誓って食い逃げはしません   作:タカリ

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暗躍する王、龍園の罠

「晴柀くんの撮ってくれた写真、凄く好評でね。コメントでもみんな可愛いって言ってくれるの。本当にありがとう」

 

 今日は佐倉さんのブログ用の写真を撮る日だ。

 少し前から佐倉さんも水泳の補習や勉強会に参加するようになったので毎日更新とはいかないが、佐倉さんの復帰を待っているファンの人たちのために小まめに撮影は続けていた。

 

 佐倉さんがこの学校を卒業するまでまだ三年近くある。俺の目から見ても佐倉さんのスタイルの良さや整った容姿は天から与えられた才能に他ならない。

 そんな彼女の15歳から18歳までの輝きを、本当にこんな学校に閉じ込めていいのだろうか、と思ってしまう。彼女の才能は、こんな牢獄のような場所では輝けない。

 

「……写真集とか、出したいな」

「え? 写真集?」

 

 思わず口から出た言葉に自分で驚く。

 だが、そのアイディアがすとんと胸に落ちた。

 

「この学校で過ごす三年間を、佐倉さんの成長を。君の輝きをこの写真に閉じ込めて世界中に届けたい。そのために、いつか写真集が出せたらいいなって、そう思ったんだ」

 

 俺やごく限られた一部のファンしか知らない彼女の魅力をみんなに知ってほしい。それが今の俺の想いだった。

 それくらい彼女に、『佐倉愛里』に無限の可能性が詰まっていると感じたんだ。

 

「……三年間、ずっと晴柀くんが私の写真を撮ってくれる?」

「佐倉さんさえよければ」

「……え、えと、じゃあ、あの……」

 

 まだ『雫』になる前の、伊達眼鏡をつけて髪型を二つ結びにした彼女が、頬を染めて言う。

 

「ふ、不束者ですが……よろしくお願いします……?」

 

 手元にカメラがあればこの瞬間を撮っていたのに。

 そう悔やまれるくらい、今の佐倉さんは可愛かった。

 

 □

 

 佐倉さんとそんなやりとりをしつつ、今日の撮影スポットである特別棟へ到着した。

 今回は学生らしい姿を見せたいというので制服の上着だけ脱いだワイシャツ姿で撮影に入る。スカートから高育の制服だと分かりそうな気もするが、これまでの自撮り写真の背景などから熱心なファンには『雫』が高育に通っていることは知られているらしい。

 部外者は校内に立ち入り禁止だし基本的に問題ないのだろう。あの暴漢店員が例外なのだ。

 

 そんなわけで特別棟の中に入り、良さそうな撮影スポットを見つけて写真を撮っていく。普通の学校と違う斬新なデザインの校舎なのでどういう構図にしようかと考えるのも楽しい。

 今日撮影した写真はブログ用にして、しっかり練り直してから写真集用の撮影を行うのもいいかも――なんて会話をしながら歩いていると、人の声が聞こえてきた。

 怒鳴り合って罵り合っている、今にも喧嘩が始まりそうな雰囲気だ。

 佐倉さんも声に気がついたようだ。

 

「……この声、須藤の声じゃない?」

「も、もしかして、喧嘩をしているのかも……」

「ごめん、ちょっと見てくる!!」

「き、気をつけてね!」

 

 慌てて駆けだすと、見知らぬ生徒三人に囲まれている須藤の姿があった。一人は須藤とにらみ合ってお互いの胸倉をつかんでいて、もう一人は須藤の後ろに回って後ろから羽交い絞めにしようとしている。最後の一人もどう見ても相手側の味方だ。

 三対一。いくら須藤が体格が良くて喧嘩が強かろうと分が悪い。

 止めに入ろうとしたところで須藤が大きく振りかぶって相手を殴ろうと動くのが見えた。

 

「やめろ須藤!!!」

「――ッ!?」

 

 今にも殴りかかろうとした瞬間、びくりと震えて須藤の動きが止まった。

 

「そこの三人! 須藤に何をしようとしている! すぐに離れろ!!」

「くそっ、邪魔が入った!」

「逃げるぞ石崎!」

 

 須藤を囲んでいた奴らが捨て台詞を吐いて逃げていく。

 最後の一人、須藤に胸倉を掴まれていた奴が、拳が握り込むのが見えた。

 

「お前がビビリのせいで人が来たじゃねえか! 図体だけの雑魚が威張ってんじゃねえよ!!」

 

 仲間から石崎と呼ばれた男が須藤の腹に一発パンチを打ち込み、そのまま後ろも見ないで走って逃げていった。

 

「須藤! 大丈夫か!?」

「晴柀か……。ちっ、情けねえとこを見られちまったな……」

 

 今の一発が効いたのか、須藤が腹を抱えて蹲る。

 

「情けないのはあいつらだろ。三人で寄ってたかって……すぐに学校に連絡するから待ってろ」

「……いや、連絡するのはやめてくれ」

「え?」

「あいつらの中の二人、俺と同じバスケ部なんだ。こんな問題を起こしたなんて知られたら部に迷惑がかかる」

「いや、でも」

「頼むよ晴柀。俺、今日監督からレギュラーに選ばれたばっかりでさ……。こんなことでチャンスを失いたくないんだ! 頼む!!」

「……お前の気持ちはわかった」

「そうか! ありがとう、助かるぜ!!」

 

 俺の返事を聞いて、須藤は痛そうに腹を抱えながら帰っていった。

 

「……は、晴柀くん。さっきの、本当に学校には言わないの……?」

 

「え? 今から生徒会長に相談するけど?」

「……え……」

「ああいうのって黙っておくとどんどん調子に乗っていくから、最初にガツンとやらないとダメなんだよね」

 

 学校の虐めの法則。『このくらいなら耐えられる』と思って耐えていると虐めっ子が調子に乗ってエスカレートしていく。

 今回は須藤と同じバスケ部員が主犯だし、放置したらどんな嫌がらせをされるか分からないので、さっさと情報共有して潰してしまうのが一番だ。

 

「幸いカメラ持ったままだったから『虐めの現場』をバッチリと抑えることができたしね。この写真を見せたらすぐだと思うよ」

「あ、あの、でも、須藤くんが大事にしたくないって……」

「うん、だから大事にならないように生徒会長に頼むよ」

「……」

 

 佐倉さんも納得してくれたようなので、堀北兄に電話をかける。

 

「あ、もしもし? 実は今、特別棟で――」

 

 ――その夜、自室で寛いでいるところに堀北兄から連絡が入った。

 

『晴柀。Cクラスが須藤に対して訴えを起こした。Cクラスの生徒が須藤に呼び出されて暴力を振るわれたとな。後日、事件の関係者を集めて審議を行うので出席してくれ』

 

 ……はい? どうしてそうなった?

 

 □Cクラス

 

「龍園さん! すみません、通りがかった生徒に見られたみたいで……」

「Bad boy」

「がっ、ごっ、がぁっ! ぐあ……ぁぁ……」

「被害者らしくなったな」

「あ、ありがとう、ございます……」

 

 Cクラスが集会をしていたカラオケルームに飛び込み計画失敗を伝えた石崎だったが、アルベルトによる暴行を受けて『被害者のような』怪我を負った。

 

「計画通り……上手く踊れよ」

 

 Dクラスの須藤に暴行を受けて怪我を負った。そう証言するために石崎たちの怪我を捏造したのだ。

 ……石崎たちは現場から逃げることに夢中で晴柀が持っていたカメラに気がつかなかった。そしてその写真をすでに生徒会に提出済みということも知らなかった。

 それが彼らの最大の不幸であり、失敗だったのだ。




原作でも結局アルベルトが石崎たちに怪我をさせているので、須藤が手を出しても出さなくても計画は変わらない。
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