「それでは審議を始めます」
Cクラスの小宮以下三名が痛々しい姿で対面に並び、その横にCクラスの担任の坂上先生が座っていた。
対するこちら側は須藤、俺、鈴音の三名と茶柱先生が座っている。
進行役の生徒会役員は堀北兄とお団子ヘアの橘先輩の二名だ。
Cクラス側の訴えは須藤に呼び出されて特別棟で殴られたというもの。もちろん事実無根であり、実際には小宮たち三名が徒党を組んで須藤を襲っていたし、須藤は相手を殴ってもいない。
「Cクラス、Dクラスの主張は大きく食い違っています。ですが、確実な事実は『小宮、近藤、石崎が負傷している』『須藤に暴力を振るわれたと主張している』という点です」
「てめえら! 卑怯な嘘をつきやがって!!」
「落ち着け須藤。俺に任せろ」
「だがよお!!」
「大丈夫だって。最初に言っただろう。任せろ」
「……くそ、わかったよ」
カッとなった須藤が感情任せに反論しそうになるが今は抑える。
「Cクラス、Dクラスともに何か証言はありますか?」
「はい。俺が当日の事件の目撃者です。須藤が三人と言い争いをしているところを見ていますし、須藤は一発も殴っていないし、逆に石崎から腹を殴られていたのを目撃しました」
俺は立ち上がり、特別棟で目撃した内容を全て正直に話した。だが、そんな俺の証言を聞いて坂上先生がバカにしたように言い返してくる。
「晴柀くん。君は須藤くんのクラスメイトだろう。それが偶然特別棟に居て偶然事件の一部始終を目撃したなんて都合がいいことがあり得るのかい?」
「偶然ですが事実です。証拠もあります」
「証拠?」
「生徒会長、お願いします」
「ああ」
俺が撮った写真が大きく映し出される。須藤を囲む三名の姿がバッチリと映っている写真だ。
「――こんなもの! 写真なんていくらでも捏造できるはずだ! 証拠にはならない!!」
反射的に坂上先生が反論を言うが、一つ気になったことがある。
「生徒会長。先ほどから坂上先生ばかり喋って小宮たちが喋ってないんですけど、この学校の審議はこういうものなんですか?」
「いや、違う。この学校は生徒たちの自主性を重んじていうる。――教師の口出しは最低限にしていただけますか、坂上先生」
「くっ……、わかった。だが、この写真が捏造である可能性は指摘させてもらおう!!」
さっきから上から目線の嫌らしい態度を取っていた坂上先生を黙らせることに成功したが、置き土産として『写真が捏造されたものかもしれない』とう疑問を残していった。
「その疑問に答える前に。小宮と近藤は須藤に呼び出されたと言っていましたが、バスケ部員ではない石崎はどうして一緒にいたんですか?」
「それは……須藤くんが暴力的な人間だということは有名だったので、用心のためについてきてもらったんです!」
「つまり用心棒として?」
「そうです!」
「須藤に呼び出しを受けた後に小宮君たちが同行を依頼した?」
「はい!」
「わかりました」
会長に視線を向けると、俺の言いたいことが伝わったようだ。
「今回の審議のまとめ役として発言させてもらう。この写真が生徒会に提出されたのは須藤と小宮たちの揉め事があった当日、両者の騒動から三十分も経っていない時間だ」
「な……!?」
「その短期間でこの写真を合成するのは不可能だ」
「で、でも……! そうだ! 須藤が俺たちを呼び出したんだから、『事前に写真を準備しておく時間はあった』はずです!! それならすぐに提出できてもおかしくない! 俺たちはDクラスにハメられたんだ!!」
小宮が見苦しく『写真は捏造』と主張を続けている。
そんな小宮を横目に、俺は隣に座る鈴音に声をかけた。
「堀北さん、小宮たちはこの写真が捏造って言ってるけどどう思う?」
「話にならないわね」
「なんだと!!!」
鈴音は久しぶりに顔を合わせた兄の前でもしっかりと背を伸ばし凛としていた。
「小宮くん、貴方が先ほど言ったでしょう。『須藤くんに呼び出された後に石崎くんに頼んで同行してもらった』と」
「それがなんだって……」
「事前に写真を準備していたなら、石崎くんが映っているはずがないわ。貴方たちが石崎くんを連れてくるなんて知らないんですもの。どうやって準備しておくの?」
「あっ……」
そう。小宮と近藤だけでなく、当日になって急に誘われたはずの石崎の姿が写真にはバッチリ映っている。
だから俺たちがこの写真を事前に用意できるはずがないし、事件後に合成するには時間が足りないのだ。
「だから言っただろう。事件発生直後の短時間でこの時間を合成するのは不可能だ、と」
堀北会長の言葉に小宮たちが顔を青くして黙り込んだ。
だが、この程度で終わらない。
「しかも写真は一枚だけではない。こちらも見てもらおう」
「な……」
「あ……」
小宮たちが逃げ出そうとする写真、石崎が須藤の腹を殴った写真、その後に慌てて逃げ出す石崎の写真……俺が撮った写真が何枚も出てくる。
「この写真を見る限り小宮たちの顔は綺麗なものだ。殴られた痕はどこにも見られないな」
「ですが、生徒会が確認した通り『小宮、近藤、石崎が負傷している』というのは事実です」
「そう。橘の指摘の通り、君たち三名が負傷しているのは『事実』だ」
Cクラスが今更言い逃れはすることはできない。
顔を腫らし、頭に包帯を巻き、首から三角巾を吊るし……小宮たちが怪我をしているのは紛れもない事実なのだ。
「我々が確認したいのは『怪我を与えた人物が本当は誰なのか』。そして『どうして須藤に殴られたと証言したのか』の二点のみだ」
ぎろりと、堀北会長の鋭い瞳が小宮たちを貫くと、言い逃れができないことを悟った三名ががくりと肩を落とした。
「最終的な処罰はこの後、小宮たちから詳しい事情を聴いた後に下すが――須藤。そしてDクラス代表の二名」
「う、うっす!」
「はい!」
須藤がビシッと背筋を伸ばし、鈴音は誇らしそうに胸を張り。その横で俺は感嘆の気持ちを胸に、堀北会長の沙汰を待った。
「今回の事件でお前たちには一切の非はないことを宣言する。――Cクラスも、異論はないな?」
「……はい」
「……仕方ありません」
Cクラスからの異論はなし。
今回の審議、俺たちの――完全勝利だ!!
「よっしゃあああああああああああ!!!」
須藤の喜びの雄たけびがうるさかったが、この時だけは止める人間はいなかった。
□
小宮たちが別室に連行された後、残った俺たちに堀北会長からお褒めの言葉が授けられた。
「須藤。お前の評判は聞いていたがよく手を出すのを我慢した。スポーツマンとして人間として暴力を振るわないのは重要なことだ。……非常に、重要なことだ。その調子で今後も励みたまえ」
「うっす!」
いいはなしだなー。今の会長の言葉、妙に実感がこもっていた気がするけど気のせいかな。
「鈴音」
「は、はい」
「よく相手の証言の矛盾に気がついたな。よくやった」
「……っ、あ、ありがとうございます……」
顔を真っ赤にして喜んでいる。こういうのでいいんだよ、こういうので。
「そして晴柀」
「はい」
「証拠写真を逃さず撮っていたお前が最大の功労者だ。そして、事件後にすぐに生徒会に連絡し相談をしたのは良い判断だった」
「ありがとうございます」
「その上でだが……。橘。書記の席が一つ空いていたな」
ん?
「晴柀。お前が望むなら書記の席を譲ってやろう。生徒会に入るか?」
「お受けします! よろしくお願いします!」
やったぜ! この学校の生徒会の一員という勝ち組の証、ゲットだぜ!!
「ふっ、これからビシバシ鍛えてやる。私を失望させるなよ」
「はい、がんばります!」
ただのポンコツシスコンDV男だったらもう少し悩んでいたところだったが、今回の審議で堀北会長の力量を知ることができた。
なにしろ、審議の流れも、小宮たちの発言や反論の内容も、全部が『堀北会長の読み通り』だったのだ。
Cクラスが写真に捏造だと難癖をつけてくるのも予想済みで、事前に練習済みだったから余裕を持って挑むことができた。
さらに相手を揺さぶる『奥の手』を用意していて、堀北会長の鮮やかな手口に感心しきりである。
――ちなみに『奥の手』の内容だったが、『バスケ部の顧問とバスケ部の上級生たち』に証言をお願いして、『須藤を褒める証言と小宮たちを貶める証言』をしてもらった。さらに、石崎と同じ地域から進学してきた生徒を探して『石崎は中学時代から有名な不良で暴力的な男だった』という証言も確保した。
つまり、この『奥の手』を使えば『須藤は暴力的な奴だから小宮たちを殴ったに違いない』という状況から、『小宮たちはクズだから須藤をハメたに違いない』という状況にひっくり返せるわけだ。
「よく覚えておけ、晴柀。両者の主張が食い違い、決定的な証拠も出てこなかった場合、最後にものをいうのは積み上げてきた『信頼』だ」
この言葉を聞いた時、やはり高育の生徒会長は只者ではないのだと実感した。
□茶柱佐枝
今年のDクラスは最初こそ大失敗を喫したが、中間試験を好成績で乗り越え、須藤の暴力事件はCクラスからの冤罪だったと証明し、晴柀が一年生で唯一生徒会に所属するなど大躍進を続けている。
これなら、もしかしたら……という期待が膨らむ一方で疑問だけ一つがある。
……綾小路は何かしているのか?
私が調べた範囲では何かしているようには見えない。
だが、クラスはこれ以上ないほどに順調だし、もしかしたら裏で何かしている可能性も……。
わからん。
だが、順調なのは間違いないので、もうしばらく様子見といくか……。
堀北兄無双回。
出番のない綾小路は池たちと遊んでいる。最近ついにゲーム機を購入して一緒にモンスターをハンティングしている。