Aクラスの葛城派のミス。それは戸塚の軽率な振る舞いだ。
葛城と戸塚の二人が洞窟のスポットを占領して出てくる場面を綾小路が目撃していたが、二人の性格を知る桔梗によると『慎重な葛城』がリーダーだったらそんなことは絶対にしないと言った。
むしろ、リーダーとしてキーカードを持たされた戸塚が『葛城の判断を待たずに勝手にキーカードを使って占領した』に違いないと言っていた。
葛城がリーダーだったらスポットの確認後にクラスの仲間を呼び寄せ、誰がリーダーか分からない状態にしてからキーカードを使う。
だからリーダーは戸塚で確定だ。高円寺の勘とも合致する。
「Dクラスの生徒に目撃されるなんて、葛城の奴も運が悪かったわね」
「運が悪い? 違いますよ、神室さん。これは戸塚くんをリーダーに選び、彼をしっかりと管理できなかった葛城くんのミスです。避けようと思えば避けられたはずですよ」
くすくすと笑う坂柳さん。俺が話した情報を使って葛城さんを引き摺り下ろす未来を想像しているのだろう。
「それでは葛城くんと龍園くんが結んだ密約についてお教えしましょう。こちらに契約書があります」
『AクラスとCクラスの密約』
・CクラスはAクラスに対し110ポイント分の物資を譲渡する。その代わり、Aクラスの生徒全員が龍園翔の卒業まで「毎月1人につき5000プライベートポイント」を龍園翔に譲渡する。
・CクラスはAクラスにB・Dクラスのリーダーの情報を提供する。リーダー当てに成功した場合、1クラスにつき1万プライベートポイントを追加で譲渡する。
・CクラスはAクラスのリーダーを指名してはいけない。
・Cクラスから提供されたリーダー情報が誤りだった場合、龍園翔へのポイント譲渡の義務は無効となる。
「随分とAクラスに都合のいい契約みたいだけど、よくこれで龍園は契約を結んだね」
「最初に向こうから提示された条件は酷いものでしたよ? それでも葛城くんはその条件を飲もうとしていましたが、私が指摘して条件の見直しを迫りました」
『AクラスとCクラスの密約(初期案)』
・CクラスはAクラスに対し110ポイント分の物資を譲渡する。その代わり、Aクラスの生徒全員が龍園翔の卒業まで「毎月1人につき11000プライベートポイント」を龍園翔に譲渡する。
・CクラスはAクラスにB・Dクラスのリーダーの情報を提供する。
「スッカスカだ」
「さっきの案と比べるとCクラスに都合のいい条件しかないわね」
「葛城くん、この条件で契約を結ぼうとしたんだ……」
俺、鈴音、帆波が両方の条件を見比べて言う。
プレイベートポイントの支払いが高いし、リーダー当てで外した時の条件もないし、穴だらけの条件だったということがよく分かる。
「葛城くんも焦っていたのでしょう。私が半リタイアとなって自分がリーダーシップを発揮できる好機と考えて龍園くんの提案に飛びついてしまった。でも……ふふっ、私と葛城くん、クラスの足を引っ張っているのはどちらでしょうね?」
『半リタイア』のペナルティでー30ポイントさせてしまった坂柳さん。
自分のミスでリーダーの情報を漏らしてしまい、リーダー当てで100ポイントを失い、更にスポットの占領ポイントも失うだろう葛城。
今回の試験でクラスに損害を与えたのはどちらか。Aクラスの生徒たちは考えるだろう。
「葛城くんがお二人のクラスのリーダー当てを失敗した場合、クラスに与えた損害は200ポイントに達します。そうなれば今回の試験で貰えるポイントはたったの70ポイントになってしまう」
龍園と最初に結んだ契約のままだったら、70クラスポイントしか増えていないのに毎月11000プライベート支払う必要があった。
だが、坂柳さんの指摘によってリーダー当てを外した場合は龍園への支払いは無効になる。1000ポイントの支払いはなくなり、7000プライベートポイントの増額で終わる。
「この試験が終わった後、葛城くんは失脚し、坂柳さんの立場は盤石となる。それがあなたの狙いだったのね」
「堀北さんや一之瀬さんが私の台頭を阻止するためにわざとリーダー当てで手を抜いてもいいんですよ? その場合はその場合はAクラスは270ポイントにスポット占領ポイントも獲得して一気に差を広げさせていただきますが、どうぞご自由に」
「冗談じゃないわ。これ以上差を広げられるなんて認められるわけがない……!」
「Bクラスもだよ。ここで少しでも差を縮めておかないと本当に追いつけなくなっちゃう」
今回の坂柳さんの策は二つ。
一つ目はわざと葛城に失策を取らせ、試験で失敗させる代わりに自分がAクラスを支配する。
二つ目はわざとB・Dクラスに失敗させて、葛城に手柄を与える代わりにAクラスの独走状態に持って行く。
どちらになっても自分に都合のいい方に事態が進んでいく。そういう戦略なのだ。
その上で、更に。
「そろそろ神崎くんが戻ってくる時間ですね。お喋りはこのくらいにしておきましょう。それでは一之瀬さん、例の約束、忘れないでくださいね?」
「――っ、わ、わかってるよ。ちゃんと、試験が終わった後に伝えるから……」
『AクラスとCクラスの密約』を教えた対価として、坂柳さんは『一之瀬帆波の秘密』を要求した。
プライベートポイントでの支払いでも構わないと言っていたが、帆波はクラスの皆の大事なポイントだからと拒否。自分の秘密を差し出すことで坂柳さんからの情報を得た。
「……今回は坂柳さんの一人勝ちね」
わずか二日目にしてこの試験の大勢は決した。
短いやり取りだったが、そう思わされる結果だった。
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ちなみに『Aクラスのリーダー戸塚』の情報だが、俺から帆波にお願いしてプライベートポイントでの支払いにしてもらった。
帆波、神崎との話し合いで、最終日に『DクラスがAクラスのリーダーに同じ生徒を指名する』=『リーダー当てでBクラスと差がつかない』ことを条件にして、当たった場合は月に20万ポイントを俺に支払ってもらう契約を結んでいる。
Bクラスに教えずにDクラスが一人勝ちした方がいいんじゃないかと思うかもしれないが、今回はトップのAクラスにー50ポイントのペナルティを与える方が良いと判断した。思っていた以上に坂柳さんが強敵みたいだし、削れる時に削っておきたい。
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坂柳さんとの交渉の後はキャンプに戻って普通に仕事だ。
愛里やみーちゃんと一緒に薪集めをしたり、桔梗や佐藤さんと一緒に果物集めに行ったり、鈴音と帆波と椎名さんと一緒にリタイアしたCクラスの生徒たちが残していった物資を回収したりした。
「残っている物資をマニュアルで調べると、龍園が使ったのは100ポイントくらいだね。残りの110ポイントは使わずにAクラスに譲渡したので間違いないと思う」
「坂柳さんの行っていたAとCの密約は本当だったというわけね」
テントなどの物資を回収してB・D合同ベースキャンプに持ってきたが、210ポイント分にしては少なすぎる。食べ物や飲み物の分を差し引いてもかなり余る計算だった。
「遺留品の痕跡から真実を導き出す。なんだか本物の探偵になったみたいですね!」
「椎名さん、龍園くんのクラスの一員なのにそんなに喜んでいていいの……?」
「大丈夫です。私は謎解きには参加せず、謎を解いたのは晴柀くんと鈴音さんですから!」
「いいのかなぁ……?」
坂柳さんの情報の裏付けが取れたと話していたら椎名さんが目をキラキラさせて喜んでいた。まあ、謎解きツアーで事件の証拠集めしているみたいで面白いよね。
坂柳の攻撃。葛城は死ぬ。