学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
この国における主な移動手段は徒歩か馬車だ。
他国には魔導列車なるものが生まれたって話もあるが、モンスターによって線路が破壊されるなどの問題があり、なかなか簡単に広まらない。
もちろん転移魔術は存在するが魔力の消費が激しい、魔石などの触媒を大量に消耗する都合上、緊急性の高い内容以外で扱われることはまれだ。
つまりどういうことかって?
「……おぉ」
け、ケツも体もすべてが痛ぇ……! 振動で骨まで粉々に砕け散るかと思ったわ!
のそのそと大型の馬車から這い出たオレは、あまりのケツの痛さに内心絶叫しながら地面へと降り立った。
馬車なんてのどかな旅に思えるが、その『馬』ってのは飼い慣らされた魔獣の一種だ。
バカかってほどのパワーでクソデカイ馬車を引っ張り、イカレた速度で大地を駆け抜けるもんだから振動がヤバい。
サスペンション? ンなもん効かねえよ!
おえ、まだ脳みそがシェイクされてる気分だぜ。
震える体で周囲を見回す。
さてはて、今日オレの代わりに戦ってくれる素晴らしきパーティメンバーの諸君はっとォ――
「……あれ?」
だ、誰もいねえ。
事前にちゃんとツラは覚えておいた。
一人はオレをこの前池に叩き込んだあのカス野郎ども二人、それに時々クラスで騒いでるアホ女ども二人だったはず。
だがそのうちの一人足りとて周囲にはいない。
あーくそっ! やられた!
完全においてかれた!
このか弱く繊細なオレがケツの痛みに苦しんでる間に、さっさと馬車を出て連中もう旅立ちやがったぞ!
呆然と立ち尽くすオレ。
何度見まわそうとも現実は変わらない。
……畜生、あいつらいつか覚悟しとけよ!
お前らあまりオレを無礼るなよ? オレが本気になればあれだぞ? 学院消し飛ばせるんだぞ?
無辜なる一般雑魚学生をぶっ殺すわけにもいかねえからしねえけどな? オレの輝かしい慈悲に感涙して土下座して泣きわめけよ!
「うぅ……」
一瞬脳がぽかぽかのアチアチに沸騰しかけたものの、次第に周囲の視線がただ一人で立っているオレへと向いていることに気付き、オレはしなしなと胸元で両手を合わせた。
な、なんだよ! どうして一人でいるんだって言いてえのか? オレが聞きてえよ、どうしてオレ一人でいるんだよ!?
なあ教師の皆さんよォ! あいつら問題児ですよ! どうにか言ってやってくださいよ!
まあ何かしてくれるわけねえんだけど。
この学校にいるような生徒の大半は貴族のボンボンご令嬢、平民出の教師にどうこう出来るわけがねえんだワ。
ふん、権力におもねる雑魚どもめ! 人間の誇りってものが足りねえよお前らには!
……いいもんいいもん。
オレ一人で十分だもん。
むしろ魔道具で底上げしてるような雑魚ばっかり、周りにいたって邪魔なだけだもん!
さっさとモンスターぶっ倒して証拠の魔石を回収!
あとは適当に森の中で結界張ってゲームしてるもんね! は~、この前失敗した工場シミュの再構築でもしちゃおうっかなぁ~!
「いたっ」
みんなの視線から隠れようとこそこそ歩き、横の小道に足を踏み入れたら葉っぱで足を切った。
誰だよこの短いスカートで森の中入れようとする馬鹿野郎は! 森舐めてんじゃねえぞ!?
かぁ~~! この世界はクソだよクソ! どいつもしょうもない奴ばっかりでうんざりだぜ!
.
.
.
「~~♪」
旅立って一時間、オレは大きな岩の上に座ってかすれそうな音量で鼻歌を歌っていた。
随分楽しそうだろ? 実際最高の気分だぜ! なにせ道に迷ってもうどこ行ったらいいのか分かんねえし体力尽きたからな!!
九割九分九厘九毛ヤケクソだよ!
延々続く森の中、もちろん普通の人間なら絶体絶命の危機だろう。
だがオレには魔術がある。水や食料は疲れるが創造することができるし、身の危険は結界で十分。最悪アホほど魔力を使って疲れるが、先ほどの馬車のスポットにまで転移してしまえばどうとでもなる。
とはいえ踏んだり蹴ったりの現状、多少やけっぱちになることぐらい許してもらいたいものだ。
そして数分後、歌うのにも疲れたオレは地面にぐでっと寝転がり、周囲に結界を張ってゲームを始めた。
もうこのまま日が暮れるまでここにいようかな、歩くの疲れるし。
地面は固いけど……まあ耐えられるくらいかな? 馬車よりは百倍マシだし。
夜になっても戻ってこなかったら誰か救援に来るでしょ……くるよね? 信じていいよね? オレちゃんと学院の生徒だもんね?
オレは人間の可能性を信じた。
転移魔術使うのがめんど――何度裏切られようとも信じる、それこそが勇者の心持ちだから!
よって今すべきは工場シミュ。
へへ、この前はうまくいかなかったけど昨日の夜ピカッと閃いちまったんだよ!
排水の処理速度を追いつかせるためにパイプラインを二つ引いてたけど、それを――
とても穏やかな時間だった。授業中もゲームしてるとはいえ、やっぱり周りの存在だったり教師に指される可能性もあって没頭までは出来ねえからな。
音も遮る結界、周囲に木しかない森の深奥はゲームに最適な環境だった。
そして少しのどが渇いたので、杖を取り出したその時。
「おぉ」
なんか結界の周りを巨体がうろついていた。
その名もテラーベア、名の通り超大型のクマ型魔獣だ。
テラーベアは魔獣の中でもとりわけ狂暴で恐れられている存在だ。
熊の膂力、嗅覚がさらに魔力で強化され、その上執着心もマシマシ食欲タカメな怪物は、一度襲われればどこまで逃げようとしつこく追いすがる。
さらには助けようとした人間までエサ認定するもんだから被害の拡大が止まらねえ。
敵なし、要するに森の絶対王者って奴だ。
小さな農村では存在が確認された時点で村の危機、報告されれば領主によって速攻で騎士団が派遣されるだろう。
まさかこの学院所有の森で出てくるなんてな。
話じゃ草食動物型の魔獣しかいないってはずだったが、下手に生徒が出くわしたら間違いなく死者が出るぜ。
オレは周囲の様子を探ろうと結界を弄り、音が素通りできるように杖を振り――
『ウルォオオオオオ!』
『グォォオッ!!』
『ガギャオォッ!!』
『グォォォン!!』
いや多い多い多い多いっ!! 五匹は多いってェ!
え、うそ、森の奥からまだ何匹かこっちに来てない!?
一匹でも大ごとになる魔獣なんですけどォ! 一応森の絶対王者なんですけどォ!? このままじゃ森の相対的市民になっちまうって!
もはや大災害とか暴虐なんていわれる状態だ。
連中オレが気付いた瞬間ばっこんばっこん結界をぶん殴り始めやがった。
なんという既視感だろう、一昨日くらいにも似たようなことがあった気がするぜ!
まあこいつらごときに壊される結界じゃないが、周囲で暴れ来るっていられると集中力が削がれる。
オレは手持ちの杖を胸元から抜き取り、ゆらりと振り払った。
魔獣の特徴はやはり動物のそれを強く残していること、分厚い毛皮と脂肪は衝撃吸収に優れる。
よって魔術の選択肢は物理ではなく属性系、さらに素早い行動を制すことのできる氷属性が最適解。
「――『ブリザードブレス』」
杖を振り下ろした瞬間、オレの結界を中心として極低温の波動が一帯へと広がった。
すべての熱を奪い去る死の抱擁は静かに、そして瞬く間にすべてを凍てつかせる。
これは
周囲にはただ、氷の彫像と静謐だけが残された。
「けほっ」
うるせえからちょっと強めの魔術使ったけどミスったな、魔力使いすぎてちょっと喉いてぇ。
あ、ちょっと血出た。
だがその時だった。
誰もいなかったはずの森の奥からまばらな拍手が鳴り響く。
木々の影から姿を現したその男は己の顔を仮面で隠し、なんとも胡散臭い声色でオレへと語りかけてきた。
「いかがでしたかな? このワタクシのマリオネットたちによる完璧な演武は?」
パキパキと凍った下草を踏みつつ、その突如現れた男は凍り付いたテラーベアを撫でた。
「しかし貴女もなかなかどうして、膨大な魔力を完璧に練り上げた実に素晴らしい魔術でしたァ! だがしかし悲しいかな、たとえ輝かしい勇者の血筋と言えどその幼くか弱い四肢、既に息も絶え絶えじゃあないですかァ!」
顔は見えないがはっきりとわかる、こいつはオレを嘲笑っていると。
つまるところオレを襲ってきたこのクマちゃんたちはこいつが操っていたというわけだ。
……な、なんやこいつうさんくせェ~~~!?!?
今時低年齢向けADVですらこんな分かりやすく悪い奴出てこねえよ! 敵の態度すぎて逆に疑い辛え! でも絶対コイツ敵だろ!
少し観察してみたがオレの超インテリ脳みそが弾き出した計算によると、こいつはろくでもなさそうな奴なので何をしてもいいと判断した。
舐めて寄ってきてる今のうちにぶち込んでおくか。
「『ブリザードブレス』」
「ほぎゃああああああああ!!?」