「……ぅ」
さむい。
今は冬。でも布団はしっかり被っていたはずだ。
いや、違う。
気温的な寒さじゃない。もっと、底冷えするもの。
物理的に、部屋が冷えているような──
「え……?」
目に飛び込んできたのは、
(……なんで?)
なんで、部屋に雪が?
「雪〜」
突如として聴こえた声に、思わず肩を震わせた。
だって、
「……だれ、ですか」
「え? やだなぁ雪、お母さんにドッキリでも仕掛けてるつもり?」
「……ちがう」
「え」
「ここは、どこ?」
そんな原始的な問いをする私に、"お母さん"の声は途切れていた。
「……開けるね」
扉が開く。ゆるい暖気が入ってきて、強張っていた筋肉が少し弛緩した。
「……ゆ、き?」
「……あなたが、今の私のお母さん?」
「……乗っ取ったの? そういう"個性"?」
個性、とはなんだろうか。他人の精神を乗っ取る事ができるなんて、個性ではなく超能力の類いだ。
……いや。
さっきから、"お母さん"の周りが妙に冷たい気がする。
「……冷たいね」
「私の"個性"よ」
また、"個性"だ。体が冷たくなる個性なのか?
「……個性を知らないの?」
「人を乗っとれて、体温が低くなる個性なんて知らない。できたとして、それは超能力。現実には存在しない」
「……本当に知らないのね」
「……はい」
"お母さん"は、私の姿をまじまじと観察する。
そういえば、中学の制服を着ている。
……私は中学3年生で、内部進学を決めていた時期だった。
それが、目を覚ましたらここにいた。
「疑ってごめんなさいね。少しついてきてくれる? 雪」
「雪じゃない、"まふゆ"」
「……わかったわ、まふゆ」
「つまり、ここはヒーローとヴィランが戦う世界っていうことですか?」
「その認識で合ってるわ。……というか、タイムスリップとかの線はないの?」
逆に、タイムスリップが現実的な視野にあるというのも驚きだ。
「いえ……私が最後に見た日付は、2024年2月4日です。超常──"個性"の発現した年代と、時期が合いません」
「そう……そしたら、もう元の世界には戻れないかもしれないわね」
「……!」
お母さんに、会えない。
もしかしたら、あっちでは私じゃない私がいて、家族で暮らしているかもしれない。
それでも、さみしい。
「……まふゆ」
「?」
「いっそのこと、私の娘にならない?」
「……え」
「というか、戸籍上もう私の娘なのよ。雪がまふゆになっても、私にとってあなたは腹を痛めて産んだ愛娘なの」
「……お母、さん?」
「……ええ」
どことなく口調が母に似ているからか、思いの外
「あなたのお母さんの代わりにはなれないけど……精一杯、母として生きるわ。2人の娘の親として」
「……ありがとう」
「……ええ」
雪みたいに白い髪をした"お母さん"は、凄く優しい目をしていた。
この後、役所でお名前を雪からまふゆに変更しました。改名手続きってめんどいらしいけど、そこはご都合。