学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
目覚めるとオレは部屋にいた。
上体を起こそうとするも走る激痛、どうやら筋肉痛やらなんやらでまともに体は動きそうにもない。
ベッドの中で見上げた天井、視界の端に映る空は星を湛えている。
「よかった、目を覚ましましたのね」
主犯の登場です。
まるで犠牲者のツラをして両手を胸の前に合わせ、うるうると目を潤ませていやがるこの女こそ、オレが気絶してベッドの中にぶち込まれる原因となったカメリアさんだ。
「あれから一日中寝込んでいましたのよ、治療は済んだのになかなか起きないから心配しましたわ」
オレの手を掴み上げにっこりと微笑むオーガ。
治療……?
まさか、か、回復術師まで呼びやがったのか!?
回復術師ってのは扱える奴が少ねえ。
魔術の大半は知識と技術でどうとでもなるが、回復魔術だけは『才能』って奴が必要なもんで、才能アンチ派であるこのオレをもってしても習得できなかった。
故に! 業腹だがオレもたまに世話になるのだが!! とにかく高え!!
あいつら絶対自分達の希少性理解してボってやがるだろ! ちょいとした診察一回でフルプライズ一本分持ってかれるの意味わかんねえって!
そして俺が気絶している間に呼ばれたということは、当然その金を払ったのはこの目の前のカメリア嬢に違いない。
くっ、業腹だが今回は支払うしかねえ。
「……おかね」
恐る恐る探ったオレへカメリアはやたらと大げさな身振りを取る。
「そんなもの大したものではありませんわ!」
「いい、の?」
「貴女から貰うなんて!」
お、おお?
なんだよ気前いいじゃねえか! さすが辺境伯のご令嬢だぜ!
金なんて無限に湧き出てただの金属くずにしかならねえってかぁ!?
へへ、ほなそのおありがてえ御威光を頂くとしますか!
いやぁ、これがトモダチってヤツだ――
「これ、もありますもの。わたくしたち
ぽん、と壁に立てかけられたレイピアを叩くカメリア。
それはオレが無理矢理廃棄させようと押し付けたゴミだ、一日たってなおまだ捨てずに持っていやがったらしい。
それどころかレザーで拵えられた無駄にご立派な鞘まで作られていやがる。クソほど簡素でデザインもへったくれもねえ剣に対して、これでもかと華美な装飾の鞘はオークに真珠。
まるでオレへ見せつけるようなド派手なデザインは嫌がらせ以外の何物でもない。
や、野郎……! お友達を強調しやがって!
やっぱりそう簡単に行くわけがねえと思ってたわ!
そんなあからさまに恩を押し付けていったいオレに何をさせようってんだ、金ならねえぞ! 肉体労働だってできやしねえからな!
理解すると先ほどから微笑んでいるカメリアの顔が悪魔に見えてきた。
オレはとんでもねえ策士に捕まっちまったのかもしれねえ、このまま内臓もがれてトばされねえよな……?
お、オレの内臓は貧弱だぜ? 揚げ物なんて一口でもたれちまう、冷たいもの食べたらすぐお腹痛くなっちゃうんだからな!?
戦々恐々とするオレはぎゅ、と毛布を握りしめるも、その時タイミングの悪いことに腹が鳴り始めた。
「……!」
「ふふ、長く寝ていましたものね。だいじょうぶ、軽いお野菜のスープとパンを用意してもらってますわ」
くっ。
なんだその顔は! ガキを見るような目でオレを
熱くなる顔を布団で隠そうと引っ張るも無理だった。
布団重すぎだろッ! 反省しろッ!
「さ、起きれるかしら?」
気が付くとカメリアがオレの背中を押してきた。
筋肉痛に顔をゆがめながら起き上がると、彼女は横のテーブルを引っ張り、並べられていたスープやパンが姿を現す。
魔術で温められたスープからはもうもうと湯気が上がっていた。
ふ、ふーん?
な、中々いい匂いするじゃん?
まあ? まあ? 食べろって言うならぁ? 食べてやってもいいけど?
「さ、わたくしがお口に運んで差し上げますわ」
「……ありがとう」
他人に介護されるなど恥だが、今日、この全身筋肉痛まみれの身体なら仕方がねえ。
オレは渋々カメリアによって口元へスープが運ばれるのを大人しく受け入れた。
ほう……おお!
中々濃い目なスープじゃねえか!
これこれ! これくらい味濃いほうがいいんだよ!
「ふふ、食べやすいように優しい味に仕上げてもらいましたの。お気に召したなら幸いですわ」
これが優しい味とか普段からどんだけ濃い味食ってんだよ!
これだから現代人は! 健康もっと意識しろよな!
へへ、にしても今日は腹が減ってるからいくらでも食えるぜ! おらどんどんメシくれや!
三十秒に一口くらいの勢いでスープを口に運んでもらっていると、カメリアは小さくつぶやいた。
「とても、小食ですのね」
貴様ーっ! オレを愚弄する気かぁっ!!
めっちゃ食ってるやろがい! いつもの二倍くらい早く食ってるやろがい!!
爆食暴食牛飲馬食やろがいッ!!
しれっとオレのごきげんな食事にケチをつけてきやがったので、オレは渋々自分でパンを掴み上げ豪快にかぶりついた。
くく、この手のひら大のパンも今なら半分くらいは食えそうな気分だぜ。
食って食って食いまくり、この調子なら筋肉痛も一週間もすれば完治できそうだな!
.
.
.
「おなかいっぱい」
おなか痛い……食べ過ぎた……。
「もう大丈夫ですの?」
カメリアの言葉に必死にこくこくとうなづく。
これ以上食物を摂取した瞬間、オレの身体は踏みつけられた水風船のようにはじけ飛んでしまうに違いない。
お前がオレを拷問する気がないならこのお盆は片づけな!
「明日の授業はいかがいたしますの?」
「……でる」
出たくはねえけどな!
オレは体が雑魚だ。
ちょっとしたことで熱が出るし、簡単にケガをしちまう。
それはつまりひょんなことで休む回数が嵩んじまう、当然あまりにも休み過ぎる人間はさすがに学院を追い出されかねない。
ま、お貴族様ならつながりだの金だのでどうとでもなるんだろうけどな。
あいにく実家はオレに金なんてまともに出す気はない、そんな延命措置染みたことなどしてくれやしないだろう。
なにせあいつらは勇者候補の妹ちゃんにお熱だからな。
「でも明日は戦闘実習ですのよ? あまり無理をしないほうが」
あっ、やっべ。
そうか一日寝てたからもう明日かよ!
彼女の言葉でオレはすっかり忘れていた記憶を取り戻した。
やはり箔付の学院と言えどもとは戦闘員の教習所、当然勉学だけではなく魔術の訓練、そして戦闘を実践で行う実習が存在する。
おおよそ月に一度ほどだろうか? 低学年は学院がいくつか所有し、モンスターが存在する平原や森などの野外で指定されたモンスターを倒したりなどがあるのだ。
ちなみにオレ達は入学して一か月ほど。
そう、つまり初めてのだいぼーけん、って奴だ。
ちっ、よりによって明日かよ。
こんなクソ体調悪いってのに戦闘だぁ?
「……これを受け取ってくださいまし」
突如カメリアが部屋着のポケットを漁ると、彼女はやたらと凝った銀細工のネックレスを取り出してきた。
え?
なにこれ? 呪いのネックレス?
「何かあったら必ず駆け付けますわ」
抵抗むなしく――そもそも腕がまともに動かねえ――彼女はオレの首へとネックレスを無理矢理かけてきた。
まあ多少魔力は感じるが害のありそうなものではないので、オレはあきらめてそれを受け入れる。
そんなのより明日の対策だ。
いや待て、確かクラスメイト四、五人でパーティ組むんだったよな?
よし決めた、明日は連中に戦わせよう。
むしろ下手な授業より楽なんじゃねえか?
そりゃまあ多少は歩くだろうけどよ、オレ達は可愛い可愛い一年生だぜ? まさか地獄の山野を散策なんてしねえだろうさ!
ワハハ!
百億パーセント完璧な作戦じゃねえか、勝ったなこりゃぁ!