うわぁぁ!!! エルフだ!!??!   作:葛城

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第5話: エルフ「名前ですか? じゅげむじゅげむ……」←略してエルフ

 

 

 

 ──さて、そうして城内に通され、謁見の間へと通されたわけだが……内容はまあ、そう語る程ではなかった。

 

 

 なんでかって、そもそも『エルフと対面したい』というのが目的であって、謁見の間に彼女が来て、国王が来た時点で目的は果たされているわけだ。

 

 会ってからが本番な話とは違って、既に終わっている。

 

 つまり、ほとんどロスタイムみたいな状況で、彼女もそうだけど国王もそんな厳かな雰囲気を出していなかった。

 

 いちおう、ちゃんとマントを羽織っているし、王冠を頭に載せているし、プライベートの場ではないのは示されているが……それ自体は形だけ。

 

 その証拠に、たた呼び寄せたというだけの事なのに、国王の隣には王妃が座っていて、謁見の間の端に設置された豪奢な椅子には、年若い少年と少女たちが座っている。

 

 説明されていないけど、雰囲気からして国王夫妻の子供か、それに近しい立場。

 

 立場上許されるとはいえ子どもまでもがわざわざ姿を見せている時点で、そんな堅苦しいアレじゃないなというのを物語っていた。

 

 

「エルフよ、そう堅苦しくならないでほしい。この場は貴殿に願いがあったわけではなく、どうしても一目見たくてな」

「はい、陛下」

 

 

 促され、改めて顔を上げて見返したら、ほぉ~、と国王だけでなく、隣の王妃も感心したように目を瞬かせた。

 

 そのため息の意味とは……その前に、国王夫妻についてご説明しよう。

 

 国王は、なんというかナイスミドルみたいな感じの男であり、いわゆるイケオジ(イケてるオジサンの略)というやつだろうか。

 

 正直なところ、前世の記憶がバチバチに残っているうえに、外人顔の区別が未だにあまり付いていない彼女からしたら、『美形なんじゃないの?』という程度の感想しかなかった。

 

 そして、隣の王妃だけど……こちらもまあ、美魔女ってやつだろうか。

 

 熟女と呼ぶには若々しいが、子どもを産んでいてそれだけの美貌と若々しさを保てているだけすごいな……という感想が真っ先に浮かんだ。

 

 結論を言えば、美男美女の夫婦とか向かうところ敵なしやん、そのうえ美形の子(男女)まで揃っているとか、どれだけ前世で徳を積んだのかって思いである。

 

 

 ──で、話を戻すけど、国王夫妻がため息をはいたのは、単純にエルフの彼女が美人過ぎたからである。

 

 

 そのうえ、実在するエルフをその目で見ることが出来たのだ……ため息の一つぐらい、出ても不思議ではなかった。

 

 それから始まったのは、要はお茶会というか、雑談みたいなモノで、それ以上でもそれ以下でもなかった。

 

 向こうからしたら、少しでもエルフの事を知りたい。

 

 エルフに対して無理や無茶を強要したら、その波紋は街全体へと広がるから、間違っても無理強いをするつもりはない。

 

 彼女からしても、色々と『エルフ』の事を知りたいのだろうなって察していた。

 

 さすがに全部曖昧な言い回しをしたら気分を害するだろうと、なんかエルフっぽいイメージをいくらか肯定してやれば、けっこう喜んでくれるのが嬉しかった。

 

 いったい何を肯定したのかって? 

 

 色々とあるけど、まずは簡単なところから。

 

 

 ──その1.エルフの耳が長いのは、精霊の声に耳を傾けるため。

 

 いわゆる精霊信仰というやつで、『エルフ』というのは時に精霊と意思疎通を図ることが出来る存在であり、その声を聴くために耳が長い……というもの。

 

 もちろん──彼女の耳が長いのは精霊とかまったく関係ない、エルフだから耳が長いだけである。

 

 エルフとして転生した時点でこの世界の情報は粗方インストールされたけれども、精霊に関しては……ちょっと、自信が無い。

 

 というか、精霊って自我がない自然現象が具現化したような存在なのだ。

 

 先に結論から話しておくが、『精霊は存在している』。

 

 しかし、その精霊を視認することは不可能に近く、接触して意思疎通を図ろうと思ったら、それはもう偶然に偶然が重ならないと無理だ。

 

 例えるならば、機械や道具を一切使わず肉眼で雷を確認するようなもの。有り体に言えば、そんな感じ。

 

 しかし、なんだか国王夫妻の子供である王子と王女からキラキラした眼差しで見られてしまえば……真実をそのまま語るわけにもいかず。

 

 

「……そうね、精霊は気まぐれだから滅多に語り掛けてはこないけど、稀に聞こえる時があるわね」

 

 

 といった感じに言葉を濁したのであった。

 

 

 ──その2.エルフは肉を食べない。

 

 これに関しては楽しみが無くなるので明確に否定した……が、完全には否定しない。

 

 真っ向から完全否定すると、ちょっとガッカリするかもと思ったからで……そのために、彼女は既に考えていた。

 

 それは、特殊な儀式(魔術的な儀式も含めて)を行う際には禊として肉を食わない期間を設けるから、それが人々に伝わって広まったのだろう……という、それっぽい理由。

 

 これに関しては子供たちより国王夫妻の方が納得したっぽくて、ちょっと面白かった。

 

 そうだよね、何もかもがフワフワなファンタジーより、理屈立てて導き出せる結論の方が納得できるよね……さて。

 

 

 ──その3.エルフはトイレに行かない。

 

 3番目にして、ド直球のセクハラ。ただ、悪気が無いので困ったものだ。

 

 だって、子どもの方からの質問なんだもの。

 

 これが大人だったら拳を叩き込むところだが、相手が子ども(それも、無邪気なご様子)だし……その分だけ夫妻の表情が引きつったから、彼女は笑って許したのだけれども。

 

 で、困った。

 

 これに関しては誤解というか、彼女自身の普段の行いが原因だから、どう答えれば良いか……だからなおさら彼女は困ってしまった。

 

 まず、これも結論から言うけど、トイレには普通に行く。おそらく、一般的なエルフも同じだ。

 

 そこは人間と同じく食った分だけブリブリプシャーだし、食わなくてもブリブリプシャーでやせ細っていく、その他の生物と同じである。

 

 違うのは、彼女の場合は『家』にてこっそり済ませた後、『魔法』も使って体内をキレイにしている……ということ。

 

 そう、彼女はウオシュレットが無いとダメな現代日本人。

 

 とてもではないが、今さら異世界ファンタジーのトイレには馴染めない。そして、『魔法』を使えば、排泄後のスッキリ感が桁違いに良い。

 

 そう、今の彼女はウオシュレットと魔法が無いと満足できなくなった、罪深い元現代日本人の現なんちゃってエルフ。

 

 そのせいで、『エルフは風呂もトイレも行かないのに、いつもとても身ぎれい』という噂が広がってしまい、それが城の方にまで……という流れである。

 

 

(言えない……おそらく、献上しろとか売ってくれとか揉め事になるし、なんなら強引に動くやつが現れるのが必然……!!)

 

 

 これに関しては、もう色々とそれっぽい理由を作るのが面倒だったので、身体はこっそり身ぎれいにしているし、トイレに関してはそういう種族なので……ってことにした。

 

 実際、この世界には『クリーン』とかいう身体の汚れを落とす魔法があるらしいし。

 

 でも、けっこう難しい魔法らしくて魔力もけっこう消費するので、緊急時以外では普通に身体を洗った方が楽とのことだ。

 

 ……改めて思うのだけど、この世界ってファンタジーだけど、なんかこう世知辛い方のファンタジーだよなあ……夢が無いっていうかさあ。

 

 なんとも言えない気分になった彼女は、ほろりとこぼれそうになる涙を抑えながら……そこでふと、考えた。

 

 というか、閃いた。

 

 この世界が世知辛い系の90年代OVAファンタジーみたいな世界ならば、これを要所が快適な現代異世界ファンタジーにしてしまえば良いのでは、と。

 

 

 ──幸いにも、だ。

 

 

 まるで今思いついて取って付けたかのような誤解を招きそうだけど、彼女が保有している『魔法』の中には……とてつもない魔法がある。

 

 それは、『通販魔法』。

 

 どこかで見たり聞いたりしたことがある人がいるかもしれないが、気のせいだ、これは彼女だけのオリジナル魔法。

 

 だって、この世界に彼女以外に『通販魔法』を持っている者はいない。文字通り、神からのギフトである。

 

 これまで使わなかったのは、アイテムボックス内にとんでもない量が保管されているからで、先に古いやつから使わないと……という思いがあったからだ。

 

 しかし、それも今日まで。

 

 今後の事を考えれば早めに使用して、どのような魔法なのかを身体で覚えておく必要があるだろう……と、彼女は思い至った。 

 

 

 ……ちなみに、だ。

 

 

 90年代OVAファンタジーの世界は、現代異世界ファンタジーと違って、けっこう色々と世知辛い世界観が多かったりする。

 

 たとえば、お金が無くて普通に飢えて盗みを働こうとしたり、風呂に入れなくて気にしたり、なんなら金無しだからと邪険に扱われたり。

 

 あと、なんか肩パットみたいなのが入っている鎧を着ていたり……冷静に考えると、あの肩パットみたいな鎧って……いや、そこはいいか。

 

 とりあえず、このファンタジー世界はけっこう世知辛い。ウオシュレットだって無いのだから。

 

 そう考えた彼女は……さっそく、国王夫妻に商談を持ち掛けることにした。

 

 

「時に、陛下……実は、私自身愛用している石鹸があるのですが……」

 

 ──勝ったな。

 

 

 その時点で、彼女は価値を確信し……女すら見惚れる美貌の下で、ふぁっふぁっふぁ、と勝ち誇ったのであった。

 

 

 

 

 

 そして、勝ち誇ってから一か月後……どういうわけか、石鹸が売れた。

 

 それはもう、鳥が力強く空を飛ぶがごとく売れ行き曲線は右肩上がりを更新し続け。

 

 あまりにも作ったそばから売れてゆくから、自分が何個売っているのか分からなくなるぐらい売れた。

 

 いちおう、通販魔法で仕入れた時の30倍の値段で売っているのだけど、それでも右肩上がりであった。

 

 いったい、どうして……答えは、『通販魔法』にて彼女が用意した物品の質の良さにあった。

 

 

 と、いうのも、だ。

 

 

 まず、この世界の石鹸は基本的に良い匂いはしない。

 

 王族や貴族用の石鹸は花のエキスを混ぜてあるらしいけど、香料に花を使うので作れる時期に限りがあるし、匂いもそこまで強くはない。

 

 中にはカビが生えてしまう時が……意外かもしれないが、石鹸にもカビは生えるのだ。

 

 まあ、どちらかといえば石鹸表面に付着した水分や皮脂などが原因で、石鹸そのものから生えることはほとんど……とにかく、一年を通してずっと同じ品質というのは難しい。

 

 王族貴族用ですらソレなのだから、庶民用の石鹸ともなれば、より安価な原料が使われていて……場合によっては特有の臭いが残ったりするのだ。

 

 

 そんな中で、だ。

 

 

 人によっては肌に合わなくて嫌がる人がいて、香りにもその時によって強弱が生まれ、あまり良い匂いではなく、泡立ちも弱いし、モノによってはべたつきも残る石鹸と。

 

 現代の厳しいアレルギー検査をクリアしているので肌への刺激が弱く、香りも常に一定で泡立ちが良く、色も白くて見た目にも良い石鹸。

 

 そう、現代レベルの石鹸(固形)を販売すればどうなるか……答えは、売れて当たり前、である。

 

 そのうえ、彼女はバカではない。バカではないから、先に考えていた……石鹸の排水問題を。

 

 普通に販売して普通にみんなば後先考えずに使いまくったら下水関係の汚染待った無しなので、彼女は販売する石鹸に魔法を掛けた。

 

 それは、石鹸使用時の排水が、時間経過によって自動的に水へと変化して無害なモノになる……下水処理要らずになる魔法であった。

 

 だから、いくら使っても用水路などが泡だらけで大問題なんてことにはならず……彼女は自然環境にも目を配ることが出来るエルフなのだ。

 

 

「う~ん……なんだか、申し訳ない気持ちでいっぱいだな」

 

 

 まあ、それはそれとして。

 

 やっていることは既製品のあこぎな転売な気がして、売れれば売れるほど微妙な気持ちになってゆく。

 

 だけど、下手に販売個数を0にするわけにはいかないし、値段を下げるわけにはいかなかった。

 

 下手に販売中止にしてしまうと王族貴族から問い合わせが殺到するし、お金持ち用にしてお高い値段設定にしていて、この売り上げなのだ。

 

 品質を維持したまま庶民にも手を出せる値段にしてしまったら、いったいどれだけの生産業者が廃業に追い込まれるのか。

 

 想像しただけで恐ろしく、それゆえに、彼女は販売個数を絞る程度に留め、値段は絶対に下げなかった。

 

 そんなわけで、今日の業務。

 

『通販魔法』にて取り寄せた石鹸を箱から取り出して、この世界で作ってもらった箱に移して……終了である。

 

 

 ……最近は、とんとギルドからの依頼を受けていない。

 

 

 それよりも石鹸を作って売ってくれという要望が多すぎて、売り上げ的にもそっちの方が高いから、余計に。

 

 ちなみに、現代とは違って、この世界では王族貴族でも箱などは再利用する。

 

 まあ、それは物持ちが良いというよりは、装飾や刻印などが施されているので感覚が違うからなのだけど。

 

 それでまあ、所要時間30分ほどで仕事を終えた彼女は……う~ん、と背筋を伸ばして、さて、と考える。

 

 

(……久しぶりに、冒険者らしい仕事をするか)

 

 

 思い立ったらすぐ動く。

 

 それが、彼女の良い面であり、悪い面でもあった。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そして、今回は。

 

 

「こんにちは、護衛のエルフです。今回はよろしくお願いします」

「うわぁぁー!! エルフが護衛に!?」

「名前はとんでもなく長いので、略してエルフと呼んでくださいね」

「うわぁぁー!! とってもフレンドリーだ!?!」

 

 

 ギリギリ悪くないけど、ちょっとだけ悪い方向になったのであった。

 

 

 

 

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