学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
「二度は言わぬ」
イクルの手から零れ落ちた鮮血が形を成し、彼女の身長ほどある大槍へ姿を変える。
「その女を置いて疾く失せろ、今ならば見逃してやろう脆弱なる人間よ」
嘲笑交じりに口角を吊り上げ血槍がひょう、と風切り音を上げた。
イクルの言葉を目を閉じ聞いていたサンクティル。しかしそれが終わったと同時に静かに剣を抜き、淡々とその切っ先をイクルへ向ける。
「私も二度は言わない、今すぐ立ち去れ魔人族。セラフィリアは貴様らのような存在が触れていいほど気安くはないぞ」
一触即発、今にも切り結び合うといった雰囲気の中……オレはサンクティルの背中をちょいちょいとつっつく。
「あの……ちょっと待って……」
どうどう、落ち着いてくださいよお嬢さん。
そこにいるカトンボ野郎は煽りカスのクソゲーマーですけど、決して悪い奴ではない気がしないでもないようなあるような、多分比較的カスなだけのガキですよ。
なんだか分からんが魔人族共に追われていたサンクティルだ、まあ見るからに羽が生えてて口の悪いイクルを怪しむのも仕方がないことではある。
「分かっている、今まで見た中でも相当の実力者だ……油断はしないさ」
ぽんぽんとオレの頭を軽く撫で颯爽と駆け出すサンクティル、後ろから声をかけるも全く聞こえていない。
「彼女に手出しはさせないッ! ハアアアアッ!!」
何もわかっていないのでは? オレは訝しんだ。
勇ましく駆け出すサンクティルの身のこなしは恐ろしいほどに精細だった。
数日間オレと同じく、まともな休息すらなく歩き続けていたとは俄には信じられないほど。
十数メートルの距離を瞬き一度のうちに詰め切った彼女は、銀の髪と刃を振るいイクルへと斬りかかる。
おいおい勘弁してくださいよサンクティルさん!!
ちょっとイクルさんも何とか言ってやってくださいよ! この分からず屋の銀髪に一応我も味方ですの一言くらいさぁ!!!
「屑の血袋如きが不快だな、その鮮血全てを搾り取ってやろうかッ!」
おめーもノリノリでバトってんじゃねえよボケ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
足場の悪さも空を飛べばなんのその、二人は空で、地上で、次々に切り結ぶ場所を変えては互いの武器を激しく叩きつけ合う。
その度にオレの髪が軽く揺れる程度の衝撃波が一帯へ広がる。
投擲されたジャベリンが防御魔術によって防がれてははじけ飛び、散った一部が爆散しては一帯に傷をつけていく。
……魔人族複数人を伸してたサンクティルはともかく、イクルもなかなかやるものである。
破壊規模からしても龍の血を吸っていないカズィクルくんの三割程度はあるのではないだろうか。
それでいてまだ二人とも余裕を見せている、互いに相手の力を探り合っているといった雰囲気だ。
「はぁ……」
どっちかを守る必要はないらしい
オレは防御魔術を構えていた杖を下ろしため息を溢す。
激しい攻防を繰り広げる二人、しかしその身には互いに傷がついていない。
文字通り拮抗した実力とでもいうべきか、よほどの大技でも打ち合わなければ致命傷になることはないだろう。
とりあえず戦いが大規模になる前にいったん終わらせて、冷静に話を――
「不撓の意思を持って我が剣先、その頚堕とさん――『
「はっ、人の意思など矮小なものよ――『ヌメロス・ブラッドジャベリン』」
白銀の輝きと真紅の輝きが互いの手中へと治まっていく。
魔力によって生まれた風のうねりが激しくぶつかり合い、小さな地響きが一帯へ広がった。
怒りと侮蔑、混ざり合った視線のままに二人は大きく一歩を踏み出し――
『なっ!?』
――二人が放った魔術を打ち消し、それぞれ覆うように結界が生まれた。
大規模にするなって言ってんだろボケ!!!!!!!!
このボケカスアホ共がよォ!!! つかここ断崖絶壁だって言ってんだろ、そんな露骨な大技放って道ぶっ壊れたらどうすんねん!!!!!
オレはぷんぷんであった。
おこであった。
イクルはイクルで煽るしそもそも勝手に付いてきて邪魔だし、サンクティルはサンクティルで延々歩かされた恨みがある。
その上アホ共二人が話を聞かずバトり始めるのだからこれはもう激おこであった。
「セラフィリアっ!? 君は下がっていてほしい、ここは危険だっ!!」
「おい! セラフィリア・スタンレイ! この結界をどけろッ!!」
口々に好き勝手言い出す二人。
オレは手の上で杖をぺちぺち叩きつけながら眉をひそめる。
ええい静まれぃ静まれぃ!!
「魔人族に気を許すなっ! 奴らは狡猾で……っ!!」
えぇい!! 静まれぃ静まれぃ!! 静まれぃ!!!
「人間如きが我に歯向かうなど五百年は早いわッ! その喉笛掻き切って久遠に黙らせてくれようぞッ!!」
静ま……
「本性を現したな魔人族ッ! 私達の同胞の恨みを、祖国の恨みをッ!! 貴様らのせいでどれだけの犠牲が……ッ!!」
「はっ、本性? ククッ、本性だと? 貴様らも目障りな虫は潰し殺すであろう? それとも聖国の人間様はウジムシ一匹すらも殺さぬ偽善の者であると嘯くつもりか?」
静まれぃ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「しーっ……」
人差し指を唇に当て一言、ついでに結界へ追加効果を付与。
「――!! ――――!?!?」
「――!?!?」
瞬間、先ほどまで激しく言い合っていた二人の声が一切消え去る。
付与した効果は『沈黙』……とはいっても大したものじゃない、振動が結界の外部へ伝わらないようにしただけだ。
二人は目を丸くしながらどんどんと結界を叩いているが当然そう簡単に壊れるものではない、というかそんな簡単に絶対壊させねえぞ。壊れたら間違いなくクソうるせえのが目に見えてるからな。
「二人とも、落ち着いて?」
無言で騒ぐ二人の前まで歩き、崖を背にオレは仁王立った。
二人の声はこちらからまるきり聞こえないが、もちろんオレの声は聞こえている。
なんならちゃんと聞こえるように増幅してやってる。
ったく、見た目が見るからにガキのイクルはともかく、若いとはいえ少なくとも大人であるはずのサンクティルまでこうとは実に嘆かわしい。
そしてただ開運旅行をしに来ているのにどうしてオレはアホ共二人の仲裁をしているのだろう、本当に悲しい。
「サンクティル」
彼女の蒼い目がオレの視線と交わる。
「イクルは、友達」
多分。
友達って言っていいのかな? なんかクラスメイトが拾ってきて飼わされてるペットみたいなもんだから違うかも……でも便宜上こいつを友達Aと定義しよう。
「イクル」
不満げに紅い目がオレを睨みつける。
「サンクティルは……」
こいつは……なんだ?
なんか馬車に張り付いてた変な人? 案内人?
いやあかんな、変に隙を見せたらレスバでオレが潰された上イクルが襲い掛かるのが目に見えている。
うーん、と両手の人差し指をこめかみに当て思案。
「サンクティルは、きっと――貴女と同じ」
変な出会いをして仕方なしに付き合っているといえばイクルに似てると言えなくもない。
話を聞かねえのもよく似ている。
あかん全然いい感じの言い換えが思い浮かばん。
少しミスったか? と思いつつ二人へ再び視線を向けるとこれが意外なことに二人とも黙り込んでいる。
オレの言葉に納得しているのかは知らんが、少なくとも多少冷静にはなれたようだ。
ゆるゆると結界の『沈黙』を解除。
しかし落ち着いたと思ったイクルがバッと顔を上げたかと思うと、突如として結界に張り付き再び両手でたたき始めた。
「早くこれを解除しろっ!!」
「イクル……あのね」
ちっ、まだンなこと言ってんのかよォ!
まだバトろうってならぷんぷん怒るぞ!!
「違うっ! 後ろだッ!!」
「っ!? セラフィリアッ! 彼女の言う通り結界を張れっ!!」
「ぽぇ!?」
ガゴンッ!!
確かにその音が聞こえた。
同時に背中へ走る衝撃。
「あ……ぇ……?」
落石だ。
上手く纏まらない思考の中次々に転がってくる石たちを見て、それだけを理解した。
足がふらつく。
身体が支えきれなくて、ふらふらと、吸い込まれるように。
「あ」
落ち
評価値が8000いってました
更新遅くなっちゃったんですけどそれでも読んでくれてマヂ感謝