うわぁぁ!!! エルフだ!!??!   作:葛城

13 / 14
第12話: 悪気がないのは分かっているんだけどね……

 

 

 ──王族ってのも大変なんだなあ……と、彼女は思った。

 

 

 もちろん、一般市民に比べたら楽な生活だとは思う。

 

 子どもが出来ないとなれば、途端に扱いが悪くなるのは王族だろうが平民だろうが変わりない。

 

 いや、むしろ、経済的な後ろ盾が無い場合が多い庶民の方が、はるかに苦しい生活を送りやすいのが現状だ。

 

 でも、だからといって、庶民より苦しみが軽いから……という理由で苦しみを消してしまうのは違うだろう。

 

 庶民がいきなり貴族社会に入れば爪弾きにされてしまうのと同じく、王族だっていきなり庶民社会に入れば爪弾きにされてしまうのが当たり前である。

 

 おそらく、リーンネイヤ王女の身に向けられていたプレッシャーは相当なモノ。

 

 もしかしたら、肺炎を発症した原因の一つは、不妊から来るストレスでは……というのが、彼女の密かな見解であった。

 

 当然だが、それをわざわざ教えるつもりはなかった。

 

 ファンタジー世界に限らず、コンクリートな前世に限らず、知らない方が幸せな事だってあるし、わざわざ知る必要のない事だってある。

 

 それに、知ったからこそ気に病んでしまう事もあるわけで……だから、彼女はその件に関してはそこで終わらせた。

 

 

 ……で、話を戻すのだけど、『妊娠に効果がある魔法』というのは、そこまで万能な魔法ではない。

 

 

 あくまでも、子どもが出来にくいという体質を改善して通常レベルに戻すだけなので、飲んでせっせと励めばすぐに妊娠できるという代物ではない。

 

 ぶっちゃけてしまえば、閉経した女性にこの魔法を掛けたところで効果は無いし、まだ妊娠できない幼女に掛けても結果は同じである。

 

 言い換えれば、妊娠しやすい年頃にこそ、効果が最大限に発揮される魔法でもある。

 

 

 ……一般的に、女性の妊娠のしやすさは若ければ若いほど確率が高いとされている。

 

 

 10代、20代、30代と年齢を分ければ、基本的には20代が右肩上がりから右肩下がりに……といった感じである。

 

 見たところ、リーンネイヤ王女は20代。

 

 魔法的なチェックにて身体の状態を確認した際でも、20代前半というのは分かっている。

 

 だから、『妊娠に効果がある魔法』の効果はてきめんで、一発必中とまではいかなくとも、一ヵ月も励めば確実に子を孕むだろう。

 

 

 ……正直なところ。

 

 

 前世の現代医学(素人知識)を知っている彼女からしたら、あくまでも出来にくいというだけで、まだまだ焦る歳でもないだろう……というのが、彼女の本音ではある。

 

 けれどもそれは、前世の現代での話。

 

 この世界では、15歳(あるいは、16歳)が成人で、18歳19歳ぐらいで第一子を妊娠というのは、けして珍しい話ではない。

 

 というか、遅くても25歳ぐらいで結婚していないと、けっこう周りから心配されるレベルだったりする。

 

 一人で生計を立てているとかでない限りは、それまでには当人たちが相手を探したり、親が相手を探してきたりするらしい。

 

 なんでかって、単純に一人で生きていくのは大変だからだ。

 

 現代人が独り身バンザイなんてやれるのは、社会に余力があるからなのと、科学が発達して生きられるようになったからで。

 

 残念ながら、せちがらファンタジーの気配がビシバシするこの世界では、好き嫌いもあるだろうけど、打算的な意味での結婚もビシバシ行われていた。

 

 それに加えて、この世界にはモンスターが居る。野盗も強盗もいる。

 

 のんびり25歳まで独り身を楽しむか~なんてしていたら、何時それらと出くわして殺されるか分からない、この世界。

 

 健康で体力もある若いうちに男女がくっついて子どもを作り家庭を作るのは、ある意味、合理的な生存方法なのである。

 

 

(それを踏まえたら、20代前半で子どもが出来にくいのが発覚って、下手したらかなりマズイ立場になりかけたってわけか……おお、そりゃあ反応もすごい事になるわけだ)

 

 

 だからこそ、リーンネイヤ王女たちの反応がすさまじかったわけで……100%でないにしても、妊娠のしやすさが上がるだけでも、であった。

 

 ちなみに、メイドさんたちの反応がすごかったのも、彼女たちもまた貴族なので、妊娠出来る出来ないというのは、冗談抜きで今後の進退に関わってくるからとの事だった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そうして、リーンネイヤ王女ご一行が『家』や周辺で3日ほど休息を取った後。

 

 

 もう再発の危険性は0だと太鼓判を押した彼女の診断を受けて、ようやくリーンネイヤ王女たちは『家』を後にしたのであった。

 

 その際、ぜひ御一緒にと誘われたが、彼女は断った。

 

 それはリーンネイヤ王女たちと行動するのが嫌だったからではなく、この場の後片付けをしたかったからだ。

 

 

 と、いうのも、だ。

 

 

『家』の中はメイドたちが掃除整頓してくれているが、騎士たちが野営していた周囲は、そうはいかない。

 

 騎士たちも訓練を受けているので後片付けなどはしてくれるが、それはまあ、出来る範囲で、というレベルであり。

 

 やはり、騎士たちの排泄物、焚火の跡や、馬車の糞尿の跡、魔法で生み出した樹木など、色々と片付けておかねばならないモノが多いのだ。

 

 

 ……少々、潔癖じゃないのかって? 

 

 いやいや、こういうのは軽く考えてはいけない。

 

 

 焚火の灰は土を被せれば姉妹だが、動物の糞尿などは、ただ土を被せれば良いわけではない。

 

 自然界の掃除人がいずれ分解して別の形に変えてくれるとはいえ、病原菌の塊であるし、なにより不衛生だ。

 

 早急に処分できるのであれば、処分してしまうに限るのだ。

 

 もちろん、この世界の基準で考えれば、既にちゃんと片付けられている(それどころか、むしろ綺麗に片付けている方)と判定されるレベルだが……まあ、うん。

 

 単純に、彼女の感覚では『いやいや、もうちょっとさあ……』といった感じで、それをしたかっただけである。

 

 

 ……もちろん、それを馬鹿正直に話すつもりはない。

 

 

 適当に、『こういう雨の日には、薬になる珍しいキノコが生えるので、ちょっと探したい』といった説明をすれば、王女たちは納得した様子で引き下がってくれた。

 

 そうして、誰の気配も見えなくなってから……しばし、周辺の後片付けを行う。

 

 もちろん、『魔法』をバンバン使う。こういう時こそ使わず、いつ使えと……あ、けっこう使っているな。

 

 まあ、とにかく、だ。

 

 いちおう、変な異常が起こらないのを確認して。

 

 半日遅れで、彼女は王女たちを追いかける。追いかけるとは言っても走るわけではなく、のんびり歩いて。

 

 えっちら、おっちら。

 

 えっちら、おっちら。

 

 王女様たちがやってきた時とは打って変わって、今日の空はどこまでも晴れ渡っていた。

 

 いわゆる、台風一過というやつだろうか。昼過ぎという時間帯のおかげか、雲一つない青空だった。

 

 

 ……もしかしたら、あの時は台風でも近付いていたのだろうか? 

 

 

 いや、この世界に台風とう現象が起こるのかは知らないが、雨も風もけっこう酷かったし……で、だ。

 

 そのまま歩いて、日が暮れたら『家』で就寝。

 

 翌日になったら、また歩いて……追いつけるかなと思ったけど、ご一行の後ろ姿を確認出来ない。

 

 おそらく、出来る限り急いだのだろう。

 

 伝令を出しているとしても、一国の王女が三日間も野営していたというのだ……そりゃあ、立場の事もあるから親は気が気でなかったのだろう。

 

 ……まあ、どの道、王都で顔を会わせるかもだし、そもそも身分が違うし……会えないのが普通か。

 

 

 ──うわぁぁ!! あ、アレが本物のエルフか……!! 

 

 ──すげえ、噂は本当だったんだ。

 

 ──本当に耳が長いのね、何歳なのかしら? 

 

 ──あのバインバインはわいせつ罪が適用されるのだ。

 

 ──絵本のとおり、本当に美人なのね。

 

 ──えっちなのはイケないと思うのだ。

 

 ──美容品を売っているって聞いたけど、本当なのかしら? 

 

 ──なんとか安く譲ってくれないだろうか? 

 

 ──止めとけ、直接交渉に来るのは嫌うって話らしいぞ。

 

 ──押しかけはNGなのだ。

 

 ──う~ん、名残惜しいが、馴染みの承認を通じて当たってみるか。

 

 ──その方が良いと思うのだ。

 

 

 その代わりというのもなんだけど、やたらめったら周囲がざわざわと囁き合っているのが聞こえたが……彼女は聞こえないフリをした。

 

 やはり、王都が近付いてきたからだろう。

 

 人通りは増える事はあっても減る事はなく、彼女の情報も他の街以上に知れ渡っているようで、驚き方に少しばかりの変化がみられるようになった。

 

 もちろん、だからといって、彼女の方から周りに話しかけたりはしないけど……で、だ。

 

 

「ただのエルフです」

「……えっと、その、いちおう身体検査をさせていただいてもよろしいですか?」

「いちおう? 普通に検査してもらって良いのですが?」

「あの、その……と、とりあえず、失礼いたします」

 

 

 王都の検問所にて、ボディチェックをされるわけだが……これがまあ、なんだか対応がおかしい。

 

 これまでの街では、多少なり対応の差はあったけど、その待ちを訪れるのが初めてだったので、基本的には裸にされての確認であった。

 

 小さな町でも、念入りに調べられる。大きな街だと、その調べ方はより念入りで、むしろ裸にされる程度は楽な方であった。

 

 その事に、不満は無い。

 

 エルフという特大の身分証明があるとはいえ、それぞれの街にはそれぞれのルールがあるわけだし、初めて訪れるわけだし。

 

 彼ら彼女らはちゃんと職務に対して忠実に、街の人々を守るために仕事をしているわけだから。

 

 

(……これ、リーンネイヤ王女が手を回したのかな?)

 

 

 さすがにインスタール王国の『王都センデバン』ともなれば、より王族や貴族の声が届きやすいのだろう。

 

 それをヨシとするか、アカンとするか、そこらへんはその人の立場によるのだろうけど……彼女としては、さっさと済むならそれに越した事はなかった。

 

 いや、だって、普通に寒いし痛いし。

 

 少し前に禁制品の類が見つかったとなれば厳しくチェックされるけど、そうでないならだいたいは流れ作業。

 

 中には男女問わず役得だと言わんばかりに手付きが変なやつがいるけど、それでも変な態度を取らなければ、すぐに終わる。

 

 何故なら、次から次に検問を受けるための人が来るからで。

 

 いちいち時間を掛けてなんて渋滞なんて作ったら上の者が飛んでくるし、それで悪評でも立とうものなら……である。

 

 そうして、『王都センデバン』へ入る事を許可された彼女は……おお、と思わず目を見開いた。

 

 さすがは、王都というべきか。

 

 人の数がべらぼうに多い。

 

 人の数が多ければ多いほど商いが活気づくとは誰の言葉だったか……それも、実際に目にしたら納得できる。

 

 ただ、建物に関しては多少なり違いはあるけど、そこまでではない。あえて挙げるならば、古めかしい建物がチラホラある、といった感じか。

 

 とはいえ、ボロボロな感じではない。歴史ある建築物、といった感じである。

 

 そういった建物はきっちり手入れが成されているようで、年季を感じさせつつも古臭さは見られず、なんともお高そうな空気を醸し出していた。

 

 

 ──おお、ロイヤルだ。

 

 

 気付けば、ちょっとウキウキしている自分を自覚しつつ……彼女はとりあえず、手頃な宿を探して歩き出したのであった。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………まあ、うん。

 

 

「──あの、ここの宿は一泊いくらでしょうか?」

「うわぁぁ!? 本物のエルフだ!?」

「えちち過ぎるのだ」

「う、噂は本当だったのか!?」

「はえ~、まさかエルフを見られる日が来ようとは……拝んでおこう」

「ありがたや、ありがたや……」

 

 

 誤算というわけではないけど、まさか王都でもそういう扱いというか、そういう目で見られる事だけは……ちょっと、ガッカリした彼女であった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。