うわぁぁ!!! エルフだ!!??!   作:葛城

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第6話: 日本のエルフは魔改造エルフ

 

 

 

 冒険者にとって『護衛任務』というのは、冒険者として一人前として評価されるようになった証でもある。

 

 というのも、護衛任務というのは忍耐の仕事であるからだ。

 

 ギルドが仲介しているとはいえ、依頼主は護衛する相手。つまり、雇用主である。

 

 相手がなんであれ、雇用主の要望には出来る限り答える必要がある。それこそ、理不尽な事を言われても、グッと堪えて我慢しなければならない。

 

 低ランクのうちはまず実力が最優先みたいなところがあるけれども、護衛任務を受けるレベルともなれば、力一辺倒ではダメなのだ。

 

 ぶっちゃけてしまえば、コミュニケーション能力もけっこう求められるわけで。

 

 冒険者の中には何を勘違いしたのか、ギルドに対しては従順だけど雇用主に対しては横柄な態度に出る者が一定数出る。

 

 ギルドからしたら、そんな人だと気づかずに斡旋してしまったら評判を下げるばかりか、明確な苦情となってしまう。

 

 ましてや、依頼主が行方不明(あるいは、推定死亡)なのに護衛するはずの冒険者だけ戻ってきたら、どんな目で見られるか。

 

 突き詰めてしまえば、冒険者という仕事は信用を担保にした仕事でもあるわけで。

 

 実力はあっても素行などに問題があればいつまで経っても『護衛任務』は斡旋してくれないし、当人が受けようとしてもギルド側からNOを突き付けられてしまう。

 

 なので、『護衛任務』を受領できた時点で一定の信頼と実力をギルドから得ているという証であり、これが、一人前扱いされる理由にもなっていた。

 

 

「わ、わぁ……え、エルフだ……!!」

「噂には聞いていたけど、本物だ……」

「耳が長い、美人……エルフ……ってこと!?」

 

 

 まあ、それはそれとして護衛任務においても、彼女の人気は衰え知らずの右肩上がりであった。

 

 それもまあ、致し方ない。

 

 何故ならば、彼女はエルフ……そう、エルフを実際に目にする事はもちろん、護衛してもらえるだなんて『ベルターナ』以外には無いからだ。

 

 少なくとも、海を渡った、あるいは大陸の彼方では違うかもしれないが、ここらでは実在するエルフは彼女だけなので、実質オンリーワンであった。

 

 ちなみに、護衛任務の規模はその時によって異なる。

 

 一人か二人だけを雇う時もあれば、1チームを雇う時もあるし、規模が大きいと十数人と雇ったりする時がある。

 

 まあ、そんなのは滅多にないし、それだけ雇えるところはだいたい王族貴族か大商人なので、繋がりが無ければ雇われる可能性は0に等しいのだけど。

 

 

 話が逸れたので、戻そう。

 

 

 今回の依頼主は馬車が5台、商売人とその家族がそれぞれ乗っている。合同で金を出し合って護衛を雇った、という形だ。

 

 今回の護衛任務で雇われたのは、いわゆる中堅どころといった感じの冒険者が2チームである。

 

 顔ぶれに統一性は無いし男女混合だけど、気心知れた間柄といった感じで……場の空気は良かった。

 

 そんな中に、エルフとかいう場違いな己が混じることに一抹の不安を覚えた彼女だが、受けてしまった以上は頑張らなければならない。

 

 なので、彼女は当たり障りなくトラブルを起こさないよう気を付けねばと……思っていたのだけれども。

 

 

「……あ~、その、良いかな?」

 

 

 さっそく、護衛チームの……二つあるうちの一つ、黒い鎧を着たチーム『黒豹』のリーダーから話しかけられた。

 

 体格も良く、しっかり手入れがされた鎧は黒光り……なんとも頼りがいを感じる男である。

 

 とはいえ、まさかこんな状況でナンパか……いや、違う。

 

 

「エルフである貴女はどうやって戦うのかを知っておきたいのだが……見たところ腰に下げたナイフの他には弓を持っているだけだが、矢は無いのか? それとも、魔法を使うのかい?」

 

 

 真っ当なご指摘であった。そして、彼が疑問を覚えて話しかけるのも当然であった。

 

 実際、見たままを語るのであれば、彼女は軽装であった。

 

 パッと見ただけで分かる武器は、腰に取り付けたナイフだけ。

 

 魔法使いにとってお馴染みの杖を持ってはおらず、弓はあるけど矢筒の類は見当たらず、実質的には丸腰も同然……そりゃあ、声を掛けられて当たり前である。

 

 

「魔法を応用した弓矢が私の武器になりますね」

 

 

 その言葉と共に、彼女は弓を構え……弦を引く。

 

 それに合わせて、光り輝く矢が形成され──指を放せば、ひゅんと音を立てて放たれた矢が、少しばかり離れた場所にある岩石にぶち当たって、大きなヒビを入れた。

 

 

「私の魔力が尽きぬ限り矢は無限に放てます。もちろん、速射もこのとおり」

 

 

 素早く行えば、それはまるでマシンガンのように……ハンマーを使っても手こずるであろうソレが粉々になるまで、そう時間は掛からなかった。

 

 実はこれ、密かに練習していたのだ。

 

 エルフと言えば魔法、エルフと言えば弓矢、エルフと言えば遠距離攻撃、彼女が想像するエルフはパワーではなくマジカルで戦うのだ。

 

 

 間違っても、だ。

 

 

 原作の原作みたいに獲物をパワーで仕留めてパワーでさばいてパワーで焼いて自らの筋肉に変えてしまう戦闘民族エルフ人ではない。

 

 彼女が知っているエルフは、華奢で耳が長くて美人で魔法が使えて、主人公よりも人気がある、そんなエルフ。

 

 間違っても、今日の飯だと言わんばかりに分厚い剣を片手に迫って来るバーバリアンではないし、そこらの男より筋肉を搭載したファイターでもないのだ。

 

 

 ……とはいえ、だ。

 

 

 他の人たちは知る由もないことだが、実は何気なく弦を引いている彼女……実は、魔法でパワーを底上げしている。

 

 なんでかって、彼女が使用している弓なのだが、実はかなり重い。下手したら、弓だけで50kgを超えているほどに。

 

 なんでそんなに重いのかって、それは、それだけ重く強くしないと、張った弦の引く力に負けて折れてしまうからだ。

 

 誇張ではなく、ボキッと二つに折れる。ヒビとかじゃなく、一目でどうにもならないぐらい派手に。

 

 そんな馬鹿げた弦の強さに耐えられる……それどころか、その状態で引いてもなお耐えられる弓ともなれば、相応の重量になってゆく。

 

 この際ぶっちゃけてしまうが、彼女が使用している弓は見た目こそ木目調の普通の弓に見えるが、それは魔法で見た目を誤魔化しているだけ。

 

 実際は合金製で、熱にも冷気にも強い。鈍器としても活用できる、弓の形をしたナニカでもある。

 

 ただ、そんな事など知る由もない第三者からしたら、とんでもない魔法の弓矢に見えるだろう。

 

 実際、話しかけた男もそうだけど、後方にて成り行きを見守っていた他の人たちからも、感心のため息が零れた。

 

 それを見て、彼女は鼻高々に胸を張った。その胸は豊満で、ぐいんと周囲の視線が一か所に集まった。

 

 

 ──サスガダァ

 

 

 どこを見てそんな言葉が漏れたのかはさておき、申し分ない実力であるのは分かったので、それ以上誰からも実力を疑う声は出てこなかった。

 

 まあ、今回の件だって疑ったというよりは、軽装なうえに武器らしい武器を持っていなかったから気になった……というだけのこと。

 

 彼女自身も、そういう部分の見た目を考えなかった落ち度を自覚していたので、特に気分を害することはなかった。

 

 異世界であろうと、TPOは大事である。

 

 どれだけ実力があろうとも、戦場にて普段着のまま出てきたら周りは不安を覚えるし、調理場で小汚い恰好で出てきたら目を疑う。

 

 実用性だけではない、見た目による安心感を与えるのもまた大事であることを、彼女は教えられた気がしたのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………まあ、それはそれとして、だ。

 

 

 護衛任務に限らず、街を離れての移動の際に食える飯なんてのは、基本的には保存食系と持ち込んだ水である。

 

 運と行路によっては川などに寄れて水を補給できるが、毎回可能ではない。

 

 なんでかって、川の水はタイミング次第ではあっというまに泥水になる。上流で雨が降るだけでも泥色になる……というのも、けして珍しいことではない。

 

 それに、生水はよほどの例外を除いてそのまま飲むことは出来ない、煮沸させるなどする必要がある。

 

 この世界は世知辛いファンタジー。

 

 川の水を飲んで渇きを癒すなんてことを馬鹿正直してしまったら、その日は半日トイレから出られなくなるのだ。

 

 だから、移動中の飲み食いする食べ物はだいたい味気ないモノで、それは王族貴族でもそこまでの違いは無かった。

 

 

(……歩きっぱなしは腹が減るなあ。でもガッツリ系は……ビーフシチューの作り置きがあったし、今日のお昼はそれだな)

 

 

 ──だが、今は違う! 

 

 ギュッと水筒(革袋である)の口を閉じた彼女は、お昼の休憩に入ったので昼飯を作る。

 

 さすがに全員が一度に休憩に入っては護衛の意味が無いので交代制。彼女は後半側で、半分のチームが周りを見張っていた。

 

 護衛中なので、いちいち手間暇をかけてはいられない。

 

 まあ、そもそも手間暇を掛けられるだけの食材を持ってきていないのだ。依頼人たちですら、塩味が強いスープに固いパンを浸して食べて、それでおしまいである。

 

 

 ──だが、今は違う! 

 

 

 アイテムボックスより取り出した寸胴鍋より、一人分を器に。あと、『通販』にて購入した食パンも添えて。

 

 彼女のソレは神様からの特注で、内部の時間は停止してそのまま、入れた時の状態が保たれている。

 

 おかげで、いつも出来立てで、火を入れる必要もなく……彼女は傍の岩石に腰を下ろして、もしゃもしゃと食べ始めた。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………それを見て、彼女へと視線が一つ二つ三つ、集まってゆく。

 

 

 元々エルフだったから視線が集まっていたし、その胸が豊満であったために視線が集まってもいたけど、今回はそれだけではない。

 

 彼女が食べている暖かい飯……あっという間に湯気立つソレを用意した動きもそうだが、実に食欲を誘う香りに、どうしても視線が集まった。

 

 けれどもまあ、あげるわけにはいかない。単純に、人数分の量が無いからだ。

 

 その中で、だ。

 

 

(……見ているなあ)

 

 

 依頼主たちの馬車、そのうちの一つからこちらを覗く子供の視線に、彼女はどうしたものかなと内心にて頭を掻く。

 

 子どもは本当に欲望に忠実だ。そこに悪気はなく、悪気を持ってあえて動くやつもいるが、この視線は悪気を感じない。

 

 なので……彼女はちょいちょいと子供へ手招きをする。

 

 気付いた子ども……姉弟だろうか、手慣れた様子で馬車を降りて、弟の手を引いてこちらへ小走りに。

 

 

「ご飯はもう済ませたの?」

「はい」

「ちょっとだけね、珍しいモノだから」

 

 

 目の前まで来たので、たっぷりシチューを付けたパンを差し出せば、姉の方が先にパクリ。まん丸に目を見開く姉を見やりながら、弟は……あ~、うん。

 

 なんだろう、近くで見ると思っていたより小さく、このぐらいの歳の子に食べさせて良いモノなのか迷う。

 

 背丈からして、4,5歳ぐらいか。

 

 子供用に塩分などを調整したわけじゃないし、下手に食べさせて下痢なんて起こしたら……う~ん、仕方がない。

 

 懐より取り出した(ように見せかけて)袋より、キャラメルを一つ。

 

 それは甘さ控えめのやつだけど、この世界の基準では十二分に高級甘味に入る代物……喉を詰まらせないよう、魔法でちょっとばかり細工をしてから。

 

 口元に持って行けば、パクっと……まん丸に目を見開く弟の顔に思わず笑った彼女は、姉の方にもキャラメルを一個あげると。

 

 

「街まで頑張りなさい、それまで守りますから」

 

 

 そう、二人に声を掛けたのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………一方、その頃。

 

 

「……美味そうだな、何を食べているんだろう?」

「あれ、どこから……エルフの魔法ってやっぱりすごいのね」

「美人だよなあ、胸も大きくて……一度でいいから、あんな人とお付き合いしたいなあ……」

「金貨を何枚積んだらそれが出来るんだよ……」

「優しそうだよなあ……朝の弓矢の腕前は腰が抜けかけたけど、普段はとても穏やかで……」

「おっぱいもデケェよな、あんなん貴族様でもいないだろ」

「いいなあ、俺も子供になって食べさせてもらいたいよ」

「あんたら……護衛中だってこと忘れてない?」

「いや、でも、あんなん反則だろ、歩くだけで絵になるじゃん。腰だって細いしよ……」

「それは、そうなのだ」

「依頼主たちも、なんか雑談から交流を持とうとしているっぽいけど、難しいんじゃねえの?」

「度胸あるね、あの人ってお貴族様と付き合いがあるって噂じゃないの?」

「でも、あのおっぱいだぜ?」

「それは、そうなのだ」

「貴族とおっぱいになんの繋がりが……でもいいなあ、すごい良い匂いしていたけど、やっぱりエルフ料理ってやつなのかな?」

「なんだ、そのエルフ料理って?」

「むかし、お爺ちゃんから聞いた事があるの。エルフってすごい長生きするって話でしょ? だから、見たことも聞いたこともない美味しい料理を作れるんだって」

「それが、エルフ料理?」

「エルフ料理か……そういえば、俺が生まれ育った村でも、エルフはエルフ酒なる特別な酒をこしらえるって話があったな」

「エルフワインのこと? 私の村にもあったわよ。精霊をも虜にする、エルフにしか作れない特別なワインだって」

「エルフワインか……死ぬまでに一度は飲んでみたいものだ」

「無理だって、王族貴族ですら金貨の袋を積んでも飲めないぐらい希少って話らしいし……私らの全財産差し出しても1滴2滴ぐらいにしかならないんじゃないの?」

「それは、そうなのだ」

「金貨出したら、あのおっぱい一揉みしても許されるかな?」

「許されると思うのだ」

「このドアホ! 変な焚き付け方をするんじゃないわよ!」

 

 

 護衛たちの間でしょうもない雑談が繰り広げられていたけど、まあ、この手の任務にはありがちな事であった。

 

 

 

 

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