学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
煌々と輝く二対の剣が振り上げられ……度重なる衝突のダメージ、そしてトドメとばかりの魔力負荷に耐え切れず『聖剣』が砕け散った。
そして唯一武器を振り下ろしたのは――ラミュエルだった。
「オラァッ!!」
爆裂な暴風が吹き荒れる。
太陽と見紛うほどの絶え間ない閃光が、日差しのない地下一帯を照らした。
二人の衝突から生み出されるはずであった衝撃波、しかしラミュ単体なら……っ!
学院での決闘、そしてカズィクル戦でラミュは『破天』を使っている。
威力はけた違いだがその特性は既知のものであった。
オレは周囲に散る結界の残滓をつなぎ止め、さらに強固なものを生み出し――その余波を内へと完全に抑え込んだ。
「終わり……ましたの……?」
「流石『勇者』候補だね……相変わらず凄まじい戦いぶりだよ」
「……うん」
いまだ余波で紫電が空間を駆け巡る中、結界裏に隠れていたオレ達は互いに顔を見合わせ……張っていた息を漏らした。
勝敗を分けたのは武器の差。
相手がどれだけの格であろうと、それに見合わぬ粗悪な武器であれば十全な力など発揮されない。
それすら覆してしまいそうな相手ではあったけれど、どうやら幸いにして必殺の一撃は通用したようだ。
周囲はもはや溶岩の海、融けた岩盤がテロテロと天井から零れ落ちてくる地獄絵図。
オレ達は皆次第に緊張から緩み、互いにそのムチャクチャさに笑みを浮かべ――
「――実に素晴らしい大剣だ。近くで見ればこそ、なお思う。雑じりのない純粋なアダマンタイトによる大剣とはな」
『っ!?』
熱気に歪む陽炎の中、ラミュエルの大剣を片手で受け止め――その手のひらからわずかな血の雫が零れる。
傷跡はただそれだけ。
オレがえぐり抜いた拳大の肩の傷を除き、男の肉体に痣すら一つも存在しない。
うそやん。
ラミュエルが全身に力を籠め大剣を押し込むがその切っ先が進むことはない。
融けた地面に男の脚がわずかに沈み込み……止まった。
「これほどの量を一体どこで手に入れた? どう加工した? 生まれて千年ばかし経つ我とてこれほどの逸品を見たことはない」
輝く大剣を間近で眺める男。
ラミュエルは緊張に汗を垂らしながら男の言葉に反応し――ごく一瞬、ちらりと横へ視線を向けた。
「そうか」
ヒュイッ!?
ぁえ!? っ、なんでェ!?
なんであの突然生えてきたおっさんこっちガン見してんの!?
「実に……実に満足だ。『ルーク』をこの手で殺した時以来か……もう二度とあの歓びを得ることはないと思っていた」
すっかり干からびた……いや、それどころか融けた水路に柄を放り投げ男が言う。
「今はまだ未熟、されど歳はあやつを遥かに凌いでいる。ああ、これが待つ歓びという奴か。なるほど、これ良いものだなルーク」
ゆっくりとラミュエルの大剣から手を離す男。
その立ち姿に闘気の気配はない、戦闘意欲はすっかり落ち着いたようだ。
お、おお……!!
なんか助かりそう! わーい!!!!
カメリアに半泣きで抱き着きながら内心ガッツポーズ。
いきなり生えてきて暴れ出した時は本気で終わったと思ったが、世の中ってのは何でもうまく出来ているもんだのだ。
幸福と不幸は実にバランスよくやってくる、糾える縄のごときとはまさにこのことである。
果たしてこれを福と呼んでいいのか、災いの比率があまりにデカすぎる気がしないわけでもないが、そこをついてしまえばオレの精神が崩壊しかねないので黙っておこう。
「おい娘、名は?」
「……ラミュエル・スタンレイ」
「やはり、ルークの娘か。貴様
しかし聞き覚えのない名をさも当然のように語る突然生えてきたおっさん。
誰だよルーク。
突然生えてきたおっさんは突然生えてきた設定まで語るのか……?
したり顔で頷くテスカにラミュエルも、そして遠くで聞いていたオレも内心、ハぁ? って感じで首をかしげる。
しかし口に出してまた妙なことになったら嫌なのでそのまま黙っていた、オレはかしこいので。
そうして勝手に満足した巨大なおっさんは何か魔道具らしきものを取り出し、空間に出てきた時と同じ裂け目を生み出す。
ようやくのご帰宅らしい。
二度と来るなバーカバーカ!!
へっ、まあ次バトる時はぶち殺してやるよォ! この最強のラミュエルさんがなァ!!
あっ、オレはいいですぅ……へへ、ちょっと地面の砂粒数えるのに忙しいので……テメエらは勝手に戦ってろ!!
「次の戦いも愉しみにしているぞ。ラミュエル」
のしのしと男が裂け目へ進んでいく。
ㅤ……ふぅ、どうやら一旦は落ち着いたみてえだな。
ㅤ色々どうなるのかと不安だったが、どうにかオレの負荷以外ほぼ全員ノーダメージで終わった。
オレがぶち抜いた穴以外地上へのダメージもないとなれば、まあ上々だろう。
「そして……セラフィリア。いや、セラフィリア・スタンレイ。
「ピェ……!?」
ひゅっ、と喉が鳴った。
あっ!? えっ!? なんで!?
オレを巻き込まないで! 今完全にお前ら二人で宿敵と主人公みたいな雰囲気出してたじゃーんっ!!
オレはただのモブだったじゃーん!! というかなんか苗字までバレてる!!!!!!!
テスカが肩の傷へ手を当てる。
拳大にがっぽりとえぐり抜かれた傷口は痛々しいものではあるが、しかし既に血は治まりつつあった。
あんな傷オレだったら出血多量で普通にお陀仏だというのに、魔人族って奴らはどいつもこいつも回復能力がやたらと高くて困る。
「初めてだぞ、我が
ギンギンに高ぶった目つきでオレをちらりと見るテスカ。
「帝国は荒野が多い……分かるだろう?」
なにが!?
「貴様、まだ魔力に余裕があるのだろう? あれだけの魔術を連続で展開してなおそれほどまで、無尽蔵かと見紛うほどだ」
そ、そりゃ……あ、あるけど……いや魔力に余裕あるからってお前と戦う訳ねえだろボケ!
命何個あっても足りねえよ!
「次こそは貴様の本気を見せよ――セラフィリア・スタンレイ」
そうして男は消えていった。
……え?
うそ、ですよね? なんで!? なんであんなねっちょりオレ意識してんの!?
「……っ」
オレは両腕を抱いてしゃがみ込んだ。
ど、どうしてこんなことに……!?
カワイイ女の子の休日だったじゃん……!! ちょっと腕がもぎられそうになってたけど、振り回されながらメイドカフェ行くだけの楽しい一日だったじゃん……!!
なんで!? なんで突然生えてきたおっさんに突然生えてきた設定語られてねっちょり執着されてんの!? どういうこと!? どういうフラグを踏んだらこんなルートに行くことになるの!?
「セラフィ!? やっぱりまだ体調が……!!」
「……だいじょうぶ」
体調とかじゃないんです……!
あ、ああ……でもなんか気分も悪くなってきた……お、おなか痛い……こわいよぉ……!!
「またそうやって……!!」
カメリアがオレの腕を握りながら何か言いかけたその時だった。
「お待ちくださいテスカ様っ!? お、俺も一緒に……!!」
べちゃっ、といつの間にか消えていたはずの触手マンが現れた。
閉ざされかけた裂け目へ慌てて駆け寄る触手マン、どうやら見えないどこかであの戦いをオレ達のように静観していたようだ。
よく見ると余波で焼かれたのだろう、いくつかの下半身の触手は焼け焦げている。まああの大災害の中で死んでいないだけ幸運だろうか。
というかまだいたんだ。
すっかりお前の存在忘れてたわ、お前が自分で切った下半身向こうの方で燃え上がってるぞ。
片膝をついたラミュも、カメリアも、当然後ろで静観していた店長やクリスも、え? 誰? みたいな空気を醸し出している。
そうか、こいつらはこいつの存在知らねえのか。まあ突然生えてきたおっさんの前座みたいな奴だったしな、ラミュが合流する前にぶっ飛ばしちまってたし。
なんかめっちゃ気まずい雰囲気の中、名も知らぬ触手マンは地面に転がった元聖剣の柄を思い出したかのように拾い上げ――鋭くこちらを睨みつけ叫んだ。
「お前だけは許さねえ……クリスティーナァッ!!」
「えっ!? えっ!? ぼっ、ボク!?!?!? というか誰!? なんでその名前知ってんの!?」
「殺す……今度会ったときは必ず細切れにして殺してやるぞッ!!!!!!! クリスティーナァッ!!!!!!!!!!!!」