「本当にリーゼと何もないのか?」
頬杖をつきフィアはアルドに問いかけた
「何がだ?」
「人間はエルフ好きだろ?」
「そういうやつは多いな」
「リーゼは綺麗だよな?」
「ああ、そうだな」
「ちょっと、全部聞こえてるわよ」
寝室からリーゼの声が聞こえる
「胸も見たんだろ?」
「治療でな」
「見たんだよな?」
「...ああ」
「エルフのおっぱいなんてなかなか見れないんだぞ?!もっと喜んでもいいだろ、普通」
「それはお前達が1番されて嫌なことなんじゃないのか?」
「本当に男?」
フィアは呆れてアルドを見た
「男だ」
大きく溜息を吐くアルドは肩を落とす
「何?まさか男が趣味とか?」
フィオネがハッとする顔をする
「んなわけあるかっ!!!」
アルドは力強く否定した
「じゃあ率直に聞くけど、リーゼのこと本当に任せて大丈夫なんだろうな?!」
「ああ」
「変なことしたらタダじゃおかないからな?!」
「はいはい」
そう言ってアルドは寝ているリーゼに声を掛けた
「リーゼ」
「何」
「すまない、聞きたいことがあってな」
「?」
「フィア達とエルフの住んでるところに帰りたいか?」
「戻っても...結局寝ているだけよね」
「ああ」
「それに」
天窓を見上げるリーゼ
「これの弁償もしないと何でしょ?」
「そうだな」
「ドアも屋根も」
「お前は悪くないんだけどな...」
「それに」
「それに?」
「治療のお礼もしないとだし...残る」
布団を被るリーゼ
「そうか」
アルドはそう言った笑う
そして、今に至る。
森の中を吹き抜ける風が木々を揺らした。
リーゼは短剣を手に駆け出す。
銀色の髪が陽の光を受けて揺れた。
「リーゼ、あまり突っ込むな!」
アルドが声を上げる。
しかしリーゼは振り返りもせず、
「分かってる!」
とだけ返した。
そう言いながらも足は止まらない。
目の前には山狼が三頭。
薬草採取の帰り道に遭遇した群れだった。
リーゼが一頭を牽制する。
だが残り二頭が大きく回り込んだ。
「ちっ」
アルドは腰の革袋から薬瓶を取り出した。
栓を抜き、山狼の足元へ向かって投げつける。
瓶は勢いよく砕け散った。
次の瞬間。
強烈な刺激臭が周囲に広がる。
「ギャアオウッ!!!」
山狼達が悲鳴を上げた。
鼻先を地面に擦り付けながら逃げ惑う。
その隙をリーゼは見逃さない。
地を蹴った。
「はああぁっ!」
銀色の一閃。
短剣が山狼の首元を切り裂く。
倒れた一頭を見て残りは森の奥へ逃げていった。
静寂が戻る。
「臭いキツっ……」
リーゼは鼻を押さえた。
「助かった、じゃないのか?」
アルドは苦笑する。
「それいつも思うんだけど、最悪」
「狼にはよく効くんだよ」
「私にも効いてるんだけど?」
リーゼはじとりと睨んだ。
アルドは肩をすくめる。
「悪かった。後で鼻に効くやつご馳走するから許してくれ」
「本当に?」
「ああ」
「じゃあ許す」
即答だった。
「安いな」
「美味しいから」
リーゼは平然と言う。
アルドは思わず笑った。
最初に出会った頃なら考えられない。
あの頃のリーゼは警戒心の塊だった。
必要最低限しか話さず、いつもどこか張り詰めていた。
今ではこうして冗談も言う。
「早く帰ろ」
そう言ってリーゼは薬草籠を担いだ。
その姿を見ながらアルドは小さく息を吐く。
「もうすっかり身体も治ったみたいだな」
リーゼは足を止めた。
振り返る。
「うん、アルドのおかげ」
そう言って笑った。
柔らかな笑顔だった。
あの日、寝台で横になっていた少女と同じ人物とは思えないほど。
一瞬、言葉を失う。
胸の奥が妙に騒がしい。
リーゼは不思議そうな顔をした。
「どうしたの?」
「いや、何でもない」
アルドは視線を逸らした。
自分でも理由は分かっていた。
分かっていたからこそ口にできない。
二人は並んで森を歩く。
やがて家が見えてきた。
屋根の上には、相変わらず天窓がある。
リーゼはそれを見上げた。
そして前から気になっていたことを口にする。
「なんで天窓、治さないの?」
アルドは空を見上げた。
あの日。
リーゼが屋根を壊して落ちてきた日。
フィア達に問い詰められた日。
リーゼが「残る」と言った日。
全部思い出す。
本当ならとっくに直せた。
材料もある。
時間もある。
それでも直さなかった。
理由は簡単だった。
アルドは少し考えるふりをした。
そして隣を歩くリーゼを見る。
「んー」
リーゼが首を傾げる。
アルドは笑った。
「お前と居たいからかな」
風が吹く。
リーゼは目を丸くしたまま立ち止まった。
その反応がおかしくて、アルドはもう一度笑う。
空いたままの天窓からは、今日も青空が見えていた。
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