周囲の探索に出ていた高円寺と綾小路がAクラスのリーダーを見つけてきた。
少し離れたところに洞窟のスポットがあったのだが、葛城たちが離れた後に洞窟内部に入った綾小路が占領してあるのを確認したらしい。
キーカードを使っている場面そのものは見れなかったが、高円寺は葛城の取り巻きの男子――戸塚弥彦がリーダーだと見抜いたとか。野生の勘だろうか? 綾小路曰く、猿みたいに木から木へ飛び移って移動していたらしいからな……。
そういうわけで、傍若無人で自由人の高円寺が意外な活躍をしたと喜んだこともつかの間、その後高円寺はベースキャンプに戻ってこず、茶柱先生から『体調不良』でリタイアしたと連絡があった。
……高円寺はやはり高円寺だったようだ。まあ、リーダー当ての功績があるだけマシと思おう。
-30ポイントのペナルティは大きいが、減ったポイントを少しでも稼ぐためにスポットの更新を頑張るしかない。
池、綾小路、須藤、平田の4人をリーダー候補に選出し、その4人の周りをガードするために追加で男子6人を選抜してスポット巡りに送り出した。
クラスメイトたちにも真のリーダーが誰なのかを教えず、スポット更新が終わったらキーカードを俺が預かって管理するという秘匿具合。
これなら余程のことがない限り他クラスにリーダーがバレることはないだろう。
「大変だ! 山内たちがCクラスの生徒を連れて来た! 怪我をしているみたいなんだ!」
そう考えていたら、体力不足を原因にスポット巡りから外された山内がCクラスの生徒を連れて来たらしい。どう考えてもスパイじゃないか?
「あ、渉くん。こんにちは。遊びに来ちゃいました」
そう思って山内が連れて来た生徒を確かめに行くと、なんとそこには椎名さんの姿があった。
スパイじゃない、だと……!?
□
「龍園氏の横暴に反対したせいで殴られ、ベースキャンプから追い出されてしまったのです」
ひよりと一緒にいた男子の金田が、龍園に殴られた頬を見せながら説明する。
どうやら怪我をしていたのは金田だけで椎名さんは無傷のようだ。良かった。
「私は金田くんが追い出されたのを見て、追いかけて来たんです。受け入れていただいてありがとうございます」
「そうだったんだね。大変だったと思うけど安心してね、私たちは二人とも大歓迎だよ!」
帆波が金田と椎名さんを歓迎する。やはり優しい。
「……渉くん、後で少しいいかしら。椎名さんも一緒に」
「うん? わかった。後でね」
だが、この短いやり取りに何か気がついたのか、鈴音から後で椎名さんを交えて話がしたいと言われた。審議の時のやり取りもそうだけど、相手の証言の矛盾を見つけたのかもしれない。
その間にも帆波と金田の話が進んでいく。
「それで、龍園くんの横暴って? 龍園君は何をしようとしたのかな?」
「龍園氏はこの試験を放棄しようとしているのです」
「試験の放棄?」
帆波が優しく話しかけると、金田が悔しそうにCクラスの現状を語り始めた。
「そもそものきっかけは我々のクラスの石崎、小宮、近藤の3人が現在学校で特別講習を受けていること。彼らはバカンスへの参加禁止を言い渡されて学校に残っているのですが、そのせいで『3人は特別試験を
うわぁ……。
300ポイントしかない特別試験ポイントから90ポイントを減らされるのは痛い。他のクラスとの差が大きすぎる。
「その話を聞いた龍園氏は『これが冤罪事件の本当の
なるほど。石崎たちが夏休み返上で特別講習を受けているのは須藤が退学撤回を望んだからだと思っていたが、もしかしたら堀北会長は最初から『特別試験の不参加』を狙っていたのかもしれない。
あの人なら今回の試験がどういう性質のものか把握しただろう。さすが歴代最高の生徒会長の名は伊達じゃないか。
「そして、龍園氏はポイントを使い切ってバカンスを楽しんだ後、全員でリタイアして豪華客船に戻ると決めました。我々Cクラスの生徒全員は、龍園氏の身勝手な計画に巻き込まれたのです」
「そんな……それで、反対した金田くんを殴ったって言うの?」
「……はい。『俺の命令に聞けない奴はクラスには必要ない』と」
「大変だったんだね……」
「龍園の奴、なんてことをするんだ!」
「Cクラスで王様気どりって話だけど、こんなのひどいよ!」
金田の怪我を見た生徒たちが再び怒り出す。帆波も気を許してしまっていて、このままこのキャンプで受けて入れる方向で動いている。
このタイミングで桔梗が俺にアイコンタクトを送ってきた。
「(渉くん、どうする? 反対する?)」
「(いや、やめておこう。桔梗のイメージじゃないし、Bとの同盟に亀裂が入りかねない)」
ここで桔梗が「金田くんたちが怪しいから追い出そう!」などと言い出して帆波と対立したら、二人のファンがぶつかり合って酷いことになるのは見えている。B対Dのクラス戦争勃発だ。
そんな状況になって得をするのは他のクラスの連中だけ。
金田がスパイであるという確固たる証拠を掴むまで、ことを荒立てるのは避けよう。
……もしかしたら、綾小路の考えたリーダー交代作戦を実行する必要があるかもしれないな
□
その夜。俺と鈴音、そして椎名さんの三人で人気のない場所に集まった。
「それで、椎名さん。あなたたちはCクラスのスパイということでいいのかしら?」
「ふふふ。堀北さん、私はスパイじゃありません。ただお二人とお会いしたかったので遊びに来ただけです」
「遊びに来ただけ、ね」
にこにこと楽しそうにしている椎名さんを、鈴音が睨みつける。
「先ほどの金田くんの話だと『龍園くんに反対してCクラスのベースキャンプを追い出された』と言っていたわ」
「はい、そうですね」
「でも、あなたは『私たちと遊びに来た』と言った。最初から『金田くんがこのキャンプに来る』と分かっていなければそうは言えないはずよ。違うかしら?」
「……少しヒントが簡単すぎましたかね?」
イタズラがバレたと笑う椎名さん。
いや、鈴音だからその言い回しに気がつけただけで、俺は全く気がついていなかったのだが。
「呆れたわね。金田くんはCクラスのスパイなのでしょう? こんな簡単にばらしてしまってよかったの?」
「問題ありません。お二人は最初から金田くんをスパイだとわかっていた上で受け入れたでしょう? それとも今から私と金田くんを追い返しますか?」
もちろん金田はスパイだと告発し、今すぐ返品するのが一番いい方法だろう。だが、それをすれば椎名さんのCクラスでの立場が危うくなる。そんな方法は選べない。
「……いいえ。椎名さんがいなくても、一之瀬さんの様子から金田くんを受け入れることになっていたでしょう。その時はスパイの確証が得られないまま、尻尾を出すまで監視するしかなかったわ」
「でも、椎名さんが金田はスパイだって教えてくれたからね。それならそれで適切に対処するよ。だから椎名さんを追い返すようなことはしないよ」
「……二人とも、ありがとうございます」
俺たちがCクラスの彼女を受け入れると言うと、緊張をほどいて柔らかい笑顔を浮かべてくれた。先ほどのヒントも俺たちへのプレゼントなのだろう。俺たちと遊びに来たという言葉に嘘はなかった。
□
翌日、サバイバル生活二日目。
「晴柀くん。Aクラスのリーダーの情報を買いませんか? お友達価格でお安くしておきますよ」
坂柳さんと出会った俺は、彼女から裏取引を持ちかけられた。