学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
魔力によって変質した魔獣、これが生み出す力はやはり並みの馬の比にならない、
例えば飼い慣らされた魔獣によって生み出される馬車の平均時速はおよそ六十キロほど、無理をして飛ばせば百キロ近く出ることもある。
もちろんあくまで整備された街道を走る場合の話であり、足元の悪い荒野、山岳などを超える場合であれば時速は大きく落ちることとなるだろう。
とにかく転移魔術や帝国などで使われていると噂される『車』、『鉄道』を除けば馬車というのは最速の移動方法であり、順当にいけば聖国まで数日もかからず行くことが出来る。
金貨一枚は大変高価ではあるものの、その間の安全性の保障などを考えれば致し方のない経費であるともいえた。
「……おい」
うんうん、致し方ない致し方ない!
旅の間暇だからごろごろしてるのも、ベッドに寝っ転がってゲームをしているのもぜーんぶ仕方なし!
面倒な勉強も運動もせずひたすらぬぼっとゲームをしてても何も言われない、最アンド高が過ぎるがこれもまた……オレが素晴らしい人間だから!
ㅤしかしオレの平穏を邪魔するガキが一人、イクルである。
「おい、いつまで寝ているつもりだ!」
「……ねてない。平和を、謳歌してる」
「平和だと?」
この馬車、外見こそただの馬車だがどうやら空間拡張の魔術が掛けられているようで、中に入ってみればいくつもの部屋へつながる扉があった。
当然中もかなりゆったりと広め、オレとイクルが両手を広げても寝転がれるほどデカいベッド、二人掛けのソファにテーブル、さらにシャワーまでついていやがるものだから至れり尽くせり。
流石庶民の一ヵ月の稼ぎが吹き飛ぶだけはある、食事ももちろんついているのでもうここで暮らせる。
金貨一枚だすえ~!! もっと贅沢させるえ~~!! クク……金ならいくらでもあるぞえ~~!
金さ!! 金さえありゃ何でも手に入る!!
全てがまさに極上、こんなところでゴロゴロしてゲームしていられることを平和と言わずして、いったい何を平和というのか。
……実はさらに金貨十枚、二十枚コースとかあったが、ちょっと高すぎてドン引いたのでスルーしたのは内緒だけど。
「……イクルは、平和は嫌い?」
「なに?」
「戦いなんて……なければいい」
オレはこの先愛と勇気と金と経済力に物を言わせて自由を謳歌する、ラブアンドピースの化身!
学院に入ってからというものしばし遅れを取りましたが、今や巻き返しの時です!
ようやく始まるぞ……オレのゴロゴロクソニート生活~まともな生活に戻ろうとしてももう遅い~が……!!
しかしここでベッドに寝転がるオレを見下ろし鼻で笑うイクル。
「フン、これだから貴様は実に下らぬのだ! 力だ! 力こそが全て、力さえあればすべてをねじ伏せることが出来る! そうして我々は人類を叩き伏せ世界を手に入れるっ!」
や、野郎……オレのカス引きこもり生活を下らねえだとォ……!?
おぉん?
ㅤ最近余裕が出てきて調子に乗ってんなこいつ……開運旅行にも無理やり着いてきやがったし。
カスみたいな脳筋発言を続けるイクルを目前に、オレはぺろりと舌を舐めた。
ㅤそろそろ
「それで?」
「……なに?」
かかったな。
眉をひそめるイクルにオレは内心ほくそ笑む。
「人類を滅ぼして、その先は?」
「ふん、当然だろう! 我々こそが真なる人類であると繁栄を謳歌し――」
「それで? その先は?」
「……はぁ?」
「その先は? さらにその先、そのさらに先は?」
イクルが黙りこみ顎へと手を当てた。
目線が右往左往、なにやらいろいろ考えているようだ。
まあこの回答に答えてもまた次は? を連呼するだけなので全部無駄なんですけどね(笑)
ただ質問を続けて論理的矛盾をぶん殴る、イクルは死ぬ。完全な永久機関が完成しちまったなァ~~!!
だがこの程度で満足、出来ませんよねぇ? オレにたてついたことを完璧な理論でブチ潰してやらねえとよォ!!
「第一その繁栄って、人類を滅ぼさないといけない、の?」
「……なに?」
「結局人も、魔人も、求めてるものは……平和じゃないの? 互いが滅ぶリスクを考えてまで、戦う必要はあるの?」
オレの決め台詞は見事に命中、イクルはすっかり黙りこみうつむいてしまった。
はい三十秒黙ったからオレの勝ち~!!
討論クソザコクソガ鬼の負け~~!! べろべろべ~!!
はぁ~ザッコ!討論ざっこ!!! そんなスカスカの理屈で人類攻撃するとか馬鹿なんでちゅか~??
「だが貴様も魔術を操り争う、同じ穴の狢ではないか」
「……襲われるから、仕方ない。本当は、こんなこと……」
どいつもこいつも躾のなってない獣みてえに襲い掛かってきやがってよォ! めんどくせえしうぜえったらありゃしないぜ!
まあ知性が知性、それも仕方ねェか……!!
所詮魔人族は先の討論の敗北者じゃけぇ……!
「襲わなければ、魔人族は平穏に暮らせると思うのか?」
「……きっと」
「種族の特性はどうなる?ㅤ我らは血を喰らわねばならぬ、そう生まれた故に。それを忌み嫌い排斥したのは貴様ら人類ではないか!」
「それは……」
そっ、そうなの? 魔人族ってそもそも何なのか知らないんスけど、そんな流れだったの!?
ㅤあっ、な……っ!? 知らない情報がどんどん出てくる……こんなのボクのデータに無いぞ!?
ㅤなんだ……このオレが押されて……!?
「都合が悪くなれば口を噤むな貴様は!」
討論に必要なのは正しい情報ではない、それっぽく正しそうなことを勢いよく言い切る力である。
この点でオレは今完全に押されていた。
ㅤ何だこのイクルの討論力は!?
ㅤバカな……こんなのボクのデータにないぞ!?
「……分からない」
「そう、分からぬのだ!ㅤ貴様ら人間内でも啀み合い争い合っているというのに、魔人と人とが共に平穏を過ごせる未来など! 第一魔人族という名も貴様らがつけたものであろうが!!」
え!? そうなの!? そんなの知らないよぉ!!
オレが名付けたわけじゃないもん!
ㅤつ、つええ……!! こいつ討論の天才かよォ!?ㅤこんなの……こんなの僕のデータにないぞ!?!?
敗北の兆しというものはいつでも明確なものだ。
言葉を詰まらせ次何を言えばいいのか思い浮かばなくなった瞬間、オレの口はまるで石にでもなったかのように重くなっていく。
「……それでも、きっと」
「はっ、なにがきっと、だ!ㅤ下らぬ、理想論を並べ立てるだけなら幼子でも出来るであろうが!ㅤセラフィリアよ、現実を知らぬ愚かな人の子よ!ㅤ数多いる人と魔人の偏見と怨嗟の歴史を貴様一人でどう収めるつもりだ!ㅤ具体策を述べてみよ!」
「ほゎ……」
ㅤこ、こいつ……ちょっと賢そうなこと言い出しやがった……!
ㅤ具体策だとォ!?ㅤそんなんある訳ねえだろボケ!!ㅤというかなんでオレがやる前提やねんアホか!
ㅤこちとら体力ゴミカスのクソザコガガンボやぞ!ㅤんな事したら血反吐吐いて全身から変な音たてながら爆散するわ!!!
完全なる敗北へと追い込まれたオレ。
しかし必死に考え込んだその時、一縷の望み、論理の根底から打ち崩す一手が脳裏へ溢れる。
――奥義、有耶無耶に誤魔化す――
「一人なら分からない……でも、イクル。貴女がいる」
「なに、我が……?」
ビシッと指差し、突然の発言に目を丸くするイクル。
ㅤオレは特に何もしないけどお前ならできる!
ㅤまあお前みたいなヒョロザコクソガ鬼には逆立ちしても無理だろうけど!
ㅤこの先の未来は君の目で確かめてくれ!
「分かる、はず」
なにが分かるのかはオレにも分からんけど。
「何がだ!」
知らん。
「貴女はもう、本当は理解してるはず……イクル、そうでしょ?」
ここで余裕のある笑みを浮かべ、オレは毛布の中へと潜り込んだ。
なんの話だ? なんて言われたらもう返す言葉もございません、適当に言ってんだから分かるわけねえだろボケ!
ふっ。
今回の討論はまあ、オレのま――引き分け、ということにしといてやろう。
あえて、ね。
オレはベッドの中で小さく泣きながら縮こまって目を瞑った。
負けてないから。
最後に発言したのはオレだから負けてないもんね!!