うわぁぁ!!! エルフだ!!??!   作:葛城

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第3話: 飯より宿、宿より風呂、エルフの定めなり

 

 

 

 ──しかし、だ。

 

 

 彼女には『魔法』とか色々とすごい能力があったので、なんか周りに対して申しわけなさを覚えてしまうぐらいに楽勝であった。

 

 具体的に何が楽勝かって、まずは『鑑定』能力である。

 

 これは意識的にON・OFFで切り替える必要があり、感覚的に己にそういう能力が備わっているのは分かっていたけど、これまで使わなかった。

 

 それを改めてONにして使用したのだけど……これがまあ、とても便利である。

 

 なにせ、視界に入れただけで『▼マーク』みたいなのが対象物の頭上に表示され、ソレの詳細を瞬時に把握できるのだ。

 

 おかげで、熟練の人でも見分けが難しいような似ている草との見分けも一瞬で判別出来て、付き添いの職員を逆に驚かせたぐらいであった。

 

 

 そりゃあ、そうだ。

 

 

 熟練の人ですら、目を凝らして薬草を様々な角度で確認し、特徴を見極めながら判別するのに対して、彼女の場合は一べつしただけで一発正解である。

 

 最初は半信半疑だった職員も、正しい薬草を三つ、五つ、八つと、正確に選んで摘んでいくのを見て、途中から感心したように頷いていたぐらいであった。

 

 

「すごいですね、エルフは薬草にそこまで通じているものなのですか?」

「エルフがそうなのかは分かりませんが、あなたも500年ほど研鑽を積めば一目で分かるようになりますよ」

「ははは、なるほど、それだけ長く生きればそのようになれるわけですか」

「伊達に長生きはしておりませんので」

 

 

 そのおかげか、職員の機嫌は終始良かった。

 

 それは単純に美人女性の付き添いをしているから……だけではなく、優秀かつエルフと一緒に行動出来ているからか。

 

 しかも、このエルフ……客観的に見て、めちゃくちゃスタイルが良い。

 

 普通に歩いているだけでも目に保養なのに、屈んだり座ったりすれば、なんというかちょっと……エッチですね、みたいな感じなってしまう。

 

 職員も、男なのだ……あと、エルフである彼女の行動に興味が引かれ、面白かったからだろう。

 

 たとえば、『鑑定』にて彼女が何気なく手に取った、樹木の根元あたりに生えていたキノコ。

 

 一般的にそれは毒キノコとして知られ、扱いも難しく酷い苦みがあるので必要時以外では見向きもされていなかったのだけど。

 

 

「──失礼、これは適切に扱えば良い熱冷ましになります。子供にも飲ませられる優れものなんですよ」

「え? そ、そうなんですか?」

 

 

『鑑定』にて、そのキノコの加工方法から使用方法に至るまで細かく確認出来る彼女からしたら、地面に落ちているお金も同然である。

 

 彼女に薬師としての知識はない。

 

 だが、鑑定で得たリアルタイムの情報があるし、その情報量はソレが持っている全ても同然。

 

 彼女からしたら当たり前のように話すのだけど、職員からしたら『そ、そんな使い方が!?』と驚かれるばかりで。

 

 そんな感じの事を、次から次に彼女は起こしていく。

 

 他の雑草に擬態してしまう特殊な薬草も瞬時に見分けて採取し、その採取の仕方も完璧……そりゃあ、すごいなあ憧れちゃうなあ……になっても致し方ないことであった。

 

 そうして、指定された時間を終えてギルドに戻れば……付き添いの職員が率先して高評価を伝えてくれる。

 

 まあ、誇張表現は一個も無いので、嘘を伝えているわけではないのだけど。

 

 やっていること、『また、なにかやっちゃいました?』って感じで正直ちょっと気恥ずかしいなって思ったけど、黙っておくことにした。

 

 

 ……そうして、無事に依頼達成と評価されて、ランクも2ランクUPのEランクになった。

 

 

 こんないきなり上がるのかって思って尋ねたら、珍しい事ではあるけど、別にそこまで珍しい事ではないとのこと。

 

 なんでも、立場的には新人だけど素行に問題なく実力的には2,3段上に上げた方が良いと判断された時に、特例としてそういう処置があるらしい。

 

 そりゃあ、本来はBランクとかある人が余裕だからと低ランクの仕事を次から次にこなしていったら、相応の者たちが経験を中々詰めないって……まあ、うん。

 

 とりあえず、ランクが上がるのは良い。

 

 ギルドの職員曰く、『Cランクまで上がれば、冒険者としては一流と思って大丈夫です』とのことだ。

 

 上にAとBがあるのにって思ったけど、なんでもその二つはギルド内評価だけでなく、貴族などの評価も加味してのランクなので、一般人にはCが最高位と思ってください、とのこと。

 

 つまり、AとBはある種の名誉職というやつか……まあ、なる気はないので、なんでもよいけど。

 

 幸いにも、指定された薬草以外のモノもギルドが引き取ってくれたので、一気に懐が温まって気持ちが楽になった。

 

 そして、時刻は夕方。

 

 せっかく金が入ったわけだし、この世界の宿屋に泊まろうかと思った。

 

 アイテムボックス内の『家』を使った方が100%快適に過ごせると分かっていても、泊まっておくべきだろう、と。

 

 あまりにも『家』を当たり前にしてしまうと、それが使えない状況になった時のストレスが半端ないだろうと思ったからだ。

 

 まあ、それでもさすがに我慢出来ないレベルで色々と期待値を下回ったら諦めるつもりだが……で、だ。

 

 ギルドよりおススメの宿屋はあるかと聞いたら、『スズメの窯宿』という宿屋がおススメだと言われた。

 

 なんでも元ギルド職員が経営している店で、値段的にも手頃なんだとか……あの、それ、客引きみたいな……止めよう。

 

 言うなればコレは、タクシー運転手に店を聞いたら、その運転手が懇意にしている店を紹介される、アレだ。

 

 勘を頼りに一か八かを狙うより、ベターを求めた方が結果的には……そう言葉を飲み込んだ彼女は、おススメされた『スズメの窯宿』へと向かった。

 

 

「──うわっ、エルフ?」

「初めて見た……」

 

 

 その際、やはり注目を集めながら。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………これまた幸いにも道に迷うことなく到着した彼女は、思いのほか綺麗な『スズメの窯宿』を前に、おおっと喜びに手を叩いた。

 

 一言で言い表すならば、ファンタジー的な宿屋である。それも、けっこう綺麗で、2階建てのようだ。

 

 やっぱり、寝泊まりする場所はキレイなのが一番だ。

 

 無い物ねだりをするつもりはないけど、我慢しなくても良いのであれば、わざわざ値段を落としたいとは思わなかった。

 

 

「たのもう」

 

 

 中に入れば、どうやら1階は食堂みたいになっているのか、食事を取っている人が少数ながら居た。

 

 仕事によっては夜勤の人もいるだろうし、そういう人のためにも食事を提供しているのは個人的に評価が──っと。

 

 

「いらっしゃい、なんめ──えっ!?」

 

 

 振り返った女店員(給仕?)が、彼女を見てすぐに驚きにトレイを落とした──いや、落とすなよ。

 

 これまた幸いにも、トレイには何も載せられていなかったようで大惨事にはならなかった。

 

 だが、それでも異変に誰もが驚きに店員を見て、次に彼女へ──そこでギョッと目を見開いた。

 

 

 うんうん、仕方がないことだ。

 

 

 茫然としている人たちをしり目に、彼女はさっさと店内を進み……硬直している女店員へと話しかける。

 

 そうすると、我に返ったようで受け応えは普通に……部屋は空いていて、食事を取りたい場合はその時に別途支払いが必要とのことだ。

 

 とりあえず、1泊。気に入ったなら、増やそう。

 

 今日はもう疲れたし、出歩くのは明日以降。そういえば、この宿屋に風呂はあるのか……聞いてみたら、無いとのこと。

 

 どうやら、よほど大きな宿屋に行かないと内風呂は無いらしい。その内風呂も、話を聞けば……まあ、アレだ。

 

 ヨーロッパ諸国の、バスルームに浴槽がポツンのアレと似たような感じだ。

 

 つまり、日本のように湯船に浸かってゆっくり身体を温めてリラックスするためではなく、身体の汚れを落とす場所、といった認識っぽい。

 

 だから、浴槽もそこまで広くはないのだとか……ちなみに、公衆浴場はあるらしいけど、早めに行かないとお湯が汚くなっているし温くもなっているから、おすすめはしないとのこと。

 

 

 ……なんてこった、変なところでこのファンタジー世界はリアル空気が混じっているではないか。

 

 

 これには、エルフとなった彼女もちょいとがっかりである。

 

 まあ、コレに関しては致し方ない。

 

 水が当たり前のように使える現代日本人はすっかり麻痺しちゃっているけど、古来より『水』というのは貴重品であり、それも身体を洗えるぐらい清潔な水というのはもっと貴重だ。

 

 ほんの100年前、1年を通して乾燥した地域では週に1回タルに溜めた水に身体を入れて、濡れタオルでゴシゴシ身体や髪を擦って洗うのが普通だったし。

 

 なんなら、冬場では身体を冷やしてならないから、もっと頻度が下がることも普通だった。

 

 もちろん、鼻が麻痺しているだけで、相当な悪臭が……ねえ。

 

 それに比べたら、公衆浴場があるだけかなり綺麗好きと判断した方が……いや、それはそれとして、お風呂に入りたい。

 

 とりあえずは、だ。

 

 公衆浴場は朝から夕方頃までやっていて、今は終わり頃だからお湯は汚いし温くなっているので、よほどの理由がない限りは止めた方がいいよ、とのことだ。

 

 つまり、狙うなら朝一ってことことらしい。

 

 

「……宿の裏に、使っても良いスペースはある?」

「スペースってわけじゃないけど、いちおう使っても良い部屋はあるよ。でも、資材とか置いてあるから居心地は良くない。事前予約がいるし、料金もね」

「使う人っているの?」

「いるよ、他の人に盗み聞きされたくないからってわざわざそこで集まって相談事する人たちとか。あと、こっそり逢引きする人とか」

「えぇ……それ、秘密になるの?」

「通路は一つだけだし回り込める場所は無いし、他の部屋とは距離があるから意外と予約取る人多いよ。予約してくれたら、その時間は立ち入り禁止の立札を置くからさ」

「ふ~ん……」

 

 

 思っていたより良くなさそうだ、仕方がないので借りた部屋で風呂に入ろう……と、彼女は決めた。

 

 女店員に案内されながら雑談をして……なお、この店員さん……彼女の感覚から見て、だいぶ年若い人だなって印象であった。

 

 ファンタジー系顔立ちに金髪碧眼……年齢を聞けば、15歳だった。

 

 名前は、リシェル。

 

 15歳でもう働いているのかって思ったけど、それぐらい普通だよって逆に笑われてしまった……違う、エルフジョークじゃないのだ。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そうして、案内された部屋は……思っていた以上によろしい感じだった。

 

 ベッドも定期的に藁を変えているようで柔らかく、シーツもちゃんと洗って清潔な印象を覚えた。

 

 ちなみに、『鑑定』でもしっかり『清潔(良)』と出たので、寝床に関しては花丸評価であった。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 寝床は確認出来たので、さっそくだが風呂に入る。風呂に入らねばならぬのだ。

 

 ただ、いちいち街を出て人の目が入らない場所で『家』を出して入浴を済ませて『家』を収納して宿屋に戻って来る……というのは、非常に面倒くさい。

 

 しかし、面倒くさいからといって入らないのはマズイ。それはもはや、気持ちの問題ではない。

 

 何がマズイって、今の彼女は転生する前のしょぼくれた人相ではなく、自分でも美人だなと腕を組んで頷けるぐらいの美女だ。

 

 そんな美女が理由もなく風呂に入らず身綺麗にしないというのは、ちょっと世間に対して失礼ではないかなと彼女は思うわけだ。

 

 

 ……後はまあ、幻想を崩したくないという理由もある。

 

 

 ちょっと、想像してみてほしい。

 

 映像ではとても可愛らしくてフワフワしてそうな毛並みの動物、それを実際に触れて触ってみたら、だ。

 

 思っていたよりも毛は硬くてちょっと脂っぽくてベトベトしていて、臭いも思わず顔を背けてしまうような……だったら、どう思うか。

 

 それでも好きって人もいるだろうけど、大半はちょっと幻滅するだろう。

 

 それは彼女も同意見である。

 

 せっかく、エルフを目撃したのだ。

 

 そのエルフが見た目とは裏腹にちょっと臭かったり、なんなら近くで見ると小汚い……なんて思われたら、ちょっと……その、夢を壊してしまったみたいで申しわけない。

 

 短い時間とはいえ、これだけ『うわぁ! エルフだ!』みたいな反応をされてしまったのだから、こりゃあ生半可なエルフは見せられんぞと思うようになるわけで。

 

 だから、意地でも一日1回は風呂に入って身綺麗にしなければと思い立ち……宿屋の裏にて風呂に入るわけだ。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そんなわけで、風呂だ。

 

 

 当然ながら、そんなに狭い場所で何も考えずに風呂に入れば……湿気で室内が駄目になってしまうが、そこは大丈夫。

 

 何故ならば、彼女のアイテムボックスには、入浴用の簡易設備がある。

 

 それは、特殊な空間を形成する風呂エリア。

 

 周囲を一切濡らさず、汚水も自動的に処理し、さりとて、余分な湿気や熱気をワープさせて逃がすという、プチ風呂魔法道具である。

 

 見た目は倒れないよう足元に支えが付いている扉だが、開けばなんとその先はお風呂空間……広々と足を伸ばせるお風呂だ。

 

 そこで、彼女は……ゆっくりと入浴を済ませる。

 

 もちろん、『魔法』を使ってシャンプーやらトリートメントやらリンスやらを使い、化粧水などでしっかりケアをするのは忘れない。

 

 エルフとなった際に、そういった知識も彼女の頭にはインストールされている。

 

 とんでもなく面倒くさいし、己がエルフでなかったらやろうとする意識すらなかっただろうけど、エルフになったのだから仕方がない。

 

 エルフだったから耐えられた、エルフでなかったら耐えられなかっただろう。

 

 そうしてしっかり時間を掛けて身だしなみを整え、アイテムボックス内にあった香水を使用し……準備万端だ。

 

 

「──よし、次は飯だな」

 

 

 そう、すっかり日も暮れ、時間帯としては飯の時刻であった。

 

 わざわざ一時間以上かけて身だしなみを整え、食事の邪魔をしないような香水を選んでしようしたのも、全てはこのた──ん? 

 

 ……人によってはドン引きするかもしれないが、エルフになってしまった者の宿命なのかもしれない。

 

 ただ、彼女が変なところでバカなだけかもしれないが……とにかく、彼女は本気であった。

 

 

 

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