「ごめんね、急に呼び出して」
放課後の校舎裏に俺を呼び出したのはBクラスのリーダー、一之瀬帆波さん。
人を引く美貌に抜群のプロポーション。更に明るい性格で誰からも好かれる人気者。
一之瀬さんとの出会いは中間試験の前、図書館での試験勉強中にCクラスの連中と喧嘩になりそうだったところを止めてくれたのがきっかけだ。
更に須藤の冤罪事件の時にも証言集めを手伝ってもらっていた。
そんな彼女が頬を紅く染め、周囲の様子を伺いながら、可愛らしいピンクの封筒に入っていたラブレターを取り出した。
「告白……」
「……されるみたいなの! ここで!」
これは百合の塔が立ちそうですね……。
「ど、どうしたら傷つけないで断れるかわからなくて。だから、晴柀くんに彼氏のフリをしてもらって、それで……お願い!」
「彼氏の振りって、どこまで?」
「え!?」
一之瀬さんの肩に手を回した。いい匂いがする。
「恋人の証拠を見せろと言われるかもしれないしね。その子の前でキスしてみせる?」
「え、ええ!? キス!?」
「彼氏なんだし、そのくらいするよね」
「そ、それは……ただのフリだから……!」
「フリでも真剣にやらないとバレちゃうでしょ」
一之瀬さん――帆波の頬に手を添えた。
「帆波。目を閉じて」
「あ、あの……晴柀くん……」
「目を閉じて」
「ま、待って……あの……」
口では待ってと言うけど抵抗は弱々しい。混乱してどうすればいいのか分からない様子だった。
隙だらけの帆波の体を抱き寄せて、そして――
「え、一之瀬さん……。どうして……」
「わあああ! な、なんでもない! なんでもないよ、千尋ちゃん!!」
慌てて俺から身を離した帆波が、後者の影から姿を見せた女の子に弁明を始めた。
「でも今、その人とキス……」
「し、してないしてない!! そんなことしてないから!!」
「でも……」
「そうだよ。『まだ』してない。今からするところだったけどね」
「晴柀くん!? まだってなに!? しないよ!!!」
でも邪魔が入らなかったらあのまま押し切れそうだったし。こんなに流されやすくて大丈夫だろうか。
それはともかく、帆波にラブレターを送ったという女の子に対して俺は堂々と宣戦布告をした。
「俺はDクラスの晴柀渉。俺も今帆波のことを口説いているんだ。ライバル同士よろしく」
「え、ライバルってどういうこと!? 私聞いていないよ?」
「……分かりました。でも私、負けませんから!!」
「俺だって負ける気はない。受けて立とう」
「晴柀くんも千尋ちゃんも、二人とも何を言っているの!? どうしてこうなっちゃったのー!?」
帆波を巡る恋の三角関係が今始まる……。
今年の夏は、暑くなりそうだな――!
□
帆波の告白騒動から二日後、7月7日の日曜日。
夏休み直前のこの日は何を隠そう俺の誕生日だ。
「みんな、今日は俺の誕生パーティに来てくれてありがとう!」
カラオケの一室を貸し切って仲のいい子たちを集めてのパーティだ。お昼過ぎから夕方までを予定している。
「渉くん、お誕生日おめでとう! ……でも、集まった子たちも凄い面子だね」
「折角の誕生日だからね。今日はワガママを言わせてもらったよ」
「池くんたちが知ったらどうなっちゃうんだろう」
「怖いからあいつらに知らせるのはやめてね?」
「はーい」
桔梗が言うように、この場に集まったメンバーを池や山内が知ったら嫉妬で怒り狂うだろう。あるいは犬のように這いつくばってパーティに参加させてくれと言ってくるかもしれない。
――Aクラス、坂柳有栖と神室真澄。
「晴柀くんがたくさんの女の子に声をかけていたのは知っていましたが、こうして実際に見るとまた印象が変わりますね。ねえ神室さん?」
「……サイテー」
――Bクラス、一之瀬帆波と白波千尋。
「晴柀渉……! 一之瀬さんは絶対に私が守る……!」
「ち、千尋ちゃん? せっかくパーティに呼んでもらったんだし、怖い顔で睨むはやめよう?」
――Cクラス、椎名ひより。
「晴柀くんはいろんなクラスに友達がいるんですね。……このプレゼント、喜んでもらえるでしょうか」
――そしてDクラス、櫛田桔梗、堀北鈴音、佐倉愛里、王美雨、佐藤麻耶。
「堀北さんや佐倉さんがこういう集まりに参加するなんて珍しいね?」
「……渉くんにはお世話になっているもの。呼ばれたのに参加しないなんて不義理な真似はしないわ」
「わ、私も……。渉くんをお祝いしたいから……」
「ふーん」
「うわー、晴柀くんが集めた子、可愛い子ばっかりじゃん。みーちゃん大変だね」
「た、大変ってなんのことですか!?」
声をかけたのは女子10人。男子は最初から誘っていない。
「食べ物や飲み物は用意してあるけど、追加で注文したいものとかあったら遠慮なく注文してね。それとゲームといろいろと用意してあるし、優勝者には賞品もあるよ!」
トランプ、UNO、ビンゴ、ワンナイト人狼やワードウルフなど。人数が多いので二手に分かれてもらったり、二人一組でチームを組んでもらう。ずっとゲームばかりでも疲れるので様子を見ながら休憩入れる予定だ。
「ゲームを用意したのも賞品を用意したのも晴柀くんですよね」
「かなりポイントを使ったんじゃないかしら。あなたの誕生日パーティなのだから、私たちからポイントを集めてもいいのよ?」
ひよりと鈴音が俺のポイントを心配するが、問題ない。
「可愛い女の子たちと楽しく遊べるならそれが最高のプレゼントだよ! ポイントは気にしなくていいから楽しんでいってね!」
この豪華メンバーと楽しい時間を過ごせるのならポイントを全て投げ出してもいいという男子は多いだろう。
まさに男の夢! さあ、楽しいパーティの始まりだ!
□
最初はお互いの自己紹介も兼ねてトランプで定番のゲームをいくつかやっていく。
「ちょっと! スペードの8止めてるの誰よ! いい加減出しなさいよ!」
「ふふふ、一体誰でしょうね。私はパス2です」
「私もパス2です。うふふ」
坂柳さんとひよりがタッグを組んで佐藤さんの行く手を阻んだり。
「ビンゴの一等賞、『渉くんになんでもお願いを聞いてもらえる券』……?」
「俺ができる範囲なら何でもいいよ。あ、お金がかかりそうなお願いは一応10万ポイントまでにしてください」
「へえ、何でも。一体何を叶えてもらおうかしら」
「う、運の勝負なら、堀北さん相手でも、負けません……!」
「……これで勝てば、晴柀渉に一之瀬さんを諦めさせることも……」
「千尋ちゃん……? 一体何をお願いしようとしているの……?」
ビンゴ大会は豪華景品のお陰で大変盛り上がった。
手に汗握るリーチの応酬の末に、見事一等賞を手に入れたのは。
「おめでとう、みーちゃん! それで、お願いは何かな?」
「ええええ……。あ、あの……」
なんとみーちゃんが一等賞。どんなお願いをされるのか予想できずにドキドキ。
「は、晴柀くんのこと、渉くんって呼んでいいかな……?」
可愛い。
「もちろんいいよ。――今度、二人でデートしよっか。予定が空いてる日、教えてくれる?」
「ふぇ……。は、はい……。渉、くん……」
10万ポイント分の予算を確保してあったけど、全部みーちゃんとのデートに使うことに決めた。
その後も人狼ゲームで桔梗と帆波と坂柳さんの三つ巴の戦いがあったり、たった今考えたプロポーズの言葉を俺が女の子たちに囁いたりして大変盛り上がった。
くじ引きで女の子たちの中から相手役を一人決めて、俺がプロポーズの言葉と「結婚しよう……」と言うだけのゲームだが、これが凄く楽しい。神室さんや白波さんもくじで選ばれたけど俺がプロポーズすると照れていたし、いいものが見れました。
最後はみんなから誕生日プレゼントをもらって、寮まで戻って解散。
すごく楽しい一日だった! また来年もやりたいね!