ぼくが神様に攫われるまでの物語   作:マガマガ

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201◼︎/08/31 11:15 ◼︎岡県 稲裏町


3話 夏と出会いの終わり

 

 

 

今日はいつもより少し風が吹いていて涼しい天気だった。太陽は空を覆い尽くす雲に少し隠れ気味で、肌を焼くような熱の気配はあまり感じない。一定間隔で建物に吹き込んでくる風が、額の汗の冷たさをより一層感じさせてくる。

 

ここ最近のぼくは狐のいる建物にお菓子やおもちゃを持ち運んでいた。というのも、もう今日の夜にはおじいちゃんの家ではなく、普段住んでいる山の近くの町にある家に帰るのだ。この山に来れなくなるほどの距離ではないものの、やはりおじいちゃんの家よりは距離があるのであらかじめおもちゃやお菓子をここに置いておくことで少しでも来る時の荷物を減らそうという作戦だ。ぼくは自転車を持っていないので徒歩でこの山に来る予定なので荷物は軽ければ軽いほどいい。

そうして落ちていた食べ物をせっせと運ぶ蟻のように物を運んでくるぼくを、狐はどこか呆れたような顔で眺めていたが、最近は持ってくる物に興味津々のようだ。今もぼくが持ってきた絵本を鼻先を器用に使いながらページをめくって読んでいる。目線を見るにじっくりと読み込んでいるようだが、内容は理解できているのだろうか?文字ではなく絵の方を気にしてるのかな?さすが九尾の狐の進化前(予想)といったところだ。すでにそこらの動物より賢そうだ。

 

なんてことを考えながらぼくはリュックの中に詰め込んできた大きなジュースのペットボトルを、おじいちゃんの家の倉庫から拝借したクーラーボックスに入れる。これは決して盗んできたとかそういう物ではなく、おじいちゃんに聞いたら使わないから好きに使っていいと言われたのだ。使っていいと言われたのでありがたくジュース入れとして活用させてもらう。やはり持つべきは優しい祖父母だなぁ。おっと。小さな保冷剤も入れておこう。これから毎日ここに通うとして、帰る時にその都度古い保冷剤を持って帰って新しい保冷剤と入れ替えてで何度も使い回せば中にあるジュースがぬるくなることもないだろう…たぶん。昨今の異常気象の前にこの保冷剤達がどこまで耐えられるかだが…

 

ぼくはジュースの収納がひと段落したのでゴロリとその場で寝転がって軽く伸びをする。凝り固まった骨たちがポキポキと軽快な音を立てる。肌に伝わる柔らかな木材の感触が心地いい。

あの薬指もぐもぐ事件があった後にこの建物の掃除を定期的に行なったことで、最低限寝転がれる程度の清潔さがある。もっとも視線の先にある天井の穴はさすがに諦めた。こんなの大工さんじゃないとどうにもならない。

 

そうやって物思いに耽っているといつのまにか狐が頭上からこちらを覗き込んでいた。金色の瞳が何かを訴えかけるようにジッとこちらを見つめる。

 

「絵本読み終わったの?」

 

狐は何も言わずにさっきまでいた場所を見る。視線を追うように首だけ動かして見てみると絵本が最後のページを開いたまま放置されている。読み終わった。ということなのだろう。内容を理解してるかはともかく見るスピードが凄まじく早い。

 

「あの絵本面白かったでしょ。ぼくあの本好きなんだよね。」

 

読んでいた絵本は罠にかかった鶴が助けてくれたおじいさんに恩返しとして服を作りに行くお話だ。動物とおじいさんの優しさ、読んだ後の若干のさびしさが好きだった。まぁ、開けちゃダメって言われたのに開けてしまうところだけはぼくのような子供でもいただけないと思いはしたが。

 

ぼくの面白かっただろうという問いかけに狐はそうか?と言いたげに顔を顰める。なんやかんやで出会ってもう1ヶ月くらい経ったからか、なんとなく狐の伝えたいこともわかってきた気がする。

しばらくボーッとしていると、狐はトコトコとぼくの隣に寄ってきた後少しくるくると回り、ストンと腰を下ろした。これは昼寝をする時によくする動きだ。丸まって目を閉じる狐に影響されてか、ぼくも段々と瞼が重くなってくる。

 

「ふわぁ…」

 

ほんのりと温かい気温と吹いてくる風の心地よさに体が安心したのか大きなあくびが出てくる。

 

夏休みの終盤だというのに重い荷物を運んで部屋の掃除をしての繰り返しだったな。力を抜くと、体がフワフワとした独特の浮遊感に包まれる。ぼくはもう、いつのまにか閉じていた目を開くことはせず、狐と共に夢の中へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

『〜!?!?!?』

『ーーー!ーーーー!』

『◼︎◼︎◼︎!!!』

 

気付けばぼくは地獄の真ん中に立っていた。

 

燃え盛る家と地面。人の悲鳴。肉が焼けるような匂い。倒れた人から流れている血が地面の窪みに水溜りを作っている。どこからか爆発でもしているのか時折地面が軽い振動を足元に伝えてくる。

 

(なに…これ…)

 

ぼくはそんな光景を前にただ立ち竦んでいた。いや、立ち竦んでいたと錯覚していたというべきか。視線を下げると自分の体や足が見えない。手を動かそうとするけどぼくの視界に腕は映り込んではこない。ぼくの目玉だけが宙に浮いてこの光景を見ているかのようだった。

 

(これは…夢?)

 

そうとしか考えられない。目の前で人や家が燃えているのに炎の熱さや熱気のようなものも感じないのがその証明なのだろう。ぼくは辺りをぐるりと見渡すとこの地獄のような世界で一際目立つ存在が目についた。

 

『◼︎◼︎◼︎』

 

それはとても背の高い、獣の耳と9本の尻尾を持った着物を着た女性だった。白みかかった金色の髪の毛は腰まで伸びており、炎の光を反射して輝いている。着ている着物は高級なものなのだろう。色鮮やかな刺繍が施されていたのだろが、べっとりとついた大量の血で元の色はもうわからない。金色美しい瞳は細められ、可憐な口元は三日月のような孤を描いている。

 

『ま◼︎◼︎こ◼︎程度で死ん◼︎◼︎まう◼︎は。存◼︎陰陽◼︎と言う◼︎も話に◼︎◼︎ぬの◼︎?』

 

虫食いになっているかのように声が断片的に聞こえてくる。電波の悪い場所で見るカーナビのテレビのようにその声はツギハギだ。その声は鈴を転がすような高くて綺麗な声のはずなのに、体の芯から震え上がるような強い重さと冷たさを感じる。ニヤリと笑った際に口角がさらに釣り上がり、猛獣のような鋭い牙が垣間見える。

その女の人が話しかける視線の先にいるものをぼくは見ようとして、そして思わず悲鳴のような声を上げた。実際には声など出ていない。けれどぼくは恐らく、その場で悲鳴を上げながら尻餅をついていただろう。

 

 

 

 

女の人が見た視線の先、そこには巨大な3体の化け物がいた。

 

 

『◼︎!なぜこのようなことができるのだ!?』

茶色の毛並みをした巨大な犬のような怪物が吠えるように叫ぶ。

山にある大木のような大きさの4本足。その先には鋭い爪が地面に食い込んで大きな溝を作っている。剥き出しの口からは巨大で鋭い牙たくさん並び、怒りを表すかのように歯を食いしばっている。逆立つ毛並みが怪物の心情を表すかのようにゆらゆらと炎のように激しく揺れる。

 

『まさか、これほどの事をしでかすとはね。僕も想定外だ。自分で言うのもなんだけど、僕より性格悪いよ君。』

小馬鹿にするように話すのは大きな白い布を被った白い大蛇だ。

テレビで見たロケットのように太く、巨大な鱗を纏った体。長い体の先は後方まで続いている。ジャラジャラとした装飾がついた布を頭から被っているため表情を見ることはできないが、時折りチロチロと赤い舌が見え隠れしている。

 

『◼︎◼︎◼︎せずともこのような蛮行とはな。やはり貴様はここで殺すべきだ。』

そう言いながら一歩前に出る巨大な角を持ったナニカ。蛇と同じ巨大な布を顔だけでなく全身に纏っている。力強く踏み出した足は蹄が付いており、枝分かれしたような角があることから鹿のような生き物なのだろうか。落ち着いた声とは裏腹にその声音から強い嫌悪感が滲み出ている。

 

 

3体の化け物はいずれも3階建ての建物くらいの大きさがあり、少し動くだけで地面に大きな揺れが生じている。

普通の人が見たら死を覚悟するような異質な存在感を放つ大きな化け物を目の前にして、獣の耳を持った女性はケタケタと愉快そうに笑う。自身より遥かに巨大な怪物3体を前に、この状況が面白くて仕方ないというような余裕のある態度だ。

 

『殺す。のう?私が戯れに放った炎から矮小な人間すら守れぬお前達がか?』

『貴様…!』

『安い挑発だよ◼︎。乗る必要なんかない。』

『◼︎の◼︎の言う通りだ。この私がいながら人間どもに被害が出たのは腸が煮え繰り返るほどの屈辱だが、元より此奴を相手に小さな被害で済まそうとするのが無理な話よ。』

 

激怒する茶色の犬に白い蛇が宥める。それに同調するように布まみれの鹿が声を上げる。反応はそれぞれ違うが女性を見る目は全員憎しみと怒りで満ちている。それでも尚、対面する女性はその姿すらも愉快とばかりに高らかに笑う。

 

『面白いのう!お前達がどこまで人間どもを守れるのか、お手並み拝見といこうかの?そうさな…まずは。そら。』

 

獣の女性がピンと人差し指を立てると指の先に小さな炎の玉が現れ、どんどんとその大きさを増していく。数秒もしないうちにその大きさは対面する怪物が見上げるほどになった。

 

『◼︎ー!!!!!』

『本当に、どこまでも下衆な…!』

『人間どもは集まれ!我らの側より離れるな!』

 

慌てふためくように周囲にチラホラといた人々が集まり始める。時代劇で見るような着物を纏った人々は皆火傷と血に塗れており、絶望の表情を浮かべながらも獣たちの元へ走り寄る。それと同時に巨大に膨れ上がった炎の玉はまるで打ち上げ花火のように天高く発射され、

 

『◼︎◼︎』

 

凄まじい爆音と共に無数の炎の礫となって大雨のように降り注いだ。

地面に着弾した炎はとてつもない爆発を伴い、土を焼きながら地面を根こそぎ削り取っていく。獣達の側に集まれなかった人々が悲鳴を上げる間もなく跡形もなく消え去っていく。地面にあった血の水溜りは煙を出しながらたちまち蒸発した。

 

『絶対に君達は守るから!!!私から離れないで!!!』

『くそっ…!なんて威力だよ…!僕の結界にヒビまで入れやがって…!』

『なんとか耐えろ!必ず勝機は…!』

 

3体の獣達が慟哭にも似たつんざくような声を上げているのが聞こえる。

 

ぼくはカメラのフラッシュを永遠と浴びせられてるかのような眩い光に目を開けることすらできなかった。

 

かろうじて薄く開けた視界に飛び込んできたのは、

 

こちらに向かってくる巨大な炎の光だった。

 

 

 

 

 

ゆっくりと目を開く。ぼやけていた視界が意識と共に段々と鮮明になっていく。どうやら深めの眠りについていたようだ。寝る前に見ていた空は既に夕方の色に染まりつつあり、過ぎた時間を実感させてくる。側で一緒に寝ていた狐が、ぼくが起きたのを感じ取ったのかやや遅れて目を開く。

ぼくはふわぁとあくびをする狐をボーッと眺めながら先ほど見た夢を思い出そうとする。なんだかすごく怖い夢を見たような気がする。しかし、夢によくあることだが夢というのは起きたらすぐ記憶の彼方に消えてしまうもの。衝撃的な夢だったことは薄ら覚えているのにその内容が思い出せない。ただ黙って見つめてくるぼくを狐はなんだなんだと言わんばかりに見つめ返している。

ぼくはおもむろに狐の頭に手を伸ばしてその頭を撫でる。狐は気持ちよさそうに目を細め、時折自身の顔をぼくの手に擦り付ける。最初の頃は撫でようとすると鼻先でパチンと弾かれていたのだが、今ではすっかり受け入れられている。

 

「明日で夏休みは終わりかぁ。なんだか今年はあっという間だったなぁ。」

 

楽しい時間というのは一瞬で過ぎていく。それだけ楽しい日々を過ごせているということなのだろうけど。どこかさびしい気持ちだ。

ぼくはよっこらせと立ち上がりズボンについた木の粉を手で払い落とす。

 

「ぼくそろそろ帰るね。おじいちゃんの家で荷物まとめなきゃ」

 

今日の夜にはおじいちゃん達ともお別れだ。少し遠いとは言えすぐに会える距離ではあるのでお別れというほどではないのだけれど。

狐はやれやれと言った顔で引き戸まで足を運ぶ。もはや恒例になったお見送りだ。なんと律儀なことだろうか。

 

ぼくは建物を出て靴を再度履き直す。

振り返ると狐は座ったままこちらを眺めている。

ぼくは手が取れそうなほどの勢いで手を振る。

 

「また明日!」

 

それだけ言うと勢いをつけて斜面を走り登っていく。

去っていくぼくの背中をずっと狐が眺めているような気配を感じる。

 

(明日からもきっと、今日みたいな楽しい毎日が続くんだろうなぁ)

 

焼け付くような視線を背中で受け止めながら、ぼくは明日からも続く、この日常のような非日常に胸を躍らせるのだった。

 

 

 

時刻は真夜中。お風呂と晩ごはんをとうの昔にすませたぼくは、寝る前に荷物の最終確認と部屋の整理整頓を行なっていた。せっかくおじいちゃん達がぼくのために用意してくれた部屋だ。やはり最後くらい掃除でもして恩を返さなければ。そんなことを思い立って行動すればあら不思議!いつのまにか傍の目覚まし時計が日付が変わっている事を針と数字で伝えてくる。どうやら作業に夢中になり過ぎてしまっていたようだ。そろそろ寝ないとと思い部屋の扉にある電気のスイッチを押そうと立ち上がり、ふと目線の先にある机の陰に水筒が置きっぱなしになっていることに気づく。しまった。今日持っていった水筒を出して洗うの忘れてた。

 

ぼくは水筒を手に取ると1階にある台所に行くために階段を降りる。おじいちゃん達はもう寝たので家は廃墟のように真っ暗で静かだ。ダイニングにある壁掛け時計のカチコチという音が一層際立って聞こえてくる。

大きな音を立てないように勢いを弱くした水を出す。台所で水筒を洗っているとあの狐のことを考え始める。狐が何年生きるかよくわからないが、これからずっと友達でいられるだろうか?ぼくだってずっとこの町にいるかはわからないので人慣れしすぎて餌を取る方法を忘れたなんてことになれば笑えない。どこかのタイミングで外に出て獲物を取れるかどうか確認できたらしたらいいのだけど。

 

「今後のことも考えとかなくちゃ…」

 

 

 

 

 

 

 

「今後のことってなぁに?」

 

 

 

突如として聞こえた声。あまりの唐突さに驚きの声すら出なかった。固まるぼくの視界に細く薄らと日焼けした腕が交差しながら現れ、背中から柔らかな感触が伝わってくる。さっきまでいなかったはずのその存在。

なんで?どうして?という疑問が頭をぐるぐると高速で駆け回る。声に出すことができたのは、聞こえてきた声を聞いて数秒経ってからだった。

 

「と、巴…姉ちゃん…?」

「そう。君の大好きな巴お姉ちゃんだよ。」

 

頭の後ろから昔から聞いてきた声が聞こえる。力強さと明るさの中にこちらを気遣う優しさを感じる綺麗な声。何度も何度も聞いた優しい声。なのに、今はそれが、ただただ恐ろしい。

 

「な、なんでここに?今…夜中の1時だよ?」

「そうだね。もう!こんな時間に起きてるなんて魅常は夜更かしさんなんだから。」

 

返ってきた返事はいつもと変わらないはずなのに、微妙に会話が成り立ってない。慣れ親しんだはずの人から出てくる不気味さと恐怖に口がパクパクと乾いた音を出す。

こっちが聞きたいのは近くの町に住んでいるはずの巴姉ちゃんがどうしてこんな真夜中にぼくのおじいちゃんの家にいるのかって…こ…と…

 

「…?」

 

ぼくはそこである日の事を思い出す。狐と出会って1週間が経った日の、あの早朝。巴姉ちゃんと朝にばったり会った日のことだ。狐の事がバレるかもという焦りから考える余裕がなくて考えてなかったけど。

 

あの日、どうして巴姉ちゃんと朝に遭遇したんだ?

 

この家は町から少し離れた山の麓にある。一応人が徒歩で来れるくらいには道は整備されてるけど散歩をするにはあまり適さない場所だ。詳しく言うなら町までは往復で3時間ほどはかかるのだ。あんな早朝に会うというのはいささか不自然だ。家の場所を考えるならほぼ夜中みたいな時間に家を出てないと遭遇することなんかないはずだ。

 

なんのために?

 

巴姉ちゃんはなんの目的であんな朝早くから家の前に来ていた?

 

噴水のように湧き出る疑問の数々と恐怖に動きが止まるぼくの肩に、巴姉ちゃんは顎を置きながらぼくの心境とは反対の、ゆっくりとした落ち着いた声で話し出す。

耳に暖かな吐息がかかる。ぼくの体は反対に氷のような寒気に襲われている。

 

「最初はただの虫取りだと思ってたけど、あの日から君には◼︎の匂いがついていたからね。いや、もしかしたらそれ以前からだったのかな?あの時は用事があったとはいえ、監視の目を緩めちゃったのは失態だったなぁ。」

 

瞬間、首元に感じる熱と痛み。声を上げようとしたぼくの口を巴姉ちゃんは手で抑えて止める。ぼくが上げた悲鳴は抑えられた手によってくぐもった小さな声に変換される。首筋に伝わる液体の感覚から巴姉ちゃんに首を噛まれて流血してる事がわかる。

 

「ダメじゃないか。僕以外の◼︎を見るなんて。君は産まれた時から、つま先から頭のてっぺん、骨からその血肉まで。ぜ〜んぶ、僕のものなんだから。」

 

意識がぐちゃぐちゃになる。狐との日々の景色が頭の中で洪水のように溢れて、やがて泡のように消えていく。ぼくは自分自身になにが起きたかわからないまま、だんだん視界が黒く塗り潰されるその時まで、ただただ呻き声を上げることしかできなかった。その声すらやがて、部屋に鳴り響く壁掛け時計の針の音にかき消されていった。

 

 

「それじゃまたね!また今度遊びに来るからねー!」

 

夏休みが終わる。ぼくは父の運転する車の窓を開けて、遠くで手を振るおじいちゃん達に力いっぱい手を振りかえす。

あぁ。今年も楽しい夏だった。

 

おじいちゃんと山に遊びに行って。

山で転んだりして。

おじいちゃんと一緒に秘密基地を作ってそこにお菓子やおもちゃを持ち込んで。

 

なんて満たされた夏だっただろうか。また今度絶対に遊びにこよう。また来るって約束もしたんだし。

 

あれ…?

 

「…約束?」

 

おじいちゃんにまた今度遊びに来ると約束はした。けど、なんだろう。この胸のモヤモヤは。

今まであったものがまったく違うものになっていくような。

 

高速で移り変わっていく外の景色を窓から眺めながら、ぼくはこのモヤモヤした気持ちの理由を探すけど、車が自分の住む家に着いても、その答えは見つかることはなかった。

 

胸の中、いや。頭の中にポッカリと穴が空いてしまったような感覚に襲われながら、

 

 

 

ぼくはこの時感じた違和感の正体を、5年後のあの日まで思い出すことは無かった。

 

 

 




雲津田 魅常→大切な約束があったような気がする。でも思い出せないね。悲しいね。

鐘田 巴→真夜中に出歩いている目撃情報多々あり。

◼︎の◼︎→『ふーん。そういうこと。まさかあのくたばりぞこないが生きていたとはね。でも残念。もう苦しみながら消えるしかないね。ご愁傷様。』

狐→どうして来ないの?寂しいよ。
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