている。
膂力は拮抗、武器はラミュの格上、しかし剣術は男の勝利、といったところか。
このレベルになると剣術という話で済ませていいのやら、もはやただの破壊同士の衝突と天災に近い。
「まずい……」
熱の入った二人の攻撃はさらに勢いを増していく。
残った壁や天井を蹴りえぐり抜き、互いに立体的な機動で駆け抜け、切り結ぶ。
もはや誰にもその戦闘に介入など出来ない。この場にいる誰もがただ冷や汗を垂らし、身を縮こませオレの張る結界の裏へと身を隠していた。
や、やべえ……!!
このままじゃ余波で崩落してオレらが生き埋めになるぞ!?
カメリアに再び捕獲されながらオレは半泣きだった。
大怪獣大戦だった。それでいて互いにまだ全力を出していないとばかりに、どんどん破壊の規模が上がっていくのが恐ろしかった。
どうにか杖を抱え結界を張るも、どちらかが跳躍し蹴り飛ばす度穴が開く。周囲に被害を出さないためだけに必死だ。
「下らねえ斬り合いはもう十分だ、さっさと終わらせようぜ筋肉ダルマァッ!!」
「奇遇だな、我も同じことを考えていたッ! 見せよ貴様の力をッ!」
ヤバイヤバイヤバイヤバイ!
なんか互いにハァ~~!! とか言って力高めてる! なにそのよくわからない溜め!?
やめて! なんかよくわからないパワー高めないでっ!? お前らの全力で王都がヤバい!!!!!!
「――『破天』」
「ふっ……『鏖刃阿修羅』」
バチバチと、二人の剣から膨大な紫電の走りだの良くわからん炎っぽいオーラだのがあふれ出し、
当然その余波は遠く離れたオレ達にも届いている。もし結界や防御魔術を解けば一瞬でオレ達は丸焦げになっているだろう。
「あわ……あわ……」
なにアレ……なにアレ!?
うわああああああああああああああ!!!!
ダメそう!!!! なんかもう色々ダメそう!!!!!!!!!
終わりだった。
世紀末だった。
多重の結界越しにオレはじっくり炙られながら気絶しそうなまま小さく泡を吹いた。
「おらあああッ!!!!!! くたばれボケェッ!!!!!!」
「ハアアアアッ!!!」
くたばっちゃう!
オレ達がくたばっちゃうよォ!! というかオレが死んだらあれ? 結界とか全部解けるから王都も消し飛ばねえか!?
ああ! この国の中心が全部消し飛んじゃう!!!!!
「セラフィ……っ!」
「……っ」
カメリアがぎゅっとオレを覆い尽くす。
オレもぎゅっとカメリアに抱き着く。
意味はない。意味はないが、やらないと普通にもう限界だった。
ㅤ拝啓、ガキの頃死んで顔も覚えてねえお母様とくそったれのゴミカス親父。
ㅤオレは今から、突然生えてきたよく分からんおっさんのよくわからんパワーと、最強の妹によるイカレたよくわからんパワーの奔流に巻き込まれて死にます。
ㅤこんなことになるなら寮でダラダラしておけばよかった、ゴロゴロと怠惰に毎日を過ごしていればよかった!!!!!!!!!!!!!!
ㅤ敬具。
ㅤPS、これから王都滅ぶね。
ㅤどうしてこうなった♪
テスカ達は互いの剣を天へと突きあげ――――
バギィンッ!!!!!!!!
――猛烈な音を上げ『聖剣』が砕け散った。