学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
「っ、これはっ!?」
どさどさっ、と簀巻きの人々が大量に現れたと同時、周囲が途端にざわつき始めた。
もちろんオレの内心もざわざわである。ざわざわというか焦りでじりじりというか、わちゃわちゃというかもう無茶苦茶であった。
なにこれ!?
「っ、セラフィこれは一体」
少し焦った顔でこちらに視線を向けるアル様だがオレが聞きたい。
誰!? 誰なの!? ねえ誰なのこの人たち怖いよォ!!!!!!!
「……分かりません」
「そんな訳がないでしょう、貴女が取り出したのよ」
あかん、アル様にバチクソ詰められてる。
というか周囲のざわめきが止まらない、うるさすぎて逆に冷静になってきた。おめえら騎士なんだからもう少し冷静になれやオレが騒げないでしょうがッ!!!
「これは……自分の物ではないので」
貴女の物かしら? なんて言いながら渡してきたのそっちですよね?
オレは自分の物なんて一言も言ってないぞ!
騒ぎの中オレは手にした鍵をじっと見つめる。
現場に残されていた魔道具、高い耐久性、そして間違いなくオレや知り合いのではないであろう点、そして――おおよそ二十人ほどの突如現れた人たち。
……ふっ、読めたぜ。
こいつらは――
「この人たちは、魔人ぞ――」
「奴らによって拉致されていた者であろう」
『!!』
オレの言葉に被せるようにイクルが全部言ってしまった。
おい! テメエ! 今オレがかっこよく真実を詳らかにするターンだったでしょうが!!
「なんだ唇を尖らせて」
「……ン別に」
オレの視線に気づき眉をひそめるイクル。
……べっつにぃ?
全然気にしてないけどォ?
……オレが思うにあの触手マン、自分で切り倒した下半身のポケットにでもこの鍵を入れていたんじゃないだろうか。
こっちをぶっ殺した後で回収でもすればいいと思ったのだろう。しかしテスカが突如生え暴れ出し、周囲は崩壊融解まさしく全壊ってなわけで、あいつも自分の身を守るのに精いっぱいだった。
戦闘がひと段落付き命からがら逃げ――そして焼けて消し飛んだ下半身のあった場所にこいつが残っていたってワケ。
そういうことですよねぇイクルさん!! ぺっ!!!!!!!!!!
「あの場には、もう一人いました。皆が来る前に、倒して……」
「確か報告では最後、もう一人現れすぐテスカと撤退したとあったわね。そう、貴女が事前に交戦していたとのであれば……なるほど」
納得したように頷くアル様。
「やはり全て察した上で救出に向かったのね、危険を顧みずに貴女という子は」
「…………はい」
深々と相槌を打つオレ。
「実に見事な働きだわ、流石ね」
……!!
ふふん、なに当然のことですよ! なにせ? オレは? 最強だしぃ?
まあちょっとさらわれた人を救いに行くことなんてお茶の子さいさいというかぁ? ま、ちょちょいのちょいでしたよね!
周囲の騎士たちから敬意交じりの視線がオレへと集中する。
すさまじい勢いで高まっていく自己肯定感に胸を張っていたオレだったが、しかし、簀巻きにされた人々のうめき声が次第に強くなったことで空気が変わった。
「ごめんなさいね、もう少し話していたいところだったけれど……」
アル様が視線を向けたと同時、騎士の一部が被害者たちの元へと駆け寄った。
「大広間を簡易的な医療所としましょう、騎士団や王城内の回復魔術に心得がある者を全員呼び寄せなさい。それと宮廷魔術師達にも声掛けを、なにか未知の魔術が掛けられている可能性があるわ」
見たところ皆呼吸をしている。
件の戦いから二週間、本来であれば飲み食いなしの人間など死んでいてもおかしいのだが……皆無事のようだ。
どうやら閉じ込められていたあの鍵、あるいは空間では時間が止まっていたのか、何らかの魔術効果によって健康が保たれていたらしい。
オレはアル様に頷き一歩下がった。
もはやお話などと言っていられる状況ではない。
彼らの保護、治療、そして事情聴取で忙しくなるはず。まあ要するにテメエは邪魔だから帰れってことです、帰りまーす。
「そうね……あれを持って来てちょうだい。とりあえず――セラフィ、手土産として五百もあれば一旦は十分かしら?」
意味深にアル様がオレへ視線を向ける。
なにが?
「え? あ……はい」
「ふふ、もちろん次ぎ会う時はちゃんと用意しておくわ」
「あ、それなら――」
丁度お祓い旅行行きたくてたまんなかったんだよね。
オレはアル様にお願いを伝えたのち、イクルを引き連れすごすごと謁見の間を出た。
◇
「本当に末恐ろしい子」
白の少女が去り、騎士たちの多くが突如現れた民の対処にあわただしく動く中、アルゴニアスは感嘆と――僅かな畏怖を入り交じらせた声で呟いた。
初めは偶然の出会い、久方ぶりに寄った母校で倒れていた彼女を見つけた。
底の見えない膨大な魔力に驚かされ、次は急襲した魔人族との戦いで操った魔術の途方もなさに内心唖然とし、さらにはその魔人族を絆し――ついには安寧たる王都の裏で蠢いていた策略すら未然に防ぐとは。
一を聞き十を知る、まさに王国興って以来の麒麟児といえるだろう。
あの細身の体にどれだけの叡智と思慮が詰まっているというのか。
彼女が悪しきを挫き弱気を救う真の善性を持って生まれた、やはりこれは実に幸運であったと言わざるを得ない。
「そうは思わないかしら? ねえ――
「……ああ」
一人が謁見の間へと足を踏み入れた。
大柄、筋肉質の男である。彼の姿を見ればたとえ常人であったとしても、並々ならぬ人物であることはうかがえよう。
「
アルベール・ド・ラ・オリヴィエーヌ。
王都にてしがないメイドカフェを開く彼は、その経歴を買われかつてアルゴニアスの回復魔術の師を務めていた過去がある。
関係は良好、時にお忍びで店に現れるアルゴニアスは既にお気に入りの少女について語っていた。
「ふふ、お眼鏡にはかかったかしら?」
「……突如崩落したその時ですらあの子はティーカップを離さなかったよ、まるで全てが読めていたかのようにね」
「ああ、そういえばその件についての報告は?」
「既に受けている」
奇妙な出来事であった。
王都の地下には百メートル近い巨大な岩盤が存在する。さらにその下にはるか昔に作られた水道などが存在するとはいえ、まず真っすぐ地下まで落ちるような穴など存在するはずがない。
アルベールによって事件が報告された直後、真っ先に調査されたのはセラフィリアが落下した穴であった。
「掘削の痕跡、それも魔力の残留があるまだ出来てそう時間が経っていないものだと」
「ええ、件の二人目の魔人族が堀った物だと考えて間違いはないでしょうね」
絶対的な安全を誇るであろう地下からの襲撃、それもアルベールの店舗――そう、聖国より移り住んだ元聖騎士団長である彼の店の真下などまずあり得ぬ事態。
「近頃聖国では随分と情勢の変化がみられるようね」
「……穏健派の失墜、長く外交に関わっていた大使の変更、そして――ついには娘からの返信も途絶えた」
深々とため息を漏らすアルゴニアス。
本来であればこのような場所で話す内容ではないものの、相手が相手だ。それに何よりこの気苦労を溢さずにはいられなかった。
「先ほどの魔道具……いえ、魔石のこともね」
「ああ」
セラフィリアが魔石を作り出したアレにアルゴニアスには覚えがあった。
学院での一件で事前にセラフィリアが回収していた魔道具のはずだ、戦闘のいざこざで行方不明になったとばかり考えていたが……どうやら彼女がいつの間にか回収していたらしい。
しかし問題はそこではない。
多くの魔石を使う魔道具は魔石の装着部に余裕がある、あるいは挟み込むなどの形式になっており、様々な大きさに対応している、
しかしこの度見つかった魔道具には生み出した魔石がぴったりと嵌った、それも全く別の魔人族が持っていた魔道具によって生み出された魔石が。
これが示す事実とは――規格の統一。
恐ろしい事実だ。
規格の統一とは非常に手間のかかる行為、よほど必要がない限り行われることはない。ましてや魔道具の類など。
「……もしかしたら魔人族は既に、想像以上に組織的な行動をしているかもしれない」
よほど必要がない限り行われない、つまりその必要があるということ。
数十や数百などの小規模と考えるのは無理があるだろう。万か、それ以上……最悪、国の単位か。
魔石の件、そして聖国の好ましくない変化、さらにアルゴニアスが抱えるいくつかの情報。
それぞれは一見別件に思える。しかし明らかになる情報それぞれを照らし合わされた結果見えてくる、最悪の結論。
「――聖国は既に、魔人族の手に堕ちているかもしれないわ」
それはいささか飛躍しすぎた結論にも思えた。
聖国はかつて聖者と呼ばれ、初代勇者と肩を並べ戦った男が興した国だ。
帝国、王国と並び三大国家に数えられるかの国は王国に次いで安定した治安を持ち、現在でも王国との間に多くの人間の往来を保っている。
しかし、アルゴニアスには確信があった。
直感などというあいまいなものではない。一つの事実故に。
『あ、それなら――しばらく、休学したい、です。その……聖国に行くので』
この場を去る際、セラフィリアが聖国へ向かうと宣言した。
あまり多くを語らない少女だ。しかし、この短い間に数々の魔人族との事件を事前に察知、まるで全てを理解しているかのように行動、阻止した少女が、だ。
故に確信した。
聖国には何かがある。
魔人族に関係し、そしてアルゴニアスですら見通せない重大な事件が。
既に彼女は――セラフィリア・スタンレイはすべてを理解し行動している。いったいどこまでを見通せば彼女は満足するのであろうか。
憂慮は……あった。セラフィリアはおそらく一人で問題を解決しようとしている、国家規模での問題を一人で解決など凡人であれば絵空事と笑われてしまうだろう。
しかしアルゴニアスが彼女に事情を聴き大々的に動けばそれは内政干渉、侵略とみなされ大きな争いに繋がりかねない。
今は少女の報告を待つべきだろう。
既に三つの、うち二つは王都、あるいは王国そのものの壊滅にすらつながる重大な事件を未然に、いとも容易く解決してみせた、あの白の少女の報告を。
「……歯がゆいわね」
「こちらでもいくつか伝手を当たろう」
「そうね……」
確信がある。あの少女は間違いなく問題を解決するだろうという強い確信が。
これは勇者の血が成せる業なのか、それとも血筋などに囚われぬ少女自ら持ちえた非凡なる才故か。
しかしだからといって、重大な懸念事項を前にただ手をこまねいていられるほど、アルゴニアスは楽観主義に浸れはしなかった。
表立っての支援は不可能、とはいえ一切なにも出来ぬわけでもない。
まずは少女へ渡す『褒賞』の増額、そしてようやく届いた追加の『杖』、そして陰からの補助であれば大ごとにはなるまい。
可能な限りの支援を続けるべきだろう。それが国益、ひいては人類の利益につながるのだから。
「横の魔人族の少女は?」
今後について思考を巡らせるアルゴニアスへ、アルベールが一つの疑問を投げかけた。
イクルの正体を彼はまだ知らない。しかし魔人族なのは一目瞭然、何かしらの情報は握っているのかもしれないとのことだろう。
アルゴニアス自身その可能性を考慮し彼女を連れてくるよう指示したのだが……小さく首を振った。
「彼女はどうやらあまり知らないようね、元々高飛車な性格上周囲から距離を取られ孤立気味だったみたい。記憶の限りでも周囲に威嚇と嘲笑ばかり、おそらくまともに情報共有などされていなかったのではないかしら?」
アルゴニアスは一つ、事実を伝えるべきか悩みちらりと視線を横へ向ける。
そして少しためらうように何度か口を開きかけ……ようやくそれを口にした。
「むしろ彼女は……下水道で拾ってきたナメクジのことばかり考えていたわ、昔飼っていたヒルによく似ているみたい」
「……そうか」