誓って食い逃げはしません   作:タカリ

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男たちの夏

 □須藤健

 

「Cクラスの小宮たち、退学になりそうだってさ」

「退学……」

 

 生徒会に参加した晴柀が俺にそう言った。

 俺を殴った石崎だけじゃなく、一緒に取り囲んでいた小宮と近藤も退学。

 さらに三人が持っていたプライベートポイントも全部没収して俺にくれると。

 

 だが、俺はそれよりも小宮たちが退学になることにショックを受けていた。

 中学の時の俺はスポーツ推薦を貰ってバスケの名門校に入ろうと考えていた。だからバスケだけは本気で取り組んでいたし、推薦も貰うことができたんだが……。喧嘩っ早いこの性格のせいで暴力事件を犯して推薦は取り消し。

 それでも本気でプロを目指すために俺は高育に入ったんだ。

 

「小宮たち、退学になったらどうなるんだ……?」

 

 バスケ部の練習時に邪魔をしてくるし、Dクラスの不良品だと馬鹿にしてくるあいつらのことは大嫌いだ。

 だけど、退学になるほどのことをされたとは思っていない。石崎の野郎だって俺にワンパン入れただけだ。あんなもんで退学になるのかよ? たかが喧嘩だろ?

 

「須藤! ぼさっとしてるんじゃない! 気合が入ってないぞ!! そんなんじゃレギュラーから外すからな!!」

「っ、押忍!!」

 

 部活の最中もずっとそのことが気がかりで顧問の先生から注意されちまった。

 ダメだ、折角レギュラーに選んでもらったんだから集中しないと……。

 

「――須藤。部活の後、お前は居残りだ」

「……押忍」

 

 自分ではしっかり集中したつもりだったが、先生から居残りを命じられちまった。

 

「今日の練習に全然集中できていなかったな。……小宮たちのことか?」

「……そうです」

 

 俺はまさか小宮たちが退学になるなんて思わなかったと、先生に洗いざらいぶちまけた。だが、先生はそんな俺の言葉をあっさりと否定した。

 

「お前はいつまでガキのつもりなんだ? 本気でプロを目指すなら『たかが喧嘩』なんて言葉は言わない。すぐに暴力事件を起こすような奴をプロのチームは絶対に採用しないからな」

「……っ!!」

「お前はスポーツ推薦を取り消された後に反省しなかったのか? 推薦を取り消された理由はわかっていたのに、どうしてその喧嘩っ早い性格を直そうとしない」

「それは……」

「今回は小宮たちにハメられたようだが、もしも本当に暴力事件を起こしていたら庇わなかった。どうしてお前が狙われたのか、よく考えておけ」

「はい……」

 

 晴柀や堀北にも言われた。俺の普段の素行が悪いから小宮たちの標的にされたんだと。

 俺が真面目になっていればこんな時間は起きなかったはずなんだ。

 

「――何か言いたいことがあるなら生徒会に言っておけ。被害者であるお前の言葉なら多少は融通が利くはずだ」

「えっ、先生、それは……」

「わかったらさっさと行って来い、馬鹿者!!」

「お、押忍!!!」

 

 先生の叱咤に背中を押されて俺は生徒会室に走った。

 なんとか帰宅途中の堀北会長たちを捕まえて、小宮たちの退学は勘弁してほしいと頼むと、眉間にぶっとい皴を作って睨まれた。

 

「わかったわかった。こっちでも考えておくから須藤ももう帰りなよ。またね」

「ありがとうな、晴柀。頼むぜ」

 

 俺の話を聞いていた晴柀が軽い調子で受けてくれた。こいつならきっとなんとかしてくれるだろう。

 最初は変な奴だと思ったが、意外と頼りになる男だ。中間試験の時も、今回の冤罪事件も、こいつがなんとかしてくれた。

 ……でっかい貸しがどんどん溜まっていくんだが、いつかちゃんと返したい。

 

 着替えと荷物を置きっぱなしにしていた部室に向かって、俺は走り出した。

 

 □龍園翔

 

 今回の計画は失敗だ。

 評判の悪い須藤ってやつが相手なら勝てると思ったが、まさか写真を撮られていたなんてな。

 逃げるのに夢中で撮られていたことに気がつかなかった、じゃねえんだよ! 使えねえクズどもめ!

 

 しかも石崎の野郎、計画が上手くいかなかったからつい手を出しただと? バカが!!

 

 軽く試してみただけのつもりが、須藤を三対一で囲んで一方的に殴り、更に生徒会に嘘の証言で訴え出たことになっちまった。

 

 石崎たちが『自分たちで殴り合った』と証言したから俺やアルベルトまで辿り着かなかったみたいだが、もう少しでバカどもの巻き添えをくらうところだったぜ。

 

 だが、運がいいことに須藤の野郎が処分を軽くしてほしいと生徒会に言ったらしい。お陰で三人は退学を回避、一学期中の停学と夏季休暇中の特別講習で許されるらしい。お優しいこった。甘過ぎだろ。

 

 ただ、退学は回避できたがクラスポイントの方はダメージがデカい。

 本来退学相当の事件だったということで、一人100ポイント、三人で300ポイントもクラスポイントを減らされちまった。残りはたったの192ポイントだ。

 クラスの連中が騒ぐだろうが、仕方ねえ。騒ぐ奴はもう一回〆るだけだ。

 

 想定以上の反撃を受けたが、お陰でDクラスのリーダーも判明した。

 生徒会長の妹の堀北鈴音、そして一年で唯一生徒会への参加を認められた晴柀渉。

 生徒会との繋がりがあるのが面倒だが……今回の借りは返す。必ずな……。

 

 □堀北学

 

 晴柀渉。意外な拾い物かもしれん。

 鈴音と会うことを避けているので直接支援はできないが、代わりに晴柀を鍛えることで鈴音のクラスへの支援としよう。

 幸い地頭は悪くないようで、この学校独自のルールもよく学び、生徒会業務もしっかりこなしている。

 審議にも何回か立ち合わせればどういう方法が効果的なのか覚えるだろう。

 

「あとは先生方と2年の後輩たちとの顔合わせも必要だな……」

 

 この学校は教師も重要な交渉相手だ。相手を選んで交渉すれば生徒の立場では知ることができない情報を入手することも可能なのだ。

 そういう相手を見極めて自分で探ることも必要だが、残念ながら俺が卒業するまでに晴柀に教えなければならなことが多すぎる。俺が培ってきた人脈を晴柀に譲渡し、そこから先の開拓は自分でやってもらう形になるだろう。

 

「もちろん、人脈の維持にも力は必要だ。侮られれば関係の甲斐性や裏切りにあうこともある。……だが、あいつなら大丈夫だろう」

 

 五月のあの夜。

 俺と鈴音の間に割り込み、俺のDV行為に激怒していた男だ。

 あの気迫、あの力。そして晴柀がこれから多くの経験を積み、多くのことを学んでいけば……。

 

「期待しているぞ、晴柀」

 

 お前には悪いが、鈴音のために、俺の全てをお前に叩き込もう。

 

 □綾小路清隆

 

「うーん……」

「おいおい、またかよ」

「これで何回目だぁ?」

「すまん……」

 

 何度見ても結果は変わらない。現実は常に残酷だ。

 

「天鱗は出ていない……すまん……」

「仕方ねえなぁ、次で最後だぞ!」

「これ終わったら俺の欲しい素材出るまで付き合ってもらうからな!」

「ああ。もちろんだ」

 

 池たちと一緒に遊んでいるゲームだが、何周しても俺の欲しい素材が出てこない。

 これが『物欲センサー』。あの場所には存在しなかった強敵だ。

 

「……出ない」

 

 困った……。物欲センサーに勝てない……。

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