学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
「ふぁあ……」
のびーっとベッドの上で全身をのば……ぬぉっ!? ヤベっ、脚攣るッ!?!?
「ふぅ……」
全身を縮めこませて五秒、祈っているとどうにかふくらはぎの痙攣が落ち着いたのでゆっくり立ち上がり、少しだけ伸ばしてストレッチをする。
あ、あぶねぇ……今日結構歩いたの忘れてたぜ。
一応お風呂でほぐしたがまだ甘かったか。
オレは冷や汗をにじませながらゆるゆるとベッドに座り込み空を眺めた。
突然現れたおっさんとの大怪獣バトルを終わらせ数時間、オレはようやく寮の自室に戻ることが出来た。
地上に転移した時はヤバかったね。なにせ衝撃が地上まで伝わっていたようで、誰もかれもがいったいなにが起こっているのかとパニックが起こっていた。
そりゃもう、徹底的にこそこそとオレ達は逃げ帰ったものだ。
最後の馬車にギリ間に合って良かったわ。
目覚めたイクルに背負われて走ってもらわなかったら、危うく王都から数時間かけて歩くハメになるところだった。
戦闘後にそれは流石に死んでしまうな。
「この先どうするつもりだ」
「っ、イクル……」
気が付くと窓際に腰かけ、片足に肘をついたイクルがこちらを眺めていた。
お前気配なさすぎだろ、全然気付かんかったわ。
というかお前それ……かっこいいじゃん。
そのポーズオレのだ……カズィクルに次いでお前もオレからミステリアスクール系キャラを取ろうってのかっ!? お前は盗人なのかぇ!?
「テスカのことだ」
「……どうしたらいいか、正直わからない」
……せっかく考えないようにしてたのに!!
なんでお前はッ! 一々いやなことを思い出させるんだよォ!!
「……イクルは、あれが何者か知ってる?」
「そうか、貴様らは奴の名を知らぬか」
そもそも人類的に魔人族の大半は滅んでる扱いだったわけで。
ククク……あいつは四天王の中でも最弱……とか言われたらマジで泣く。
なんであんなヤバい奴が名前も知られてねえんだよ! 突然そこらにポップするの世界のバグだろ! 明日までに修正お願いしますね?
「おそらく交戦した相手は全員奴に殺されたのだろう、あれは戦いに狂っているからな。かつての大戦時は敵味方関係なく斬りかかり鏖殺を繰り返したと聞いている」
淡々と語るイクル。
テスカは魔人族でも相当に有名な奴らしい……イカレポンチの最強脳筋野郎として。
「『
ククク……あいつは魔人族の中でも最強……! ん? ……え? 出会った相手を全員ぶっ殺した!?!?!?
ば、ば、バケモノじゃん……!? え? オレそんな奴に目つけられたの??????
戦闘の時点で規模がヤバすぎて危険な匂いがぷんすこしていたわけだが、奴のことを多少は知っているらしい魔人族からしてやべえ奴扱いと聞いて、流石にオレの背中もじっとりべちょべちょになる。
雑魚のイクルはともかく、まあまあ強かったあの触手マンもテスカが現れた時点でビビっていたわけで……ね?
あれ?
終わった?
もしかしてオレ詰んだ?
ただ休日に遊びに出かけただけでなんかもう色々全部崩壊した!? そんなことある!?
「手が震えておるぞ」
「…………気の、せい」
びっ、びびびっ、ビビってねえし!? 煽ってんのか殺すぞ!
テメエは狙われてねえから余裕ぶっこいてんのァ!? アァン!?
うぇぇん怖いよォ……!!
オレはベッドの上で布団にくるまり、頭だけを出して小さく唸った。
どうしてこうなったのか。
オレはただ人生を怠惰に過ごしたいだけだったのに、学院で適当にゲームしながら過ごして卒業して、後はなんかこう……いい感じに人生を過ごす予定だったのに。
入学してからというものこれっぽっちもいいことがない、もしかしてこの国は呪われているのではないのか?
あっ、冷静に考えたらそもそも人生でいいことあんまなかったわ! ガハハ!
……ちょっとオレの人生、余りに運がなさすぎるのでは?
テスカとの交戦時も思ったけどマジで開運のために旅に出るべきなのでは? なんかこう、いい感じにご利益ありそうな土地めぐるべきでは?
……ありだな! めっちゃ採用です!
「行くしか、ないか」
オレのクソみたいな人生をまるっと解決、名付けて超幸福ハッピー★ハッピードチャクソ幸運あげみ旅行!
オカルトの類は一ミリも信じちゃいねえオレだが、時にそういうものにすがってやるのもいいじゃあないか!
そしてバチクソにあげ散らかして幸運でテスカをこう……いい感じに……する!!!!!
かっ、完璧だ……!
完璧すぎる……隙がどこにも見当たらねえぞ!? どんな知性してたらこんだけ完璧な案を出せるんだ!?
余りに天才が過ぎるだろ……!!
「なに?」
オレのふと出たつぶやきにやたらとイクルが食いついてきた。
多分オレをまた煽れると思ってのことだろう、生粋の煽りカスである。
隙を見せればその態度とはなんて恥ずかしい奴なんだ……他人を煽って喜ぶなんて、オレはそんなひどいこと決してしないというのに。
「……なんでもない」
ぷいっと目線を逸らして追撃を回避、討論の基本は相手の流れに乗らないことなのだ。
オレは布団をひっかぶったまま寝ころび、今さっき頭の中に過った考えへと思案を巡らせた。
開運旅行、これはアツいぞ。
有名なのは極東の『神社』だけど……流石に遠すぎるし船とか乗らないといけないしな、というか酔って地獄を見るのが目に見えている。
近くだと……やっぱ『聖国』か? あそこなら往復でのんびり旅しても一ヵ月くらいだし。
え、めっちゃ良くね?
今すぐにでも行くしかなくね?
聖国は三大国家だし宗教国家だから大人しい奴ばっかで治安もいいし、神聖名乗ってるから超ご利益ありそうじゃね?
――そうだ、聖国行こう。勉強なんてしてる場合じゃねえ!!
お金はどうにかして用意する。大丈夫、既に間違いなく儲かる完璧な方法はオレの灰色の脳みそ内に思い浮かんでいる。
「貴様、それで良いのか?」
「なにが?」
「ふん……もういい」
イクルが窓から飛び降り――影が空へと昇っていく。
どうやら屋上に飛んでいったらしい……あいつ空飛べたんだ、ちっせえ羽だから無理だと思ってたわ。
「よいしょ」
オレはテーブル脇にあったショルダーバッグへと手を伸ばす。
こいつはカメリアから貰ったマジックバッグ、容積としてはデカいボストン程度はある。
しかしオレの今立てる計画からすればあまりに小さい。
なので――
「ふむふむ……なるほど……」
内部に魔力を送り込み構造の把握を始める。
実家にはいっぱいあったマジックバッグだが、逆にあり過ぎて解析などしたことがなかった。
空間の拡張をしているのはなんとなく知っているが、時空間系の魔術は基本出回っている情報が少ないのもあってなかなかどうして手を出しづらい。
その必要もなかったのであまり積極的にやってこなかったのだが。
オレはカズィクルからパチ……勝利し手に入れたタリスマンもついでに取り出し魔力を流す。
このタリスマンには確認できたうえで二つの魔術が付与されている。
一つは周囲の魔力吸収し魔石を作る魔術、そしてもう一つは――転移門を開く時空間魔術だ。
「共通する魔術式は……なるほど……」
インビジブルアイ上に二つの魔道具へ付与された魔法陣、さらにそこへ刻まれた式が浮かび上がっていく。
魔術は高難度の物ほど複雑化していく傾向にあるが、しかし根本の技術は同じだ。
そして基本的な話として、魔力量に比例して規模が大きくなっていくという点がある。
よって同系列の魔術に共通する変数を弄ることによって、あまり詳しくない魔術であっても多少の調整は可能なのだ。
……まあ失敗したら爆発したりするんだけど。
一応複製自体はもう創造魔術で出来るからセーフってことにならんか?
ベースの魔術は王国式だな、これなら解読は――
「……セラフィ、なにをしていますの?」
「っ!? カメリア!?」
ンへひょっ!?
集中していたその時、突如背後から声を掛けられた。
どうやらカメリアが相変わらずの鍛錬から帰って来たらしい、あんだけの騒動があったってのにご苦労様なことである。
オレは大慌てでテーブルの上のバッグだとかタリスマンだとかを抱きかかえ、服の下へとせわしなく押し込んでいく。
カメリアは顔をしかめこちらへずんずこと歩み寄ってきた。
「……悩みがあるのなら、何でもお聞きしますわ」
「大丈夫」
へ、へへ……あっぶねぇ。
あっ! いや何もないっスよ、マジでマジで!
「っ、そう……ですのね……あまり夜更かしはせずおやすみなさいませ」
「うん」
おやすみなさい。
カメリアは一言だけ残し、少し暗い顔のまま自分のベッドへと潜り込んでいく。
オレは冷や汗を垂らししばらくそのままで固まり、カメリアが寝息を立てているのを確認してからテーブルの上へと魔道具たちを並べ直した。
あっぶねぇ~!
貰ったクソ高ェ魔道具ぶち壊すかもしれねえ魔改造してるとか、バレたらガチで何言われるか分かんねえからな!!