学園でエセ勇者と揶揄されるオレ、うすほそ貧弱ボディ過ぎて喋らなかったら周りが勘違いを重ねて過保護になっていくんだけど   作:IXAハーメルン

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こんなカスい体は生まれて初めてや…セラフィリアはんの身体はホンマにカスや

「く、クックック、破れかぶれの魔術でしたがなかなか驚かせていただきましたよ……しかし残念でしたね」

 

 冷気の白煙を切り裂き男が現れた。

 その五体は満足、多少服や頭髪の先などは凍っているものの無事と言っていいだろう。

 

 まあオレが威力抑えたからだけどな。

 さすがに人間、モンスター同様にぶっ殺すのはアレだし。

 

「貴女の魔力は限界、挙句このワタクシに攻撃が一切効いていませんねェ!」

 

 バッ! と両手を広げての高笑い。

 超余裕そうなツラはしているが、現在進行形で凍った毛先が崩れ落ちている。

 大方魔道具で守ったといったところだろう、足元には砕け散った何かの残骸が転がっていた。

 

 一度きりの使い切り型か一定以上のダメージを拡散ってとこか、術の構造上複数は持ってねえだろうな。

 とはいえ無警戒に攻撃するのは流石に悪手、少し様子見に専念したほうがよさそうだ。

 

「おっと、自己紹介が忘れていましたね」

 

 慇懃無礼な態度を崩さず語り続ける仮面の男は、結界へ少しだけ近づき恭しい礼を取った。

 

「ワタクシの名はロイド・ロイド・ロイド。気軽にロイドさんと呼んでくださいませ」

 

 猿型魔獣のゴリラス・ゴリラス・ゴリラスそっくりじゃん。

 バカみてぇな名前だな。

 

「ところで昨日の贈り物はいかがでしたかな?」

「――!?」

「クックック、お気づきになりましたかなァ? そう、あれもワタクシの仕込みでしてね」

 

 意味深に笑い声をあげるロイド。

 テラーベアを操った魔術から察するに、昨日のゴーレムを暴走させたのもこいつとみて間違いなさそうだ。

 

 ……めんどくせえことしやがって!

 お前のせいでカメリアに変な貸しが出来ちまったじゃねえか!

 

「様子見、といったところですよォ。勇者の血筋の貴女の力を図らせて頂きましてねェ」

 

 さっきから話を聞いていると、こいつ随分と勇者の血筋に執着してやがる。

 オレからすればそれはゴミ以下の呪いみてえなもんだが、まあ他人からすればどう映るかを理解していないわけじゃあねえ。

 だがしかし妙なことに、こいつの語り調じゃどうにも多くの人間が抱く憧れとは真逆、随分と悪意が強く感じられるじゃあねえか。

 

 ……くせえな。

 もちろんアホくさく胡散臭い野郎だが、それ以上にどうにもきなくせえ。

 

「魔力量は見事なもの、莫大な魔力を使う創造魔術を発動させたのも素晴らしい。魔力量は常人の五倍はあるでしょうねェ」

 

 昨日の戦闘もやはり見られていたらしい。

 テラーベアを集めてきた点と言い、案外周到な野郎だ。いや、周到に準備をしていたからこそ、むしろ余裕をぶっこいて舐めた態度を取っていられるってか。

 

 少し警戒を増したオレは結界の中で杖を握った。

 さっきは初手からぶっ放したから当たったが、二度通用するとは限らない。

 むしろ手痛い反逆を喰らう可能性も消しきれないからだ。

 

「そして貴女はここで息絶えるのです、このロイド・ロイド・ロイドの古代禁術、『アナザーマリオネット』によってねェ!」

 

 ……さっきから思ってたけど名前長えなこいつ!

 というかフルネーム一々名乗るなよ、どんだけ名前覚えてもらいたいねん! さっき自分でロイドさんでいいって言ってたじゃねえか!

 所々でアホくせえ雰囲気出してくるせいで気が抜けるんだよ! もっとまじめに攻撃しに来いや!

 

 長い語りを終えたロイドは突如、虚空から大型のスタッフを取り出した。

 

 スタッフってのは昔話で魔術師が持ちがちなデケエ杖のことだ。

 当然そのイメージ通り、現代の魔術師はあまり持ち歩くことはない。なにせ持ちづらい、もちろん魔術の発動効率など利点はいくつか存在するモノの、戦争中でもなければまず握ることはないだろう。

 

 ロイドは杖で地面を一突き。

 おそらく予め準備されていたのだろう、瞬時に巨大な魔法陣が展開され――

 

「……おぉ」

「クックック、驚いたでしょう? ……反応薄っ!?」

 

 ――そこにはオレと瓜二つの少女が立っていた。

 いや瓜二つなんてレベルじゃない。身長、容姿、体格、そしてその後に発した声に至るまで完璧に同一だ。

 

 オレは素直に驚いた。

 自信満々にやってくるだけあって、今まで一度も見たことがない魔術だったからだ。

 

 相手の姿をまねる魔術はいくつか知っているものがあるが、その多くは何かしらの欠点を抱えがち。

 むしろ欠点の少ない魔術はほぼ必ずと言っていいほど禁術指定される、理由は当然悪用の幅が広すぎるためだ。

 それに第一難易度が異様に高い、ゆえに使用者は皆無と言ってもいいだろう。

 

「『アナザーマリオネット』は貴女の容姿、声、身体能力(・・・・)から魔力の波長に至るまで、一切を完璧にコピーするこの世で最も美しい魔術ですねェ!」

 

 お~すげぇ~! 魔力の波長までコピーできんの!?

 オレにも教えてくれねえかなその魔術、めっちゃ知りてえわ!

 

 正直適当に泳がせて情報だけ吐かせようと思っていたが、なかなか面白い魔術を扱ってきたのでがぜん興味が湧いてきた。

 

 ゲーム至上主義のオレだが、これでも結構魔術にだけは割と関心を抱いている。

 なにせ家の地下にはクソほど魔術の本があったからな。それに家から見捨てられるまではゲームなんて存在すら知らんかったし、当然自由にできることなんて魔術の練習だけだったからよ。

 

「そう、貴女はここで死に、このワタクシがあなたの立ち位置を乗っ取らせて頂くのですよォ! 貴族連中から勇者の血筋まで、このワタクシの手のひらで転がして差し上げましょう! そう、すべては……?」

 

 やたらと物騒なことをほざきよったロイドだったが、結界へ歩み寄るさなか、突如として立ち止まり小首をかしげた。

 

「き、気のせいですかねェ? まあいいでしょう。こほん、では気を取り直して」

 

 二歩、三歩と足早に近づく彼。

 その大きな杖を最初こそ意気揚々と掲げていたものの、次第にその高度は落ちていく。

 

「クックック、では貴女にはここで死んでいただきますよォ……!?」

 

 そして高々と再び杖をかざそうとしたロイドは、唖然として立ち止まった。

 ぷるぷると両腕を震わせながら杖を抱きかかえるも、まったくと言って持ち上がらず結局地面へ転がしてしまったからだ。

 

 ……ん?

 どうしたんだ?

 

「な……なんですか……この体はっ!?」

 

 いきなり叫ぶなようるせえな!

 

 愕然とした顔で絶叫するロイド。

 しかしその絶叫すらも体に堪えたのだろう、何度か咳をしてから地べたへと這いつくばり、荒々しい息を何度も繰り返して見悶え始めた。

 その姿はさながら死にかけのナメクジである。

 

「い、息が苦しい……しゃべるのがキツい……あ、歩くだけで足がひどく痛むしな、杖が重すぎる……!!!」

 

 全身から汗を滴らせかすれた声を上げるロイド。

 オレはそれを哀れな生き物を見る目で見下した。

 

「なんだか頭も痛くなってきた……肺も痛い……膝が震えますねェ……!?」

 

 あー。

 身体能力までコピーって本当にオレになるんだ。

 というかはたから見るとオレってこんな哀れな生き物なの? なんとなく分かってはいたけどこうやって見せつけられると本当に悲しくなってくるんだけど。

 

 カスボディに自分から成り下がったアホはなおもまた続けた。

 

「筋肉も脂肪もまるでない! 頭の先からつま先までヒョロヒョロのカス! さながらスプラウト! 顔以外に誇れる場所など何一つもないではないですかァ!?」

 

 人様の身体勝手にコピーしておきながら好き勝手言いすぎだろ!!

 

「こ、こんな体にいるなんて正気じゃまともに過ごせませんねェ!? こんなのこの世に生まれたことが消えない罪ですよォ!?」

 

 っ、こいつホンマ!

 もうちょっと……なんかこう、あるだろ!?

 少しくらいいい点がさぁ! 生きててえらいとか!!

 

 口を開けばオレのかわいいガガンボボディに対して罵詈雑言の嵐、慈愛に脊髄が生えたオレと言えどさすがにむかついてきた。

 もうこいつのコピー魔術とかどうでもよくなってきたわ、さっさとぶっ殺してやろうかな。

 

 結界の中でそっと杖をロイドに向ける。

 

「なんという……なんという体にさせやがりましたね……こんなにひどい体はなったことが、いや何十年も昔になった五つ以上の病気併発で死にかけの老人で記憶がある。ホンマにクソです……これに比べればすべての人類は健康体ですねェ!!」

 

 オレは泣いた。

 そんなひどくないもん……これでもけっこう頑張ってるもん。

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