原作だと午前5時に乗船して当日の昼に無人島に到着。
この作品ではアニメ版の日程で、船上で一泊過ごしています。
□茶柱佐枝
五月に堀北と晴柀を呼び出して綾小路を紹介したが、それ以降も綾小路の目立った動きはなかった。
むしろ最近は池や山内といったうちのクラスの問題児と遊んでばかり。あつ森だの、マイクラだの、バカのように騒いで盛り上がっている。
今年のDクラスは奇跡のように有能な人材が集まっているというのに。
前回のCクラスの審議で意外な活躍を見せた晴柀と堀北。
過去に事件を起こしたことはあったが能力はAクラスにも匹敵する平田や櫛田。
学年で随一の運動能力を誇る須藤に、あの坂柳に次いで学力の高い幸村。
これらの粒ぞろいの人材を綾小路が指揮を執ることでAクラスに匹敵する能力を発揮する。そう期待した。
だが、肝心の綾小路はAクラスを目指すためのやる気を出す様子を見せない。
そこで私は無人島に向かう船上で綾小路を呼び出し、脅迫した。
「後悔するかもしれませんよ。俺を利用しようとしたこと」
「安心しろ。私の人生はすでに後悔だらけだ」
目論見通り、綾小路の素顔を垣間見ることができた。
これで必ずこのクラスはAクラスになれる。
私は自分の勝利を確信したのだった。
□綾小路清隆
茶柱に脅迫を受けた俺は、この試験で少しだけ全力を出すことにした。
晴柀が結んできたBクラスとの同盟。
拠点のスポット更新をBクラスが担当する代わりに、周辺のスポットはDクラスが全て押さえる権利を持つ。
一見するとDクラスが有利な条件に見えるが、Bクラスは自クラスの守りを固める方針に出ただけだろう。
この無人島の中でどこにどれだけあるかわからないスポットを探す労力や、定期的にスポットを巡って更新しなければならない危険性――他クラスにリーダーがばれる危険や、移動中に怪我をする危険――を考えて放棄したに違いない。
そういう意味では大きく動き回る必要もなく、拠点のスポットだけを更新する作戦は悪くない。
「だが、うちのクラスがAとの差を詰めるためには、スポットの更新とリーダー当ての両方が必要だ」
現在のポイントは97。Aクラスは1004。リスクを承知で賭けに出なければ追いつけない。
特にリーダーが重要なのだが、俺の作戦を聞いてくれる人間は晴柀か堀北の二択しかない。まあ、その二択なら実質晴柀一択だが。
「晴柀、ちょっといいか」
「ん? どうしたの?」
「この後リーダー決めが行われると思うんだが、池を選んでくれないか?」
「池を? どうして?」
正直、池の評価は低い。学力は最底辺、身体能力も高くない。だが、本人が自己申告したようにサバイバルの経験があり、森や山を歩くことに慣れている。
「スポット巡りで移動を続けないといけないからな。アウトドアに慣れている池なら最適だと思ったんだ」
「なるほど、悪くないね」
晴柀や平田、須藤も体力があるのでリーダーでも問題ないだろうが、俺の狙いはもう一つある。わざと池がリーダーだという情報を他クラスに掴ませた後、最終日直前に池を体調不良に追い込み、リーダーを交代させることだ。これで他クラスからのリーダー当てを回避できる。
「でも綾小路。池がリーダーだとしょうもないミスで失敗して、他クラスにリーダーだってばれそうじゃないか? 上手くリーダー当てを回避する方法ってあるかな?」
まさに今、俺がリーダー当てを回避する方法を考えていたところで晴柀に訊ねられた。
ここで策はないと答えたら池をリーダーにするのに反対されそうだな……。
「実は――」
「なるほど。体調不良によるリタイアを利用して、正当な理由でリーダーを交代すると……」
池は他クラスからの攻撃を躱すための囮だと白状すると、晴柀は納得した様子で頷いた。
これならいけるか?
そう思った俺は、晴柀の次の言葉で驚いた。
「でもリタイアさせるだけなら体調不良にさせる必要ないんじゃないか?」
「……何?」
「ルールを確認してみよう。ちょっとマニュアル取ってくる」
晴柀が持ってきたマニュアルを二人で読んだ。
体調不良や大怪我で試験が続行できない者はリタイア。ペナルティとして-30ポイント。
正当な理由なくリーダーの交代はできない。
この二点だ。
「ほら、ここには『正当な理由なくリタイアできない』なんて書かれていない。だから理由なんかなくてもリタイアできると思うよ」
「……だが、それでリーダー交代が認められるのか?」
「認められるでしょ。『リーダーがリタイアしたから交代』は正当な理由じゃん。それはそれ、これはこれ」
「……なるほど」
どうやら俺は難しく考えすぎていたようだ。
『
こんな単純な問題を見落とすなんて……俺も気がつかないうちに鈍っていたようだ。
「俺は一応茶柱先生に確認してくるけど、大丈夫だと思うよ」
「……わかった」
その後、晴柀が茶柱に確認したが、やはり『リタイアするのに正統な理由は必要ない』ということが確認できた。
……池を犠牲にする必要など、最初からどこにもなかった。
そして、晴柀が放った言葉が、俺の心に重くのしかかる。
「いつも池たちと一緒につるんでいて仲が良い綾小路が、池を体調不良に追い込もうって言ったのが意外だけど――」
「今の綾小路、娘を海外の金持ちに売り飛ばそうとしていたクソ親みたいな目をしているぞ」
「クラスのためにいろいろと考えてくれるのは嬉しいけど、しばらく難しいことは考えずにサバイバル生活を満喫したらどうだ?」
……そんな晴柀の勧めに素直に従って、今回は何も考えずに全力でサバイバルを満喫させてもらうことにしよう。
□高円寺六助
いやあ、暇だったから島の探索に出てみたが、同じチームになった綾小路ボーイが思ったよりも張り切っていたせいでついつい私も熱が入ってしまったよ。どうやらこの島にいる間は実力を隠すのをやめたようだねえ。
「この私に追いついてくるなんてやるじゃないか、綾小路ボーイ」
「……今は何も言わないでくれ」
「ふっ、今の私は気分がいい。だから君に一つプレゼントをあげよう」
「……プレゼント?」
「先ほど木々の隙間からAクラスの生徒が洞窟に入るのが見えたよ。どうやら彼がリーダーだったみたいだねえ」
「なんだと……」
「名前は憶えていないが、スキンヘッドボーイの周りをうろついていた彼がリーダーで間違いないだろうよ。こんな子供騙しのゲームでこの私の目を誤魔化そうとは呆れてしまうねえ」
「その洞窟はどっちの方角だ?」
「あちらさ。急げばまだ間に合うかもしれないよ」
「……正直、お前がこんな情報をくれるとは思わなかった。感謝する」
「ふっ、ただの気まぐれさ、綾小路ボーイ」
洞窟に向かう彼を見送ると、私は海を目指して移動を開始した。
気分がいいからひと泳ぎして船まで戻ることにしよう。
思ったよりも悪くはなかったが、これ以上過ごすのは退屈そうだからねえ。
□
――この後、高円寺が明らかな仮病による『体調不良』で試験をリタイアし、Cクラスの生徒もほぼ全員がリタイアしたことで、『リタイアに理由は必要ない』という事実が再確認できたのだった。
アニメ山内の迷台詞「泥だらけだぞ、堀北」はこの世界では発生しない。