サバイバル生活は二日目に突入した。俺はキャンプの経験もあるからテントで寝るのも問題ないが、慣れない生徒はなかなか寝付けなかったようだ。
寝不足でしっかり休めないとどんどん体力を失っていく。注意力も欠けるので怪我やミスもしやすい。疲れがたまってくる後半は特に注意が必要だろう。
そんな状況でも動かないわけにはいかない。
スポット巡り、島の探索、食料集め。仕事が山盛りで忙しい中、俺と鈴音、帆波と神崎の四人は各クラスの動向を探ることにした。
まあ、各クラスと言ってもBとDは同盟を組んでいるので残りはAとCの二つしかないのだが。
Aクラスは綾小路たちが発見した洞窟に籠っていて、Cクラスは椎名さんから聞いた砂浜を占領して遊んでいた。
Aクラスは完全な防御の構え。洞窟の入り口もブルーシートで囲み、更に歩哨まで立てている厳重な警戒態勢だった。それはいいんだが、応対に出てきた葛城がなぜか上半身裸だったのが気になる。まさか葛城まで野生に戻ってしまった? お前も高円寺属だったのか?
Cクラスは完全に遊び気分。バーベキューセットでごちそうを料理し、クーラーボックスにはよく冷えたジュースが何本も入っている。みんな水着を着て海で遊び、水上バイクまで乗り回している。正直楽しそうで羨ましい。
「あいつら全員リタイアするなら残った物資貰えないかな……」
「渉くん。乞食のような卑しい真似はやめなさい」
「でもCクラスの椎名さんと金田はこっちにいるんだし、Cクラスの物資をCクラスの生徒が回収するなら問題なくない?」
「む……。それは……そうかもしれないけど……」
鈴音はCクラスの物資を回収するのはプライドが許さないようだ。
だが、テントもトイレも数が多い方がいいし、バーベキューセットも調理をする時に便利だ。是非ともほしい。
「堀北さんの気持ちも分かるけど、私はみんなが少しでも楽になれるならCクラスの物資を回収しておきたいかな」
「Dクラスに必要ないというのならBクラスが引き取ろう。遠慮なく言ってくれ」
帆波と神崎も物資の回収には前向きみたいだ。ただでさえポイント差があるのに、ここで全部Bクラスに持って行かれてしまってはDクラスから不満が噴出するだろう。
「……私が頑固だったわ。Cクラスの物資を回収するのに私も賛成する。これでいいわね?」
「うん! みんなで一緒にこのサバイバル生活を乗り切ろうね!」
結局、鈴音が自分の非を認めて折れた。入学当初と比べて少しずつ柔軟になってきている気がする。これもいい成長だろう。
□
2クラスのベースキャンプの偵察を終えた後、俺たちはAクラスの生徒から教えてもらった場所に向かった。
「坂柳さん、何しているの? 神室さんもこんにちは」
「見てわかりませんか? バカンスを楽しんでいるんです」
「……こんにちは」
豪華客船から降りてすぐの場所で、浜辺にパラソルを刺し、ビーチチェアで横になりながら優雅にドリンクを飲んでいる坂柳さんがいた。パラソルの下には神室さんもいるし、横に置かれたテーブルにはいつものようにチェス盤が準備されていた。
「種明かしをすると、実は今回の試験は負担が大きいからとドクターストップがかかってしまったのです」
「それは……仕方ないだろうね」
先天性疾患で普段の運動も禁止されている坂柳さんが、一週間のサバイバル生活を無事に乗り切れるとは思えない。途中で体調不良を起こして医務室に運ばれることになるだろう。
「ですが、折角の試験に参加できないというのは寂しいので。真嶋先生と相談して『半リタイア』という形にしてもらいました」
「『半リタイア』?」
「30ポイントのペナルティを受ける代わりに、私はこのビーチと豪華客船を自由に行き来できます。そして、他の生徒に物資を譲渡しないことを条件に、豪華客船内の物資を自由に使っていい。そういう状態です」
坂柳さんの手の中のドリンクに浮かんだ氷がカラカラと涼やかな音を鳴らした。
病気のせいで仕方ないとはいえ、無人島と豪華客船を自由に往復できるのはいいご身分だなぁ……。
「つまり、あなたはそこの神室さんを始め、Aクラスの生徒たちと交流を取ることも、作戦を伝えることもできる。実質的なAクラスの頭脳担当。そういう立場なのね?」
「ええ、そうですよ。堀北さん。……と言いたいところなのですが、残念ですが少し違います」
「どういうこと?」
「今回の試験のリーダーは葛城くんですので。私の出番はありません。こうして神室さんと一緒に無聊を慰めるだけです」
「……よく言うわよ」
神室さんの反応的に、坂柳さんはすでに何かやらかしたようだ。
「そういうわけで晴柀くんと少しお話したいのですが……。すみません、堀北さんと一之瀬さんは同席しても構いませんが、神崎くんには少し席を外していただけませんか?」
「俺がいると話せない会話を晴柀とすると?」
「はい」
微笑む坂柳さんを睨みつける神崎。先に目を逸らしたのは神崎だった。
「一之瀬が同席するのが条件だ。それなら構わない」
「ありがとうございます」
神崎は俺と坂柳さん、DクラスとAクラスが密約を結ぶことを警戒したんだろう。それくらいの察しはつく。だから帆波が同席している監視下での会合なら問題ないと判断したのだ。
「俺は少しこの近くを探索してくる。20分ほどしたら戻ってくる」
そう言って神崎くんは森の中へ入っていった。
□
「このメンバーを見ると晴柀くんのお誕生日を思い出しますね。楽しいイベントでした」
「そうだね! 坂柳さんや神室さんとも仲良くなれたし、これからも仲良くできたらいいな!」
「……あのゲームは思い出したくないわ」
「……ええ、最低よ」
楽しいパーティだったね!
「それで坂柳さん。話って?」
「そうですね、時間もあまりないですし単刀直入に言いましょう。晴柀くん。Aクラスのリーダーの情報を買いませんか? お友達価格でお安くしておきますよ」
「ええっ!?」
可愛い顔をしてエグイことを考えるなぁ。帆波がビックリしている。
「代金は?」
「クラスポイント50ポイント分ですので、毎月20万プライベートポイント……と言いたいところですが、お友達価格で10万ポイントでいかがですか」
クラスポイントが50増えると一人5000プライベートポイントが増える。40人分だと毎月20万ポイントの増加だ。
その半額の10万だから妥当と言えば妥当かだろう。
「うーん、悪くないけど。実は俺も坂柳さんに売りたい情報があるんだ。こっちもお友達価格でいいよ」
「おや、どんな情報でしょうか? もしかしてBクラスかDクラスのリーダーの情報ですか?」
「Aクラスのリーダーの情報だよ。坂柳さんならいくらで買う?」
「……すでにAクラスのリーダーの情報を手に入れていましたか」
「えっ。は、晴柀くん! いつの間にAクラスのリーダー見抜いていたの!?」
「それは秘密です」
実際に見抜いたのは高円寺だし、綾小路や桔梗、鈴音の手も借りたが、ほぼ間違いない。
「それでどうする? 坂柳さんは葛城の失脚を狙っているんだよね。だから『葛城のミス』は坂柳さんにとって都合がいい」
「そうですね。では、その情報の支払いは……『AクラスとCクラスの密約』についてでいかがです?」
「ええっ!? AクラスとCクラスが!?」
「……さっきから、一之瀬さんは驚いてばかりね」
「そりゃ驚くよ! まさかこんなことになっているなんて思ってなかったもの! なんで堀北さんたちは驚いていないの!?」
「驚いてはいるわ。ただ、AとCが手を組む可能性も考えていたというだけよ」
なるほど、BとDで同盟を結んだように、AとCが手を組んでいたと。
「鈴音。この密約はどんな内容か想像できる?」
「……おそらくだけど、Cクラスが購入した物資をAクラスに売却しているんでしょうね。龍園くんの散財はそのカモフラージュといったところかしら。それと、CクラスのスパイがB・Dクラスのリーダーの情報を手に入れてAクラスに伝える。こんなところじゃないかしら」
「なるほど」
ちらりと坂柳さんを見ると、玩具を見つけたような顔で鈴音を見ていた。どうやら鈴音の予想は正解だったみたいだ。
「じゃあ坂柳さん。その密約の内容におまけして、『リタイアした生徒』と『リタイアしていない生徒』の情報を調べてくれない? AとCの生徒の誰が島に残っているか、最終日に教えてほしいんだ」
「リタイアした生徒とリタイアしていない生徒。なるほど、そういうことですね」
今の短い会話で『リーダーのリタイア』によるリーダー交代作戦を見抜いたらしい。もしかしたら坂柳さんも同じ作戦を思いついていた可能性がある。
「では、晴柀くんとの契約はこれでいいとして――」
「ねえ帆波。今の話を黙って聞いていたけど、Bクラスからは何を出してくれるの?」
「えっ、えっ!? わ、私っ!?」
もちろん俺たちが勝手に喋っただけだから帆波は何も出さないというのもありだ。
だけど、帆波の性格なら俺たちから聞いた情報に対する対価を払おうとするだろう。今後の信頼関係を考えても、支払いを渋るのは悪手だ。
「えっと、ええっと……」
へにゃりと美しい顔を困らせて帆波は言った。
「お、お友達価格で……お願いしていいかなぁ……?」
晴柀→Aクラスのリーダーの情報(葛城たちが犯したミスについて坂柳に教える)
坂柳→AとCの密約の情報、AとCのリタイアした生徒の情報(最終日のリーダー当てに使う)
一之瀬→差し出せるものがないよぉ……
晴柀と坂柳の交渉は頭脳担当の堀北がフォローしているので問題なし。
そして会話に同席してしまったせいで高額の情報料を取られることになった一之瀬たちBクラス。
でもそのお陰で試験で有利に立ち回れるから結果オーライかもしれない。