学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
時刻は夕暮れ。
夕日のさして王都の端いとちこうなりたるにといった頃合い。
ようやく目前にまで迫った馬車小屋を視界に映し、安堵の表情がついつい顔に浮かぶ。
「へひ……へひ……」
いっけなぁ~い! 遅刻遅刻ぅ~!
オレの名前はセラフィリア・スタンレイ十五歳! 王都を探せばどこにでもいる十メートルも走れば息が切れる普通の女の子!
少し変わったところといえば行く先々でよくわからん魔人族に襲われるコト……かな?
「馬車……おくれりゅ……!!」
おぇっ……走り過ぎて気持ち悪い……!
のろのろと亀のごとき超爆速での移動をしていたオレを、夕暮れの陽に傘を差した大きな影が覆い尽くした。
「――おい」
「……イクル」
頭上より高いところでぱたぱたと羽を動かし飛ぶイクル。
「先ほど我の元へあの教師が現れた、呪術の制限を緩め貴様との同行を不要にするとな」
彼女は日傘を差したままオレを見下すかのような目線を投げかけた。
「貴様の差し金だろうセラフィリア・スタンレイ」
「……そうだけど」
はい! 良かれと思って!!
どうやら彼女に呪術を掛けた人、イェナ先生と接触したのちすぐに飛んで来らしい。
というのもイクルの言う通りで、学院を出る少し前にオレは職員室へ突撃、事情を軽く話しイクルの呪術をある程度解くように伝えたのだ。
なにせオレからちょいとでも離れれば絶叫、悶え苦しむような呪いを掛けられているのだ。放置して聖国になんて向かったら明日からこいつは奇怪な絶叫する芋虫の仲間入りをすることになるだろう。
そんな哀れで無様な姿をさらすのは……まあ別に正直どうでもいいけど、一応気を回してあげたってワケ。
うーん流石オレ! 煽りカスのクソガキにすら気を回すとは、慈悲が服を着て歩いていると言われるだけはある!
これもう国家単位で表彰されてもいいだろ……!!
「はっ、実に下らぬことを。聖国に向かう際に邪魔になるとでも考えたか!!」
しかしオレの慈愛を突き返す阿呆が一匹、目の前を飛ぶデケェカトンボである。
それどころか何故か怒り心頭、随分と顔をしかめてぐちぐちと文句を次々に口にしていく。
「どうしてそれを……!?」
こいつ……オレの心を読んで……!?
その通り! イクルちゃんは賢いねぇ~! セラフィリアちゃんポイントを753点あげよう!
「我の五感を侮るなよ。部屋を出た後のあの嫌味ったらしい人の姫共の会話を聞き、そして何より貴様の行動を見ていればどれだけ愚鈍であっても理解できるわ」
鼻を鳴らし腕を組むイクルの発言にオレは内心驚愕と冷や汗を垂らす。
あっ、アル様!?
ちょっと待って、もしかして王城から出た後オレ何か言われてたの!? もしかしてイクル邪魔くせえなとか内心考えてたこと見通されてた!?
え、マジならめっちゃ鬱なんだけど……そんなふわっと考えてることまで見通されてるとかもう『詰み』じゃん。
次顔合わせるのこえぇ~!!!
「貴様のその貧相な肉体、まさかそれで単身聖国に乗り込むつもりか? クク……大方旅の途中で果てるのが運命だ、聖都の礼拝堂すら拝めぬであろうよ」
「そんなこと……ないもん……」
「ならばなんだその荒げた息は、今にも倒れそうではないか!」
そこまで弱くねえよ!!!!!
ただちょっと走ったから疲れてて……ほんのちょっとだけ、すこし息がひゅーひゅーするだけだし!
まだ全然余裕で十メートルくらい走れるんだが!?
「自分一人が行けば良いと思っているのか? それで何か改善するとでも?」
「……なる」
「はん、これはとんだ愚かな夢想家がいたものだ! 貴様の愚鈍を書き連ねれば本一冊の余白でも足らぬであろうよ!」
口角を吊り上げ嘲るように鼻を鳴らすイクル。
あまりにもあまりな言われようだった。
開運旅行は割とポピュラーな部類だと思うのだが、どうやら魔人族的感性からすればとてつもなく愚かな行動らしい。
オレはとっても悲しい気持ちになった……しくしく。
そんなに言わなくてもいいじゃん……ただ開運旅行へ行くだけなのに……!!
というかさぁ……
「イクル、降りて……お願い」
いつまで見上げさせるつもりだ!
いい加減地面に降りてこいやボケ! 首が限界なんですお願いしますっ!!
「――それは我が魔族であるからか?」
は? なにが?
「我が魔族故に遠ざけんと言うのか? 貴様一人だけが行けばいいと、我を関わらせんと言いたいのか!? あまり我を侮るなよセラフィリア・スタンレイッ!!」
気が付けばイクルはオレの目前に降り立っていた。
真紅の目を大きく見開き、さらには口の牙を剥きだし怒声を上げる彼女。
「……さぁ?」
なんの話何の話なんのはなし!? めっちゃキレるやんごめんなさい!?
そっ、そんなに!? 地面降りるだけでそんなに怒ることだったのォ!?
あっでも降りてきてくれてありがとうございます!!
「貴様……っ!」
突如ワシっとオレの胸元が掴み上げられ猛烈に熱い目つきで睨みつけられた。
ひぃっ! ごめんなさい!!
「貴様はっ! 貴様は……っ、我には理解できぬ、貴様の考えが……」
オレもっ!(緊急同調)
なんでお前そんなキレてんだよ!!
「何故……なぜそこまでして一人で聖国に向かう?」
「……必要だから」
ドチャクソ開運してハピハピセラフィにならないと、このままじゃオレの運は一生ゴミカスのままでしょうが!
この先毎月のようにバカ強魔人族と戦ってたらオレのか弱い身体がべきゃべきゃにひしゃげるぞこの野郎!!
一生食って掛かってくるイクルを横目にちらりと彼女の後ろへ視線を向ける。
馬車だ。どうやら既に乗客を乗せ始めているらしい、もう今すぐにでも行きますよとばかりに馬がボフボフ鼻息を上げていやがる。
これを逃せば次は一週間後だ、流石にそんなちんたら待ってなんていられない。ただでさえめんどくせえカメリアを振り切ってきたんだ、戻ったら何言われるかなんてわかったもんじゃねえぞ。
「待て貴様っ! まだ話はっ」
ヒャアもう我慢できねえ! ガン無視だァッ!!
オレはイクルの横をすり抜け駆け出そうと構え――
「!? かっ……かえしてっ」
オレのバッグが突如として奪い去られた。
「ふん!」
イクルはパタパタと空を舞いオレの頭上高くまで飛びあがる。
何度かジャンプしてみたものの足先にすら手が届かない。
そのバッグだけはまずい! アル様から貰ったものだし、冥龍の杖わくわく四本セットも入ってるし、なによりPON! とくれた金貨千枚がたんまりとつまっている!
これからの旅行で必要不可欠なんじゃ!
や、やろうぶち殺してルルァ!!!
一瞬頭にきて羽を打ち抜いて叩き落としてやろうかとも思ったが、流石に知り合いにまでそれをする勇気はない。
しかし躊躇すればするほどイクルはより高くにまで飛び、ついには馬車小屋の上に足を組んで座り込み、こちらへ見せつけるようにフリフリとそれを揺らした。
「我を連れていくと頷け、さすればこれを返してやろうセラフィリア・スタンレイ!」
バッグを天へ高々と突きあげ宣言するクソガ鬼。
どうやら結局のところただ自分も旅行に行きたかっただけらしい……しゃべり方と言い一々やたら回りくどい奴だな! 最初からそう言えよ! まあ言っても絶対連れて行かなかったけどなバーカバーカ!
目線が上へ下へと繰り返し行き来。
迫る定刻、周囲を見回す御者がオレを見つけじぃとこちらを見ている。
選択肢は……なかった。
本日の消費、追加で一金貨確定であった。