学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど   作:IXAハーメルン

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ヤンマーヤ!!!

「足元に気を付けてくれ」

 

 ひょう、と一陣の風が足元を通り抜け、崩れた石片が遥か遠くの下へと転がり落ちていく。

 カランカランという絶望的な音を聞きながらオレは顔を真っ青に染め、こくりと少しだけ頷き半ば絶望しながら必死に背中を石壁へ押し付けた。

 

 足元というか……崖!!!!!!!

 断崖絶壁!!!!!! 一歩でも滑り落ちたら即座にあの世へ一直線みてえな道!!!!

 しんじゃう……死んじゃうよぉ! このまま聖都までたどり着く前に骸をド派手にまろびだすことになっちゃう!!

 

 杖を振るえる手で握りしめながら涙目でぎゅっと下唇を噛むオレ。

 

 落ちても魔術で大丈夫とかそういう話じゃないのである。

 過剰なストレッサーでストレス状態になることによる重大な負荷が問題なのである。

 真横でナイフぶんぶんされてるのに、『間違って刺さったらお医者さんがいるよ!』って言われてるようなものである、つまりそういう話じゃねえだろボケってこと!!!

 

 しかし真の絶望はそこにはない。

 

「はぁ……はぁ……っ」

「また息が切れてきたようだな、大丈夫か?」

 

 ギリギリの崖をどうにか乗り越え息も絶え絶えなオレの背中を、銀髪女、もといサンクティルが撫でながら回復魔術を発動した。

 

 ぐわあああああ! 回復する~~!!! 嫌だぁあああああ!

 

 あたたかな感覚と共にオレの脳内を占める絶望。

 何故癒されたのに絶望してるかって? そりゃ――

 

「立てるか? あと半日も歩けば私の拠点にたどり着ける、崖下の川の麓だ。もう少しだけ頑張ってくれ」

「ぁぅ……」

 

 ――もう三日はこうやって休み無しのぶっ続けで歩かされてるからだよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 睡眠無し! 休憩食事以外ほぼなし! ただひたすらに前へ前へ、地獄のような未舗装の断崖絶壁を歩かされ続けています!

 拷問! あるいは奴隷! たの死い地獄へのお散歩! うつろな目でひたすら歩かされ続けたことがお前にはあんのか! オレはあるよ(笑)

 

「にしてもその体で聖国まで一人でやってくるとは……」

 

 心配げに眉を寄せてサンクティルが呟くが、何様だとその後頭部をはたき飛ばしてやりてえ気分である。

 

 テメエが馬車に張り付いてなけりゃこんな事せずに済んだんですけどねェ!

 だれがただの旅行で断崖絶壁回復魔術で休むことすら許されず歩くこと想定できるんだよ!!

 

 もはや余計なことなど言うことが出来ない。

 疲れただの言ったところで帰ってくるのは回復魔術だけ、後は素晴らしい笑顔でさあ歩こう! と絶望へ戻されるだけ。

 意味が分からない、休憩という概念を馬車の裏に張り付けて忘れてしまったのだろうか。

 

 詰みだ。適当に転移しても迷って死、このイカレポンチの背を追うしかない。

 オレはこの頭のおかしい銀髪女が馬車に張り付いた時点で詰んでいたのだ。

 今できることはただひたすらにゴールへたどり着けるよう祈り、脚をただ動かすことのみ……ゴールがどこにあるのかもわからないけど。

 

 う、うう……どうして……どうしてこんなことに。

 誰だ開運旅行とかバカみてえなこと言い出したアホは!

 オレです……うぅ……バカ……アホ……ゴミムシ……人間未満のカス昆虫……存在全てを許容されない最底辺の雑魚……!!

 

 結界を張っているので即死はないとはいえ落ち着き出来ようもない状況。

 しばらく無言で歩いていたオレ達だったが必然、出来ることと言えば会話くらいしかなくなるというもの。

 

「聖都は……いいところ?」

「っ、ああ」

 

 前を歩くサンクティルがこちらを一瞥し、前へと視線を戻す。

 

「良い所だった、本当に……私はあそこを心の底から愛していたよ」

 

 わずかにつまり、吐き出すように一言。

 

 は? そんだけ? もっとあるだろコミュ障がっ!

 これだから馬車に張り付いてるような奴はだめだな! オレのようにフレンドリーで親近感に溢れる温和な雰囲気の一つでも纏ってみろや!

 

 やれやれと首を振り嘆息、仕方ないのでオレが会話を広げてやることとする。

 

「おすすめのお店、ある? おみやげの」

 

 おみやげ。

 旅行に行った人間は必ずこれを周囲に配らなくてはいけない、もし怠ればリンチに合って殺されるとかつて読んだ本に書いてあった。

 流石に殺されはしないだろうが……今学院にいるカメリア、ラミュエル、どちらもともにほんのりイカレポンチなのは皆さんご存じの事実。流石に何も渡さないと殺されるかもしれない。

 

 ククク……気配りの達人で申し訳ない。

 

「ふっ、気が早いな。だがそうだな……若い子には受けが悪いだろうが、私はチッチョリが好きだ」

「ちっちょ?」

「チッチョリ、だ」

 

 ガチで知らんヤツ来たな。

 

「豚の背脂に塩とスパイスを刷り込んだ、まあよくある珍味の保存食だ。騎士寮の近くに名店があってな、一日の終わりに炙ったこれと酒で一杯やるのがたまらないんだ。よく部下共も集まってきて……」

 

 壁にもたれかかり懐かしそうに天を仰ぐサンクティル。

 もちろん目の前は断崖絶壁、遥か下にバカデカい川が流れている。

 あの、そんな場所で止まらないでもらっていいですか? オレちゃんの脚は恐怖と疲労でプルプルしてるんですよ?

 

 ああ、すこし望郷に浸ってしまった……すまない、なんて苦笑しながらようやく歩き出した彼女。

 その後ろを再びもそもそとついていくオレ。

 

 まあよくわからんが要するにうまいってこと?

 オレには重そうだからまあいらんけど、なんか味濃そうだし運動してるカメリアとか好きなんじゃね?

 

『このチッチョリのバカ濃い味と酒と暴力のマリアージュがたまりませんわ~~!! パクパクですわ~~!!』

 

 とかそんな感じで。

 学院出る前なんかめっちゃ切れてたからな……いい感じのお土産もっていって媚びなくちゃあならないのがオレの大変なところだな。

 

 ラミュ?

 あいつは多分そこらへんで売ってる金ぴかの小さい剣とかで喜ぶだろ。

 

「はやく、買いたいね」

「……ああ、今はまだ遠い未来だがな」

 

 サンクティルがぐっと手を握りしめ祈るようにつぶやく。

 

「この手で必ず勝ち取ってみせるさ――君と一緒に、な」

 

 浸るような穏やかな感情と硬い決意を蒼い瞳に浮かべ、彼女がオレへふと笑いかけた。

 

 ……お前どんだけチッチョリに魂賭けてんだよ! オレそんなにチッチョリにこだわりねえよ!! というかそこまで大好きならもう作れって、どう考えても大して手間かからなそうな珍味じゃねえか!!!!

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