薬師アルドとエルフのリーゼ   作:飽きやすい創作隊

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薬師アルドとエルフのリーゼ

 「リーゼ、その薬草取ってくれ」

 

リーゼは銀髪金眼のエルフだ

基本的に人は嫌い

 

いつも店の窓際の席にただ座っているだけ

薬屋の看板娘からは程遠い

 

「はい」

 

「ありがとう」

 

 

渡された葉を薬鉢に丁寧に入れ、調合していく

 

「お待たせしました、できました」

アルドは腕利きの薬師だった

 

 

「ありがとう、先生」

エレンは微笑み、家へと走っていった

 

ドアが閉まる

乾燥させた薬草の香りだけが残った

 

リーゼはひとつ溜息を吐くとアルドを見た

 

「タダで薬をあげてるから売り上げ伸びないんじゃない?」

 

「お前が薬草たくさん持ってきてくれるからお代なんて要らないだろ?」

 

「そういう問題なの?」

 

「そうだよ」

 

リーゼは壊れた天窓、屋根、ドアを順に見つめた

 

「これじゃあいつ直るかわからないわね」

 

「そうだな」

 

「そうだなって...わたしいつまでここにいればいいの?」

 

 

「好きにしていいぞ、いきたいところに行って。戻ってきたい時に戻ってくればいい」

 

「何それ...」

 

「俺はエルフを縛らない」

 

「人間はエルフを売り物にするでしょ?なんでアルドはしないの?」

 

「みんながみんなそうじゃない、お前もそれくらい分かってるだろ?」

 

 

「人は、お金になると目の色が変わるでしょ?」

 

「確かに、そういうやつもいるかもな」

アルドは少しだけ口角を上げる

 

「大体そう...だからアルドは?」

 

「もしかして...縛られて、売られたいのか?」

 

「...そう」

リーゼは視線を落とした

 

「嘘つけ」

 

アルドは薬棚の薬草をひとつひとつ確認しながら呟く

「ここを出ていく理由が欲しいだけだろ」

 

 

「そうかもね」

リーゼは呟く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは居心地が良すぎる

 

 

 

 

 

------------

 

 

 

 

 

がっしゃあああああああああんっ

天窓が盛大な音と共に壊れた

 

正式にはリーゼが天窓を突き破って空から落ちてきた

 

 

リーゼが違和感を感じたのは一言目

 

 

 

「大丈夫か?!」

 

 

"人"を心配する声音

 

今まで最初の第一声は基本"エルフ"であることだった

 

 

アルドはそして次の瞬間、リーゼの金色の瞳を覗き込んだ

 

「酷い怪我だ...お前、治癒魔法は使えないのか?」

 

「できない」

リーゼは警戒を解くことなく睨む

 

 

「そうか、なら大人しくしてろ」

 

 

「何する気?」

 

 

「治療だ」

 

治療?

エルフに治療?

リーゼは頭が真っ白になる

 

何を言っているの?

 

思わず声に出ていた

 

「捕まえないの?」

 

「そういう趣味はない」

アルドは薬棚に向かって話していた

 

リーゼは瞳を見開いた

エルフに興味がない人間なんていたの?

 

「動けるか?」

 

「無理そう...」

 

 

 

アルドはリーゼの横にしゃがみ込んだ

 

「...触っていいか?」

 

「嫌」

即答だった

 

「ここだと怪我するかもしれない」

苦笑いするアルドは床を見る

 

天窓が壊れてガラスの破片が飛び散っていた

 

「せめて場所だけ変えたい」

 

「一回だけなら、許す」

蚊の鳴くような声でリーゼは了承した

 

 

 

「一回じゃ流石の俺でも治療できないな」

アルドはそう微笑みながらリーゼを抱き上げた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





落ちてきたのはエルフだった

 

アルドは赤い瞳を見開く

初めて"エルフ"を見た

 

 

本当に存在していたのか、と目を疑った

 

しかし、それどころではない

身体が反射的に動いた

 

 

血が床に溜まっていく

かなりマズイ

 

命の危険があることを知らせなきゃならないかもしれない

 

 

アルドは急いで湯を沸かし、薬棚に向かうと止血薬、湿布、ガーゼ、包帯を手にする

 

今の在庫で足りるか?

 

いや、間に合わせる!!!

 

リーゼの元に戻り止血を試みる

 

 

「っ...」

 

「回復魔法が使えれば良かったんだけど、すまないな」

 

ゆっくりと寝台に向かい、アルドは毛布を引き寄せた

 

 

 

そして、鎮痛作用のある薬湯を飲ませ落ち着かせる

 

「傷を見せてもらう」

 

その言葉にビクッとするリーゼはアルドを見た

 

「変なことしない?」

 

「しない」

アルドはそう約束する

 

無数の傷口に布が張り付いている

 

 

一旦脱がせるしかない

アルドは躊躇しなかった

 

服を脱がせてすぐ異変に気づいた

 

大きな傷には黒い紋様が刻まれていた

「呪印...?何と闘っていたんだ?」

 

 

「知らないほうがいいと思う」

リーゼは淡々と告げる

 

 

「治療に差し障るだろ」

 

 

「...ケルベロスって言ったら?信じる?」

 

 

「いや...信じるしかないけど」

 

 

「そう」

リーゼは小さく呟く

 





布を外した瞬間、アルドはすぐに治療に取りかかれなかった。

 

 

 

手が止まる。

 

 

 

息を一度、浅く吸い直す。

 

 

 

「……これは」

 

 

 

声が、少しだけ低くなる。

 

 

 

リーゼの傷は“浅く広い”ものではなく、明らかに戦闘で繰り返し負ったものだった。

 

 

 

防御をすり抜けた一撃ではない。

何度も、確実に、殺しに来た攻撃の痕跡。

 

 

 

腕、肩、脇腹。

どこも無事な部分を探す方が難しい。

 

 

 

特に問題なのは脇腹だった。

 

 

 

動けば開く。

下手に縫えば、すぐに裂ける。

 

 

 

アルドは短く息を吐く。

 

 

 

「……普通なら、立ってるのもきついレベルだぞ、これ」

 

 

 

それでもリーゼは意識を保っている。

 

 

 

しかも、冷静に会話までしている。

 

 

 

異常だった。

 

 

 

アルドは淡々と処置の準備をしながら、内心で結論を出す。

 

 

 

(この傷で動いてきたのか)

 

 

 

(しかも、ここまで来て倒れてない)

 

 

 

治療者としての経験があるからこそ分かる。

 

 

 

これは“ギリギリ助かる重傷”ではない。

“運が悪ければ途中で死んでいる傷”だ。

 

 

 

 

「よく意識を保っていられるな?」

 

 

 

 

「そろそろ限界」

 

 

 

「だろうな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軟膏を塗り、スライムの液体を含ませた湿布をして包帯を巻いていく

 

 

 

 

 

 

 

 

------------

 

 

無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理

 

めっちゃ恥ずかしいんですけど?!

今、肌が晒されて...

 

リーゼは混乱していた

 

どうしてこうなったのか?

 

もちろん、自分から脱いでいった

 

が、ダメだった

 

リーゼの頭の中だけが、やけに騒がしかった。

 

 

 

「違う違う違う……」

 

 

 

落ちてきた時の衝撃よりも、今のほうがよほど心臓に悪い。

 

 

 

自分で脱いだ。治療のために必要だったから。そこまではいい。理屈では正しい。

でも——

 

 

 

(“見られてる”……!)

 

 

 

視線というより、手だ。冷静で、迷いがなくて、必要なことだけを淡々と進める手。

 

 

 

それが逆に、落ち着かない。

 

 

 

アルドはそんな彼女の内心など知らないまま、傷口の洗浄を終え、縫合の糸を丁寧に結んでいく。

 

 

 

「痛みは強くないか」

 

 

 

「……平気」

 

 

 

即答した声が、少しだけ硬い。

 

 

 

アルドは一瞬だけ彼女を見て、それ以上は何も聞かなかった。代わりに、手元に集中する。

 

 

 

その沈黙が、またリーゼには落ち着かない。

 

 

 

(気まずい……のに、変に優しい……)

 

 

 

やがて包帯が巻かれ、最後の結び目が整えられた。

 

 

 

アルドは息を吐く。

 

 

 

「とりあえず、止血はできた。あとは熱が出るかもしれない。今日は動かない方がいい」

 

 

 

「……うん」

 

 

 

返事は短い。

 

 

 

なのに、さっきまでの“嫌悪”ではない。むしろ、力の抜けた声だった。

 

 

 

アルドは少しだけ間を置いてから、視線を外す。

 

 

 

「服、無理に着るな。擦れると開く」

 

 

 

その一言で、リーゼの思考が再び爆発した。

 

 

 

(やっぱり今そういう話する!?)

 

 

 

顔を逸らしたまま、毛布をぎゅっと掴む。

 

 

 

「……わかってる」

 

 

 

声が小さすぎて、自分でも聞き取れるか怪しい。

 

 

 

アルドは立ち上がり、湯気の残る薬湯の器を片付けながら言った。

 

 

 

「……さっきのは、すまなかった。手早くやるしかなかった」

 

 

 

謝罪は簡潔だった。

 

 

 

余計な言い訳も、変な気遣いもない。

 

 

 

ただ治療していただけ

 

それがかえって、リーゼの胸のざわつきを別の方向に変える。

 

 

 

(……この人、そういう意味じゃないのか)

 

 

 

私だけ意識して...馬鹿みたいにじゃん!!!

 

理解した瞬間、今度は別の種類の恥ずかしさが押し寄せてきた。

 

 

 

毛布の中で、リーゼは小さく丸くなる。

 

 

 

「……別に」

 

 

 

それだけ言って、少し間を空けてから続けた。

 

 

 

「助かった。……ありがとう」

 

 

 

アルドは一瞬だけ目を細めて、短く頷いた。

 

 

 

「俺はアルド。あのさ、君の名前だけ教えてもらえるか?」

 

 

「...リーゼ」

部屋の中は、静かだった。

薬草と湯の匂いだけが残り、外の世界とは切り離されている。

 

 

「よろしくな、リーゼ」

そしてその静けさの中で、リーゼはようやく気づく。

 

 

 

(男の人に肌晒したの、初めて...)

 

 

 

思い出しただけで顔が熱くなる。

 

 

 

 

その事実を自覚した瞬間、今度は別の意味で心臓が忙しくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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