学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
オレの完璧大勝利で終わったレスバ大会から多分大体おおよそ一日が経った……気がする。
わからん、外とかあんま見てないし……おなか空いたら適当にパン食べてあとはずっとゴロゴロしてたから、何ならシャワーも結局浴びてない。
まあでも多分そろそろ聖国の端っこ辺りにはたどり着いたんとちゃう? なんかたまに見える村とかの建物の雰囲気ちょっと違うし。
イクルさん?
イクルさんならなんかずっとデケぇソファに座り込んでるよ、話しかけても反応鈍いしなにしてんだろうね? やっぱ寿命長いと時間間隔とか狂うんスかね?
そのうち自認『木』とかになってそう。
まあそんなこんなでまたのそのそと起きたオレはテーブルの側に立ち、半分残していたパンをちぎって食っていたのだが……妙な違和感に気付いた。
違和感というかめっちゃ車内揺れとる。
「……イクル、気付いてる?」
「む、何がだ」
「……そう」
え? オレちゃんの気のせい?
めっちゃ揺れてない? 絶対揺れてるよね!? うぉ……なんか気持ち悪くなってきたんだけど……おぇ。
視界はぐるぐる、気分は最底辺のドブカスモード。
オレはふらふらと歩きながらどうにかソファにまでたどり着き、イクルへともたれかかった。
「っ!? なっ!?」
「少しだけ……お願い」
横でごにょごにょとやかましいがこちとら限界を一歩超えた状態、イクルの許可だなんだを取っている余裕なんてない。
ましてやこいつが騒いで体を動かした瞬間――パン、だ。なにがとはいわん、強いて言えば……ゲロですかね?
「――! これはっ! おいセラフィリア・スタンレイ!!」
「分かってる……」
分かった分かった……うんうん……分かったから動かず黙ってろボケカスコラ……!!
おい人の顔をぺちぺちすな……猫のおしりじゃねえんだぞ……!
グロッキ―になり震える体を押さえてもたれかかっていたオレの横で、なにかイクルが大騒ぎを始めた。
来ているだのなんだのと意味の分からんことをごちゃごちゃとやかましい、来てるのは体内の奥底からあふれ出さんとしてる吐き気である。
来てるというか出そう。
それから一分ほど経った頃だった。
馬車の動きが次第に止まり、しかし周囲はやたらと騒がしさに満ちていく。
正直体調不良であまり周囲をそう気にしている余裕もないのだが、バンバンと何かが衝突する音や小さな叫びなど、穏当とはいいがたい音に苛まれてしまえば意識を傾けざるを得ない。
「外、出る」
一歩立ち上がるとふらりと揺れる体。
丁度良く馬車止まったし、様子確認ついでに揺れまくって気分悪いし外の風に当たりに行くか。
もちろんバッグもちゃんと持っていく。この中にはオレちゃんのかわいい可愛い金貨がたんまり詰まっている、おいていくだなんて愚かな行為は決して致しません。
これはぜーんぶわしのじゃ! 誰にも渡さんぞ……!!!
「……待て!」
イクルが背後で叫ぶもオレはガン無視でふらふらと歩き、バッグを片手に部屋から這い出た。
待って吐いたらどうすんねんオォン? 吐いてこのクソほど高級そうなカーペット買い替えとか言われたら、オレは迷わずお前をふんじばって逃げるぞ?
はーきもちわるぅ……頭もなんか痛くなってきた……誰だよ聖国に旅行しようとか言い出した奴、今すぐ出てこいぶん殴ってやる!
馬車の外見からは想像できないほど立派な廊下を超えようやくたどり着いた昇降口。
オレは不快感に小さく顔をしかめながらゆっくりとドアノブをひねり――
「――!?」
馬車をズラリと取り囲んでいた大量の人影に目をひん剥いた。
え!? なっ、なになになんなの!?
「動くなッ! 手をあげろッ!」
はいっ! かわいいおててを上げさせていただきますぅっ!?
いったいどれだけの人数がいるのだろうか。
十や二十では足りないほど、しかも各々が大型のロッドや剣、槍などを構え臨戦態勢の構え。
扉を開けたとたんに目の前に並んでは間違ってもいけない数に、吐き気はどこへやら、オレはドバドバと冷や汗をかきながら大慌てで両手を天へと突きあげた。
「まだ護衛が残っていたとはな……!」
「気を付けろッ! 裏に『奴』が隠れているかもしれん!」
は!? なにが!?
というか誰!? とっ、盗賊!?
なんか口々に警戒しろだの言いながら武器を手にじりじりと近づいてくる連中。
どっ……どうしてこんなことに……!?
おい! 護衛はどうなってんだ護衛は! お前ら禁じられた盗賊行為を平然とやりやがって!
両手を上げながら周囲を見回すもどうやら護衛役らしき連中は全員地面に倒れ伏している。
しかし連中の仲間の一部が彼らを縛り付けているのを見ると、どうやら命を奪うまでには至っていないようだ。
ただの盗賊ではない、何か目的があって動いているのは間違いないだろう。
「『サンクティル』を出せ、さすれば命だけは助けてやろう!」
「しらない……」
「惚けるなッ!!」
ひぃっ!?
誰だよ! ホンマに知らね……知りませぇん!!!!
オレはただの一般通りすがりクール系ミステリアス枠美少女ですぅ!!!!
ついにオレの目前まで近づいてきた男の一人が、槍の先を寝かせオレの頬へと突き付けた。
ぷにぷにとほほをつつかれ、わずかなブレと共に一筋の血が垂れる。
あの……切れてますぅ……!
転移で逃げようかと思ったがまだ杖を握れていない、このままでは反動で逃げる以前に血を吐いて気絶をしかねない。
というかここがどこかも判らない、下手に逃げたところで一生迷子になって終わる未来しか見えなかった。
「既に情報は掴んでいる! アーリからこの馬車に紛れ込んだとな!」
「ぴぇ……」
槍の切っ先でほっぺを
知っているのがさも当然かのような態度を取られるも何も知らない、なにせオレはこの一日馬車の中でずっとゴロゴロしていただけなのだから。
アーリってどこ!? 途中で何回か休憩に止まった村か町のどれか!?
「……待って」
「待たんッ!」
「待てェッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
意味の分からん尋問によってあわや一触即発のその一瞬、馬車の下から一人の女が這い出してきた。
薄汚れたぼろきれの隙間から見える鋭い蒼の瞳、怜悧だが力強い掛け声。
彼女は身にまとったそれを勢いよく投げ捨て――片手剣を握りオレへ武器を突き付けるそいつへと斬りかかった!
「魔人族共よ彼女に手を出すなっ! ただの乗客だっ! はあああっ!!」
銀髪を振り乱しながら剣を振りまわし突撃する女。
「やはりここにいたかサンクティル! 全員武器を構えろッ!」
リーダーらしき人物の掛け声と共に連中が各々の武器を握りしめる。
さらに先ほどまでは人間然としていた彼らの姿がぐにゃりと歪み、異形の肉体が次々に姿を現した。
どうやらあのサンクティルだのと呼ばれた女、魔人族に命を追われオレの馬車の裏に張り付き逃げていたようだ。
……なんちゅー傍迷惑な!!!!!!!
というかもしかして何時間も張り付いてたの? バカ揺れる馬車の裏で!? どんな身体能力してんだよあいつ!
女に意識が向いたことで自由になったオレ、とりあえず胸元から杖を取り出したものの……状況が分からな過ぎてなんだか意気揚々と戦う気にもなれなかった。
激しい剣戟の音が鳴り響く戦場の中、突如として放置されたようなものだからなんだか疎外感が強い。
あのサンクティルなる女もどうやら相当に剣の腕に覚えがあるようで、立ちはだかる魔人族相手にたった一人で抵抗が出来ている。
何故か少しだけ胸を襲う寂寥感、そしてじわじわとやってくるほっぺの痛み。
手で軽く触れると感じる生ぬるい感覚、やはり皮が切れて結構血が出てきてしまっているらしい。
「……いって」
じんじんと痛みの増すほっぺを抑えながら少しだけ涙目で呟く。
くそっ、変な銀髪女のせいで無駄なケガしちまったじゃねえか!
馬車止まっちまったのもあいつのせいだろうし! というか護衛とか全員のされちまってるぞ、もっといい護衛雇えよな!
「だ、だが……!!」
…………あん? 誰だ?
振り返ると小太りのおっさんと、もう一人ボロボロのおっさん。
ボロボロの方は剣を片手にだらだらと腕から血を流している。
オレとおっさんたちの視線が交差した。困惑からおっさんたちの目をガン見すると、何故か二人もオレのことを熱い視線でねめつけるように見てきやがる。
誰? あー……太ってる方はなんか見覚えあんな、この馬車の御者か?
「……おい! 護衛の回収を!」
「ああっ!」
おっさんたちが素早く飛び出し縛られている護衛連中を馬車の中へと引き込んでいく。
瞬く間に救援を終わらせた彼らはオレへコクリと頷き……馬の嘶きと共に猛烈な速度で馬車が発進した。
「このご恩は必ずっ!」
瞬く間に遠くなっていく馬車の姿。
荒野に取り残されたオレと、背後の戦闘。
「ぇ……けほっ、けほっ」
これが返答だとばかりに馬車から巻き上げられた砂埃に零すと、既に残されたのは轍の後だけだった。
は?