学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど 作:IXAハーメルン
「んぅ……」
なんか……さむ。
「へくちっ」
寒すぎてサムライになりそうわよ。
異様な寒気に襲われ渋々目を開いたオレは、自分が暗闇の中にいることに気付く。
濡れた体が触れるのは艶やかな石床。しかしそれこそが余計に体から熱を奪い去り、異様な気怠さと頭痛、そして眠気を生み出しているのだろうと理解した。
そして認識した途端、体の奥底から湧き上がる震え。
これ……身体に『毒』かも。
これやばいッ!!!! これ身体に毒かも!!!!
「へぶ……しゃ、しゃむ……っ」
間に合え間に合えッ!!!!!!!!!!!!!!!!!
杖も何もない状況だが仕方ない。
負荷を前提で創造魔術を発動、適当なサイズの薪がごとごとと中空から転がり落ちる。
軽い頭痛と喉奥からせり上がる鉄錆の匂いを感じつつ、オレは更に炎を生み出し薪へ無理矢理着火した。
「はぁ……」
ぱちぱちと爆ぜる炎の前で深いため息。
馬鹿ども二人を叱った気がするんだが、それから記憶が全くない。
ここがどこなのかもわからないし、どうしてここにいるのかも全然わからん。少なくとも服装はあの時のままだからそこまで時間は経ってなさそうだけど……ないよね?
実は記憶喪失で何日も彷徨ってたとか……多分……ないよねね? ね?
あまりの心細さに閉口してただ火に当たる。
オレの身体を一番信じていないのはオレだと胸を張って言える。
このあまりにカス過ぎる虚弱体質、十五年付き合ってなおそんなことで!? みたいな感じで問題が起こって自分自身で驚愕することが多々あるのだから。
実はあれから一年くらいたってました、とかあってもオレは信じるだろう。
「うぅ……」
さむいよぉ、寂しいよぉ……というかここどこだよぉ!!
外は暗くて何にも見えないし音もまともに聞こえないし……!
三角座りで焚火にあたりながら膝を抱えるオレ。
ここがどこかも分からないので眠りこけるわけにもいかず、ほな夜が明けるまで起きているしかないのか、と軽い絶望のまま太ももに顔をうずめていたその時だった。
なんかステンドグラスの向こうから明かりが上がった。
「んぇ……?」
そして次第に騒がしくなる外。
恐る恐る窓の隙間から覗きこんでみると人だ、それも十数人が何やら各々松明を片手に作業を始めている。
んーっと、薪? それをくみ上げて……何かでけえ丸太も持ってきたな。
あ、なんか括りつけてあるぞ。なんだあれ、なんかの丸焼きとかでもすんのかな? いや……人型? それに……黒い髪してて……!?
「い、くる……?」
なっ……なんかイクルが磔刑に処されてるゥーーーー!?!?!?
「初めての試みがこのような子ども相手とは……くそっ」
「確実に燃やすんだ……これ以上蘇られぬようにな……!!」
「どうか来世では……幸せに……」
イクルを中心に組み上げられていく薪の山と藁。
なんかハチャメチャ念入りに処されてるゥーーーー!!!!!!!!!
「ちょ……ぇ……!?」
おまっ、うぇ!? ど、どうするのこの状況!?!?!?
イクルさん!! イクルさーん!!!! お前このままだとこんがりジューシーに焼き上げられちまいますよーーーーーっ!?!?
しかしオレの小さな叫びは届かずイクルに動きはない。
十字に組まれた丸太に四肢を縛られぐったりとしている。
え? え? え? どういう状況!?
目が覚めたらずぶ濡れでイクルさんはなんか磔にされて焼かれてるんですけど!?
というか連中、よく見たらオレのバッグ持ってるやんけ! 返せ! それはオレのバッグだ!!!!!!!!
「んしょ」
えっほえっほ!!! そのクソ吸血鬼は悪い奴じゃないって伝えないと!!!!!!!
ただちょっと煽りカスで態度と口が悪くて、やたらと交戦的な上にレスバが大好きでしかも人間の血を吸ったり吸わなかったり……人間を隙あらばバカにしてくるだけの……クソッ! とんでもない害獣じゃねえか!!!!!
すまんイクル、オレにお前は助けられないかもしれねェ……!!
「――『レインフォール』」
あほなことを考えていたら本格的にイクルさんがご焼香され始めたので、一帯へ雨を降らしながらオレは祭りのど真ん中へと分け入る。
流石の吸血鬼とはいえ消し炭になっちまったら復活出来なさそうだしな、消火消火! 防火はスタートダッシュが大事ですからね!
「っ、なんだ君はっ!? それにいったいどこから!?」
突如……といっても普通にすごすごと出てきただけ……現れたオレに驚愕する人々。
「新手の魔人族か!? 気を付けろ、暴れ出すかもしれん!」
そんなことないだろッ!
どう見たって儚い人間の美少女だろッ!!
明日にはもう会えなさそうだろッ!!!!!!!
混沌を極める現状と錯綜する情報。
収束つきそうにもないカオスな状態に突如として放り込まれたオレは、混乱の中、必死に交渉を続け――
◇
「どうか間に合ってくれ……ッ!!」
暗闇の中、足元も覚束ない状況でなお、サンクティルは疾走を続けた。
少女たちが崖の遥か下、激流へ飲み込まれ数時間、川の流れを追い駆け続けるも彼女たちの姿は影も形も見当たらない。
サンクティルの脳内へ過る二つの最悪なシナリオ。
一つは彼女たちの溺死。ただでさえ身体能力に優れぬセラフィリアだ、たとえ魔人族として優れた身体能力を見せたイクルとて手を焼くだろう。
とはいえあれだけの実力者だ、サンクティルはこちらのシナリオについてはさほど心配していなかった。
ならば真の最悪なシナリオは……この川の先にある。
いくつかの川の合流により流量が増え、流れの緩やかとなったほとりには一つの村があった。
『聖王の錫杖』のメンバーの一人の生まれ故郷であり、事情を一部隠しつつ現状の拠点としても使われているその村……順当に流れ着けば彼女たちはそこから岸に上がる可能性が高い。
そう、そこには『聖王の錫杖』のメンバーが多くいる。
仲間を次々に失い、度重なる魔人族の襲撃に疲弊し、精神的にも強く追い詰められた彼らが。
「……早まるなよ皆」
そんな彼らがイクルと邂逅してしまえば……結果は見るより早い。
あの心優しいセラフィリアは当然イクルを見捨てきれず、間違いなく彼らの前に割って入っていくだろう。
だが殺気だった彼らに彼女の言葉が届くだろうか? むしろその一挙手一投足はむやみに彼らの怒りへ薪をくべることになってしまわないだろうか。
『聖王の錫杖』を、共に肩を並べ研鑽を重ねた彼らを疑っているわけではない。
だが人と言うものは極限まで追い詰められた時、どれだけの聖人君子であったとしても粗暴で、放逸的になる。
それは決してその人間の本性という訳ではない。生き延びるための生物的な本能、危機に瀕した脳が強制的に起動するスイッチのようなもの。
故に、恐ろしい。
それが現状残された唯一の希望であったとして、その輝きが目に入らなくなってしまう。存在しないものとして扱われてしまう。
もし彼らが、全てが終わった後に気付いてしまえば……より深い絶望に命を絶つ者も現れるだろう。
「あれ、は……!? クソっ!!」
駆け続けるサンクティルの目に飛び込む一筋の輝き。
それは木々の合間を縫い天を突く巨大な炎の残影。
『蘇り続ける魔人族を……彼らを
繰り返す絶望の中、ぽつりと一人の聖騎士が呟いた方法。
何度斬り伏せ、凍らせ、埋めようと蘇るのであれば――全てを焼き尽くしてしまえばいい。
その血を、肉を、骨すらも残らず灰塵と化せば蘇ることはあるまい。しかしそれは同時に一縷の望みを絶つ行為でもある。見知ったその顔を、まだ『生きている』とも思えるそれを完全に
果たしてその行為に意味があるのか、それをサンクティル達は未だ知らない。
人を焼き尽くすほどの炎を生み出す手間、それは薪であり、魔力であり、気力である。激しく終わることのない戦いの中それほどの行為に見合う価値があるかすら、今の彼女達には確認するほどの余裕がないのだから。
「皆……待ってくれその子は……!」
待つ先は絶望か。
「その子たちは……っ!!」
希望か。
「この聖都を救うための希望なんだ!!」
村の敷居を超え、天を突く炎の下へ。
サンクティルの目に飛び込んできたのは煌々と燃え上がる巨大な篝。
それを取り巻くの騎士と村人たち。彼らは口々にただ一つの言葉を叫んでいた。
「――セラフィリア様ばんざーい!!!!」
「……んぁ?」
彼らはその手に、この村と状況では決して手に入らぬであろうごちそうを抱え、何やら巨大な祭壇――これもサンクティルの記憶ではあるはずがない物――に向かい祈りを捧げていた。
サンクティルの視線は当然祭壇の上へと向かう。
そこには大理石によって作られた純白かつ巨大な座、収まるのは――あまりに小さな白の少女。
「大きなお肉焼けましたッ!!!! セラフィリア様どうぞっ!!!!!」
「ふぉふぇ……」
「バカっ! セラフィリア様がそんなデケエ肉一気に食えるわけねえだろうがッ!! 酒だ! 先ほど
「ふぇ……ぎゅぇ……」
「村の子たちがセラフィリア様の為に
「うぎゅっ」
祀り上げられた祭壇の上で白目を剥きながら全身を飾り立てられ大量の肉と酒を流し込まれるセラフィリア。
「なんだこれは……なんなのだ……!?」
その横で同じく、祭壇らしきものに縛り付けられているイクル。
「クソッ! おい放せっ!!」
「おい! お友達様のお口がまた空いてるぞっ!!」
「ま、まて……も、もういらぬ……残りはセラフィリアにぜんんもっ」
「はーいイクル様、焼き立ての丸焼きニンニクもありますよ~!」
「はがっ……ひゃめ……っ、ンニイィィィィィッ」
唖然と眺めるばかり。
「なんなのだこれは……!?」
その時だった。サンクティルの横へ一人の男が皿を手に現れる。
この村を旅立つ直前、精神的に限界を迎えていたはずの騎士の一人だった。
「あれっ、サンクティル様いつの間に戻ってきたんスか? あっ、これ焼き立てのお肉です」
「あ、ああ……済まない」
「ああサンクティル様の好きな店のチッチョリありますよ、さっき余りをセラフィリア様に増やしてもらったんで。ほらあれ」
薄暗闇の中佇む見慣れない小屋。
はて、あんな場所にあのような小屋はあっただろうか?
「……小屋にしか見えないが?」
「あれチッチョリです、また出してもらうんで全部食べていいですよ」
説明する騎士の真横で村の子供たちが笑顔でナイフを小屋につきたてゴリゴリと削っていった。
垣間見えた断面はなるほど、確かに屋台などで量り売りされているそれにそっくりだ。
「……いやいやいやいや!? え!? あれ全部!? ほ、本物!? 流石にあの量は塩分過多で死ぬだろう!?」
なんなのだこれは。
え、本当になに?
ここに存在しえない膨大な食糧、酒……何なら海鮮も混じっている、それに大量の薪や石材。
何もかもが意味不明な状況ではあったものの、サンクティルとて全てはおそらく彼女、セラフィリア・スタンレイの手によるものであることだけは理解できた。
魔術か、それとも彼女が後生大事に抱えていたあのバッグなのか。どちらにせよ答えを知ることは暫く出来ないだろう……彼女はあの高い祭壇の上で祈りを捧げられている限りは。
暫く考えた後サンクティルは思考を停止させ、皿の上の焼かれた肉を素手でつまんだ。
それはこの一か月間ちまちまと口にしていた干し肉と異なり、新鮮で脂と肉汁の滴る実に旨い肉であった。
「……おい、酒はあるか?」
「なんでもありますよ! セラフィリア様が全部出してくれたので!!」
「そうか、ならばエールをくれ」
どかりと地面に座ったサンクティルの視界の先、セラフィリアは騎士たちによって肩を支えられ首をごてん、と九十度傾けた。
「おいセラフィリア様が動かなくなってしまわれたぞ!!」
「おそらく急性のアルコールによる中毒だろう、おいお前確か解毒魔術を使えたな?」
「はっ! 『コントラ・トキシ』!」
「――はっ、ゆ、ゆめ?」
「よかったセラフィリア様、まだまだ宴は続きますよ!!!!!!!!!」
「っ、や、」
「イッキ!!!!!!!! イッキ!!!!!!!!!!!」
この宴はきっと朝まで続くだろう。
サンクティルはボロボロの剣を抜いて良く拭い、巨大なチッチョリの山へとその切っ先を突き刺した。
「旨いな、このチッチョリ」